強気なネコは甘く囚われる

二人の写真※

　あれからどれくらいの時間が経ったんだろうか。


「や、だ…っ…ぁ、ぁ…んっ」
「こっちは嫌だって言ってないけど？」
「うるせ…っひぁ…あ、あ…っ」
　さっきと同じ仰向けで大きく足を開かされた間には廉がいて、相変わらず凶器みたいなデカくて太いもんを俺の後ろに突っ込んでる訳だけども、何の嫌がらせかさっきからゆっくりとしか動いてくれない。
　俺は既に何度か達してるせいで全身が敏感になってて、たまに悪戯するみたいにグッと奥を突かれるから俺の身体はずっと震えてる。
「んっ、も、何でそんな…っ…焦らすんだよ……！」
「中、すげぇ絡み付いてくる」
「答えになってな…ぅあっ、あっ、い、きなり…っ」
　そんな感想いらねぇよって言いたいのに、いきなり動きが激しくなって俺は喉を反らした。思わず閉じそうになった膝の裏を掴まれお尻が浮くくらいに曲げられる。
「あ、ん、ゃあ、ダメって…っ…あっ、ああっ」
「いい、の間違いだろ？」
「ちが、うぅ…っ…は、あぅ、やだやだ、またイク…っ」
「イケよ、ほら」
「っ、ああ、あ、そこや、ひ、ぅ、ンっ、ぁああ…！…っ、待っ、今イって…っ…」
　角度を変えて、敏感な場所を抉りながら奥を突かれまくった俺はあられもない声を上げて何度目か分からない限界を迎える。なのに廉は止まるどころか抽挿を早めて、さらに深いところに先端をぶつけて来やがった。
　目の裏がチカチカして息が詰まる。
「…っ…は、ぁ、あ、そ、んな…深ぃ、の…ゃ、無理ぃ…っ」
「っ、……の割には締め付けてくるけどな…」
　気持ち良いからか、苦しいからか、俺の目から勝手に涙が溢れてきた。何かに縋り付きたくて手を動かすと大きな手に包まれる。そのまま廉の首に回されしがみつけば喘ぐ口を塞がれた。
「んっ、ゃ、ンンッ、ふ、ぁんっ」
「…っ……、は…真尋…」
「あ、あ、おれ、あたま、へんになるぅ…っ…やぁ、あ、ダメダメっ、またイッちゃ…っ」
「ん…」
「ああ、あ、れ、ん、廉…っ、もう…、もうや…っあ──ッひ、ンン！」
「っ、く……」
　強すぎる刺激に頭がおかしくなりそうで怖くて、俺は必死で廉にしがみつきながら揺さぶられるままに声を上げて果てる。咥え込んでいる場所がキュウッと締め付けたのが分かり廉も俺の中に入ったまま射精した。
　ゴム越しでも脈打ってるのが分かる。
「…はぁ……っ…はぁ……」
「大丈夫か？」
「…だい、じょぶなわけ、あるか……」
　指一本動かすのも億劫なくらい疲労困憊だわ。
　廉は俺の中から引き抜くとゴムを外して処理し、目がしぱしぱし出した俺の横に寝転んだ。
　せめて下はお互いに隠して欲しいっす。
「真尋」
「…ん～…？」
「今日、楽しかったか？」
　不意に問い掛けられ微睡みかけていた俺は目を開けて廉を見る。心なしか不安そうなのは、俺がどう答えるか気にしているからだろうか。
「俺動けないんだけど？ ほら、ぎゅってしろ」
　汗だくだしどこもかしこもベタベタだけど、とりあえずくっつきたくてそう言えば一瞬目を瞬いた廉は、それはもう蕩けるような笑みを浮かべて俺の頭の下に腕を入れて腰を抱き寄せた。
　素肌が触れ合って気持ちいい。
「すげぇ楽しかったよ。花火は途中で見れなくなったけどな」
「それは悪かった。花火ではしゃぐお前が可愛くて、我慢出来なかった」
「……前から思ってたんだけど、俺のどこが可愛く見えてんだお前は」
「そういう生意気なとこも、無邪気なとこも、意外と泣き虫なとこも、全部可愛い」
「あー……うん、お前の感性がおかしいって事は分かった」
「何でだよ」
　むしろこっちが何でだよって聞きたい。生意気なとこって普通は腹が立つところだろうが。
　あー、重怠い疲労感のせいで眠くなってきた。
「廉」
「ん？」
「廉はカッコイイよ……」
　俺よりも逞しい首筋に頬擦りしそう言って目を閉じると、限界だった俺はすぐに意識を手放した。
「……はぁ……そういうとこだぞお前」
　そんな事を言いながら廉が溜め息をついていた事など知らない俺は、夢の中でも廉と一緒に花火を見ていた。


