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第零章
第拾話 石壁の城
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弘安四年 六月三日
-志賀島近くの石築地-
博多の海辺は異様な光景であった。
浜辺には逆茂木や乱杭が多く刺さっている。
そして砂浜一帯に防塁石築地が築かれていた。
その石築地の上で多くの武士たちが待ち構えている。
国崎季長も待ち構えていた。
武士達は海の方を見つめている。
博多の海の方から銅鑼の音が喧しく鳴り響いている。
その海は蒙古の軍船団で覆われ、ひしめいていた。
これは先の戦より舟が多いぞ
季長ら武士達は息を呑む。
六月三日、蒙古の軍船団が博多の海に現れた。
そして石築地などの防塁を築いた博多湾に上陸しようとするが、伊予(愛媛)の御家人河野通有らが迎え撃ち、撃退。
六月四日、あまりの守りの堅さに博多湾の上陸を断念した蒙古の軍勢は守りを固めていない志賀島に上陸した。
その夜、誰かが蒙古の軍船に夜襲をかけた。
博多の海から銅鑼の音が鳴り響く。
戦に備えて寝ていた季長達は飛び起きる。
どうやら向こうで何かあったらしい。
石築地を上がり、志賀島周辺の海を見ると
ぽつりと明かりが見えた。
蒙古の軍船は爆ぜた音をたてながら轟轟と燃えている。
夜襲を仕掛けた武士が火を放ったのだろう。
一隻の舟が季長のいる石築地に向かって漕いでいる。
舟が上陸すると五、六人の武士が「やったぞ。」と声を上げ嬉しそうに降りてくる。
その武士達は分捕った蒙古の兵の首を掲げる。
それを見ていた季長ら武士達は「おお!」と感嘆の声を上げていた。
浜辺を見ると、我こそはと言わんばかりに武士達が小舟を出し蒙古の軍船団に向かっていた。
周りの武士達は遅れてはならぬと戦支度を始め出した。
季長も小舟を出したかったが舟の手配をする銭がなかったため、生憎用意出来なかった。
武士達が乗った小舟は次々に蒙古の軍船を襲う。
「ちくしょう、銭があればのう。」
季長はただただ見ているだけであった。
武士達が乗った小舟に襲われた蒙古の軍船から火の手があがる。
蒙古の兵が逃げるように舟から海に飛び込む。
火の手から逃げているのか、それとも武士に恐れをなして逃げているのか。
まぁ、どっちもだろうな
季長は鼻で笑った。
海に飛び込んだ蒙古の兵は全力で志賀島に泳ぎ逃げている。
逃げ遅れた兵は武士達の餌食となった。
襲われなかった蒙古の軍船は沖へと逃げていた。
武士達の小舟は軍船を後から追う形でこいでいた。
季長は見てもつまらぬだけだと思い明日に備えて松の木の根元で体をよこにして寝た。
この夜襲は夜明けまで続いた。
「ただし、やってもらいたいことがある。」
「ええ、なんなりとおっしゃって下さい。」
安達泰盛はニヤリと笑い、こう言った。
「敵将の首を取れ。」
「は?今何と?」
季長は戸惑う。
「だから、名だたる敵将の首をとれと言ったのだ!」
「お待ちください。無理でございます。そもそも敵将に会えるかも分から、、、」
ごねる季長を他所に泰盛は続ける。
「なら、其方は嘘を申したとして首を刎ねる。」
季長はさらに戸惑う。
「さぁ、どうする?死か褒美かどちらを取る?」
季長はため息をつき、口を開く。
「何とか敵将の首をとりましよう。」
その言葉を聞いた泰盛は高らかに笑った。
季長は目を覚ます。
身体を起こして頭に手を当てる。
嫌な記憶が夢に出た。
さて、わしに敵将の首を取れるのだろうか。
悩んでいるとなんだか周りが騒がしい。
武士達が馬に乗り始め、駆け出す。
すると三郎が馬の松風を連れて急いでこちらにくる。
「旦那、急ぎましょう。」
