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序章
01 プロローグ
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都内某所のとあるバー。そこは徒花咲き乱れるオンナ(♂)達の楽園、その名は「アネモネ」
んふ。素敵でしょう? ちゃあんと深い意味合いがあるんだけど面倒だから割愛するわ。そのうち教えてあげる。
今日も営業を終えた徒花達がドレスを脱いで化粧を直し、ハイヒールで深夜の街へと去っていく。あたしはきちんと全員を送り出してから、のんびり売上精算しつつの一服中。
在庫確認や注文なんかは他のコ達が引き受けてくれているから、これだけ終われば帰れるわね。
さて、と咥えたタバコに火をつけようとして、ライターがないことに気付いて立ち上がる。確かお客様の忘れ物がたくさんあったはず……と、レジ下の棚にあるネズミ王国の定番お土産の空き缶を引っ張り出した。
「あら、これ素敵じゃない」
色とりどりの百円ライターの山を漁ってみると、中からシンプルな銀色のフリント式ライターを発掘した。
「やだこれブランド物? ……じゃないわね刻印もなにもないわ。パチモンかしら」
どなたのお忘れ物か存じませんが、今だけお借りしますね。
蓋を上げてみると、ピンといい音がした。パチモンのくせにいい仕事するじゃない。
ふふんと上機嫌にサイドのフリントを回した瞬間、あたしの目の前は真っ白になった。
「……は? え、なに?」
目がおかしくなったのかしら。いくら瞬きしても目を擦ってみても、そこはただただ真っ白だった。
あれ、だけど自分の体は見えてるわね。手も足も、キュートなお尻も、うん。足元に転げたタバコも見えるわね。拾っとかなきゃ。
え、てことはなぁに? あたしの周りだけ真っ白ってこと? は? なんで?? あたしなにしたっけ??
「もしかして……これ?」
手には先ほど拝借したパチモンライター。
これに火をつけようとしてこうなったんだから、そりゃあもう誰がどう考えたって火を見るよりも明らかでしょ!! ライターだけに!!
……あらやだごめんなさい今のナシね。いやぁねぇ毎日おっさんの相手してるとたまにこうなっちゃうのよねぇ~
誰もいないのに誰かの目を誤魔化すように口元に手を添えておほほと笑っていると、足元にふわりと空気の動きを感じてビクッとしちゃう。やだあたしオバケとか無理だから!!
突然のことにビクビクしていると、またふわり、ふわりと足首あたりをなにかが撫でるように動いているのを感じる。
「やだもうなになになになに!?」
得体の知れないなにかに触れるかもしれないからしゃがみこめないし、迂闊に足も踏み出せないってことは逃げられもしない。
キュッと内股になりながら震える両腕で己を抱き締めていると、今度は澄んだ鈴のような音が聞こえてきちゃってもうあたし限界!!
「なんなのよここぉ~~!!」
ピーーン……ピーーン……
なんだかどんどん近くなってくるその音にガクガク震えながらふとあることに気付く。あたし、この音どこかで聞いたことがあるような……しかも最近。
ぎゅっと握りしめていた手を広げる。あたしの手汗でちょっとじっとりしてるパチモンライター。
そうよ。この蓋の音……!!
ピィン
ピィン
すぐそばで音が止まったのと、ライターの蓋を開けた音が偶然重なって、全身ぞわぁあってした!!
「あぁ、やっと見つけた……」
「え……」
恐る恐る声の聞こえた方へ視線を向けると、そこは夢の国でした。
──な、なんって理想の雄っぱい!!
そこには、彫刻の神々が纏うようなたっぷりとした布を身に巻き付け、雄っぱいだけを惜しげもなくさらけ出した美の化身がいた。
そっと手をこちらに差し伸べ、感極まるといった表情を浮かべるそのお顔はまるで某ファンタジー映画に出ていたイケオジドワーフのような、精悍さを伴う渋美しさだった。
そしてその手が、息を呑むあたしの手をそっと握りこむ。
「おかえり、俺の……俺の愛しの」
えっ、うそうそなぁにあたしもしかして選ばれちゃった系!? いやぁーん!!
