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第152話 TAKI
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無駄に良くなった耳は余計な話まで聞いてしまう。
あの雨の中でもコケシの話が聞こえてしまって。
『母親になること』
それが、救世主じゃなくなる方法だって、聞こえてしまった。
みんなは何も言わない。という事は、やっぱりこの部分は聞こえてなかったんだ。
リサは何かいつも通りすぎて読めない。こいつ、何でみんなに何も言わないんだろう。救世主やめられるのに。死なずに、普通に生活できるのに。
いや、でも助かる為にナギと結婚するって事だろ? 子ども作るって……そういう理由でって……言えないよな。というか、言いにくいよな。ナギには勝手に言えない。
だから、カモメさんに相談しようと思ったけど、何て言えばいいか分からなくて。
リサ本人になんか絶対に聞けない。
「ディー、まだ眠い? 抱っこしようか?」
城下町の大通りを歩きながらナギが手を繋いだディーに話しかける。何にも変わった様子がない首都。
「……ううん。大丈夫」
目を擦りながらディーがポニーテールを揺らす。まだあまり元気のないディーをナギは何度も気にかける。
しかし、不自然なくらい様子が変わらないなぁ。一応王妃が脱走したっていうのに。
「ふふーん。ディーも来てくれて良かったね」
隣を歩くフロルが後ろのディーをチラチラと見る。
「だな。医者っていうと嫌がるかと思った。それに……」
俺もまた後ろを振り返った。ナギ達の後ろを歩くのはリサ。
「リサは船に残るって言ってなかったっけ?」
黒い髪のカツラをつけて変装したリサは、いつも以上に不機嫌顔でついてくる。
「うーん、何かカモメとリーダーが用事できたからって! リサ一人で残して行けないもんね!」
カモメさん、キョウダイ達はいいのかな? あの二人の雰囲気も変だった気がする。気のせいかな。あの二人が喧嘩してるところなんか見た事ないしな。
「……リサ」
ディーの声に俺とフロルはまた後ろを見る。
あ、ディーがリサに手を伸ばしてる! あのディーが!
「何だよ?」
「……手、つなご」
おぉ、大丈夫かよオイ。「うっせーよ、クソガキ!」って、バシーンみてーな事しないだろうな。ていうか自分で想像しておいて何だが、俺の中のリサのイメージひどすぎだろ。
「はいはい」
あ、繋いだ。普通に繋いだわ。何かごめんリサ。
「ねえねえ、何か三人親子みたいだねー!」
フロルがそう言ったが二人は自警団の服だしリサは完全に男だし。保護された迷子にしか見えません。
「何かいいなあー!」
フロルがパッと俺の手を繋ぐ。これはかなり恥ずかしいんだけど。ここ大通りだし、人多いし。
「ガキがいちゃついてんじゃねーよ」
ほら、後ろからヤジが飛んできましたよ。というか、人前で堂々とキスなんかする奴に言われたかねーよ。
「ふふーん」
って言い返したいけどフロルが嬉しそうだから言えない。
「リサもラブラブー! 三人でそうやってると親子みたいだよ!」
あ、いかんよフロルさん。それはリサに言ったら……あーあ、手離しちまったし。
「う、やっちゃった」
