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第136話 RISA
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ようやく仕事初日が終わり、わたしはソファーに倒れ込むように座った。フロルはもうみんなの夕飯作りに取りかかってる。マジですげー。
「リサ、お疲れさま」
ナギが隣に座った。パッと体を起こす。
「……ああ。ディーは?」
いつもまとわりついてるディーがいない。
「帰って来てから寝ちゃった。やっぱりまだちょっとつらいみたいだね」
「ふーん、元気そうに見えたけど」
「きっと、フロルの前だったから」
ガキでさえ人に気つかってるのに。
「あ、わたしフロルを手伝ってくる」
「大丈夫。今日はね、アランとタキが手伝ってるよ」
立とうとしたら腕を掴んで止められた。
「そ、添い寝しなくてもいいのかよ」
「うん。ベルがしてくれてるよ」
「ベルが?」
それはちょっと意外かも……。
まあ、ベルだって元々はあいつらの仲間だもんな。何か、わたしだけ誰とも繋がりがない気がする。
「今日は初めてのお仕事どうだった?」
「見ただろ? わたしには向いてねーよ」
「そんな事ないよー。リサ、一生懸命だったもん」
ナギがわたしの髪を撫でる。すごく、そっと。
「でも、失敗ばかりだ。客を怒らせた」
「うん」
「料理、違うテーブルに運んじゃったり、注文聞き間違えた」
「うん」
「持ってく途中で皿重くて料理落とした」
「うん」
「そしたら、フロルが来て、わたしの代わりに謝った。何回も」
「うん」
自分のダメっぷりに泣きそうになる。何かもう、明日から仕事に行きたくない。
「だから、絶対向いてない」
下を向いて顔を隠す。
「最初から完璧にできる人なんていないよ。ちょっとずつ覚えて、段々失敗しないようになればいいよ」
「でもフロルはきっと最初から完璧だ」
「そうかなぁ? うーん、でも確かにフロルってすごいなぁって思った」
ほら見ろ。やっぱりそう思ってんじゃん。わたしはフロルの足引っ張っただけだ。
「フロル、お仕事楽しそうだもん。ずーっとニコニコしてたよね?」
ずーっとニコニコしているナギがそう言う。顔を上げて見てみると、やっぱりニコニコしている。
「何かね、フロルってお仕事完璧にしなきゃって言うよりも、お客さんを喜ばせてあげたいって感じに見えるんだ」
「客を……?」
「うん。えーっとね」
ナギが考え出す。わたしはただ黙って待った。
「お仕事はやってれば覚えるし、慣れてくけど……何だろう、人って、毎日違うから。同じ人でも、毎日違うし」
まあ、何となく言いたい事は分かる。
「フロルは、こう、お仕事だからじゃなくて。いや、お仕事だからだけど、それと関係なく優しい感じ!」
「…………」
「うー、ごめん。全然途中から意味不明な話になってた」
ナギが頭を抱える。
「いや、いいよ。何となく分かる。……ありがと」
「本当に? ありがとう!」
何でお前が礼を言うかな。しかも、めちゃめちゃ嬉しそう。
「人と接する仕事だもんね。笑顔だとお客さんも嬉しいもん」
サラッと言ってまた笑うナギ。うん、さっきの話はそれが言いたかったんだろ? 変に頭使わずに喋る方がいいのに。まあ、それだけわたしを励まそうとしてくれたからなんだろうけど。
「まあ、苦手だけど明日もちょっと頑張ってみるよ」
「うん! リサは自分の失敗をちゃんと覚えてるから偉いよ。僕なんかすぐ忘れちゃうから何回も怒られてー」
失敗を偉いなんて、変な慰め方な気もするけど。何だろうな。すごく気分が軽くなった。
ナギは、わたしの失敗については全然責めない。だけど、気にしなくていいなんて気休めも言わない。でも、ちゃんとアドバイスをくれる。
『誰かの為に』が自然に身についてるやつの言葉だなって思った。こいつが隊長になれた理由が、ちょっとだけ分かった気がした。
「ナギ、本当にありが」
「うん!」
この唐突なキスの意味はまったく分からんのだが。何で今した?
