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二人を繋ぐもの
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「何で終業式って、クリスマスと被ってんの?」
俺は教室に入り倖人の席まで行くと、開口一番そう問い掛けた。倖人はきょとんと目を瞬いてたけど、愚痴りたい俺の気持ちが分かったのか苦笑して同意してくれる。
「そうだね、何でだろうね」
「サンタさんからプレゼントを貰った子供たちが羨ましいんだろ……おのれ学校め」
「そういえば真尋、サンタさんから貰ったプレゼントを学校に持って来て没収されてたっけ」
「あの時の恨みは忘れてない」
「持って来る方が悪いんだよ」
そりゃあの頃より大人になった今は分かるけどさ、そん時はどうしても手放したくなかったんだって。憧れのヒーローソフビ。
ちなみに俺は、レッドよりもブラック派だ。
せっかくサンタさんがくれたのにその日に遊べないなんて、子供にとっては地獄じゃねぇか。終業式、もう少し早くてもいいと思うのは俺だけか?
「先輩にあげるプレゼントは買ったの?」
「バッチリ買った。倖人は?」
「え?」
「暁先輩に」
「……へ、え、何で?」
あれ、何となく聞いただけなんだけど……意外な反応だ。
暁先輩、これはもしかしたらいい感じかもしれないですよ!
「〝お気に入り〟だから、暁先輩用意してそうだなって」
「〝お気に入り〟にそんな慣例はなかったはずだけど……」
「えーっと、暁先輩なら有り得そうだなーって…」
そうだった、生徒会の風習なら倖人の方が詳しかった。ごめん、暁先輩。俺が出来るのはここまでだ。俺の役立たず!
あの日倖人を迎えに来た暁先輩の姿を思い出しながら心の中で謝っていると、倖人がどこか落ち着かない様子で首を竦める。
「……やっぱり、そうなのかな…」
「え?」
「準備、してるのかな……」
「俺、は、そう思うけど…」
たぶん…いや、絶対用意してる。だってクリスマスだぞ? 口説くにはもってこいの日だぞ? 暁先輩が倖人に本気なら絶対渡す。
頷いた俺に倖人は僅かに頬を染めてしゃがむようジェスチャーしてきた。
「……オレ、昨日……暁先輩に、告白された……」
ずっと幼馴染みやって来た俺でも見た事ない顔して、物凄く小さな声で告げられた言葉に俺は一瞬フリーズする。
告白された? 倖人が、暁先輩に?
(いつの間にそんな進展してたんだ!?)
も、もしかして暁先輩、意外とやるタイプ?
それに倖人のこの反応は、嫌がってるどころかむしろ……。
俺は顔を真っ赤にして戸惑っている倖人に笑いかけ、倖人が暁先輩の〝お気に入り〟となった日に思った事を口にした。
「倖人と暁先輩、お似合いだよな」
「って事があってな? たぶん、二人は今日デートしてる」
学校が終わった後、迎えに来た廉と一緒にマンションに帰り、クリスマス仕様の夕飯を並んで食べている時、俺は倖人と暁先輩の話を廉にしていた。このチキンうめぇ。
「まぁ、暁もだいぶ惚れ込んでるみてぇだったからな……落とせるとは思わなかったけど」
「倖人がどんな人がタイプとか俺もさっぱりだからなぁ。それに俺が知るかぎり恋人がいた気配はなかったし」
「恋愛経験ない奴ほど、暁の手練に堕ちやすいんだよな」
「嫌な言い方するな、お前」
素直に暁先輩の頑張りで両思いになったでいいじゃねぇか。
俺は濡れタオルで拭いた手を握ると、情緒もへったくれもない廉の二の腕に軽くパンチした。
それに対して肩を竦める事で返した廉は、スプーンで掬ったシチューを俺の口元に寄せながら微笑む。
「まぁ、アイツらの事はアイツらだけで完結して貰うとして……今日のメイン、忘れてねぇ?」
「……別に忘れてた訳じゃ」
差し出されるままシチューを食べ、ずっとタイミングを伺っていた事を言われて小さく返す。俺の背中とソファの間に隠してはあるんだけど。
「真尋、左手出せ」
「へ? あ、はい」
ムードも何もないけどもう渡してしまおうかと右手を背中に回した瞬間そう言われ、目を瞬きながらも左手を出すとぐいっと引っ張られる。眉を顰めて見ていれば、ズボンのポケットから何かを取り出した廉がそれを薬指に通した。
「……え?」
「ありきたりなもんで悪いけど、二年後も一緒にいるっつー約束」