フロルが前を向いてしまったって顔をした。ディーは……あれ? わりと平気そう? 今日はやけにぼーっとしてるな。
「ディー?」
ナギがしゃがんで額をコツンとつける。
「あれ? ちょっとお熱ある? やっぱり抱っこするよ」
リサとフロルがじーっと俺を見てくる。はい、すみません。完全に俺が移した風邪ですね。
「ディー、あと少しで病院だから頑張ろうね!」
フロルが走って行ってナギの隣に並ぶ。ナギのおかげで、城下町にはすんなりと入れた。何の問題もなく医者の所には着きそうだ。
でも、正直足が重い。医者に診られるのは本当は気が進まないけど、フロルをこれ以上心配させたくない。
だけどさ、精神的なものなんだろ? 薄々感づいてはいたけどさ、でも、認めるのが恥ずかしいんだ。
みんなが乗り越えて頑張っている事に、いちいち俺だけ大袈裟にショックを受けてるようで。
俺だけ、頑張ってないみたいで。
めちゃめちゃ弱いやつみたいで。
カモメさんからはっきり原因を言われた時、すごく恥ずかしかった。
こんな事だったら、まだ何かの病気だって言われた方が良かった。
「あ、ほら! 病院に着いたよー!」
やたらと立派なその屋敷は、どう見ても病院には見えない。フロルはリュックの紐をぎゅっと握りしめて敷地内に駆け込んで行く。広い庭を横切って、俺達は屋敷へ。
やばいな……頭痛くなってきた。額に手を当てていると、隣に並んだリサが話しかけてきた。
「馬鹿が治るといいな……」
ぽんぽんと俺の肩を叩くリサ。
「リサも口の悪さ治して貰うか?」
「うっせーよ」
不思議と、頭痛がましになった。大丈夫。落ち着け。たかが診察なんだ。俺はゆっくり深呼吸をする。そして、フロルが扉をノックした。
「ごめんくださーい! 先生はいらっしゃいますかー?」
フロルがそう言い終わると扉が返事をするようにすーっと開いた。出てきたのは、やけに若い女の看護師だ。
「はーい。どちらさまですかー?」
「フロルでーす! あの、前に診察のお願いをしていた」
「んーと? ちょっと待ってくださいねー」
鼻を鳴らすような声に、濃い化粧。短い丈の服。長い爪。
「大丈夫か? あれ」
リサがあからさまに嫌な顔をした。まあ俺も多少驚いたけど。
「大丈夫大丈夫ー! 腕が利く事で有名な先生の病院だもん!」
フロル、本当に嬉しそうだな。それでも不安の増した俺はナギの方を見た。ディーはナギの肩に頭を置いて寝てる。
「タキ、大丈夫だよ」
ナギはそう言っていつものように笑った。なのに、いつもはその言葉で消える不安が消えない。まだ医者に会ったわけじゃないのに、下町の医者の方が良かったななんて、そんな事考えてた。
「変わらないな、ここは」
ん?
「思った以上に大きいね! 立派立派!」
後ろから聞こえてきた声に俺達は揃って振り返る。
「リーダーにカモメさん。何でお二人がここに?」
「いや、俺達も気になってな」
「そ、そうそう!」
「ふんふん! リーダー達用事は?」
フロルがそう聞くとリーダーがカモメさんの方を見た。カモメさんはばつが悪そうに目を逸らす。何なんだ?
「用事というか話があってな。だがもう済んだ。な? カモメ」
「……もうリーダーを怒らせないようにします」
カモメさん、何かしたのか? ていうか、何されたんだろう?
