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番外編
とある日の大学にて(小話)
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真尋と離れてからようやく一年が過ぎた。
あいつが泣いてたら慰めてやってくれと頼んでおいた聖ももう卒業したし、今傍にいてくれるのは長谷川だけだ。
直接は関われねぇんだけど、幼馴染みだし何とかしてくれるだろう。
「香ちゃんみーっけ」
「暁」
この時間は選択した講義もなく、大学のラウンジで雑誌を読みながら次のコマまでの時間を潰していると、横から聞き知った声に名前を呼ばれて顔を上げた。
一年前と変わらない姿の暁がにっこりと俺を覗き込んでいて目を瞬く。
「相変わらず目立つね、すぐ分かったよ」
「お前も人の事言えねぇだろ」
「お互い可愛い可愛い恋人いるから、その他には興味ないけどねー」
周りへの牽制のためか、大きめの声でそんな事を言う暁に溜め息を零した俺は、読んでいた雑誌を閉じて肘をつく。
「で? 何の用だよ」
「香ちゃんに可愛い恋人を見て貰おうと思って」
「は? お前の恋人って長谷川だろ? 顔知ってるし」
「まぁまぁ。すっごく可愛いからさ、見てよ」
何で自分の恋人に会えない俺が、お前の恋人を見なきゃいけねぇんだよ。
眉を顰める俺を意に介さず、暁はスマホを取り出すと慣れた手つきで操作し始めた。目当ての物を見付けたのか、俺の手に持たせると何も言っていないのに再生ボタンが押される。
っつかまさかの動画かよ。
『あ! もー、何してんの。散らかしすぎだよ』
『ち、違うんだって! これ取ろうとしたら全部バラけたんだって!』
「……!」
『そういう時は、押さえて取るんだよ、真尋』
『や、ホントごめん』
何かが落ちる音がして長谷川の少し怒ったような声のあと、男にしては若干高めの声が慌てたように返す。画面はまだ何も映っていないが、そこにいるのが二人だと言うのは分かった。
『何してたの?』
『旅行雑誌見たくて。ほら、あと一年経ったら廉に会えるだろ? 落ち着いたらでいいんだけど、また旅行行きたいなって。候補上げると廉喜ぶから』
『先輩、真尋が行きたいって言ったら海外にも連れてってくれそうだよね』
『海外よりやっぱ国内かな。冬の北海道とか? あ、泊まりでテーマパーク行くのも楽しそうだよな』
『真尋だけはしゃいで帽子被ったりカチューシャ着けたりするんでしょ?』
『廉にも被せるに決まってんだろ』
画面が明るくなって、真尋の姿が映る。スマホ触るフリでもして撮ってくれてんのか……あー、クソ、相変わらず可愛いな。
『廉の奴、俺がお願いすると大抵聞いてくれんの。だから絶対、ムスッてしながらも着けてくれるはず』
『先輩は真尋が大好きだから。喜んでくれるならって感じなんじゃないかな』
『ならすーげぇ可愛いのにしてやろうかな』
『真尋ってば⋯』
頬杖をつきながら真尋は楽しそうに旅行雑誌を捲っていたが、長谷川とのやり取りが一段落ついた頃不意にテーブルへと顔を伏せた。
そのせいで顔が見えなくなり、どんな表情をしているのか分からない。
『廉と一緒なんだから絶対楽しい』
『真尋?』
『どこだっていいんだよ、廉といられるなら⋯』
『真尋⋯』
『……ごめん、気にしないで』
その声が少しだけ震えてる気がして、俺は傍にいられないもどかしさで唇を噛んだ。
動画はそこで終わってるが、恐らく長谷川が慰めてでもくれただろう。
暁にスマホを返し、片手で目元を覆った。
「可愛かったでしょ?」
「すげぇ可愛かった。……でも、痛感した」
「何を?」
「泣きそうなアイツを抱き締めてもやれないもどかしさを」
「香ちゃん……」
「でも、あと一年だ。あと一年すりゃ、俺はアイツを抱き締められる」
絶対走り抜けてやる。一年経ったらすぐ迎えに行くんだ。
「香ちゃん頑張って!」
俺は暁に礼を告げ雑誌をカバンにしまうと、席を立ち講堂に向かうためラウンジを出た。
あいつも頑張ってるんだから、俺も頑張んねぇとな。
一年半後。
「真尋、明日から泊まりでテーマパーク行くぞ」
「え、明日から?」
「行きたかったんだろ?」
「は? 何で知ってんだ?」
「お前の事なら何でも知ってるっつーの」
「何か怖⋯」
「言ってろ」
お前が楽しいって笑うならどこへだって連れてってやるよ。
離れている間に考えてた事、全部叶えてやる。俺もお前と一緒ならどこだって楽しいんだから。
これからも二人だけの思い出、たくさん作って行こうな。
あいつが泣いてたら慰めてやってくれと頼んでおいた聖ももう卒業したし、今傍にいてくれるのは長谷川だけだ。
直接は関われねぇんだけど、幼馴染みだし何とかしてくれるだろう。
「香ちゃんみーっけ」
「暁」
この時間は選択した講義もなく、大学のラウンジで雑誌を読みながら次のコマまでの時間を潰していると、横から聞き知った声に名前を呼ばれて顔を上げた。
