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第零章
第伍話 悪霊退散!
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蝉のうるさい鳴き声が頭の中に響く。
意識が朦朧としている。
ただゆさゆさと揺れている感覚がある。
意識が戻りつつある三郎はどうやら何かに乗せられているようだと気づく。
目を開こうとするが眩しい光が入り込み目を細める。だんだんと光に慣れ、視界が広がる。
馬の首が見える。
馬がいななく。この鳴き声は松風である。
どうやら松風に乗せられていたようだ。
そしてあたりを見渡すが三郎の見知らぬ土地であった。
「どこなんだ?」
三郎は呟く。すると憎き人の声が聞こえた。
「おお、やっと起きたか?」
松風を引きながら季長はニヤリと笑っている。
そんな季長を三郎は睨んでいる。
「そう睨むな、三郎。一人じゃ寂しいけえ、ついてきてほしかったんじゃ。」
申し訳なさそうに三郎を見ている。
三郎はため息をつく。
「・・・・まあ、ここがどこだかわからないですし、帰るのは諦めてますぜ。
で、ここはどこなんです?」
「ここはな!腰越(鎌倉の南西部あたり)じゃ!」
季長はよくぞ聞いたと言わんばかりに応える。
「夜通し松風で駆けて十二日でここまできたぞ!いやぁ、駆けた甲斐があった。
ははははは、あ、いでぇ!」
松風が頭で季長を小突く。
松風に乗って短期間でここまで来たのかと三郎は驚いた。
改めて松風を見ると若干疲れているように見えた。松風はあまり休んでないのか不機嫌そうである。
大変だったろうなと三郎は思い松風を撫でる。松風は少し機嫌をなおしたように見えた。
「鎌倉までもう少しだぞ!」
季長一行は歩みを進める。
ー腰越 満福寺 道中ー
日が暮れ、薄暗い道の茂みに四人の野盗が旅人を待ち構えている。ここに来た旅人から脅しみぐるみを剥ぎ生計を立てている。
身なりは薄汚い被垂を着ている。
何か匂いがする。
野盗の弥次郎は嗅ぐ。
「おい、何か匂うぞ。」
野盗の五助は自分の身体を嗅ぐ。
「そりゃ身体洗ってねえからだろ。」
「ちがう!身体の匂いじゃねえ!
別の匂いだ。弥助からするぞ。」
「あ!さっき油を羽織りにかけちまったからだ!」
弥助は思い出したかのように応える
「馬鹿野郎!油がもったいねえじゃねえか。この野郎!」
弥次郎は弥助の頭を殴る。
殴ることはないじゃないかと弥助は睨む。
すると仲間の内の田之助が「来たぞ。」と小声で伝える。
野盗たちは全員黙る。
奥の方から松明を持った従者と馬に乗った武士らしき者がこちらにやって来る。武士は襲えないと判断した野盗たちは過ぎ去るのを待った。
近づくにつれ彼らの会話が聞こえてくる。
「この先に満福寺という寺があるんじゃがのう。まだかのぉ?」
季長は不機嫌そうである。百姓たちからすぐそこだと教えられたのだがなかなか寺らしきものが見えないからである。
「まだじゃねえです?旦那、百姓から聞きましたが源九郎判官義経のゆかりのある寺と聞いてますぜ。」
「おお、まことか!」
季長は驚く。
この満福寺は義経の腰越状で有名である。源平合戦で義経は勝利したものの、兄 源頼朝の許可なく朝廷から検非違使(今でいう警察庁長官)に任じられたことにより頼朝から怒りを買った。
義経が平家棟梁 平宗盛親子らを鎌倉へ護送する際、頼朝は義経だけは鎌倉に入れるなと命じ腰越の満福寺に留め置かれた。
その際に兄に許しを乞うために満福寺で書かれたのが腰越状である。
三郎は続ける。
「で、この道、出るらしいですぜ?」
「何がじゃ?」
「義経の亡霊がですよ!鎌倉に恨みを持って夜な夜なここを徘徊しているとの噂がありますぜ。」
三郎はまくしたてる。
もちろんそんなことはなく三郎のでっちあげの話である。
勝手に鎌倉に連れて行こうとしたことをまだ根に持っており、季長は亡霊などの妖が大の苦手であるため仕返しで怖がらせようとしていた。
案の定季長は怖がっている。