「良かった、二人が来てくれたらディーも喜ぶよ」
ナギは相変わらず細かいことを気にしない。
「つーか、よく門を潜れたな。ベルはこの服があるけど、ジオは何か聞かれなかったか?」
リサがそう言ってリーダーをジロジロと見る。
「大丈夫だ。これがある」
リーダーがパッと手を上げた。二人の手がロープで繋がれている。カモメさんは手をプラーンと上げて脱力している。
「何だそれ」
「やーん。二人とも仲良しさーん」
フロル、今は茶々を入れるのやめましょう。マジでカモメさんがへこんでますからね。
「カモメが逃げないようにつけて来たんだが、門を潜る時だけ俺が後ろを歩く」
「なるほど、連行されてる人の振りしたんだね。さすがアラン!」
ナギ、その誉めかたはどうなんですかね。
「あ、あのー、ていうかカモメさんが逃げないようにというのは?」
「気にするな」
無理です。すごく気になりますが。そしてリーダーのシャツの中でもそもそ動いている物体が気になります。リサ隊長ですよねソレ。
そこへさっきの看護師が戻って来た。
あの雨の中でもコケシの話が聞こえてしまって。
『母親になること』
それが、救世主じゃなくなる方法だって、聞こえてしまった。
みんなは何も言わない。という事は、やっぱりこの部分は聞こえてなかったんだ。
リサは何かいつも通りすぎて読めない。こいつ、何でみんなに何も言わないんだろう。救世主やめられるのに。死なずに、普通に生活できるのに。
いや、でも助かる為にナギと結婚するって事だろ? 子ども作るって……そういう理由でって……言えないよな。というか、言いにくいよな。ナギには勝手に言えない。
だから、カモメさんに相談しようと思ったけど、何て言えばいいか分からなくて。
リサ本人になんか絶対に聞けない。
「ディー、まだ眠い? 抱っこしようか?」
城下町の大通りを歩きながらナギが手を繋いだディーに話しかける。何にも変わった様子がない首都。
「……ううん。大丈夫」
目を擦りながらディーがポニーテールを揺らす。まだあまり元気のないディーをナギは何度も気にかける。
しかし、不自然なくらい様子が変わらないなぁ。一応王妃が脱走したっていうのに。
「ふふーん。ディーも来てくれて良かったね」
隣を歩くフロルが後ろのディーをチラチラと見る。
「だな。医者っていうと嫌がるかと思った。それに……」
俺もまた後ろを振り返った。ナギ達の後ろを歩くのはリサ。
「リサは船に残るって言ってなかったっけ?」
黒い髪のカツラをつけて変装したリサは、いつも以上に不機嫌顔でついてくる。
「うーん、何かカモメとリーダーが用事できたからって! リサ一人で残して行けないもんね!」
カモメさん、キョウダイ達はいいのかな? あの二人の雰囲気も変だった気がする。気のせいかな。あの二人が喧嘩してるところなんか見た事ないしな。
「……リサ」
ディーの声に俺とフロルはまた後ろを見る。
あ、ディーがリサに手を伸ばしてる! あのディーが!
「何だよ?」
「……手、つなご」
おぉ、大丈夫かよオイ。「うっせーよ、クソガキ!」って、バシーンみてーな事しないだろうな。ていうか自分で想像しておいて何だが、俺の中のリサのイメージひどすぎだろ。
「はいはい」
あ、繋いだ。普通に繋いだわ。何かごめんリサ。
「ねえねえ、何か三人親子みたいだねー!」
フロルがそう言ったが二人は自警団の服だしリサは完全に男だし。保護された迷子にしか見えません。
「何かいいなあー!」
フロルがパッと俺の手を繋ぐ。これはかなり恥ずかしいんだけど。ここ大通りだし、人多いし。
「ガキがいちゃついてんじゃねーよ」
ほら、後ろからヤジが飛んできましたよ。というか、人前で堂々とキスなんかする奴に言われたかねーよ。
「ふふーん」
って言い返したいけどフロルが嬉しそうだから言えない。
「リサもラブラブー! 三人でそうやってると親子みたいだよ!」
あ、いかんよフロルさん。それはリサに言ったら……あーあ、手離しちまったし。
「う、やっちゃった」
フロルが前を向いてしまったって顔をした。ディーは……あれ? わりと平気そう? 今日はやけにぼーっとしてるな。
「ディー?」
ナギがしゃがんで額をコツンとつける。
「あれ? ちょっとお熱ある? やっぱり抱っこするよ」