「な……」
何でと言おうとしたところで、ガシャンという音が聞こえてきてわたし達はそちらを見た。すると、タキが呆然としてこっちを見ている。足元には割れた皿。
「タキ、大丈夫?」
ナギがすぐさま駆け寄る。いやいや、お前が大丈夫かよ。キスについての説明は一切なしか。
「お、お前らこんなとこで何やって……」
タキが分かりやすく真っ赤になる。そこへあいつが皿を持って現れた。
「あ……フロルすまない。タキが六枚目の皿を割った」
「え、ちょ、リーダー! さりげなく自分が割った皿まで俺の方にカウントしないで下さいよ!」
そこへフロルもやってきて、みんなで皿を片付け始める。わたしはというと、座ったままそんな光景をぼんやり見つめていた。
足りない、なんて考えてしまっていたりもして。うん、わたしが一番意味不明だ。
「リサ、お疲れさま」
ナギが隣に座った。パッと体を起こす。
「……ああ。ディーは?」
いつもまとわりついてるディーがいない。
「帰って来てから寝ちゃった。やっぱりまだちょっとつらいみたいだね」
「ふーん、元気そうに見えたけど」
「きっと、フロルの前だったから」
ガキでさえ人に気つかってるのに。
「あ、わたしフロルを手伝ってくる」
「大丈夫。今日はね、アランとタキが手伝ってるよ」
立とうとしたら腕を掴んで止められた。
「そ、添い寝しなくてもいいのかよ」
「うん。ベルがしてくれてるよ」
「ベルが?」
それはちょっと意外かも……。
まあ、ベルだって元々はあいつらの仲間だもんな。何か、わたしだけ誰とも繋がりがない気がする。
「今日は初めてのお仕事どうだった?」
「見ただろ? わたしには向いてねーよ」
「そんな事ないよー。リサ、一生懸命だったもん」
ナギがわたしの髪を撫でる。すごく、そっと。
「でも、失敗ばかりだ。客を怒らせた」
「うん」
「料理、違うテーブルに運んじゃったり、注文聞き間違えた」
「うん」
「持ってく途中で皿重くて料理落とした」
「うん」
「そしたら、フロルが来て、わたしの代わりに謝った。何回も」
「うん」
自分のダメっぷりに泣きそうになる。何かもう、明日から仕事に行きたくない。
「だから、絶対向いてない」
下を向いて顔を隠す。
「最初から完璧にできる人なんていないよ。ちょっとずつ覚えて、段々失敗しないようになればいいよ」
「でもフロルはきっと最初から完璧だ」
「そうかなぁ? うーん、でも確かにフロルってすごいなぁって思った」
ほら見ろ。やっぱりそう思ってんじゃん。わたしはフロルの足引っ張っただけだ。
「フロル、お仕事楽しそうだもん。ずーっとニコニコしてたよね?」
ずーっとニコニコしているナギがそう言う。顔を上げて見てみると、やっぱりニコニコしている。
「何かね、フロルってお仕事完璧にしなきゃって言うよりも、お客さんを喜ばせてあげたいって感じに見えるんだ」
「客を……?」
「うん。えーっとね」
ナギが考え出す。わたしはただ黙って待った。
「お仕事はやってれば覚えるし、慣れてくけど……何だろう、人って、毎日違うから。同じ人でも、毎日違うし」
まあ、何となく言いたい事は分かる。
「フロルは、こう、お仕事だからじゃなくて。いや、お仕事だからだけど、それと関係なく優しい感じ!」
「…………」
「うー、ごめん。全然途中から意味不明な話になってた」
ナギが頭を抱える。
「いや、いいよ。何となく分かる。……ありがと」
「本当に? ありがとう!」
何でお前が礼を言うかな。しかも、めちゃめちゃ嬉しそう。
「人と接する仕事だもんね。笑顔だとお客さんも嬉しいもん」
サラッと言ってまた笑うナギ。うん、さっきの話はそれが言いたかったんだろ? 変に頭使わずに喋る方がいいのに。まあ、それだけわたしを励まそうとしてくれたからなんだろうけど。
「まあ、苦手だけど明日もちょっと頑張ってみるよ」
「うん! リサは自分の失敗をちゃんと覚えてるから偉いよ。僕なんかすぐ忘れちゃうから何回も怒られてー」
失敗を偉いなんて、変な慰め方な気もするけど。何だろうな。すごく気分が軽くなった。
ナギは、わたしの失敗については全然責めない。だけど、気にしなくていいなんて気休めも言わない。でも、ちゃんとアドバイスをくれる。
『誰かの為に』が自然に身についてるやつの言葉だなって思った。こいつが隊長になれた理由が、ちょっとだけ分かった気がした。
「ナギ、本当にありが」
「うん!」
この唐突なキスの意味はまったく分からんのだが。何で今した?
「な……」
何でと言おうとしたところで、ガシャンという音が聞こえてきてわたし達はそちらを見た。すると、タキが呆然としてこっちを見ている。足元には割れた皿。
「タキ、大丈夫?」
ナギがすぐさま駆け寄る。いやいや、お前が大丈夫かよ。キスについての説明は一切なしか。
「お、お前らこんなとこで何やって……」
タキが分かりやすく真っ赤になる。そこへあいつが皿を持って現れた。
「あ……フロルすまない。タキが六枚目の皿を割った」
「え、ちょ、リーダー! さりげなく自分が割った皿まで俺の方にカウントしないで下さいよ!」
そこへフロルもやってきて、みんなで皿を片付け始める。わたしはというと、座ったままそんな光景をぼんやり見つめていた。
足りない、なんて考えてしまっていたりもして。うん、わたしが一番意味不明だ。
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