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文化祭前日
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毎日必死に小物や装飾品を作ってついに明日、文化祭当日を迎える。昼食後は準備のために授業はなくて、今はみんなで教室を飾り付けているところだ。
実は、相澤と友達になってから2日後、例の二人が俺に謝ってきた。相澤のおかげで他のクラスメイトからも声をかけられるようになってて、たぶん様子を見てたんだと思う。
思ってた奴と違った、酷い態度取ってごめんって。
俺はさ、無視されたり悪口言われるくらいは全然余裕だったんだよ。でもそんな風に俺個人を見て言って貰えるとやっぱり嬉しいもので、恥ずかしながらちょっと泣いてしまった。
それを見た倖人が危うくブラック化するところだったけど、どうにかこうにか誤解を解いて落ち着いた後、良かったねと笑ってくれた。
俺の学校生活がやっとスタートしたんだなって感じたんだ。
「綾瀬、悪いんだけど女装の方入ってくんね? 水谷、明日も来れそうにないんだって」
「え?」
「さすがにホールに可愛い子が少ないのは困る。あのお笑い要員共じゃ客逃げてくし」
ちらりと教室の隅に目をやれば、マッスルポーズを決めてる細マッチョたちが物凄く精力的に衣装合わせしてる。背が高くてゴツイ顔のヤツ二人…ある意味女装映えしそうだ。
「俺じゃなくても良くね? 他に可愛い子なら…」
「いや、綾瀬にお願いしたい。こんだけの美人、宛てがわない手はない」
「んー……よし、ならじゃんけん。負けたらやる」
「絶対勝つ」
『最初はグー、じゃんけん、ぽん!』
俺はチョキ、向こうはグー。……いや負けんのかい。
「仕方ねぇな、やってやるよ」
「サンキュー。ギリギリで悪いけど、向こうで衣装合わせして来て」
「はいはい」
負けた以上は仕方ない。あの細マッチョはどうやら合う衣装がなかってようで、最終的にメイド服を着るらしい。レトロはどこいった。
俺は賑やかな細マッチョに苦笑しつつ倖人がいる方へ行く。すでに調整も終えていた俺の幼馴染みは女学生服を選んだようだ。何か、某歌劇団の制服っぽいよな。ちなみに衣装のレパートリーは、レトロと言えばの袴、膝下丈の女学生服、それからレトロワンピースの三種類。これにフリフリのエプロンを合わせるらしかった。
「真尋」
「倖人すげぇ似合ってる。三つ編みだ」
「レトロと言えば三つ編みだと思って。真尋は……ワンピースも良いけどやっぱり袴かな。ウィッグはハーフアップのやつ」
「え、地毛じゃ駄目?」
「駄目。明日は化粧もするらしいから」
化粧まですんの!? 気合い入ってんな…。母さんたちには交代時間に来てもらう事にしよう、うん。…絶対見られたくない。
「とりあえず着てみようか。サイズ調整しないとだし」
「うん」
選ぶのも面倒臭かったし、倖人が提案した袴で決定した俺は制服のシャツだけ脱いで、着方はちょっと分かんねぇから手伝ってもらいながら袖を通す。衣装係は裁縫の得意な峰山で、ある程度身体に合わせるとチャチャっと縫って仕上げてた。すげぇ、針と糸だけなのに仕事が早い。
「綾瀬ほっそいなー」
「そうかー?」
「細いってか、薄い?」
「どーせ筋肉もついてないモヤシですよー」
「そこまで言ってませんー」
峰山は器用に針を動かしながらおどけたように言って笑い、最後に袴のひだを整え変なところがないかを確認する。
「うん、いい感じ。せっかくだしウィッグも着けてみるか」
大きなトランクを開けた峰山は、ロングと肩くらいの長さがありそうなウィッグを取り出し俺の顔の左右に並べて考える。
「どっちもいいけど、やっぱ袴と言えばロングかな~」
「そうなのか?」
「イメージは映画」
「へぇ」
あんまり映画を見ない俺には分かんねぇけど、レトロってだけに昔の映画とかにあるのかな。
峰山ははみ出そうな俺の髪をちょっと弄ってから、ライトブラウンのロングウィッグを被せる。位置を調整して満足気に頷いた。
「出来た。いいじゃん、似合ってるよ綾瀬」
「うわぁ……」
全身鏡の前に立ち何の感情も籠らない声を漏らす。袴ってさ、まだこういかにも女女してますって感じがないからいいんだけど、ウィッグが逆にそれを押し上げてる感じ。
俺、やっぱ女顔だったんだな。ショックだわ。
「それにしても、水谷も残念だよな」
「せっかくの文化祭なのに、体調崩すなんてツイてないというか何と言うか…」
「いっぱい写真撮ってプレゼントしてやろうぜ」
「いいね、クラス全員の写真も撮ろうな」
当たり前のようにその輪の中にいられる事が嬉しい。
俺が満面の笑みで頷くと、じゃあさっそくとどこから出したのか本格的なカメラを出して構えた峰山に苦笑し、少し考えた俺は戦隊ヒーローのポーズを取って峰山に怒られた。
明日は文化祭当日だけど、俺は廉の家に来ていた。夕方、唐突に「俺を癒せ」って連絡が来たから、絶対に手ぇ出すな、痕を付けるなって念押して来た訳だけども……俺はなんでソファに押し倒されているんですかねぇ?