リサとフロルがじーっと俺を見てくる。はい、すみません。完全に俺が移した風邪ですね。
「ディー、あと少しで病院だから頑張ろうね!」
フロルが走って行ってナギの隣に並ぶ。ナギのおかげで、城下町にはすんなりと入れた。何の問題もなく医者の所には着きそうだ。
でも、正直足が重い。医者に診られるのは本当は気が進まないけど、フロルをこれ以上心配させたくない。
だけどさ、精神的なものなんだろ? 薄々感づいてはいたけどさ、でも、認めるのが恥ずかしいんだ。
みんなが乗り越えて頑張っている事に、いちいち俺だけ大袈裟にショックを受けてるようで。
俺だけ、頑張ってないみたいで。
めちゃめちゃ弱いやつみたいで。
カモメさんからはっきり原因を言われた時、すごく恥ずかしかった。
こんな事だったら、まだ何かの病気だって言われた方が良かった。
「あ、ほら! 病院に着いたよー!」
やたらと立派なその屋敷は、どう見ても病院には見えない。フロルはリュックの紐をぎゅっと握りしめて敷地内に駆け込んで行く。広い庭を横切って、俺達は屋敷へ。
やばいな……頭痛くなってきた。額に手を当てていると、隣に並んだリサが話しかけてきた。
「馬鹿が治るといいな……」
ぽんぽんと俺の肩を叩くリサ。
「リサも口の悪さ治して貰うか?」
「うっせーよ」
不思議と、頭痛がましになった。大丈夫。落ち着け。たかが診察なんだ。俺はゆっくり深呼吸をする。そして、フロルが扉をノックした。
「ごめんくださーい! 先生はいらっしゃいますかー?」
フロルがそう言い終わると扉が返事をするようにすーっと開いた。出てきたのは、やけに若い女の看護師だ。
「はーい。どちらさまですかー?」
「フロルでーす! あの、前に診察のお願いをしていた」
「んーと? ちょっと待ってくださいねー」
鼻を鳴らすような声に、濃い化粧。短い丈の服。長い爪。
「大丈夫か? あれ」
リサがあからさまに嫌な顔をした。まあ俺も多少驚いたけど。
「大丈夫大丈夫ー! 腕が利く事で有名な先生の病院だもん!」
フロル、本当に嬉しそうだな。それでも不安の増した俺はナギの方を見た。ディーはナギの肩に頭を置いて寝てる。
「タキ、大丈夫だよ」
ナギはそう言っていつものように笑った。なのに、いつもはその言葉で消える不安が消えない。まだ医者に会ったわけじゃないのに、下町の医者の方が良かったななんて、そんな事考えてた。
「変わらないな、ここは」
ん?
「思った以上に大きいね! 立派立派!」
後ろから聞こえてきた声に俺達は揃って振り返る。
「リーダーにカモメさん。何でお二人がここに?」
「いや、俺達も気になってな」
「そ、そうそう!」
「ふんふん! リーダー達用事は?」
フロルがそう聞くとリーダーがカモメさんの方を見た。カモメさんはばつが悪そうに目を逸らす。何なんだ?
「用事というか話があってな。だがもう済んだ。な? カモメ」
「……もうリーダーを怒らせないようにします」
カモメさん、何かしたのか? ていうか、何されたんだろう?
「良かった、二人が来てくれたらディーも喜ぶよ」
ナギは相変わらず細かいことを気にしない。
「つーか、よく門を潜れたな。ベルはこの服があるけど、ジオは何か聞かれなかったか?」
リサがそう言ってリーダーをジロジロと見る。
「大丈夫だ。これがある」
リーダーがパッと手を上げた。二人の手がロープで繋がれている。カモメさんは手をプラーンと上げて脱力している。
「何だそれ」
「やーん。二人とも仲良しさーん」
フロル、今は茶々を入れるのやめましょう。マジでカモメさんがへこんでますからね。
「カモメが逃げないようにつけて来たんだが、門を潜る時だけ俺が後ろを歩く」
「なるほど、連行されてる人の振りしたんだね。さすがアラン!」
ナギ、その誉めかたはどうなんですかね。
「あ、あのー、ていうかカモメさんが逃げないようにというのは?」
「気にするな」
無理です。すごく気になりますが。そしてリーダーのシャツの中でもそもそ動いている物体が気になります。リサ隊長ですよねソレ。
そこへさっきの看護師が戻って来た。
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