DEAREST【完結】

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第214話 語り部

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「……え?」
 一階でみんなを探していたフロルは、目の前の光景に息を呑みました。突然立ち止まったフロルに、一緒にいたタキとリーダーは首を傾げます。
「フロル、どうし……カモメさん! それに、ディー!」
 フロルの視線を追って状況に気づいたタキとリーダーは慌てて倒れている二人に駆け寄ります。しかし、フロルは動きません。
「カモメ! ディー! 大丈夫か?」
「ちょうど良かった。この瓦礫をどかせるのを手伝ってくれないか?」
 二人の上に覆い被さるようにして、腕で瓦礫を支える人物。その人物がタキとリーダーに指示を出します。
 青いマントを着て、剣を携えた男性。リーダー達の助けを借りて瓦礫をどかせました。
「助かった。支えたのはいいが身動きが取れなくなってしまってな」
「いえ、二人を助けてくれてありがとうございます」
「カモメさん! ディー! リーダー、二人が……」
 カモメの体を揺するタキ。それを見て、フロルは我に返り駆け寄ります。
「タキ、見せて!」
 フロルは二人の怪我の具合を確認します。ディーには外傷はありませんが、カモメは額からたくさんの血を流していました。
「大丈夫……二人とも気を失ってるだけ」
 フロルはそう言って、ハンカチを取り出すとカモメの額に当てました。そんなフロルをじっと見ていた男性は、急にポンっと手を叩きました。
「ん? フロルか。久し振りだな」
「ひ、久し振り……『セナさん』」
 あまりに信じられない出来事な上、普通に話しかけてくるセナにフロルの笑顔が引きつります。
「……『セナ』?」
 タキが目を見開きました。
「ああ、『セナ』だ。お前は……タキだな」
 何も答えずポカンとしているタキ。セナは目の前でヒラヒラと手を振ります。
「どうした? 見えるようになったんじゃなかったのか?」
「ど、どうしたじゃねーよ! お前、死んだんじゃなかったのか? フロル、こいつマジでセナなのか?」
 取り乱すタキに、フロルはコクコクと頷きました。
「すっごくマジ! マジでセナさんだよー! フロル、びっくり!」
 誰だか分からないリーダーは、じっとセナの事を見ていました。はたと二人の目が合います。
「初めまして、セナだ」
「……初めまして、ジオです」
 丁寧に頭を下げて自己紹介をする二人。
「ええぇー……どういう事なんだよ! わけ分かんねー!」
「フロルも分かんなーい!」
 頭を抱えるタキとフロル。
「ん……」
 すると、タキの声が大きかったのかカモメが目を覚ましました。
「カモメさん!」
「カモメ! 大丈夫?」
 ゆっくりと体を起こすカモメは、心配をしてくれるみんなの事が見えていないのか、ぼんやりと真下にいるディーを見つめます。
「……生きてる? 何? あ! ディーくん、大丈夫? ディーくん!」
「落ち着け、カモメ。ディーなら気を失っているだけだ」
「……リーダー?」
 カモメの目が、ようやく周りを映します。リーダーはほっとしたような表情を見せてから、セナの方を向きました。
「この人がお前とディーを助けてくれたんだ」
「ベル、久し振りだな。随分と大きくなったものだ」
 まだ呆けた様子のカモメの頭を、セナはくしゃくしゃと撫でます。
「……師匠?」
「ディーを守ろうとしてくれてありがとう、ベル。怪我は平気か?」
「……痛いよ、師匠」
 カモメの頬に一筋の涙が伝いました。それを見て、タキとフロルも思わず涙します。
「何かよく分かんねーけど……良かった……セナ、お前生きてたんだな」
「タキ、残念だがそれは違うんだ」
「え?」
 セナは未だ気を失ったままのディーを、そっと抱き上げました。
「私は、この世にとどまっているだけの存在。そうだな……お前達がジキで会った者達とそんなに変わらない」
「それって……」
「私が死んだのは事実だ。だから、もうディーと暮らす事は叶わない」
 それを聞いてタキも涙を流し、フロルは俯きました。セナはというと、深刻な表情でディーを見ています。
「これはまずいな……」
「えっ? ディーくんがどうかしたの?」
 みんなも慌ててディーの顔を覗きこみました。
「……天使だ」
「え?」
「やはりうちの子は天使だな。寝顔が世界一可愛い。いや、どんな時でも一番可愛いのだが、寝顔は最高だ。天使そのものだ」
「…………」
 力説するセナに、みんなが冷ややかな視線を送ります。
「もー! セナさん、びっくりさせないでよー。フロル、ディーに何かあったかと思っちゃった!」
 そして、声を立てて笑うフロル。空気が一気に和みます。
「いや、悪い。可愛さが増していたのでつい」
「ふふーん、ディーはみーんなの愛情をいーっぱい受けたから!」
「そうそう! 特にぼくのね!」
 カモメはそう言ってディーを受け取ろうとしました。しかし、セナは渡そうとしません。
「あのー、師匠。ディーくん返してくれます?」
「ん? ディーは私の方がいいと言っているが」
「言ってないし! 寝てるじゃん!」
 二人がディーの取り合いを始めた時、またもや神殿が揺れだしたのです。
「みんな、大丈夫か?」
「うん、さっきも揺れたよね。それで天井が壊れて……」
「時間がない。とにかく出口へ向かう。こっちだ」
 スタスタと歩き出すセナを、フロルがマントを引っ張って止めます。
「待って! どういう事? それに、まだリサとナギが見つかってないの!」
「安心しろ。あの二人の事は……『妻』に任せてある」
「妻……『リサさん』?」
 その名前を聞いて、バッと立ち上がるカモメ。しかし、一瞬ふらつきリーダーに支えられます。
「大丈夫か?」
「……リサさんが、いる。あのリサさんが……?」
「ディーの母親か?」
「……うん。どうしよう」
 リーダーはカモメの肩を支えたまま前を見ます。セナとフロルの後ろに、人影が見えました。
「それは、髪の長い女性か?」
「リーダー知ってるの?」
「こっちに走ってくる」
 バッと顔を上げるカモメ。そこにいたのは、リサとナギと、そして。
「あなた!」
「リサ!」
 変わらない笑顔を振りまくリサさん。カモメの目は、リサさんに釘付けになりました。セナの腕の中で眠るディーを、本当にいとしそうに見つめるリサさん。その眼差しを、自分にも向けていてくれていた事。その記憶がカモメの中で鮮明に蘇りました。
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