「……おい」
「キスも駄目なのは聞いてない」
「いやいや、手ぇ出すなっつったじゃん」
「ヤんのが駄目って事だろ?」
「性的な事全般のつもりだったけど?」
第一、廉とキスしたら絶対勃つ自信しかない。そうなったらコイツはあれやこれやと言いながら脱がせてくるんだ。明日が本番なのにそれは困る。
知ってるか? コイツ一回じゃ終わらない絶倫野郎なんだぞ。
廉だって分かってるはずなのに納得いかないって顔してて……嫌じゃねぇから困ってんのに。
「……あー、クソ…」
少しして俺の上から引いた廉が小さく舌打ちしてビクッとする。さすがに怒った、か?
「れ、廉……」
「……悪い」
「え?」
「お前が傍にいると我慢出来ねぇ……こんな事初めてだ」
起き上がり、向けられた背中に触れるのを躊躇っていると廉のそんな呟きが聞こえて目を瞬いた。
「俺はどっちかってぇと淡白な方で、セフレと会っても一回出して終わりなんてザラだったんだよ。でもお前は……お前だけは、何回抱いても足りねぇ」
「……へ」
「だから俺自身、どうしていいか分かんねぇんだよ」
何て言えばいいか分からず俺は黙ってしまった。
つまり廉は、俺を抱きたくてしょうがねぇって事? いやいや、漫画じゃあるまいしそんな、人によって性欲が変わるとか………なぁ?
「最近は、お前もそんな抵抗しなくなったし…寝起きはクソ可愛いし……アレって家でもそうなのか?」
「…寝起きの事か? 家でも言われてるよ。起こしに来た母さんに甘えてるって」
この年になって母親に抱き着きながら甘えるってどうよって思うかもしんねぇけど、マジで意識ないから覚えてすらねぇんだよ。
自分がどんな風に甘えてんのか気にはなるけど、だからと言って見たいとも思わない。見たら絶対発狂する。
「……俺さ、小さい頃はホント素直で純粋な甘えん坊だったんだよ。人懐っこくてにこにこしてて……だからか、そういう人たちに目を付けられて良く悪戯とかされててさ………それが嫌でこんな性格になったんだけど、その時の素直で甘えん坊な俺が寝惚けて出てるらしい」
何でそんな自分が出てるのかは分かんねぇけど、思春期来るまでそうやって育てられた事も影響してんのかなって今は思ってる。
年寄りになっても治らなかったどうしようと溜め息を零していると、突然廉が振り返り俺に口付けて来た。
いきなりだったから驚いて、目を瞬いている間に離れる。
「……おま…っ」
「我慢するよ」
「え?」
「お前が嫌ならしねぇし、お前に負担かけたい訳じゃねぇ。だから我慢する」
「廉……」
廉が俺の事を本当に大切にしてくれてるのは分かってる。分かってるからこそ俺もそれに応えたいとは思ってんだけど……慣れてないばかりに廉を不安にさせてるのかもしれない。
「…………」
そういえば俺は、照れ臭すぎてあんまり廉に好きだって言えてない気がする。
俺の手を取り親指で甲を撫でる節榑た指をギュッと握り、俺は自分から廉にキスをした。ほんの少し、触れるだけのキス。
「好きだぞ、廉」
「真尋……」
「好きだから……だから…………………………ぶ、文化祭終わったら、いいよ」
最初は目を見て言えた。でもだんだん顔が赤くなるのを感じて俯いた俺は、たっぷりと間を空けつつも言いたい事を言えて息を吐く。
本当は両手で顔を覆ってしまいたいくらい恥ずかしいけど、こういうのも耐えてかなきゃこの先やっていけないと思って必死に耐える。
「真尋」
耳に心地良い声が俺の名前を優しく呼んで、繋いだ手とは反対の腕で俺を抱き寄せる。耳元に唇が触れてビクッとしたけど、俺も廉の背中に腕を回した。
「俺も好きだ。……愛してる」
好きって言われるよりも照れ臭い言葉を言われて身体が震える。顔の熱が上がったのを感じた俺は、廉の肩に顔を埋めて頷いた。
実は、相澤と友達になってから2日後、例の二人が俺に謝ってきた。相澤のおかげで他のクラスメイトからも声をかけられるようになってて、たぶん様子を見てたんだと思う。
思ってた奴と違った、酷い態度取ってごめんって。
俺はさ、無視されたり悪口言われるくらいは全然余裕だったんだよ。でもそんな風に俺個人を見て言って貰えるとやっぱり嬉しいもので、恥ずかしながらちょっと泣いてしまった。