一年前と変わらない姿の暁がにっこりと俺を覗き込んでいて目を瞬く。
「相変わらず目立つね、すぐ分かったよ」
「お前も人の事言えねぇだろ」
「お互い可愛い可愛い恋人いるから、その他には興味ないけどねー」
周りへの牽制のためか、大きめの声でそんな事を言う暁に溜め息を零した俺は、読んでいた雑誌を閉じて肘をつく。
「で? 何の用だよ」
「香ちゃんに可愛い恋人を見て貰おうと思って」
「は? お前の恋人って長谷川だろ? 顔知ってるし」
「まぁまぁ。すっごく可愛いからさ、見てよ」
何で自分の恋人に会えない俺が、お前の恋人を見なきゃいけねぇんだよ。
眉を顰める俺を意に介さず、暁はスマホを取り出すと慣れた手つきで操作し始めた。目当ての物を見付けたのか、俺の手に持たせると何も言っていないのに再生ボタンが押される。
っつかまさかの動画かよ。
『あ! もー、何してんの。散らかしすぎだよ』
『ち、違うんだって! これ取ろうとしたら全部バラけたんだって!』
「……!」
『そういう時は、押さえて取るんだよ、真尋』
『や、ホントごめん』
何かが落ちる音がして長谷川の少し怒ったような声のあと、男にしては若干高めの声が慌てたように返す。画面はまだ何も映っていないが、そこにいるのが二人だと言うのは分かった。
『何してたの?』
『旅行雑誌見たくて。ほら、あと一年経ったら廉に会えるだろ? 落ち着いたらでいいんだけど、また旅行行きたいなって。候補上げると廉喜ぶから』
『先輩、真尋が行きたいって言ったら海外にも連れてってくれそうだよね』
『海外よりやっぱ国内かな。冬の北海道とか? あ、泊まりでテーマパーク行くのも楽しそうだよな』
『真尋だけはしゃいで帽子被ったりカチューシャ着けたりするんでしょ?』
『廉にも被せるに決まってんだろ』
画面が明るくなって、真尋の姿が映る。スマホ触るフリでもして撮ってくれてんのか……あー、クソ、相変わらず可愛いな。
『廉の奴、俺がお願いすると大抵聞いてくれんの。だから絶対、ムスッてしながらも着けてくれるはず』
『先輩は真尋が大好きだから。喜んでくれるならって感じなんじゃないかな』
『ならすーげぇ可愛いのにしてやろうかな』
『真尋ってば⋯』
頬杖をつきながら真尋は楽しそうに旅行雑誌を捲っていたが、長谷川とのやり取りが一段落ついた頃不意にテーブルへと顔を伏せた。
そのせいで顔が見えなくなり、どんな表情をしているのか分からない。
『廉と一緒なんだから絶対楽しい』
『真尋?』
『どこだっていいんだよ、廉といられるなら⋯』
『真尋⋯』
『……ごめん、気にしないで』
その声が少しだけ震えてる気がして、俺は傍にいられないもどかしさで唇を噛んだ。
動画はそこで終わってるが、恐らく長谷川が慰めてでもくれただろう。
暁にスマホを返し、片手で目元を覆った。
「可愛かったでしょ?」
「すげぇ可愛かった。……でも、痛感した」
「何を?」
「泣きそうなアイツを抱き締めてもやれないもどかしさを」
「香ちゃん……」
「でも、あと一年だ。あと一年すりゃ、俺はアイツを抱き締められる」
絶対走り抜けてやる。一年経ったらすぐ迎えに行くんだ。
「香ちゃん頑張って!」
俺は暁に礼を告げ雑誌をカバンにしまうと、席を立ち講堂に向かうためラウンジを出た。
あいつも頑張ってるんだから、俺も頑張んねぇとな。
一年半後。
「真尋、明日から泊まりでテーマパーク行くぞ」
「え、明日から?」
「行きたかったんだろ?」
「は? 何で知ってんだ?」
「お前の事なら何でも知ってるっつーの」
「何か怖⋯」
「言ってろ」
お前が楽しいって笑うならどこへだって連れてってやるよ。
離れている間に考えてた事、全部叶えてやる。俺もお前と一緒ならどこだって楽しいんだから。
これからも二人だけの思い出、たくさん作って行こうな。
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コメントありがとうございます🙇♀️
離れている間の話はかなり駆け足になってしまいましたが、二人ともお互いの為に頑張りました😊
暁と倖人の話は恋人までの過程を作るか付き合ってからの話を作るかで悩んで、結局手付かずになってしまいました💦
嬉しいご要望を頂いたので、せっかくですし付き合いたてな二人を作ってみようと思います⭐
お時間掛かるかもしれませんが、頑張りますね💪
キュン❤キュン❤がヤバすぎ‼️
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コメントありがとうございます🙇♀️
キュンキュンして頂けましたか! とても嬉しいです☺️
これからも悶えて頂けるようなお話が作れるよう、頑張りますね😄✨
そうなのです、今回のテーマは手です(笑)
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いつもありがとうございます♪