DEAREST【完結】

Lucas

文字の大きさ
上 下
50 / 221

第49話 語り部

しおりを挟む
「朝ごはんできたよ! ディー、どこ行ってたの?」
 お皿を並べるフロルが息を切らして戻って来たディーに言いました。
「…………」
「ま、いいや。えっとねー、ディーの席はドロの隣だよ」
 そこは、さっきまでディーが座っていた一番端の席でした。タキはすでに席についています。少し遅れてカモメも戻って来ました。カモメはディーとは反対側のタキの隣に座ります。
「何話してたんですか?」
 タキはカモメにそう聞きました。
「将来のお話。見事振られてしまいましたが」
「で、結局名前は?」
「ディーくんはディーくんのまま。ね? ディーくん」
 ディーはカモメが本当の事を話さなかったのにほっとして小さく頷きました。
「あ、なあなあディー。リーダーが入団オッケーやって」
 反対側の席に座るユカワがディーにそう声をかけました。リーダーは黙ってディーを見ています。
「マジすか! 良かったな、ディー!」
 タキは素直に喜んでいましたがディーは無反応です。それどころかリーダーからふいっと視線を逸らしました。
「あははっ、リーダー嫌われたー!」
「リーダー怖いからだよー。笑って笑ってー」
「悪い。できるだけ気をつける」
 指を差して笑うカモメとフロルにもリーダーはまったく怒らずに真顔で返します。
「この人な、こう見えてちょっと天然やねん。全然怖ないから仲良くしたって」
 ユカワはおかしそうに笑いながらそう言いました。
「じゃあ、せっかくだから自己紹介しようよ自己紹介ー!」
 お皿を並べ終わりタキの向かい側の席についたフロルが手を叩きました。
「もうみんな大体名前言ったやん」
 さっそく紅茶に口をつけてユカワが言いました。
「はいはい! じゃあ、ぼくがディーくんにみんなを紹介しましょう!」
 するとカモメが席を立って手を上げました。フロルだけが拍手を送ります。
「まずは、リーダーこと『ジオ』! 老けて見えますが十六歳です!」
「……よろしく」
「名前の由来はー、特にないんだっけ?」
「ああ。何となくだ」
「ほんまに何も理由ないんやで? 適当な人やろー?」
 やっぱり真顔で真面目に答えるリーダーは、ユカワのツボなようです。 
「そして、このちっちゃい子が『ユカワ』ちゃんです! 十七歳、まさかの最年長!」
「ちっちゃいは余計やねんて」
「名前の由来は、昔お家がやってたお店の名前だそうです!」
「せやねん。めーっちゃちっちゃい島国やってんけどわたしんとこの店は国一番やってんで!」
「ちなみに、着ているのは『浴衣』というその国の民族衣装だそうです!」
 ユカワは立ち上がると両手を広げてディーに服を見せました。水色の生地に花の絵柄が描かれていて、黄色い帯を巻いていました。
「綺麗やろ? あ、あとこのしゃべり方もうちの国の訛りやから気にせんといてな」
 そう言ってユカワはまた席に着きました。
「で、その隣に座っているのは『サイ』ちゃん! って、紹介するまでもないかー。そうそう、サイって名前はぼくがつけました! 賽は投げられたという台詞が似合いそうだからです! 凛々しい顔で言ってもらいたいです!」
「さいはなげれれた!」
 精一杯の凛々しい表情で盛大に噛むフロルに、カモメもユカワも大笑いです。
「そして、ディーくんのお隣さんは『ドロ』。十三歳。よく風邪を引いたり倒れたりします。以上!」
「何か俺だけ適当すぎないですか」
「そして、このぼく!」
 カモメは椅子の上しかも背もたれの上に立ちました。椅子は少し傾きましたがバランスよく立っているカモメにディーもびっくりです。
「カモメ! 十五歳! 大海原に憧れ、大空に憧れ、ならば海の上を羽ばたくカモメになろう! というのが名前の由来です! そして、今は任務についていてここにはいませんがもう一人。『シュシュ』。十五歳の長身美少女です! 口は悪いけど根はいい子だから仲良くしてあげてね。以上で自己紹介は終了です! ディーくん、『ハロースカイ』にようこそ!」
 そう言ってカモメが指を鳴らすとディーの頭上に花びらが舞いおちました。みんながパチパチと拍手をします。
「今日の夜はディーの歓迎会だよ! サイがスペシャルアップルパイを焼いてあげるね!」
 ディーはただぼーっとみんなの事を眺めていました。喜ぶわけでもなく、お礼を言うわけでもなくただぼんやりとしているのです。だけどみんなはそんなディーの反応に誰も怒ったりせず、嫌な顔一つせず、楽しげに、歓迎してくれたのです。
 するとディーは黙ってフードを脱ぎました。それは、ディーなりの感謝の表現でした。
しおりを挟む

処理中です...