「皆、どこに行くのじゃ?」
季長が尋ねる。
「志賀島で戦するんですよ!」
続
-志賀島近くの石築地-
博多の海辺は異様な光景であった。
浜辺には逆茂木や乱杭が多く刺さっている。
そして砂浜一帯に防塁石築地が築かれていた。
その石築地の上で多くの武士たちが待ち構えている。
国崎季長も待ち構えていた。
武士達は海の方を見つめている。
博多の海の方から銅鑼の音が喧しく鳴り響いている。
その海は蒙古の軍船団で覆われ、ひしめいていた。
これは先の戦より舟が多いぞ
季長ら武士達は息を呑む。
六月三日、蒙古の軍船団が博多の海に現れた。
そして石築地などの防塁を築いた博多湾に上陸しようとするが、伊予(愛媛)の御家人河野通有らが迎え撃ち、撃退。
六月四日、あまりの守りの堅さに博多湾の上陸を断念した蒙古の軍勢は守りを固めていない志賀島に上陸した。
その夜、誰かが蒙古の軍船に夜襲をかけた。
博多の海から銅鑼の音が鳴り響く。
戦に備えて寝ていた季長達は飛び起きる。
どうやら向こうで何かあったらしい。
石築地を上がり、志賀島周辺の海を見ると
ぽつりと明かりが見えた。
蒙古の軍船は爆ぜた音をたてながら轟轟と燃えている。
夜襲を仕掛けた武士が火を放ったのだろう。
一隻の舟が季長のいる石築地に向かって漕いでいる。
舟が上陸すると五、六人の武士が「やったぞ。」と声を上げ嬉しそうに降りてくる。
その武士達は分捕った蒙古の兵の首を掲げる。
それを見ていた季長ら武士達は「おお!」と感嘆の声を上げていた。
浜辺を見ると、我こそはと言わんばかりに武士達が小舟を出し蒙古の軍船団に向かっていた。
周りの武士達は遅れてはならぬと戦支度を始め出した。
季長も小舟を出したかったが舟の手配をする銭がなかったため、生憎用意出来なかった。
武士達が乗った小舟は次々に蒙古の軍船を襲う。
「ちくしょう、銭があればのう。」
季長はただただ見ているだけであった。
武士達が乗った小舟に襲われた蒙古の軍船から火の手があがる。
蒙古の兵が逃げるように舟から海に飛び込む。
火の手から逃げているのか、それとも武士に恐れをなして逃げているのか。
まぁ、どっちもだろうな
季長は鼻で笑った。
海に飛び込んだ蒙古の兵は全力で志賀島に泳ぎ逃げている。
逃げ遅れた兵は武士達の餌食となった。
襲われなかった蒙古の軍船は沖へと逃げていた。
武士達の小舟は軍船を後から追う形でこいでいた。
季長は見てもつまらぬだけだと思い明日に備えて松の木の根元で体をよこにして寝た。
この夜襲は夜明けまで続いた。
「ただし、やってもらいたいことがある。」
「ええ、なんなりとおっしゃって下さい。」
安達泰盛はニヤリと笑い、こう言った。
「敵将の首を取れ。」
「は?今何と?」
季長は戸惑う。
「だから、名だたる敵将の首をとれと言ったのだ!」
「お待ちください。無理でございます。そもそも敵将に会えるかも分から、、、」
ごねる季長を他所に泰盛は続ける。
「なら、其方は嘘を申したとして首を刎ねる。」
季長はさらに戸惑う。
「さぁ、どうする?死か褒美かどちらを取る?」
季長はため息をつき、口を開く。
「何とか敵将の首をとりましよう。」
その言葉を聞いた泰盛は高らかに笑った。
季長は目を覚ます。
身体を起こして頭に手を当てる。
嫌な記憶が夢に出た。
さて、わしに敵将の首を取れるのだろうか。
悩んでいるとなんだか周りが騒がしい。
武士達が馬に乗り始め、駆け出す。
すると三郎が馬の松風を連れて急いでこちらにくる。
「旦那、急ぎましょう。」
「皆、どこに行くのじゃ?」
季長が尋ねる。
「志賀島で戦するんですよ!」
続
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