ZERO【完結】

Lucas’ storage

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 秋風が吹く学校の屋上。そこでは、ゼロとキリが昼食をとっていました。
「ダメだ。神社行っても小学校行っても無反応」
「鬼も出て来ませんしね。様子見でしょうか?」
「んー……でも、あれから二日経ってるのになー。何の進展もナシっつーのは正直ダルい」
 ゼロはそう言って空を仰ぎます。
「境界線には行きました?」
「……いや」
「そうスか」
 二人はため息をつきました。
「こないだナナ先輩と病院で話してたんです。『人魚』を探して『青年』と会わせるのはどうかって」
「人魚なー……」
「はい」
「……あのさ、お前が会った人魚ってどんなだった?」
「かなり可愛いです」
「いや、そうじゃなくて。特徴的な」
「うーん……髪は長くて桃色で、色は白くて、身長はおれと同じくらいッス。で、めちゃくちゃ可愛いです」
「そうか。実はさー、俺とトキが海に落ちた時に……」
「あ、二人ともやっぱりここにいたんだー!」
 その時、バタンっと扉が開く音がして、ナナが屋上へ飛び込んで来ました。
「走るなって」
「ゼロ本当に心配しすぎ。もう平気だってば。それより大変なの!」
 ナナは二人の前まで走って来て、腕を引っ張って立たせようとします。
「何だよ?」
「ト、トキ君が、職員室で大暴れ!」
「え」
「え」
「早く来て止めてよー! 窓ガラスとか全部割られてひどい事になってるんだからー!」
「何やってんだよ、アイツは……」
 三人は慌てて職員室へと走って行きました。職員室の前にはたくさんの人だかりができていました。三人はそれを掻き分けて職員室に近づきます。
「ほら、お前ら教室に戻れ」
 先生達が生徒を教室へ誘導していて、トキの姿は見当たりません。
「あ、ダイスケ君」
「ナナ」
 トキのクラスメイトのダイスケを発見したナナは、すぐにそちらへ駆け寄りました。
「トキ君は?」
「何か、傷口開いたって。ぶっ倒れちまって、今アキラ先生が車で病院へ連れて行った……」
「えっ? 大丈夫なの? ゼロ、あたし達も病院に……」
「あ、大丈夫。あの、アオイもついて行ったし……」
 ダイスケは周りを気にしながら、三人に小声で話しかけます。
「なあ、お前ら最近あいつとよくいるよな? 何かあったのか? 前から変わってはいたけど、ここまでするような奴じゃなかったろ?」
「ごめんね、ダイスケ君。あたし達にも分からなくて……」
「そっか……。アオイともよく喧嘩してたみたいだったから、何かあったのかと思って……」
「またアオイちゃんと喧嘩したの?」
「うん……詳しい事情は知らないけど……」
「あなた達も早く教室に戻りなさい!」
 先生に急かされて、ダイスケは「じゃあ、また」と言って教室へ戻って行きました。
「どうする?」
「アオイ先輩がついてるなら、ここは任せた方が……」
「最近俺らの事ガン無視だったからなー……アイツ」 
「無視……。ねえ、もしかしてまた記憶喪失って事はないよね?」
 三人は教室の方へ歩きながら話を続けます。
「さすがにそれはなくね?」
「だったらいいんだけど。今日学校終わったらトキ君の様子見に行こうね?」
「お前今日から放課後は劇の練習とか言ってなかったっけ?」
 ナナは「忘れてた!」と言って頭を抱えました。
「ナナ先輩、ジュリエット役になったんですよね? じゃあロミオ役ってゼロ先輩?」
「ゼロは裏方だよ。ロミオ役はねー、同じ学級委員の子だよ」
「……二年二組の学級委員って事は、カジ先輩ですか?」
「何で知ってるのキリ君」
「カジ先輩も有名です。ナナ先輩を狙ってるって事で」
 キリはゼロの顔をチラッと見上げました。ゼロの表情に変化はありません。
「狙ってるってどういう事?」
「どういう事ですかね。じゃ、教室こっちなんで」
 二階に着いた所で、キリはそう言って走って行ってしまいました。
「何なんだろうね? あ、ゼロはどうせサボるんでしょ? トキ君のとこ行ってあげてね」
「……俺も残る」
「え?」
 ゼロはそう言うと、スタスタと歩いて行ってしまいました。
「珍しい事もあるなぁ」
 ナナはそう呟きながら、どこか嬉しそうにのんびりと後をついて行きました。


 ところかわって一年生の教室前。
「怖かったね」
「トキ先輩ってやっぱりちょっと変わってるよね」
 廊下でも教室でも、先程の事で持ち切りです。そんな風に話す生徒を横目に、キリは教室へと向かっていました。
「ねえねえ、それよりさ、知ってる? 今年のロミジュリってカジ先輩とナナ先輩なんだって!」
「うわぁ、美男美女カップルじゃん」
「まだ付き合ってないらしいよ? でもね、うちの学校のロミジュリには『伝説』があって……」
「え? なになに?」
「劇がきちんと成功したら……ロミオとジュリエット役の二人はラブラブになれるんだって!」
「えー! じゃあ、結局あの二人がくっつくんじゃん。カジ先輩狙ってたのにー」
「……嫌な伝説ッス」
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