DEAREST【完結】

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第88話 ZIO

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「タキの具合はどうだ?」
「うん、今はよく寝てるよ! 熱も高くないし、そんなに大した風邪じゃないみたい!」
「そうか、それは良かった」
「もうみんな帰って来てるよ! フロルはタキが起きてから一緒にご飯食べるから、みんなは先に食べててねー!」
 パタパタと階段を駆け上がるフロル。確か今日はジュジュが料理をしているはず。手伝いに行くか。
 俺はそのまま食堂へと向かった。何やら料理をしているだけにしては騒がしいな。
 賑やかな話し声に俺は扉の前で耳を澄ませた。
「ねーねー、まだー? 早く遊んでよ」
 ディーの声だ。
「まーだ。料理って苦手なんだよなー」
「ジュジュの料理は野菜が大きくて食べにくい」
「我儘言うなよな。ちっちゃく切ってもあんまり食わねーくせに。でっかくなれないぞー」
「なれなくていいもーん」
 珍しくディーがよく喋っているな。ジュジュと二人の時はこんな感じなんだろうか。
「それより、今日も鬼ごっこしたい」
「もう暗くなるから家の中で出来るのじゃないとダメー。かくれんぼにしようぜ」
「かくれんぼやだ。ジュジュ、前に探しにくるの忘れたじゃん。ひどすぎ」
 うん、それはひどいな。
「悪い悪い。数かぞえんの苦手でさー、途中で他の事考えちまって。あ、じゃあ礼拝堂で鬼ごっこしよっか? 椅子とかが障害物になって楽しそうじゃね?」
「うん!」
 早急に止めなくては。教会を追い出される。
「た、ただいま」
 俺はできるだけ自然な様子を装って食堂へ入った。
「お帰りー」
 料理をする手を休めずに背中を見せたままそう返すジュジュ。ディーはというとまるでイタズラが見つかってしまった子どものような顔をして両手で口元を隠した。
「……ディ、ディー。ただいま」
「……お帰り、リーダー」
 またいつもの話し方に戻ってしまった。俺は嫌われているのだろうか。
「あ、そうだ。ジオに遊んで貰えよ。あたし今手離せないし」
「え」
 俺とディーの声が重なる。ディーは俺をチラッと見上げた。ほら、困ってるじゃないか。主に俺が。
「ジオなら放置プレイはないと思うし」
 放置プレイ? というか、子どもと遊ぶなんてどうしたらいいんだ? そもそも、鬼ごっこもかくれんぼもした事がないからあまり詳しくはない。 
「ん……と、リーダー」
「はい」
 何故か畏まった返事をしてしまった。
「……遊んでくれる?」
 しかし、そんな俺より畏まった態度で聞いてくるディー。
「ああ、勿論だ。あまり遊びというものを知らないが、それでもいいなら」
 俺がそう言うと、ディーはほっとしたような表情を見せた。
「ディー、そんなに緊張しなくても普通にしてていいぞ」
「え?」
「お前の話しやすい話し方でいい。さっきジュジュと話していたような。俺はそちらの方がいいと思うけどな」
「…………」
 ディーとジュジュが顔を見合わせる。そしてジュジュが吹き出した。そのまままた料理を始める。
「……リーダー、盗み聞き」
 しまった……!
「すまない。そんなつもりはなかったんだか聞こえてきてしまって」
 慌てて弁解すると、ディーは椅子から降りて俺の方へ歩いて来た。
「……さっきみたいに喋っていいの?」
「ああ、むしろその方が俺は好きだ」
「…………」
 何だろうか。ディーの目が急にキラキラと輝き始めたが。ディーは俺に向かって、何かを渡すように拳をつきだした。よく分からなかったが俺はその場にかがんで手を出した。
 パッと開かれた手から現れたのは白い花。それは、ふわりと俺の手に落ちる。
「お礼」
 ディーはそう言って微笑んだ。その姿がカモメと重なりなんとも言えない懐かしい気持ちが込み上げて来た。
「綺麗だな」
 俺はディーの頭をそっと撫でた。次の瞬間、ディーは大きく一歩前に出たかと思うと俺の頬に軽くキスをした。
「…………」
「あははははっ! 固まってやんのー。気をつけた方がいいぜ? そいつキス魔だから」
「おれなりの愛情表情だもーん」
 ジュジュとディーが笑う。そして、俺の後ろで扉が開く音がした。
「ユズ!」
「う、浮気現場を見てしまった」
「ち、違」
「何本気で慌ててるんよ。冗談やって。ジュジュー、あんたお粥とか作れる? タキ起きたみたいやし作ったって欲しいんやけど」
 ユズはそう言うと、俺の横をスッと通り過ぎてしまった。
「リーダー?」
「ん? ああ、悪い。じゃあ何して遊ぼうか」
「んー……じゃあお絵かき」
 何か微妙に気を使われた気がする。これならできるだろ的な。
 そして、俺の描いた絵を見てディーが泣いた。今後の課題は画力の向上だな。
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