手が解放され、薬指を見るとシンプルなシルバーのリングが嵌っていた。廉の左手が振られ、同じ場所に同じ物が光ってる。
二年後も一緒にいる約束。俺と廉だけの約束。
「ペアリングだから、失くすなよ」
「うん、大切にする。……っていうか、俺も似たような事考えてた」
「何が?」
俺は今度こそ背中に隠していた包装済の長方形の箱を取り出すと、身に着ける物として被ってしまった事に少しだけ気まずさを感じながら廉へと差し出す。
受け取った廉は包装紙を剥がし蓋を開けて笑った。
「似た者同士かよ」
俺が廉のクリスマスプレゼントとして選んだのはペアのネックレスだ。トップは細身のタグのような形をしていて、極小のスワロフスキーが嵌め込まれている。
「虫除け対策バッチリだな」
「ピアスすらしてない廉が、一気にこんだけアクセサリー身に付けてたらな。しかも左手薬指だし」
「ピアスなぁ……穴開けんの怖くね?」
「え、意外。そういうの平気だと思ってた」
「人には得意不得意っつーもんがあってだな。…そういうお前はどうなんだよ」
「俺も無理」
「人の事言えねぇじゃねーか」
身体に穴開けるって良く考えたらすごい度胸だよな。絶対痛いだろうし、血も出るだろうし。あ、でも今は病院でもしてくれるんだっけ?
それならピアスはちょっと憧れるな。
「ほら、まだケーキもあんだから食っちまうぞ」
「あー……ポテトしなしな」
「真尋はカリカリ派か」
「え、廉はしなしな派?」
「いや、どっちも」
「贅沢者ー」
ポテトはカリカリが一番美味いだろ。
二人してこれはどっち派だのあれはナシ派あり派だのと過去一盛り上がりながら夕飯を食べた俺たちは、廉が買ってきた可愛らしいクリスマスケーキに舌鼓を打ち日付が変わる前にベッドに入った。
首にも指にも、俺たちの未来を願った物が光ってる。残念ながら指輪は学校では外すんだけど、ネックレスに通して身に付けているつもりだ。
「廉」
「ん?」
「ありがとう」
指輪を見せながらそう言って笑うと、柔らかく微笑んだ廉に抱き締められる。この腕の中が俺のいる場所だ。二年後に帰ってくる場所。
俺は欠伸を零し、廉の温もりと香りに包まれながら目を閉じた。
年末は少し忙しかった。小晦日には廉と廉の家族と何故か俺も一緒に夕飯を食べて、大晦日は俺と俺の家族と廉が一緒に夕飯を食べた。何か、公認っぽくて恥ずかしいけどちょっと嬉しかったりもする。父さんは相変わらず廉に棘々してて…まぁ廉は気にしてなかったけどな。
それから一夜明けて、今は初詣に来てる。日付変わった後で行っても良かったんだけど、年越しそば食べた後だし絶対眠くなるから諦めた。
昼前には神社に到着。割と大きな神社だからかすごい数の人がいた。
俺と廉はお賽銭の列に並んで今のうちに何を買うかを話し合う。
「お守りは絶対いるだろ」
「おみくじも引きたい」
「大吉引けよ」
「狙えたら苦労しねぇよ」
運勢を自分で選べんなら迷わず大吉を選ぶけども、そもそもおみくじはそういうもんじゃねぇし。
それにしても、コイツはどこに行っても目立つな。周りの女の子も女の人も廉を見ながらヒソヒソしてる。俺の肩抱いてるからおいそれと声はかけてこないだろうけど。
少しずつ列が進んで、ようやく俺たちは最前列に立てた。お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼で参拝を終える。列から外れて社務所に向かい、まずはお守りを選ぶ事にした。
「廉は無病息災と交通安全かな。車の免許取るんだろ?」
「ああ。……何かしてねぇと絶対落ち着かねぇし」
「ドライブデード、楽しみにしてるな」
「一番に乗せてやる」
少しだけ声を落とした廉に気付かない振りをして明るく言えば、ふっと笑って頭を撫でてくれる。自分のお守りをどうしようか悩んでいると、隣のカップルの会話が聞こえてきた。
「縁結びをお揃いで持つとずっと一緒にいられるんだってー」
「へぇ。じゃあ買う?」
「買う~」
そうなんだ。縁結び、だもんな。縁を結んでくれるんだし、既に結んである縁は結ばれたままにしてくれるって事なのかな。それなら欲しいかも。
「真尋?」
「……廉、縁結び、一緒に持たないか?」
「………可愛い奴。いいよ」
「な、何で笑うんだよ」
「別に? ほら、お前のも買うぞ」
「……ん」
(もしかしてあのカップルの会話聞こえてた?)