「おお、そうか。」と興味なさそうにしているが顔が引き攣っている。
すると布切れに油を染み込ませて矢の先に巻きつけ始めた。
矢に松明の火をつけ弓をかまえた。
「三郎見とけよ!そんなもん大したことない!」
どうやら強がっているようだ。
三郎は笑いをこらえながらそーっと近づき
季長の足をがっと掴む。
ぎゃっと声をあげ驚いた拍子に矢はあらぬ方向に放たれた。
野盗の弥助の脚に火矢が刺さっていた。
「んんんん~ッ」
弥助はあまりの痛みに悶絶している。
「おい、早く抜くぞ!あれ、抜けねえな?」
弥次郎と五助で抜こうとするがなかなか矢は抜けない。思い切り力を入れてやっと抜けた。
「弥次郎、あいつらイカれてるのか?急に矢を放ちやがった。」
「武士は皆そうだろう。」
弥助の問いに弥次郎は平然と応える。
「おい、武士がこっちにくるぞ。」
田之助が知らせる。
「もうだめだ。弥助、あとは頑張れ」
弥次郎はあとの二人を連れて逃げる。
「置いてかないでくれよー」と叫びたいが武士にばれしまうので黙った。
季長が茂みを掻き分けている。
「矢はどこ行った?」
どうやら矢を探しているらしい。
弥助はつかさず茂みの奥に隠れ矢を茂みの上に突き出した。
「おお、あったぞ。」
季長は嬉しそうにやを回収し、帰ろうとする。弥助はホッとするがパチパチと音がする。弥助の被垂が燃えている。油のせいで
燃え広がっているのだ
消そうにももう間に合わない。弥助は火に包まれる。
「いやー、火事になるところだった。」
季長は胸を撫で下ろす。
後ろから叫び声がする。振り返ると火に包まれた何かがこちらに向かってくる。
「で、で、出たーー!」
季長は逃げるが火だるまもこちらを追いかけてくる。
「旦那ー!こっちに来るなー!」
追われている季長から三郎たちも逃げる。
「振り向くな!一心不乱に満福寺に行くぞー!」
全速力で走る。
さきに寺の灯りが見えた。満福寺だ。
季長たちは戸を叩く。
「お助け下さい、はやく!」
激しく戸を叩く。
戸が開き、和尚が出てきた。
「どうなされた?」
和尚は不思議そうに尋ねる。
「今、妖に襲われて・・・」
後ろを振り向くと火だるまは倒れていた。
続
意識が朦朧としている。
ただゆさゆさと揺れている感覚がある。
意識が戻りつつある三郎はどうやら何かに乗せられているようだと気づく。
目を開こうとするが眩しい光が入り込み目を細める。だんだんと光に慣れ、視界が広がる。
馬の首が見える。
馬がいななく。この鳴き声は松風である。
どうやら松風に乗せられていたようだ。
そしてあたりを見渡すが三郎の見知らぬ土地であった。
「どこなんだ?」
三郎は呟く。すると憎き人の声が聞こえた。
「おお、やっと起きたか?」
松風を引きながら季長はニヤリと笑っている。
そんな季長を三郎は睨んでいる。
「そう睨むな、三郎。一人じゃ寂しいけえ、ついてきてほしかったんじゃ。」
申し訳なさそうに三郎を見ている。
三郎はため息をつく。
「・・・・まあ、ここがどこだかわからないですし、帰るのは諦めてますぜ。
で、ここはどこなんです?」
「ここはな!腰越(鎌倉の南西部あたり)じゃ!」
季長はよくぞ聞いたと言わんばかりに応える。
「夜通し松風で駆けて十二日でここまできたぞ!いやぁ、駆けた甲斐があった。
ははははは、あ、いでぇ!」
松風が頭で季長を小突く。
松風に乗って短期間でここまで来たのかと三郎は驚いた。
改めて松風を見ると若干疲れているように見えた。松風はあまり休んでないのか不機嫌そうである。
大変だったろうなと三郎は思い松風を撫でる。松風は少し機嫌をなおしたように見えた。
「鎌倉までもう少しだぞ!」
季長一行は歩みを進める。
ー腰越 満福寺 道中ー
日が暮れ、薄暗い道の茂みに四人の野盗が旅人を待ち構えている。ここに来た旅人から脅しみぐるみを剥ぎ生計を立てている。
身なりは薄汚い被垂を着ている。
何か匂いがする。
野盗の弥次郎は嗅ぐ。
「おい、何か匂うぞ。」
野盗の五助は自分の身体を嗅ぐ。
「そりゃ身体洗ってねえからだろ。」
「ちがう!身体の匂いじゃねえ!
