DEAREST【完結】

Lucas

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第117話 DEA

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 部屋に戻るとフロルが帰っていておれ達の格好を見てすっごくびっくりしていた。
 おれがいないのに気づいて、タキがレストランまで探しに行ったみたい。
「もーー、心配したんだよ! 二人してそんなに、そんなに、怪我してー」
 フロルが泣きそうになりながら手当てをしてくれる。何だかこんなフロル珍しい。
「フロル、ごめんね」
「心配かけてすまない」
「フロルごめゴホゴホゴホ!」
「タキは寝てなさい!」
「はい」
 タキはベッドに戻ってく。フラフラしてる。
 きっと熱が上がってるんだろうな。なのに、探しに来てくれたんだ。
 泣きそうなくらい心配してくれる人がいる。
 自分が怪我をしても助けてくれた人がいる。
 こんなにも、みんな優しいのに。
 止まっていた涙が、またぽろぽろと出た。
「ディー、まだどっか痛い?」
 フロルが心配そうにおれの顔を見る。
「ううん……」
 自分だけが一番寂しいって思ってた。
 自分だけかわいそうって思ってた。
「リーダー、おれのせいで怪我させてごめんね」
「え?」
「フロル、お仕事の途中なのに心配かけてごめんね」
「ディー……」
「タキ、熱があるのに無理させてごめんね」
 ベッドの中からタキが手を上げてヒラヒラと振った。
「ごめんね、ごめんね……」
 フロルが抱きしめてくれたから、余計に涙が出た。壊れた髪飾りも、おれの手の中で一緒に泣いてくれてる気がした。
 それで、やっぱり、ここは『ハロースカイ』なんだって思った。
 『帰りたい』。そう思える場所なんだ。


 夜になって、おれは思いきってリーダーに添い寝してって頼んでみた。リーダーはぽかんとしている。
「……嫌?」
「お前は嫌じゃないのか?」
「え?」
「いや、お前ももうすぐ九歳になるだろう? 最近一人で寝ていたし、そろそろ添い寝も卒業なのかと思っていた」
 リーダーはそう話しながら、すっと避けてスペースを開けると毛布をめくった。何か言ってる事とやってる事が違って、また少し笑ってしまう。
「まだ卒業しないもん」
 おれはベッドの中に入ってリーダーにピッタリくっつく。リーダーは相変わらず固まった感じになる。何でかな。そんなリーダーを見てるとすっごく嬉しくなった。おれは、リーダーの頭の包帯に手を伸ばした。 
「痛い?」
「いや、まったく」
 リーダーもおれのほっぺたに貼られたガーゼに手を伸ばす。その動きがぎこちなさすぎて、またまた嬉しくなる。
「痛いか?」
「平気」
 だから、さらにぎゅって抱きつく。ちょっとだけ困らせたくなる。不思議だな。
「リーダー」
「何だ?」
「リーダーって、こうかいしになるの? タキが言ってた」
「ん? ああ、航海士になりたいわけではないんだ。船を動かせるようになりたくて、色々と教えて貰っている」
「今はそれがお仕事なの?」
「ああ。そのうち自由に調査ができるようになるぞ」
 リーダーがそう言うと、向かい側の二つのベッドから笑い声が聞こえてきた。タキとフロル。寝たふりしてたんだ。
「リーダー、この船乗っ取る気っすか?」
 タキがそう聞いた。
「いや、そんなつもりはないがこの船をハロースカイの船にしようと思う」
「リーダー、それ乗っ取っちゃってると思います!」
 タキのツッコミに、フロルがクスクス笑った。
「リーダーは天然ボケさんだなぁ、もう!」
 フロルがそう言うと、今度はタキが吹き出した。それでもリーダーは真顔で「天然ボケとは何だ?」と聞いてくるからおれまで笑ってしまう。
「リーダーって何か、きゅんきゅんするね」
 おれがそう言ったら、タキとフロルがさらに笑った。
「フロルもタキにきゅんきゅんしまーす!」
「お、俺は別に天然じゃねーし!」
「タキはちょっと痛い人なだけだよね」
「ディー、お前後で覚えてろよ」
 久しぶりな感じだ。みんなが面白い事言って笑い合う。『ハロースカイ』が戻って来た。
「おやすみ、リーダー」
 さらにぎゅーって抱きつく。
「おやすみ、ディー」
 リーダーはおれの背中に手を回して、ポンポンと撫でてくれた。そのままどうしたらいいのか分からないって感じで手は止まってしまってたけど、またまたぎこちないリーダーにきゅんきゅんする。
 眠るまで撫で続けてはくれないけど、楽しいおしゃべりもしてくれないけど、ぎゅーってしてくれるわけでもないけど、それがリーダーなりの愛情表現なんだって分かって、そしたら、何だかとっても幸せな気分になった。
 やっぱり、リーダーはおれ達のリーダーだ。
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