それを見た倖人が危うくブラック化するところだったけど、どうにかこうにか誤解を解いて落ち着いた後、良かったねと笑ってくれた。
俺の学校生活がやっとスタートしたんだなって感じたんだ。
「綾瀬、悪いんだけど女装の方入ってくんね? 水谷、明日も来れそうにないんだって」
「え?」
「さすがにホールに可愛い子が少ないのは困る。あのお笑い要員共じゃ客逃げてくし」
ちらりと教室の隅に目をやれば、マッスルポーズを決めてる細マッチョたちが物凄く精力的に衣装合わせしてる。背が高くてゴツイ顔のヤツ二人…ある意味女装映えしそうだ。
「俺じゃなくても良くね? 他に可愛い子なら…」
「いや、綾瀬にお願いしたい。こんだけの美人、宛てがわない手はない」
「んー……よし、ならじゃんけん。負けたらやる」
「絶対勝つ」
『最初はグー、じゃんけん、ぽん!』
俺はチョキ、向こうはグー。……いや負けんのかい。
「仕方ねぇな、やってやるよ」
「サンキュー。ギリギリで悪いけど、向こうで衣装合わせして来て」
「はいはい」
負けた以上は仕方ない。あの細マッチョはどうやら合う衣装がなかってようで、最終的にメイド服を着るらしい。レトロはどこいった。
俺は賑やかな細マッチョに苦笑しつつ倖人がいる方へ行く。すでに調整も終えていた俺の幼馴染みは女学生服を選んだようだ。何か、某歌劇団の制服っぽいよな。ちなみに衣装のレパートリーは、レトロと言えばの袴、膝下丈の女学生服、それからレトロワンピースの三種類。これにフリフリのエプロンを合わせるらしかった。
「真尋」
「倖人すげぇ似合ってる。三つ編みだ」
「レトロと言えば三つ編みだと思って。真尋は……ワンピースも良いけどやっぱり袴かな。ウィッグはハーフアップのやつ」
「え、地毛じゃ駄目?」
「駄目。明日は化粧もするらしいから」
化粧まですんの!? 気合い入ってんな…。母さんたちには交代時間に来てもらう事にしよう、うん。…絶対見られたくない。
「とりあえず着てみようか。サイズ調整しないとだし」
「うん」
選ぶのも面倒臭かったし、倖人が提案した袴で決定した俺は制服のシャツだけ脱いで、着方はちょっと分かんねぇから手伝ってもらいながら袖を通す。衣装係は裁縫の得意な峰山で、ある程度身体に合わせるとチャチャっと縫って仕上げてた。すげぇ、針と糸だけなのに仕事が早い。
「綾瀬ほっそいなー」
「そうかー?」
「細いってか、薄い?」
「どーせ筋肉もついてないモヤシですよー」
「そこまで言ってませんー」
峰山は器用に針を動かしながらおどけたように言って笑い、最後に袴のひだを整え変なところがないかを確認する。
「うん、いい感じ。せっかくだしウィッグも着けてみるか」
大きなトランクを開けた峰山は、ロングと肩くらいの長さがありそうなウィッグを取り出し俺の顔の左右に並べて考える。
「どっちもいいけど、やっぱ袴と言えばロングかな~」
「そうなのか?」
「イメージは映画」
「へぇ」
あんまり映画を見ない俺には分かんねぇけど、レトロってだけに昔の映画とかにあるのかな。
峰山ははみ出そうな俺の髪をちょっと弄ってから、ライトブラウンのロングウィッグを被せる。位置を調整して満足気に頷いた。
「出来た。いいじゃん、似合ってるよ綾瀬」
「うわぁ……」
全身鏡の前に立ち何の感情も籠らない声を漏らす。袴ってさ、まだこういかにも女女してますって感じがないからいいんだけど、ウィッグが逆にそれを押し上げてる感じ。
俺、やっぱ女顔だったんだな。ショックだわ。
「それにしても、水谷も残念だよな」
「せっかくの文化祭なのに、体調崩すなんてツイてないというか何と言うか…」
「いっぱい写真撮ってプレゼントしてやろうぜ」
「いいね、クラス全員の写真も撮ろうな」
当たり前のようにその輪の中にいられる事が嬉しい。
俺が満面の笑みで頷くと、じゃあさっそくとどこから出したのか本格的なカメラを出して構えた峰山に苦笑し、少し考えた俺は戦隊ヒーローのポーズを取って峰山に怒られた。
明日は文化祭当日だけど、俺は廉の家に来ていた。夕方、唐突に「俺を癒せ」って連絡が来たから、絶対に手ぇ出すな、痕を付けるなって念押して来た訳だけども……俺はなんでソファに押し倒されているんですかねぇ?