そうだとしたら便乗したみたいで恥ずかしいんだけど。
憮然としながらも頷いて巫女さんに包んで貰い、ついでにおみくじのお金も纏めて貰うと廉に六角形のみくじ筒を持たされた。シャカシャカしてる間に支払いを済まされてしまいハッとする。
コイツ、最初からそのつもりだったな。
「だから、何でお前が全部払うんだよ」
「恋人に出させるほど甲斐性なしじゃねぇし? ほら、何番?」
「お前は出しすぎだ! ……31番」
隣で廉もシャカシャカしてみくじ棒を出し、俺の番号と一緒に巫女さんに告げると二枚の紙が渡された。
「こっちが真尋のな」
「ありがと」
本当にコイツは……と心の中で愚痴りながら紙を開くと〝吉〟の文字。大吉じゃなかった事は残念だけど、大吉の次にいいやつだし良しとする。
「廉、どうだった?」
「当然」
ドヤ顔で見せられた紙には〝大吉〟ってある。しかもあの顔ムカつく。
「吉だって十分すげぇんだからな」
「はいはい」
「だからそのはいはいってのやめろ」
「はいはい」
「さては喧嘩売ってんな? やるか?」
「勝ったら何してくれんの?」
「廉の言う事何でも聞いてやるよ」
「言質取ったからな」
売り言葉に買い言葉。何か、まんまとハメられた気がする。
でもここまで言っておいて引くなんて男らしくねぇ!
「その代わり、俺が得意な奴で勝負な!」
「何にするんだよ」
「考え中!」
俺の得意な事、得意な事。何かあったかな。
ウンウン悩む俺は忘れてた。廉が何でもソツなくこなすハイスペックマンだと言う事に。
勝負? ……もちろん俺の完敗で幕を閉じたわ。
「じゃあ裸エプロンな」
などと変態イケメンがにこやかに話してた事は、俺しか知らなくていい。
俺は教室に入り倖人の席まで行くと、開口一番そう問い掛けた。倖人はきょとんと目を瞬いてたけど、愚痴りたい俺の気持ちが分かったのか苦笑して同意してくれる。
「そうだね、何でだろうね」
「サンタさんからプレゼントを貰った子供たちが羨ましいんだろ……おのれ学校め」
「そういえば真尋、サンタさんから貰ったプレゼントを学校に持って来て没収されてたっけ」
「あの時の恨みは忘れてない」
「持って来る方が悪いんだよ」
そりゃあの頃より大人になった今は分かるけどさ、そん時はどうしても手放したくなかったんだって。憧れのヒーローソフビ。
ちなみに俺は、レッドよりもブラック派だ。
せっかくサンタさんがくれたのにその日に遊べないなんて、子供にとっては地獄じゃねぇか。終業式、もう少し早くてもいいと思うのは俺だけか?
「先輩にあげるプレゼントは買ったの?」
「バッチリ買った。倖人は?」
「え?」
「暁先輩に」
「……へ、え、何で?」
あれ、何となく聞いただけなんだけど……意外な反応だ。
暁先輩、これはもしかしたらいい感じかもしれないですよ!
「〝お気に入り〟だから、暁先輩用意してそうだなって」
「〝お気に入り〟にそんな慣例はなかったはずだけど……」
「えーっと、暁先輩なら有り得そうだなーって…」
そうだった、生徒会の風習なら倖人の方が詳しかった。ごめん、暁先輩。俺が出来るのはここまでだ。俺の役立たず!
あの日倖人を迎えに来た暁先輩の姿を思い出しながら心の中で謝っていると、倖人がどこか落ち着かない様子で首を竦める。
「……やっぱり、そうなのかな…」
「え?」
「準備、してるのかな……」
「俺、は、そう思うけど…」
たぶん…いや、絶対用意してる。だってクリスマスだぞ? 口説くにはもってこいの日だぞ? 暁先輩が倖人に本気なら絶対渡す。
頷いた俺に倖人は僅かに頬を染めてしゃがむようジェスチャーしてきた。
「……オレ、昨日……暁先輩に、告白された……」
ずっと幼馴染みやって来た俺でも見た事ない顔して、物凄く小さな声で告げられた言葉に俺は一瞬フリーズする。
告白された? 倖人が、暁先輩に?
