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お土産とお礼
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何となくモヤモヤした気持ちを抱えながら鷹臣さんが買ってきてくれたお昼を食べた僕たちは、行けていなかったコーナーを周り終え今はお土産屋さんに来ていた。
鷹臣さんはぬいぐるみのところにいるけど、僕はマスターと岡野くん、叶くんと施設にもあげようとお菓子の棚を見てて、でもどれがいいか悩んでる。
(施設は子供たちが多いから、一番量があるのを五箱くらい買って、マスターにはクッキー、岡野くんは和菓子が好きだからお饅頭。叶くんは彼女さんと食べられるように…あ、このマカロン良さそう)
あんまり贅沢は出来ないけど、こういう時はパッと使わないとね。次はいつ来れるか分からないし、みんなにはお世話になってるし。
手では持ち切れないからカゴに入れていたら、鷹臣さんに呼ばれて傍まで行けばカゴの中を見て驚かれる。
「遥斗くんには友人がたくさんいるんだね」
「あ、この同じのはお世話になった人たちに渡す分なので⋯こっちはマスターで、これが岡野くん、それからこれは大学の友達の分です」
「お世話になった人か⋯遥斗くんはしっかりしているね」
「そんな事ないです」
そう言われると何だか照れてしまって、俯いて首を振っていたら何か柔らかい物が頬に触れた。顔を上げるとシャチのぬいぐるみのドアップがあって目を瞬く。
「え?」
「少し抱いていてくれるかい?」
「あ、はい」
僕の頭から腰の下まである大きなぬいぐるみだけど、これ、誰かにあげるのかな。もしかして鷹臣さんには妹さんがいるとか。こういうの、女の子好きだもんね。
それにしてもこの子、ふかふかで気持ちいい。
目もクリっとしてて顔も可愛いし気に入ってくれると思うんだけど、鷹臣さんは今度はペンギンのぬいぐるみを手に取るとカゴと入れ替わりにするみたいにしてまた僕に持たせてきた。
僕は今、右手にシャチ、左手にペンギンを抱いてる。
「?」
「うーん⋯どちらも捨て難いな⋯」
「どっちの方が好きとかはないんですか?」
「反応的にはペンギンっぽかったかな」
「じゃあペンギンの方が⋯」
「そうだね。ならペンギンにしよう」
頷いてシャチを戻した鷹臣さんは、僕からペンギンを受け取るとカゴを下げたままレジへ向かい始めてしまい慌てて追い掛ける。
「た、鷹臣さん⋯カゴ⋯」
「どうせだから、まとめて払ってしまおうと思って」
「ぼ、僕、自分で払います⋯っ」
このまま鷹臣さんが払ってしまったら、絶対僕の分のお金は受け取ってくれない。お昼ご飯のお金だってにこやかにお断りされてしまったのだから、ここで引く訳にはいかないのだ。
カゴを持つ腕を掴むと足を止めてくれたけど返してはくれなくて、何か考える素振りをした鷹臣さんは「それなら」とある事を提案してきた。
「俺と折半にしない?」
「折半?」
「ここには俺と来てるから。特にマスターや岡野くんとは顔見知りだし、お土産だと言うのなら俺からも、という事でいいんじゃないかな」
「で、でも⋯それなら叶くんや施設の人たちは関係ないから⋯」
「施設?」
「⋯⋯あ、いえ、何でもないです。と、とにかく、僕が自分で買います」
優しい鷹臣さんが気にするから敢えて口にしないようにしていた事がポロッと出てしまい、慌てて首を振った僕はカゴを無理やり取り返して抱え込む。
何か聞きたそうにしていた鷹臣さんは、だけど肩を竦めるとマスターと岡野くんへのお土産を腕の隙間から抜いて微笑んだ。
「なら、せめてこれだけでも払わせて欲しい」
「鷹臣さん⋯」
「君の言いたい事は分かってる。でも、少しでもいいから君に何かしてあげたいんだ。欲を言えば、君に甘えて貰える存在になりたい」
もう結構甘えちゃってるとは思うんだけど⋯とは言っても、鷹臣さんにしてみれば僕の気持ちなんて分からないもんね。それでも僕としてはそれなりに気を許してる訳で⋯恋人なんだし、鷹臣さんが甘えて欲しいって言うなら僕はそれに応えるべきなの、かも⋯?
