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第一章

05 残念なイケオジ

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「きちんとやるべきことさえ全うすれば、私が見繕って、ひとつずつ渡していくことにするよ」
「そうしてさしあげて……」

 背中が煤けてしまった鍛冶神様は少しそっとしておいてあげましょう。
 まさかの自業自得よ。びっくりしたわ。

 聞けばどうやら、ずっとその構造を知りたくて仕方なかった自動巻きの時計を研究できることが嬉しくてたまらず、でもあたしから新たに受け取るまではまだ手元の時計はバラせないと、熱意ばかりが昂ってジリジリしていたところに美の女神様からあたしの装備が用意できたと声をかけられたそうで。
 それに彼女がドン引きするほど食いついて、一心不乱に仕上げたもののまだ勢いは収まらず、数々の新しい武器や装備品などを生み出してはセヘルシアのダンジョンへ無駄にばら蒔いた。
 ただこれは彼の仕事でもあるから目を瞑っていたけれど、時計を見てはそわそわ、念話を終えてはそわそわ、果てはガワだけの車を作り出す始末。
 ああでもないこうでもないと、日々鍛冶場に籠り製作に明け暮れ趣味に没頭しすぎて遂には職務を放置。
 ──そして今に至ると。

「で、これがそのとき出来上がったあなたの装備」
「うわぁ……って、思ったより普通ね? ていうか素敵ね?」
「私がデザインしたんだから当然よぉ」
「なら納得だわ」

 鍛冶神様と美の女神様、二柱の総力を込めた力作がずらりと並ぶ。
 ナポレオンカラーのダブルのジャケットや厚手のコート。ふわりと羽織るショールっぽいもの、それからブラウスにシャツ、パンツも何本か。それにブーツやベルトに装飾品も数々ある。
 中でも目を引いたのは、銀糸で繊細な刺繍の施された美しいネイビーのマント。
 鎧などのゴツいものは見当たらず、全て普通の町着や旅装束なんですって。

「これからセヘルシアは少し寒くなるのよ」
「シックねぇ……この刺繍とっても素敵」
「インナーとかもたっぷりあるからね」
「ありがとう女神様~! てっきりまた鎧とか、なんなら貴女がたが着てるそのカーテンみたいな服を渡されるんじゃないかしらって思ってたのよぉ~」
「主神サマと鍛冶の加護があるでしょう? だったら鎧なんか邪魔になるだけじゃない」

 んん~分かってらっしゃる~。流石ねぇ。今回もグッジョブだわ!!

「それでも鍛冶のが張り切って保護だの防御だのたーっぷり付けてたから、何があっても大丈夫よ」
「ありがとう! 鍛冶神様も、美の女神様も!」

 その張り切りっぷりは鍛冶神様からの愛だと受け止めておくわね!
 だけど保護だの防御だの言われても、見ただけじゃなーんにもわからないわねぇ。

「それなら【真眼まなこ】の能力を与えようか」
「え? なぁにそれ」
「実は言うのを忘れていたんだけどね。君は前回セヘルシアへ赴いた際に『ギフト』を受け取るはずだったんだ」
「ギフト?」
「落ち人が時々身に付けちゃう特殊な能力のことよ」

 そういえば自称勇者くんもそれが原因ではっちゃけてるんだったわね。
 彼はどんな『ギフト』だったのかしら……。

「君は神の加護をふたつも受けているんだ。必ずなにかしら備わるだろうと思ってね。それなら好きな能力を選ばせてあげようかなと、少しことわりに干渉して自然付与を防いでおいたんだ」
「へぇぇ……??」
「まぁその辺は深く考えないでいいよ。【真眼まなこ】でなくとも、何か別の能力でも構わないし」
「そう言われてもねぇ……」

 あたしとしてはとにかく身の危険無く、楽しく安全に行って帰って来ることさえできたらそれでいいんだけど。
 能力、能力ねぇ……。

「ちなみに【真眼まなこ】はね、物の価値や委細だけでなく、真贋も見抜けるんだ。そちらの品ならともかく、こちらで品の良し悪しや真贋なんて分からないだろう? あれば役立つと思うよ」
「なるほど?」
「今ならおまけに人物鑑定も組み込んであげよう。落ち人探しにこれ以上ない、最高の『ギフト』じゃないか!」
「あら~とってもお得ねぇ~、ってどこのテレビショッピングよ! やっぱりあんたしょっちゅうこっち覗いてたんでしょう!?」
「ふふふ」
「まぁたそうやって笑って誤魔化す!! それでなんだかんだいっつも自分に都合のいいようにことを運ぶじゃないの!!」
「心外だなぁ」