「ライター!!」
「ライターかよ!!」
間髪入れずに巻き舌で突っ込んでしまったのは仕方のないことだと思うの。
んふ。素敵でしょう? ちゃあんと深い意味合いがあるんだけど面倒だから割愛するわ。そのうち教えてあげる。
今日も営業を終えた徒花達がドレスを脱いで化粧を直し、ハイヒールで深夜の街へと去っていく。あたしはきちんと全員を送り出してから、のんびり売上精算しつつの一服中。
在庫確認や注文なんかは他のコ達が引き受けてくれているから、これだけ終われば帰れるわね。
さて、と咥えたタバコに火をつけようとして、ライターがないことに気付いて立ち上がる。確かお客様の忘れ物がたくさんあったはず……と、レジ下の棚にあるネズミ王国の定番お土産の空き缶を引っ張り出した。
「あら、これ素敵じゃない」
色とりどりの百円ライターの山を漁ってみると、中からシンプルな銀色のフリント式ライターを発掘した。
「やだこれブランド物? ……じゃないわね刻印もなにもないわ。パチモンかしら」
どなたのお忘れ物か存じませんが、今だけお借りしますね。
蓋を上げてみると、ピンといい音がした。パチモンのくせにいい仕事するじゃない。
ふふんと上機嫌にサイドのフリントを回した瞬間、あたしの目の前は真っ白になった。
「……は? え、なに?」
目がおかしくなったのかしら。いくら瞬きしても目を擦ってみても、そこはただただ真っ白だった。
あれ、だけど自分の体は見えてるわね。手も足も、キュートなお尻も、うん。足元に転げたタバコも見えるわね。拾っとかなきゃ。
え、てことはなぁに? あたしの周りだけ真っ白ってこと? は? なんで?? あたしなにしたっけ??
「もしかして……これ?」
手には先ほど拝借したパチモンライター。
これに火をつけようとしてこうなったんだから、そりゃあもう誰がどう考えたって火を見るよりも明らかでしょ!! ライターだけに!!
……あらやだごめんなさい今のナシね。いやぁねぇ毎日おっさんの相手してるとたまにこうなっちゃうのよねぇ~
誰もいないのに誰かの目を誤魔化すように口元に手を添えておほほと笑っていると、足元にふわりと空気の動きを感じてビクッとしちゃう。やだあたしオバケとか無理だから!!
突然のことにビクビクしていると、またふわり、ふわりと足首あたりをなにかが撫でるように動いているのを感じる。
「やだもうなになになになに!?」
得体の知れないなにかに触れるかもしれないからしゃがみこめないし、迂闊に足も踏み出せないってことは逃げられもしない。
キュッと内股になりながら震える両腕で己を抱き締めていると、今度は澄んだ鈴のような音が聞こえてきちゃってもうあたし限界!!
「なんなのよここぉ~~!!」
ピーーン……ピーーン……
なんだかどんどん近くなってくるその音にガクガク震えながらふとあることに気付く。あたし、この音どこかで聞いたことがあるような……しかも最近。
ぎゅっと握りしめていた手を広げる。あたしの手汗でちょっとじっとりしてるパチモンライター。
そうよ。この蓋の音……!!
ピィン
ピィン
すぐそばで音が止まったのと、ライターの蓋を開けた音が偶然重なって、全身ぞわぁあってした!!
「あぁ、やっと見つけた……」
「え……」
恐る恐る声の聞こえた方へ視線を向けると、そこは夢の国でした。
──な、なんって理想の雄っぱい!!
そこには、彫刻の神々が纏うようなたっぷりとした布を身に巻き付け、雄っぱいだけを惜しげもなくさらけ出した美の化身がいた。
そっと手をこちらに差し伸べ、感極まるといった表情を浮かべるそのお顔はまるで某ファンタジー映画に出ていたイケオジドワーフのような、精悍さを伴う渋美しさだった。
そしてその手が、息を呑むあたしの手をそっと握りこむ。
「おかえり、俺の……俺の愛しの」
えっ、うそうそなぁにあたしもしかして選ばれちゃった系!? いやぁーん!!
「ライター!!」
「ライターかよ!!」
間髪入れずに巻き舌で突っ込んでしまったのは仕方のないことだと思うの。
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