DEAREST【完結】

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第130話 DEA

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「ディー、大丈夫?」
「うん」
 カモメがおれの右手に包帯を巻いてくれている。
「ありがとう……ベル」
「折れてなくて良かったね。まあ、全治二週間ってとこかな」
「そんなにかかるの?」
「腫れも傷みも一週間くらいで引くだろうけど、お仕事は二週間経つまでしちゃダメ」
 カモメは淡々と喋りながら薬箱を片付け始める。
「他に怪我がなくて良かったね、ディー」
 ナギが横から抱きしめてくれた。
「……うん。でも、失敗しちゃった」
「そそそんなの気にしないで下さい! それよりもディーくんにお怪我をさせてしまって申し訳ありませんでした!」
 コケシが床に手をついて頭を下げる。
 ここは、おれ達の部屋。気がついたら戻って来ていてそこにコケシもいた。
「コ、コケシさん、頭を上げて下さい」
 ナギが慌ててコケシを起こす。おれは椅子に座ったままコケシから目を逸らす。何だか、別の恥ずかしさがこみ上げて来た。
「……おれの方こそごめんね。しばらく、お仕事できない」
「そ、そんな事気にしないで下さい! ディーくんは、ゆっくりゆっくり休んでお身体を大事になさって下さい!」
 顔を上げたコケシの顔は、涙でお化粧はボロボロだった。
「……ごめんなさい」
「ディーくん……」
「ディー、手当て終わったんだねー! ベルってお医者さんみたーい!」
 そこにフロルがお茶を運んで来た。ちょっとほっとした。
「コケシも座って座って。フロル特製のお茶を飲んでください! すんごくおいしいですから!」
 フロルがおれの隣の椅子を引いて、ナギがコケシの手を取って座らせた。
「す、すみません」
 コケシはごしごしと涙を拭く。本当に、おれのせいなのに……。
「顔拭けって。化粧剥げてんぞ」
「す、すみません」
 コケシの前に座るリサがハンカチを渡した。
 リサは、今日ショーを見に来てくれてた。昨日は来ないって言ってたのに。それに、そのせいでおれは。
「ディー、痛む?」
 ナギが斜め横の席に座っておれの顔を心配そうに覗き込む。
「ううん、平気」
 隣にコケシとナギ。ナギとリサの間には、いつの間にかカモメが座っていてお茶を飲んでいた。
「フロルのお茶大好き」
「ふふーん。ありがとう、ベル!」
「フロルのお茶って本当においしいんですよ? 良かったら飲んでみて下さい」
「は、はい、いただきます。……え! 本当ですね! すっごくおいしいです!」
「でしょ?」
 ナギとコケシが笑い合う。……おれを挟んで二人で会話しないでよ。
「これって何をブレンドしてるんですか?」
「んー、多分ね、お茶と別のお茶です」
「フロルー、コケシが何をブレンドしてるんだって聞いてるよー」
 ナギの答えにコケシが困った顔をしたからカモメがフロルを呼んだ。フロルがまた台所から顔を出す。
「フロルの愛がブレンドされています!」
 さらに困った顔のコケシを見て、リサが笑い出す。
「気にすんなよ、あいつまともな返事返ってこねーから。あ、あとこいつも」
 リサが指差すとナギも笑い出して、コケシもそんなみんなを見てうふふと笑う。
 何勝手に和んじゃってんの? おれよりコケシと仲良くならないでよ。
「…………」
 話の弾むみんなの輪の中でおれだけ黙ってる。
 おれが最初にコケシと仲良くなったのに。
 ナギは誰にでも優しい。本当に誰にでも優しい。だから、まあ、うん。仕方ない。コケシにも優しくしても仕方ない。
 でも、しないでよ。
 コケシも、何で嬉しそうにしてるの? どっちにも腹が立つ。
「フロルもショー見に行きたかったなぁ。お仕事忙しくて中々見に行けないや」
「何のお仕事をされてるんですか?」
 フロルがコケシの斜め横に座った。
「レストランです! コケシも今度ご飯食べに来てね!」
「はい! 是非!」
「ではでは、ディーの怪我も大丈夫みたいだしフロルはお仕事に戻ります!」
 フロルはそう言って部屋を出ていく。本当に仕事ばっかりでフロルがちょっと心配。タキも掃除のお仕事忙しそうだし。リーダーとナギなんか今は船長さんのお仕事を手伝ってるらしい。
 リサとカモメは……何してるんだろう? 
 でも、明日からおれも仕事が休み。リサとカモメとお留守番って事? なにそれすごくやだ。
「では、私もそろそろお暇します。ディーくん、今日は本当にすみませんでした」
 またコケシが頭を下げる。
「コケシのせいじゃないから……」
 涙が出そうなのをこらえる。コケシはそんなおれを見て「ありがとうございます」と言って笑った。
「あ、送ります」
「いいいえいえ! 大丈夫です! それでは失礼します!」
 立ち上がったナギを見て、コケシは慌てて部屋を出ていった。ごめんね、コケシ。何か、帰ってくれてちょっとほっとしちゃった。
「ナギ……」
 おれはナギを見て目を潤ませる。ナギは、そんなおれをそっと抱きしめてくれた。ようやく、思う存分甘えられる。こらえていた涙が一気に溢れた。
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