 かと言って他に何かあるかと言われると急には思い付かないもので、結局あたしは【真眼まなこ】とやらを受け取ることにした。
 ショタ神様の思惑通りになるのは癪だけど、確かに役には立ちそうだものね。

「あとはそうだね、レイ、何か得意な武器はあるかい?」
「武器ぃ? そんなもの使ったことないわよ。あたしの国では一般人が武器なんか持ってたら捕まっちゃうもの」
「へぇー、じゃあ平和なのね」

 平和じゃない国だってもちろんありますけどね。あたしは日本人でよかったわ。
 武器らしきものなんて、学生時代に剣道の竹刀くらいしか触ったことないもの。

「……鍛冶の」
「はい」
「えっ?」

 ショタ神様が声をかけたら、鍛冶神様ったら一瞬でスイッチが入ったわ。
 瞬間移動したかと思うくらいに素早くショタ神様の横に跪いててびっくりしちゃった。

「君のことだ。用意してあるんだろう?」
「はい」
「レイ、使うかどうかは君に任せるから、受け取ってあげてくれるかい」
「あたしに武器を?」
「お主の為だけに創った。受け取ってくれるか」
「っえぇ! もちろんよ!!」

 上目遣いでそう言われてときめきMAXで返した返事を、あたしはすぐさま後悔することになったんだけどね……。

「……ねぇ」
「どうだレイ、どれも渾身の出来だ」

 うっきうきの鍛冶神様が取り出したのは、小さめの剣から始まって細身の剣、長い剣、鞭、弓、槍、斧、大鎌、ハンマー、棒の先にトゲトゲの付いた鉄球が刺さってるやつ……
 まだまだ出てくる見たこともないような武器の山。おまけにどれもこれも装飾過多でギラッギラ。
 そして最後にとっておきとばかりに勿体ぶって取り出したのが、長さはあたしの身長くらいありそうな、幅も厚みも尋常じゃないクソ重たそうな巨大な剣……。

「──…………」

 言葉が出てこない。
 いいえ、わかっていたはずよレイ。鍛冶神様ってばそもそもこういう方なんだってば!!
 夢中になれば人の話は聞かないし自分の好きなことはとことん追及するし専門分野は鍛冶仕事……。
 そりゃあこうなるわよねぇ。

「うわぁ、どれもこれも神器じゃないこれ」
「言わないで女神様……」
「これは人里へ持って入ったら大騒ぎだねぇ」
「やめて主神様……」

 当の本人はキラキラした目であたしを見ているし。大柄で渋美しい男の人がわんこみたいによ?
 あんもう思いっきり撫で繰り回したぁい!! でもこれは誉めちゃダメなやつぅ~!!

「鍛冶神様」
「どれか気に入ったかレイ。ひとつと言わず、全て持って行っても構わんが」

 助けを求めるように横の二柱へ目を向けると、やれやれといった風にショタ神様が苦笑した。

「いいよレイ。私が許そう」
「……そう? じゃあ遠慮なく」

 にっこり笑ってさん、はい!

「馬ッ鹿じゃないのぉ!?」


 ゲラゲラ笑う二柱をよそに、あたしはたっぷり滾々と鍛冶神様にお説教してやったわ。
 あたしの為にと用意してくださったのは本当に嬉しいしありがたいことなんだけれども、物には限度ってものがあるでしょうよ!!
 数もそうだけど、持ち上げることすら出来ない武器とかなんの役に立つって言うのよ!!
 何より神器ってなによ!? どんだけ張り切ってくれちゃったのよ!? 嬉しいけど!!

「その辺でいいだろうレイ。鍛冶の、とりあえず目立たない範囲でレイに合いそうな物を」
「では、……これを」
「あるなら最初からそれを出しなさいな……」
「ありがとうございます鍛冶神様。これくらいなら持ち歩いても大丈夫そうだわ」

 受け取ったのは、装飾もさっきのやつよりだいぶ大人しめの短い剣。
 【真眼まなこ】で見ても神器とは表示されなかったけれど、使うこともないと思うのでありがたく魔法の鞄へしまっておいたわ。


 そんなこんなで相変わらず喧しく神域での時間を過ごし、帰還期限を六日後の朝に決めて、あたしはやっとセヘルシアへ旅立った。
 さぁ行くわよ。待ってなさい自称勇者おバカさん
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