「……おい」
「キスも駄目なのは聞いてない」
「いやいや、手ぇ出すなっつったじゃん」
「ヤんのが駄目って事だろ?」
「性的な事全般のつもりだったけど?」
第一、廉とキスしたら絶対勃つ自信しかない。そうなったらコイツはあれやこれやと言いながら脱がせてくるんだ。明日が本番なのにそれは困る。
知ってるか? コイツ一回じゃ終わらない絶倫野郎なんだぞ。
廉だって分かってるはずなのに納得いかないって顔してて……嫌じゃねぇから困ってんのに。
「……あー、クソ…」
少しして俺の上から引いた廉が小さく舌打ちしてビクッとする。さすがに怒った、か?
「れ、廉……」
「……悪い」
「え?」
「お前が傍にいると我慢出来ねぇ……こんな事初めてだ」
起き上がり、向けられた背中に触れるのを躊躇っていると廉のそんな呟きが聞こえて目を瞬いた。
「俺はどっちかってぇと淡白な方で、セフレと会っても一回出して終わりなんてザラだったんだよ。でもお前は……お前だけは、何回抱いても足りねぇ」
「……へ」
「だから俺自身、どうしていいか分かんねぇんだよ」
何て言えばいいか分からず俺は黙ってしまった。
つまり廉は、俺を抱きたくてしょうがねぇって事? いやいや、漫画じゃあるまいしそんな、人によって性欲が変わるとか………なぁ?
「最近は、お前もそんな抵抗しなくなったし…寝起きはクソ可愛いし……アレって家でもそうなのか?」
「…寝起きの事か? 家でも言われてるよ。起こしに来た母さんに甘えてるって」
この年になって母親に抱き着きながら甘えるってどうよって思うかもしんねぇけど、マジで意識ないから覚えてすらねぇんだよ。
自分がどんな風に甘えてんのか気にはなるけど、だからと言って見たいとも思わない。見たら絶対発狂する。
「……俺さ、小さい頃はホント素直で純粋な甘えん坊だったんだよ。人懐っこくてにこにこしてて……だからか、そういう人たちに目を付けられて良く悪戯とかされててさ………それが嫌でこんな性格になったんだけど、その時の素直で甘えん坊な俺が寝惚けて出てるらしい」
何でそんな自分が出てるのかは分かんねぇけど、思春期来るまでそうやって育てられた事も影響してんのかなって今は思ってる。
年寄りになっても治らなかったどうしようと溜め息を零していると、突然廉が振り返り俺に口付けて来た。
いきなりだったから驚いて、目を瞬いている間に離れる。
「……おま…っ」
「我慢するよ」
「え?」
「お前が嫌ならしねぇし、お前に負担かけたい訳じゃねぇ。だから我慢する」
「廉……」
廉が俺の事を本当に大切にしてくれてるのは分かってる。分かってるからこそ俺もそれに応えたいとは思ってんだけど……慣れてないばかりに廉を不安にさせてるのかもしれない。
「…………」
そういえば俺は、照れ臭すぎてあんまり廉に好きだって言えてない気がする。
俺の手を取り親指で甲を撫でる節榑た指をギュッと握り、俺は自分から廉にキスをした。ほんの少し、触れるだけのキス。
「好きだぞ、廉」
「真尋……」
「好きだから……だから…………………………ぶ、文化祭終わったら、いいよ」
最初は目を見て言えた。でもだんだん顔が赤くなるのを感じて俯いた俺は、たっぷりと間を空けつつも言いたい事を言えて息を吐く。
本当は両手で顔を覆ってしまいたいくらい恥ずかしいけど、こういうのも耐えてかなきゃこの先やっていけないと思って必死に耐える。
「真尋」
耳に心地良い声が俺の名前を優しく呼んで、繋いだ手とは反対の腕で俺を抱き寄せる。耳元に唇が触れてビクッとしたけど、俺も廉の背中に腕を回した。
「俺も好きだ。……愛してる」
好きって言われるよりも照れ臭い言葉を言われて身体が震える。顔の熱が上がったのを感じた俺は、廉の肩に顔を埋めて頷いた。
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