上手な甘え方なんて分からないけど、カゴを持ち直した僕はこっくりと頷いた。
「⋯じゃあ、お願いします」
「うん」
そう言った瞬間、鷹臣さんは嬉しそうに微笑んでレジへと向かい支払いを始めた。それを見てある事を思い付いた僕は小物系で纏められた棚に入ると、シャチの身体に〝交通安全〟という文字が掘られたキーホルダーを取りカゴに入れる。
せめて何か、今出来るだけでもお礼をしないと落ち着かない。
空いたレジに行って支払いを済ませ、店員さんから商品の入った紙袋を受け取った僕はキーホルダーが入った小袋だけをポケットに入れて、出口ゲートの近くで待ってくれている鷹臣さんへと駆け寄る。
「すみません、お待たせしました」
「はい、遥斗くん」
「え?」
「これは俺からのお土産」
てっきり妹さんがいて渡すのかと思っていたペンギンが僕へと差し出され、目を瞬いていたらさりげなく紙袋が取られて腕の中に収められた。
頭がついていかないながらも落とさないようにと抱き締めたら右手が握られて引かれ、おかげで我に返れた僕は小走りで鷹臣さんの隣りに立つ。
「あ、あの、これ⋯」
「良く似合ってる」
「に、似合ってるとかじゃなくて⋯」
「最初から、何かぬいぐるみをあげようと思っていたんだよ。せっかく水族館に来れたのに、その思い出がないのは寂しいだろう?」
「で、でも僕⋯」
「俺の我儘だ。受け取ってくれる?」
そう言われてしまっては何も返せない。
仕方がないから小さく頷いたら、鷹臣さんはまた嬉しそうに微笑んだ。
手を繋いだまま出口を出て駐車場へ向かい、傷一つない真っ白で綺麗な車に乗り込む。
荷物は後部座席に置いて、ペンギンは抱っこしたままシートベルトをかけようとしてポケットに入れた物を思い出した僕は、それを取り出すとエンジンを掛けた鷹臣さんへと差し出した。
「?」
「あの、今日のお礼⋯というには小さな物なんですけど、良かったら⋯」
「開けても?」
「どうぞ」
驚いた顔で受け取り聞いてくる鷹臣さんに頷くと、小袋を開けてシャチのお守りを取り出した鷹臣さんはふっと頬を緩める。その柔らかい笑みをチラチラ見ていたら僕の方を向いて頭を撫でてきた。
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
「今度また別でお礼させて下さいね」
「気にしなくていいのに」
「そういう訳にはいきません。家族でも恋人でも、感謝の気持ちは大事です」
実際にそれが出来なくて、みんなとぎくしゃくして孤立してた子を知ってるからこそ余計にそう思う。
キッパリとそう言えば、鷹臣さんはクスリと笑って両手を上げた。
「遥斗くんの言う通りだ。そういう気持ちは表してこそだね。ありがとう」
そう言って今までの中で一番優しい笑顔を浮かべた鷹臣さんは、お守りを見つめたあとそっとそれに口付けた。
その姿に僕が固まったのは言うまでもない。
鷹臣さんはぬいぐるみのところにいるけど、僕はマスターと岡野くん、叶くんと施設にもあげようとお菓子の棚を見てて、でもどれがいいか悩んでる。
(施設は子供たちが多いから、一番量があるのを五箱くらい買って、マスターにはクッキー、岡野くんは和菓子が好きだからお饅頭。叶くんは彼女さんと食べられるように…あ、このマカロン良さそう)
あんまり贅沢は出来ないけど、こういう時はパッと使わないとね。次はいつ来れるか分からないし、みんなにはお世話になってるし。
手では持ち切れないからカゴに入れていたら、鷹臣さんに呼ばれて傍まで行けばカゴの中を見て驚かれる。
「遥斗くんには友人がたくさんいるんだね」
「あ、この同じのはお世話になった人たちに渡す分なので⋯こっちはマスターで、これが岡野くん、それからこれは大学の友達の分です」
「お世話になった人か⋯遥斗くんはしっかりしているね」
「そんな事ないです」
そう言われると何だか照れてしまって、俯いて首を振っていたら何か柔らかい物が頬に触れた。顔を上げるとシャチのぬいぐるみのドアップがあって目を瞬く。
「え?」
「少し抱いていてくれるかい?」
「あ、はい」
僕の頭から腰の下まである大きなぬいぐるみだけど、これ、誰かにあげるのかな。もしかして鷹臣さんには妹さんがいるとか。こういうの、女の子好きだもんね。
それにしてもこの子、ふかふかで気持ちいい。
目もクリっとしてて顔も可愛いし気に入ってくれると思うんだけど、鷹臣さんは今度はペンギンのぬいぐるみを手に取るとカゴと入れ替わりにするみたいにしてまた僕に持たせてきた。
僕は今、右手にシャチ、左手にペンギンを抱いてる。
「?」
「うーん⋯どちらも捨て難いな⋯」
「どっちの方が好きとかはないんですか?」
「反応的にはペンギンっぽかったかな」
「じゃあペンギンの方が⋯」
「そうだね。ならペンギンにしよう」