(いつの間にそんな進展してたんだ!?)
も、もしかして暁先輩、意外とやるタイプ?
それに倖人のこの反応は、嫌がってるどころかむしろ……。
俺は顔を真っ赤にして戸惑っている倖人に笑いかけ、倖人が暁先輩の〝お気に入り〟となった日に思った事を口にした。
「倖人と暁先輩、お似合いだよな」
「って事があってな? たぶん、二人は今日デートしてる」
学校が終わった後、迎えに来た廉と一緒にマンションに帰り、クリスマス仕様の夕飯を並んで食べている時、俺は倖人と暁先輩の話を廉にしていた。このチキンうめぇ。
「まぁ、暁もだいぶ惚れ込んでるみてぇだったからな……落とせるとは思わなかったけど」
「倖人がどんな人がタイプとか俺もさっぱりだからなぁ。それに俺が知るかぎり恋人がいた気配はなかったし」
「恋愛経験ない奴ほど、暁の手練に堕ちやすいんだよな」
「嫌な言い方するな、お前」
素直に暁先輩の頑張りで両思いになったでいいじゃねぇか。
俺は濡れタオルで拭いた手を握ると、情緒もへったくれもない廉の二の腕に軽くパンチした。
それに対して肩を竦める事で返した廉は、スプーンで掬ったシチューを俺の口元に寄せながら微笑む。
「まぁ、アイツらの事はアイツらだけで完結して貰うとして……今日のメイン、忘れてねぇ?」
「……別に忘れてた訳じゃ」
差し出されるままシチューを食べ、ずっとタイミングを伺っていた事を言われて小さく返す。俺の背中とソファの間に隠してはあるんだけど。
「真尋、左手出せ」
「へ? あ、はい」
ムードも何もないけどもう渡してしまおうかと右手を背中に回した瞬間そう言われ、目を瞬きながらも左手を出すとぐいっと引っ張られる。眉を顰めて見ていれば、ズボンのポケットから何かを取り出した廉がそれを薬指に通した。
「……え?」
「ありきたりなもんで悪いけど、二年後も一緒にいるっつー約束」
手が解放され、薬指を見るとシンプルなシルバーのリングが嵌っていた。廉の左手が振られ、同じ場所に同じ物が光ってる。
二年後も一緒にいる約束。俺と廉だけの約束。
「ペアリングだから、失くすなよ」
「うん、大切にする。……っていうか、俺も似たような事考えてた」
「何が?」
俺は今度こそ背中に隠していた包装済の長方形の箱を取り出すと、身に着ける物として被ってしまった事に少しだけ気まずさを感じながら廉へと差し出す。
受け取った廉は包装紙を剥がし蓋を開けて笑った。
「似た者同士かよ」
俺が廉のクリスマスプレゼントとして選んだのはペアのネックレスだ。トップは細身のタグのような形をしていて、極小のスワロフスキーが嵌め込まれている。
「虫除け対策バッチリだな」
「ピアスすらしてない廉が、一気にこんだけアクセサリー身に付けてたらな。しかも左手薬指だし」
「ピアスなぁ……穴開けんの怖くね?」
「え、意外。そういうの平気だと思ってた」
「人には得意不得意っつーもんがあってだな。…そういうお前はどうなんだよ」
「俺も無理」
「人の事言えねぇじゃねーか」
身体に穴開けるって良く考えたらすごい度胸だよな。絶対痛いだろうし、血も出るだろうし。あ、でも今は病院でもしてくれるんだっけ?