別の匂いだ。弥助からするぞ。」
「あ!さっき油を羽織りにかけちまったからだ!」
弥助は思い出したかのように応える
「馬鹿野郎!油がもったいねえじゃねえか。この野郎!」
弥次郎は弥助の頭を殴る。
殴ることはないじゃないかと弥助は睨む。
すると仲間の内の田之助が「来たぞ。」と小声で伝える。
野盗たちは全員黙る。
奥の方から松明を持った従者と馬に乗った武士らしき者がこちらにやって来る。武士は襲えないと判断した野盗たちは過ぎ去るのを待った。
近づくにつれ彼らの会話が聞こえてくる。
「この先に満福寺という寺があるんじゃがのう。まだかのぉ?」
季長は不機嫌そうである。百姓たちからすぐそこだと教えられたのだがなかなか寺らしきものが見えないからである。
「まだじゃねえです?旦那、百姓から聞きましたが源九郎判官義経のゆかりのある寺と聞いてますぜ。」
「おお、まことか!」
季長は驚く。
この満福寺は義経の腰越状で有名である。源平合戦で義経は勝利したものの、兄 源頼朝の許可なく朝廷から検非違使(今でいう警察庁長官)に任じられたことにより頼朝から怒りを買った。
義経が平家棟梁 平宗盛親子らを鎌倉へ護送する際、頼朝は義経だけは鎌倉に入れるなと命じ腰越の満福寺に留め置かれた。
その際に兄に許しを乞うために満福寺で書かれたのが腰越状である。
三郎は続ける。
「で、この道、出るらしいですぜ?」
「何がじゃ?」
「義経の亡霊がですよ!鎌倉に恨みを持って夜な夜なここを徘徊しているとの噂がありますぜ。」
三郎はまくしたてる。
もちろんそんなことはなく三郎のでっちあげの話である。
勝手に鎌倉に連れて行こうとしたことをまだ根に持っており、季長は亡霊などの妖が大の苦手であるため仕返しで怖がらせようとしていた。
案の定季長は怖がっている。
「おお、そうか。」と興味なさそうにしているが顔が引き攣っている。
すると布切れに油を染み込ませて矢の先に巻きつけ始めた。
矢に松明の火をつけ弓をかまえた。
「三郎見とけよ!そんなもん大したことない!」
どうやら強がっているようだ。
三郎は笑いをこらえながらそーっと近づき
季長の足をがっと掴む。
ぎゃっと声をあげ驚いた拍子に矢はあらぬ方向に放たれた。
野盗の弥助の脚に火矢が刺さっていた。
「んんんん~ッ」
弥助はあまりの痛みに悶絶している。
「おい、早く抜くぞ!あれ、抜けねえな?」
弥次郎と五助で抜こうとするがなかなか矢は抜けない。思い切り力を入れてやっと抜けた。
「弥次郎、あいつらイカれてるのか?急に矢を放ちやがった。」
「武士は皆そうだろう。」
弥助の問いに弥次郎は平然と応える。
「おい、武士がこっちにくるぞ。」
田之助が知らせる。
「もうだめだ。弥助、あとは頑張れ」
弥次郎はあとの二人を連れて逃げる。
「置いてかないでくれよー」と叫びたいが武士にばれしまうので黙った。
季長が茂みを掻き分けている。
「矢はどこ行った?」
どうやら矢を探しているらしい。
弥助はつかさず茂みの奥に隠れ矢を茂みの上に突き出した。
「おお、あったぞ。」
季長は嬉しそうにやを回収し、帰ろうとする。弥助はホッとするがパチパチと音がする。弥助の被垂が燃えている。油のせいで
燃え広がっているのだ
消そうにももう間に合わない。弥助は火に包まれる。
「いやー、火事になるところだった。」
季長は胸を撫で下ろす。
後ろから叫び声がする。振り返ると火に包まれた何かがこちらに向かってくる。
「で、で、出たーー!」
季長は逃げるが火だるまもこちらを追いかけてくる。
「旦那ー!こっちに来るなー!」
追われている季長から三郎たちも逃げる。
「振り向くな!一心不乱に満福寺に行くぞー!」
全速力で走る。
さきに寺の灯りが見えた。満福寺だ。
季長たちは戸を叩く。
「お助け下さい、はやく!」
激しく戸を叩く。
戸が開き、和尚が出てきた。
「どうなされた?」
和尚は不思議そうに尋ねる。
「今、妖に襲われて・・・」
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