DEAREST【完結】

Lucas’ storage

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第51話 語り部

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「え? ディーと喧嘩しちゃったの?」
 ようやく帰って来たフロルが階段で座り込んでいたタキにそう聞きました。
「だって、あいつがさ……」
「ディーは?」
「上。部屋に閉じ込もってるよ。フロルの言う通りだった。あいつ、やっぱり怒ってる」
 フロルは階段から上の階を覗き込みます。二階はまるで誰もいないかのように静かです。
「うーん、そっかぁ。でも、タキはディーを癒すんじゃなかったのぉ?」
「ご、ごめん。つい怒鳴っちまった」
 目を伏せたタキにその視界に映るようにしゃがむフロル。
「ふふーん、タキの怒りんぼ。でも良かった。こんな所に座ってるから何かあったのかと思っちゃった!」
 こんな状況でも気づかってくれるフロルにタキは何だか怒ってしまった自分が恥ずかしくなりました。
「んー、お腹すいたら降りて来るかなぁ? とりあえず一回様子見に行く?」
「ナギならどうしたかな?」
 階段を登りかけていたフロルが体を半分だけこちらへ向けます。
「ナギならー、扉の前でオロオロしてると思う!」
「……はは、だよな」
「うんうん! さ、行こ行こー!」
 その時、談話室の扉が開いてユカワが顔を出しました。
「なあなあ、いけるん? わたしも行こうか?」
「大丈夫ですよ、ユカワさん」
「そうそう! フロル達の深い絆があれば大丈夫!」
 二人はそう言って意気込んで階段を登って行きました。


「ダメでした!」
「早っ! さっきまで自信満々やったやんか!」
「サイは過去は振り返らない主義なんです!」
「過去って言うほど前の事ちゃうやろ! もー、しゃあないな。お腹すいたら降りて来るかなぁ」
「サイと台詞被りやめてください!」
「あんたの台詞なんか知らんわ」
 ユカワとフロルが軽快な会話を繰り広げている中リーダーはソファーに座って剣の手入れをしていました。タキはそんなリーダーに話しかけます。
「リーダー、何かすみません」
「いや、十分綺麗に片づいてるぞ」
「いえ、掃除の事ではなくてですね」
 リーダーは何も分かっていないような表情です。
「ディーが部屋に閉じ込もっちゃっていて……でも、明日からはまた俺がちゃんと仕事教えますんで……」
「焦らなくていい」
「リーダー……」
「二、三日くらい掃除をしなくても俺は平気だ」
「いや、リーダーの気分の問題ではなく」
 リーダーは再び作業に没頭します。
「あー、ドロええよええよ。その人、一個の事に集中したら他の返事全部適当になんねん」
 ユカワはタキに手招きをします。タキは二人の方へ戻って行きました。
「とりあえずな、夕飯になっても降りて来んかったらカモメに頼もう」
「カモメさんですか?」
「あの子、鍵開け得意やし。手先だけは無駄に器用やからな」
 タキとフロルは「へー」と感心したように言いました。
「泥棒みたいだね!」
「うん、泥棒やで? あんたもやで?」


 その頃、ディーは一人ぽつんとベッドの上で丸まっていました。その手にはあのチョーカーが握られています。
「ナギ」
 ディーの目から涙がポロポロと流れ出しました。
 どれくらいそうしていたのか夕陽が傾き部屋の中を暖かい色に照らし始めた頃、ガチャガチャと鍵が開けられる音がしてディーはバッと飛び起きました。そして、ほぼ同時に部屋に入って来たカモメと目が合います。
「ハロー、本当に悲しい顔した我が儘ディーくん!」
 カモメはそう言って片手を上げて笑顔を作ります。ディーはあからさまに嫌がる表情を作ってカモメを睨みつけました。だけど、カモメはつかつかと歩いて近づいてきます。
「あれ? 泣いてる? 泣いた顔も可愛いね!」
 ディーは慌てて涙を拭いました。すると、カモメはそんなディーをひょいと小脇に抱えたのです。
「え、ちょ、離して!」
「しー。みんなが見てるよ?」
 じたばたと手足を動かしていたディーが大人しくなりました。部屋の外ではタキとフロルが心配そうに見ています。
「カモメさん……」
「大丈夫大丈夫! ぼくに任せてください! ちょっと二人きりでお話してくるね!」
 カモメはディーを抱えたまま軽い足取りで階段を降りていきました。
「大丈夫かな……」
 不安そうに見送るタキと何かに気づいたフロル。フロルはベッドに近づきそれを拾い上げました。
「チョーカー……」
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