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第99話 語り部
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瓦礫の隙間から何とか見えている床に広がる袖。
綺麗な模様の描かれた、水色の大きな袖。
それを見下ろしているリーダーの姿。
息を切らして、血に、泥に、汚れた白いシャツで、手には剣を握りしめたまま、ようやくユズの元へたどり着いたのです。
「ユズ……?」
しばらく茫然としていたリーダーは、ハッと我に返ると瓦礫をどかし始めました。
「ユズ! 大丈夫か? 今助けてやるから!」
急ぎながら、それでも、崩さないように少しずつ確実に瓦礫をどかしていくリーダー。そして、リーダーの手がユズの手に届きました。
「ユズ……!」
その手をしっかりと握ったリーダー。
だけど、その手はもうリーダーに何も伝えて来ませんでした。
「ユズ!」
リーダーの呼びかけにも答えません。
「…………」
膝をつき、その手を握ったまま、悲しみに打ちひしがれるリーダー。何も言わないユズ。
静かな時間が流れました。
残酷な現実が、リーダーの心を押し潰しそうになります。
それでも、リーダーは涙を流しませんでした。
『焦らんでもあんたは大人になる。いつか必ず』
リーダーの頭の中で、ユズの声が響きます。
「俺一人で大人になったって意味ないんだ……」
リーダーは自分の首筋に手を当てます。
『それ、わたしのしるし。消えても、わたしの事忘れんとってな』
「……忘れない」
『わたしが死んでも泣かんといてな』
「……約束だったな。俺は、泣かない。忘れない。だけど、やはりお前を死なせたくなかった。守りたかった」
変わらない瞳で、ユズの手を見つめます。そして、語りかけます。
「ユズ……俺はお前を愛していた。お前と……ずっと共に生きていきたかった。もっと早く伝えていれば……運命は変わったのだろうか。それとも……」
「えいっ!」
ぐらりと傾き大きな音をたてて倒れたキャビネット。クローゼットの前に置かれたそれを何とか押し退け、ディーはようやく外へ。
「やっと出られた……」
目も手も真っ赤でまだまだベソをかいたままで、それでもすぐに走って部屋を飛び出しました。
廊下に出てすぐにジュジュの名を呼ぼうとしたディーは、そのまま言葉を飲み込みました。
目の前にいたのは『竜』。
長い首を動かし、赤く光る目でディーを捉えました。
「魔物……!」
背中に手を伸ばすディー。しかし、そこに剣はありません。進入の際に怪しまれる為武器は置いてきていたのです。
竜はディーの方に体を向けるとバッと翼を広げて襲いかかります。
思わず目を瞑るディー。そんなディーの前に飛び出す人物。その人物は、剣で竜の首を切りつけました。
竜の叫びを聞いて、ディーはハッと目を開けます。
目の前にいた人物は近衛軍の制服を着ていて、再び大きな口を開けて襲いかかって来た竜をくるりと回って軽々とかわし、さらに回転するようにして竜の首を飛び越えました。
剣が円を描きます。そして、その人物の着地と同時に竜の首が床に落ちました。
あっという間の出来事で、ディーは何も言うことができません。
黙ったまま、こちらを見向きもしないまま、その人物はスタスタと廊下を歩いて行きました。
その動きも、その戦い方も、ディーがよく知っているもので、忘れたくても忘れられないもので。
「まさか……でも、そんなはずない……」
ディーは、見えなくなるまでその人物の背中を見送りました。
「……そうだ。ジュジュを探さなきゃ」
そして、疑念を振り払い走り出します。ジュジュの元へ。
ディーの足は、真っ直ぐに階段へと向かっていました。そして、迷うことなくたどり着いてしまったのです。
「……ジュジュ、いるの?」
押し寄せる不安。ジュジュはそこにいる。何故かそう確信してディーは階段を降りて瓦礫の山に近づきます。
そして、その隙間から、長い茶髪のポニーテールが見えました。
髪は揺れません。ピクリとも動きません。
「ジュジュ……やっぱり探しに来なかったじゃん……ジュジュ……ジュジュ!」
大きな声で名前を呼んで、大きな声で泣くディー。すると、瓦礫の向こう側から階段の下から声が聞こえました。
「ディー? ディーなのか?」
「リーダー?」
ディーは手すりをよじ登って下を覗きこみました。
「リーダー!」
下にいるリーダーを見つけたディーは、躊躇する事なく手すりを乗り越え飛び降りました。
「ディー! 大丈夫だったか? 怪我はないか?」
そんなディーを難なく受け止め下へ下ろすと、泣き続けるディーの心配を始めます。ディーはブンブンと首を振って瓦礫の方を指差しました。
「ジュジュが、ジュジュが……」
「ジュジュもあそこに……?」
再び瓦礫を見つめるリーダー。
「……そうか。ジュジュが……」
「リーダー」
ディーは泣きじゃくりながらリーダーに抱きつきます。
「おれのせい」
「え?」
「おれのせいで、ジュジュまで死んじゃった」
リーダーはディーの頭を優しく撫でます。
「ディー、お前のせいじゃない。自分を責めるな」
「おれのせいだよ。だって、だって……おれが大好きになった人はみんな死んじゃうんだもん! おれのせいだよ!」
「ディー……」
