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幕間劇
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私には、周りに立ち向かう『勇気』がなかった。
何をしてでも、なりふり構わず守らなきゃいけなかったのに。
私は逃げ出してしまった。あの子を置いて。
そして、小さくなって消えていくあの子を、みんなの中から見ていた。
目の前の悲劇も、観客が多ければ多いほど、自分は傍観者のような気にさせる。
誰一人助けないから。そう錯覚させる。
とんでもない事をしてしまったと気づいた時にはもう遅くて。
人は、何も出来なかった自分を責める前に、その悲劇の原因を探る。
誰のせい?
だから、私は語り継いだ。私は悪くない。私もあの子も被害者だ。
あの子の憎しみが、怒りが、虚しさが、どんどん膨らんでいっていることにも気づいていながら、見てみぬ振りをした。
私は自分が死ぬその時まで、ずっと教団を恨み続けた。
何年経ったのだろう。私は再びこのおかしな世界という舞台で生を受ける。
何もかも忘れ、恨んでいた神を信仰し、幸せを願っていた。
なのに、私はまた残酷な現実から逃げた。
逃げた場所で、命を宿し、再び母になる。
まるで義務のように、自分の使命だともいうように子どもを愛した。
大丈夫。今度は大丈夫。だって、お父さんがいるもの。だから、この子は大丈夫。今度こそ、勇気を持って立ち向かう。そう決意した私は、とある子どもを守って命を落とす。
『良かった』。
最後に呟いた言葉は、きっと誰にも届いてない。
でも、まだだ。
まだ終わりじゃない。最後まで見届けなくちゃ。
「リサ、もう名前は決めたのか?」
「ええ! もちろん! 男の子でも女の子でもこの名前にするって決めたんだもの」
「どんな名前だ?」
「ディー!」
「ディー? 変わった名前だな」
「そーんな事ないわよ! ディーって言うのはね、古代語で海って意味があるのよ」
「海か。何故その名前に?」
「……穏やかな海、凪、そんな意味を込めて」
「そうか……いいんじゃないか?」
「それに、今度こそ守りたいから」
あの子を、忘れない為にも。ナギくんを。
それに、失った我が子を。
みんなを見届けていくうちに、記憶は蘇る。
そして、気づく。憎しみから、救世主を指名していたアンジュ。だけど、アンジュは、気づいていなかった。母親の面影を探して、指名をしていた事に。
本当は、助けて欲しくて。何度も何度も、自分を救ってくれる母親を求める。だから、世界の『平和』は短くなる。
アンジュの憎しみを糧に、魔物が生まれていたのに、その憎しみが足りなくなり、人々は自らの憎しみで魔物になり果てた。皮肉なものだと思う。
どんどん狂い始める世界。アンジュは嘆いた。そんな世界でも、愛情に溢れて命を尊ぶ人間がいる事を知ってしまったから。
それが、リサちゃん達。ナギくん、タキ、フロルちゃん、ベルくん、アランくん。それに、ディー。
みんながまた一つ愛を手にする度に、アンジュの憎しみはさらに小さくなる。
つまり、この『おかしな世界』が姿を消す。崩れていく。神殿も、この街も、アンジュも。
でも、安心して。アンジュ、今度はあなたを一人にしたりはしないから。
何をしてでも、なりふり構わず守らなきゃいけなかったのに。
私は逃げ出してしまった。あの子を置いて。
そして、小さくなって消えていくあの子を、みんなの中から見ていた。
目の前の悲劇も、観客が多ければ多いほど、自分は傍観者のような気にさせる。
誰一人助けないから。そう錯覚させる。
とんでもない事をしてしまったと気づいた時にはもう遅くて。
人は、何も出来なかった自分を責める前に、その悲劇の原因を探る。
誰のせい?
だから、私は語り継いだ。私は悪くない。私もあの子も被害者だ。
あの子の憎しみが、怒りが、虚しさが、どんどん膨らんでいっていることにも気づいていながら、見てみぬ振りをした。
私は自分が死ぬその時まで、ずっと教団を恨み続けた。
何年経ったのだろう。私は再びこのおかしな世界という舞台で生を受ける。
何もかも忘れ、恨んでいた神を信仰し、幸せを願っていた。
なのに、私はまた残酷な現実から逃げた。
逃げた場所で、命を宿し、再び母になる。
まるで義務のように、自分の使命だともいうように子どもを愛した。
大丈夫。今度は大丈夫。だって、お父さんがいるもの。だから、この子は大丈夫。今度こそ、勇気を持って立ち向かう。そう決意した私は、とある子どもを守って命を落とす。
『良かった』。
最後に呟いた言葉は、きっと誰にも届いてない。
でも、まだだ。
まだ終わりじゃない。最後まで見届けなくちゃ。
「リサ、もう名前は決めたのか?」
「ええ! もちろん! 男の子でも女の子でもこの名前にするって決めたんだもの」
「どんな名前だ?」
「ディー!」
「ディー? 変わった名前だな」
「そーんな事ないわよ! ディーって言うのはね、古代語で海って意味があるのよ」
「海か。何故その名前に?」
「……穏やかな海、凪、そんな意味を込めて」
「そうか……いいんじゃないか?」
「それに、今度こそ守りたいから」
あの子を、忘れない為にも。ナギくんを。
それに、失った我が子を。
みんなを見届けていくうちに、記憶は蘇る。
そして、気づく。憎しみから、救世主を指名していたアンジュ。だけど、アンジュは、気づいていなかった。母親の面影を探して、指名をしていた事に。
本当は、助けて欲しくて。何度も何度も、自分を救ってくれる母親を求める。だから、世界の『平和』は短くなる。
アンジュの憎しみを糧に、魔物が生まれていたのに、その憎しみが足りなくなり、人々は自らの憎しみで魔物になり果てた。皮肉なものだと思う。
どんどん狂い始める世界。アンジュは嘆いた。そんな世界でも、愛情に溢れて命を尊ぶ人間がいる事を知ってしまったから。
それが、リサちゃん達。ナギくん、タキ、フロルちゃん、ベルくん、アランくん。それに、ディー。
みんながまた一つ愛を手にする度に、アンジュの憎しみはさらに小さくなる。
つまり、この『おかしな世界』が姿を消す。崩れていく。神殿も、この街も、アンジュも。
でも、安心して。アンジュ、今度はあなたを一人にしたりはしないから。
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