　翌朝、人生で一番気持ち良く目が覚めたはずの俺は廉に組み敷かれていて悲鳴を上げた。
「何してんだ！」
「……お前な、寝惚けて甘えんのマジでどうにかしろ。俺の身がもたねえ」
「そ、そんな事言われても……」
　意識外の事は俺の記憶にないし、どうにかしろと言われて出来るもんならとっくにしてる。
　廉は眉を顰めて噛み付くようなキスをすると、それだけで息が上がった俺を見下ろして溜め息をついてから身体を起こした。
「絶対俺以外と寝るなよ」
「三年になったら修学旅行があるけどな」
「………」
　まぁ俺と同室になりたい奴なんかいないだろうし、何ならクラス離れてもどうにか倖人と同じ部屋にして貰おうかな。俺の現状は先生も知ってるんだし。でも廉が卒業したらみんなの態度ってどうなんだろ。はは、嫌われたままだったりして。
「まぁどうにかなるんじゃね？ まだ朝ご飯まで時間あるよな？ 俺、露天風呂入ってくる」
「ああ」
　昨日のベタベタは廉が綺麗にしてくれたみたいでもうないけど、せっかくだしもう一回入っておきたい。朝風呂なんて滅多にないしな。
　俺はボストンバッグごと脱衣場に行き、着付け直されてた浴衣も脱いで掛け湯をして浸かると、まだ残ってた疲れが癒されていく気がしてホッとした。見上げると夏空が広がっていて爽やかな気持ちになる。
　暫く空を眺めていたが、朝とはいえそれなりに気温もあるから逆上せる前にと温泉から出た。
　しっかり拭いてからＴシャツとカーゴパンツを履き、湯気でほんのり濡れた髪を手櫛で整えながら戻ると、廉はもう着替えを済ませて座卓についてた。
「腹減ったー」
「真尋」
「何？」
　早く食べたーい何て言いながら廉の向かいに座ると名前を呼ばれてシャッター音がする。不意打ち好きだなコイツ。
「撮るなら撮るって言えよ、ピースしてやるから」
「じゃあ撮る」
「おっしゃ、撮影料１００円な」
「安いな」
　ギャグとしては本当なら１００万なって言いたいとこだけど、コイツなら出しかねないから無難な数字にしておく。
　俺はスマホを構える廉に向かってピースすると、サービスとばかりにニコッと笑ってやった。
「……もう一枚」
「え」
「すげぇ可愛い」
「そんな事言われてもう一回笑えると思うか？ ってかさ、一緒に撮ろうよ。二人の写真ねぇじゃん」
　よくよく考えたらコイツは撮ってばっかりだ。将来笑い合いたいなら二人の写真は必須だろ。
　俺は立つのも面倒臭く這って廉の傍まで行くと、収まりを良くするために足の間に座り、廉のスマホを借りてインカメラに切り変え構える。
　廉に寄りかかったりして微調整し上手く画角に収めると、俺は再びピースをして表情を作った。でも廉は顰めっ面だ。
「ほら、廉も笑顔」
「……こういうの慣れてねぇんだよ」
「んー……じゃあまいっか。撮りマース」
「いいのかよ」
　あ、笑った！ チャンス！
　俺は急いで撮影ボタンを連打した。連射じゃないから撮れたのは二枚だけど、一枚目がちょっとブレたくらいで、二枚目は二人共いい顔で撮れてる。廉もちゃんと笑えてるし。
「いい写真撮れた！ 後で俺にも送っといて」
「ああ。……すごいな、お前」
「何が？」
「色々。お前がいれば、俺はずっと笑えてる気がするよ」
　どこか意味深な言葉に何も言えなくなった俺は写真の中で笑う廉をじっと見る。眉尻を下げた、少し困った様な笑い方だけど笑顔は笑顔だ。
　俺は割と廉の笑った顔を見てる気がするけど、そういえば他の人に笑い掛けてるとこ見た事ないかも。
　御曹司ってだけで、俺が知り得ない気苦労も多いんだろうな。
「仕方ない。これからも俺がたくさん笑わせてやるから、覚悟しとけよ」
　わざとらしくやれやれ感を出してそう言えば、僅かに目を見開いた廉は俺を強く抱き締めて息を吐いた。
「それは頼もしいな」
「任せとけ」
　俺の前だけでも笑えるならいい。
　お前が心から笑ってくれるならどんなおふざけだってしてやるから。
　だからこれからも傍で、俺だけを見ててくれな。


　余談だが、朝食を運んで来た中居さん達に抱き締められているところをバッチリ見られてしまい、チェックアウトまで恥ずかし過ぎて悶えていたのはいい思い出だ……。