リーダーの言葉は続きません。ただ大声で泣き続けるディーを抱きしめるだけでした。
綺麗な模様の描かれた、水色の大きな袖。
それを見下ろしているリーダーの姿。
息を切らして、血に、泥に、汚れた白いシャツで、手には剣を握りしめたまま、ようやくユズの元へたどり着いたのです。
「ユズ……?」
しばらく茫然としていたリーダーは、ハッと我に返ると瓦礫をどかし始めました。
「ユズ! 大丈夫か? 今助けてやるから!」
急ぎながら、それでも、崩さないように少しずつ確実に瓦礫をどかしていくリーダー。そして、リーダーの手がユズの手に届きました。
「ユズ……!」
その手をしっかりと握ったリーダー。
だけど、その手はもうリーダーに何も伝えて来ませんでした。
「ユズ!」
リーダーの呼びかけにも答えません。
「…………」
膝をつき、その手を握ったまま、悲しみに打ちひしがれるリーダー。何も言わないユズ。
静かな時間が流れました。
残酷な現実が、リーダーの心を押し潰しそうになります。
それでも、リーダーは涙を流しませんでした。
『焦らんでもあんたは大人になる。いつか必ず』
リーダーの頭の中で、ユズの声が響きます。
「俺一人で大人になったって意味ないんだ……」
リーダーは自分の首筋に手を当てます。
『それ、わたしのしるし。消えても、わたしの事忘れんとってな』
「……忘れない」
『わたしが死んでも泣かんといてな』
「……約束だったな。俺は、泣かない。忘れない。だけど、やはりお前を死なせたくなかった。守りたかった」
変わらない瞳で、ユズの手を見つめます。そして、語りかけます。
「ユズ……俺はお前を愛していた。お前と……ずっと共に生きていきたかった。もっと早く伝えていれば……運命は変わったのだろうか。それとも……」
「えいっ!」
ぐらりと傾き大きな音をたてて倒れたキャビネット。クローゼットの前に置かれたそれを何とか押し退け、ディーはようやく外へ。
「やっと出られた……」
目も手も真っ赤でまだまだベソをかいたままで、それでもすぐに走って部屋を飛び出しました。
廊下に出てすぐにジュジュの名を呼ぼうとしたディーは、そのまま言葉を飲み込みました。
目の前にいたのは『竜』。
長い首を動かし、赤く光る目でディーを捉えました。
「魔物……!」
背中に手を伸ばすディー。しかし、そこに剣はありません。進入の際に怪しまれる為武器は置いてきていたのです。
竜はディーの方に体を向けるとバッと翼を広げて襲いかかります。
思わず目を瞑るディー。そんなディーの前に飛び出す人物。その人物は、剣で竜の首を切りつけました。
竜の叫びを聞いて、ディーはハッと目を開けます。
目の前にいた人物は近衛軍の制服を着ていて、再び大きな口を開けて襲いかかって来た竜をくるりと回って軽々とかわし、さらに回転するようにして竜の首を飛び越えました。
剣が円を描きます。そして、その人物の着地と同時に竜の首が床に落ちました。
あっという間の出来事で、ディーは何も言うことができません。
黙ったまま、こちらを見向きもしないまま、その人物はスタスタと廊下を歩いて行きました。
その動きも、その戦い方も、ディーがよく知っているもので、忘れたくても忘れられないもので。
「まさか……でも、そんなはずない……」
ディーは、見えなくなるまでその人物の背中を見送りました。
「……そうだ。ジュジュを探さなきゃ」
そして、疑念を振り払い走り出します。ジュジュの元へ。
ディーの足は、真っ直ぐに階段へと向かっていました。そして、迷うことなくたどり着いてしまったのです。
「……ジュジュ、いるの?」
押し寄せる不安。ジュジュはそこにいる。何故かそう確信してディーは階段を降りて瓦礫の山に近づきます。
そして、その隙間から、長い茶髪のポニーテールが見えました。
髪は揺れません。ピクリとも動きません。
「ジュジュ……やっぱり探しに来なかったじゃん……ジュジュ……ジュジュ!」
大きな声で名前を呼んで、大きな声で泣くディー。すると、瓦礫の向こう側から階段の下から声が聞こえました。
「ディー? ディーなのか?」
「リーダー?」
ディーは手すりをよじ登って下を覗きこみました。
「リーダー!」
下にいるリーダーを見つけたディーは、躊躇する事なく手すりを乗り越え飛び降りました。
「ディー! 大丈夫だったか? 怪我はないか?」
そんなディーを難なく受け止め下へ下ろすと、泣き続けるディーの心配を始めます。ディーはブンブンと首を振って瓦礫の方を指差しました。
「ジュジュが、ジュジュが……」
「ジュジュもあそこに……?」
再び瓦礫を見つめるリーダー。
「……そうか。ジュジュが……」
「リーダー」
ディーは泣きじゃくりながらリーダーに抱きつきます。
「おれのせい」
「え?」
「おれのせいで、ジュジュまで死んじゃった」
リーダーはディーの頭を優しく撫でます。
「ディー、お前のせいじゃない。自分を責めるな」
「おれのせいだよ。だって、だって……おれが大好きになった人はみんな死んじゃうんだもん! おれのせいだよ!」
「ディー……」
リーダーの言葉は続きません。ただ大声で泣き続けるディーを抱きしめるだけでした。
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