それならピアスはちょっと憧れるな。
「ほら、まだケーキもあんだから食っちまうぞ」
「あー……ポテトしなしな」
「真尋はカリカリ派か」
「え、廉はしなしな派?」
「いや、どっちも」
「贅沢者ー」
ポテトはカリカリが一番美味いだろ。
二人してこれはどっち派だのあれはナシ派あり派だのと過去一盛り上がりながら夕飯を食べた俺たちは、廉が買ってきた可愛らしいクリスマスケーキに舌鼓を打ち日付が変わる前にベッドに入った。
首にも指にも、俺たちの未来を願った物が光ってる。残念ながら指輪は学校では外すんだけど、ネックレスに通して身に付けているつもりだ。
「廉」
「ん?」
「ありがとう」
指輪を見せながらそう言って笑うと、柔らかく微笑んだ廉に抱き締められる。この腕の中が俺のいる場所だ。二年後に帰ってくる場所。
俺は欠伸を零し、廉の温もりと香りに包まれながら目を閉じた。
年末は少し忙しかった。小晦日には廉と廉の家族と何故か俺も一緒に夕飯を食べて、大晦日は俺と俺の家族と廉が一緒に夕飯を食べた。何か、公認っぽくて恥ずかしいけどちょっと嬉しかったりもする。父さんは相変わらず廉に棘々してて…まぁ廉は気にしてなかったけどな。
それから一夜明けて、今は初詣に来てる。日付変わった後で行っても良かったんだけど、年越しそば食べた後だし絶対眠くなるから諦めた。
昼前には神社に到着。割と大きな神社だからかすごい数の人がいた。
俺と廉はお賽銭の列に並んで今のうちに何を買うかを話し合う。
「お守りは絶対いるだろ」
「おみくじも引きたい」
「大吉引けよ」
「狙えたら苦労しねぇよ」
運勢を自分で選べんなら迷わず大吉を選ぶけども、そもそもおみくじはそういうもんじゃねぇし。
それにしても、コイツはどこに行っても目立つな。周りの女の子も女の人も廉を見ながらヒソヒソしてる。俺の肩抱いてるからおいそれと声はかけてこないだろうけど。
少しずつ列が進んで、ようやく俺たちは最前列に立てた。お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼で参拝を終える。列から外れて社務所に向かい、まずはお守りを選ぶ事にした。
「廉は無病息災と交通安全かな。車の免許取るんだろ?」
「ああ。……何かしてねぇと絶対落ち着かねぇし」
「ドライブデード、楽しみにしてるな」
「一番に乗せてやる」
少しだけ声を落とした廉に気付かない振りをして明るく言えば、ふっと笑って頭を撫でてくれる。自分のお守りをどうしようか悩んでいると、隣のカップルの会話が聞こえてきた。
「縁結びをお揃いで持つとずっと一緒にいられるんだってー」
「へぇ。じゃあ買う?」
「買う~」
そうなんだ。縁結び、だもんな。縁を結んでくれるんだし、既に結んである縁は結ばれたままにしてくれるって事なのかな。それなら欲しいかも。
「真尋?」
「……廉、縁結び、一緒に持たないか?」
「………可愛い奴。いいよ」
「な、何で笑うんだよ」
「別に? ほら、お前のも買うぞ」
「……ん」
(もしかしてあのカップルの会話聞こえてた?)
そうだとしたら便乗したみたいで恥ずかしいんだけど。
憮然としながらも頷いて巫女さんに包んで貰い、ついでにおみくじのお金も纏めて貰うと廉に六角形のみくじ筒を持たされた。シャカシャカしてる間に支払いを済まされてしまいハッとする。
コイツ、最初からそのつもりだったな。
「だから、何でお前が全部払うんだよ」
「恋人に出させるほど甲斐性なしじゃねぇし? ほら、何番?」
「お前は出しすぎだ! ……31番」
隣で廉もシャカシャカしてみくじ棒を出し、俺の番号と一緒に巫女さんに告げると二枚の紙が渡された。
「こっちが真尋のな」
「ありがと」
本当にコイツは……と心の中で愚痴りながら紙を開くと〝吉〟の文字。大吉じゃなかった事は残念だけど、大吉の次にいいやつだし良しとする。
「廉、どうだった?」
「当然」
ドヤ顔で見せられた紙には〝大吉〟ってある。しかもあの顔ムカつく。
「吉だって十分すげぇんだからな」
「はいはい」
「だからそのはいはいってのやめろ」
「はいはい」
「さては喧嘩売ってんな? やるか?」
「勝ったら何してくれんの?」
「廉の言う事何でも聞いてやるよ」
「言質取ったからな」
売り言葉に買い言葉。何か、まんまとハメられた気がする。
でもここまで言っておいて引くなんて男らしくねぇ!
「その代わり、俺が得意な奴で勝負な!」
「何にするんだよ」
「考え中!」
俺の得意な事、得意な事。何かあったかな。
ウンウン悩む俺は忘れてた。廉が何でもソツなくこなすハイスペックマンだと言う事に。
勝負? ……もちろん俺の完敗で幕を閉じたわ。
「じゃあ裸エプロンな」
などと変態イケメンがにこやかに話してた事は、俺しか知らなくていい。
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