頷いてシャチを戻した鷹臣さんは、僕からペンギンを受け取るとカゴを下げたままレジへ向かい始めてしまい慌てて追い掛ける。
「た、鷹臣さん⋯カゴ⋯」
「どうせだから、まとめて払ってしまおうと思って」
「ぼ、僕、自分で払います⋯っ」
このまま鷹臣さんが払ってしまったら、絶対僕の分のお金は受け取ってくれない。お昼ご飯のお金だってにこやかにお断りされてしまったのだから、ここで引く訳にはいかないのだ。
カゴを持つ腕を掴むと足を止めてくれたけど返してはくれなくて、何か考える素振りをした鷹臣さんは「それなら」とある事を提案してきた。
「俺と折半にしない?」
「折半?」
「ここには俺と来てるから。特にマスターや岡野くんとは顔見知りだし、お土産だと言うのなら俺からも、という事でいいんじゃないかな」
「で、でも⋯それなら叶くんや施設の人たちは関係ないから⋯」
「施設?」
「⋯⋯あ、いえ、何でもないです。と、とにかく、僕が自分で買います」
優しい鷹臣さんが気にするから敢えて口にしないようにしていた事がポロッと出てしまい、慌てて首を振った僕はカゴを無理やり取り返して抱え込む。
何か聞きたそうにしていた鷹臣さんは、だけど肩を竦めるとマスターと岡野くんへのお土産を腕の隙間から抜いて微笑んだ。
「なら、せめてこれだけでも払わせて欲しい」
「鷹臣さん⋯」
「君の言いたい事は分かってる。でも、少しでもいいから君に何かしてあげたいんだ。欲を言えば、君に甘えて貰える存在になりたい」
もう結構甘えちゃってるとは思うんだけど⋯とは言っても、鷹臣さんにしてみれば僕の気持ちなんて分からないもんね。それでも僕としてはそれなりに気を許してる訳で⋯恋人なんだし、鷹臣さんが甘えて欲しいって言うなら僕はそれに応えるべきなの、かも⋯?
上手な甘え方なんて分からないけど、カゴを持ち直した僕はこっくりと頷いた。
「⋯じゃあ、お願いします」
「うん」
そう言った瞬間、鷹臣さんは嬉しそうに微笑んでレジへと向かい支払いを始めた。それを見てある事を思い付いた僕は小物系で纏められた棚に入ると、シャチの身体に〝交通安全〟という文字が掘られたキーホルダーを取りカゴに入れる。
せめて何か、今出来るだけでもお礼をしないと落ち着かない。
空いたレジに行って支払いを済ませ、店員さんから商品の入った紙袋を受け取った僕はキーホルダーが入った小袋だけをポケットに入れて、出口ゲートの近くで待ってくれている鷹臣さんへと駆け寄る。
「すみません、お待たせしました」
「はい、遥斗くん」
「え?」
「これは俺からのお土産」
てっきり妹さんがいて渡すのかと思っていたペンギンが僕へと差し出され、目を瞬いていたらさりげなく紙袋が取られて腕の中に収められた。
頭がついていかないながらも落とさないようにと抱き締めたら右手が握られて引かれ、おかげで我に返れた僕は小走りで鷹臣さんの隣りに立つ。
「あ、あの、これ⋯」
「良く似合ってる」
「に、似合ってるとかじゃなくて⋯」
「最初から、何かぬいぐるみをあげようと思っていたんだよ。せっかく水族館に来れたのに、その思い出がないのは寂しいだろう?」
「で、でも僕⋯」
「俺の我儘だ。受け取ってくれる?」
そう言われてしまっては何も返せない。
仕方がないから小さく頷いたら、鷹臣さんはまた嬉しそうに微笑んだ。
手を繋いだまま出口を出て駐車場へ向かい、傷一つない真っ白で綺麗な車に乗り込む。
荷物は後部座席に置いて、ペンギンは抱っこしたままシートベルトをかけようとしてポケットに入れた物を思い出した僕は、それを取り出すとエンジンを掛けた鷹臣さんへと差し出した。
「?」
「あの、今日のお礼⋯というには小さな物なんですけど、良かったら⋯」
「開けても?」
「どうぞ」
驚いた顔で受け取り聞いてくる鷹臣さんに頷くと、小袋を開けてシャチのお守りを取り出した鷹臣さんはふっと頬を緩める。その柔らかい笑みをチラチラ見ていたら僕の方を向いて頭を撫でてきた。
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
「今度また別でお礼させて下さいね」
「気にしなくていいのに」
「そういう訳にはいきません。家族でも恋人でも、感謝の気持ちは大事です」
実際にそれが出来なくて、みんなとぎくしゃくして孤立してた子を知ってるからこそ余計にそう思う。
キッパリとそう言えば、鷹臣さんはクスリと笑って両手を上げた。
「遥斗くんの言う通りだ。そういう気持ちは表してこそだね。ありがとう」
そう言って今までの中で一番優しい笑顔を浮かべた鷹臣さんは、お守りを見つめたあとそっとそれに口付けた。
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