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15.ローウェル領②
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一階に下りると、イアンとレイは暖炉のある居間に通される。
そこにはクレアの母親と思われる女性がおり、二人が入ってきたことに気付いて挨拶を始めた。
「レイ様、イアン君、ようこそ我が家にいらっしゃいました。娘がいつもお世話になっております。クレアの母のコリンナと申します。狭いところですが、おくつろぎくださいね」
「これはご丁寧にありがとうございます。レイ・ウィルズと申します。僕が侯爵家であることを気にされるかもしれないですが、どうか気軽に接していただきたいです」
「あら、それでいいのでしょうか?」
「はい、気を遣われすぎるのも居心地が悪いですから」
「…分かったわ。じゃあ、娘と同じように接させてもらうわね。呼び方も敬称がない方がいいかしら?」
「ぜひ、そうしてください。レイで構いませんよ」
レイとコリンナはにこやかに言葉を交わす。
一方で、イアンは会話に入るタイミングを逃し、その場に佇んでいた。
「ちょっと二人共、イアン君もいること忘れないでよね!」
クレアが頬を膨らませ口を挟んだ。
「ごめんなさい。レイ君とのお話に夢中になってしまったわ」
「いえ、大丈夫です。イアンです。お世話になります」
貴族の作法など知らないので、イアンは最低限の挨拶をした。
「それじゃあ、お茶にしましょう。アン、準備をお願い」
「レイ君とイアン君はここに座ってね」
二人はクレアに指示された場所に座り、クレアとコリンナはその正面に腰を下ろす。
アンがテキパキとテーブルにお茶やお菓子を並べ、準備を整える。
「それじゃあ、学園でのクレアの様子を聞かせてもらおうかしら」
「お母さん!?」
「そうですね。入学した当初はいろいろあったようですが、今はとても楽しそうにしていますよ。主にイアンのおかげのようですが」
「レイ君!?」
「あら。その話、ぜひ詳しく聞かせてもらいたいわ。ねえ、イアン君?」
「はい。では…」
「イアン君まで!?」
クレアは恥ずかしそうにしていたが、コリンナは楽しそうにイアンの話を聞いていた。
そんな調子で小一時間ほど談笑していると、不意に外から馬の鳴き声がした。
「あら、ミックが帰って来たようね。もう少しお話したかったけど、お茶会はこれでお開きにしましょう。アン、出迎えをお願い」
「承知しました」
アンは一礼して、居間から出て行く。
「ローウェル男爵がお帰りになったのですか?」
「そうよ。馬を嘶かせるから、彼が帰ってきたらすぐに分かるわ」
「精力的に仕事に取り組んでいるのですね」
「そうなの。こちらが少し心配になるくらい働き者ね。まあ、それが彼を好きになった理由なのだけれど」
コリンナの惚気話にレイは苦笑いをする。
すると、唐突に居間の扉が開き、屋敷の主が入ってくる。
「おかえりなさい、ミック」
「お父さん、おかえり!」
クレアはミックに飛びついて抱きしめた。
「ただいま。クレアもよく帰って来たな。学園はどうだ?」
「うん、とっても楽しいよ!」
「そうか、それはよかった」
愛娘とのふれあいにミックは頬を綻ばせる。
ただ、イアンたちに気付くと瞬時に男爵としての表情に切り替えた。
「レイ様、イアン君。我が領にお越しいただき、ありがとうございます。ミック・ローウェルと申します。いつも娘が世話になっているようで感謝いたします」
「レイ・ウィルズです。コリンナさんにもお伝えしましたが、僕に対してはもっと楽に接していただいて構いませんよ」
「イアンです。今回は仕事のために来たので、何でも言って下さい。よろしくお願いします」
レイとイアンが各々挨拶をすると、ミックは困惑したように頭をかいた。
「これは二人とも随分としっかりしているなあ。うちの娘にも見習わせたいくらいだ」
「お父さん、それどういう意味?」
「あ、いや…」
ジト目で睨むクレアにミックはたじたじになる。
クレアをしばらく宥めた後、ミックはイアンたちに視線を向けた。
「ところで、二人は火の魔法は使えるか?」
「はい、イアンも僕も中級魔法までできますよ」
「それはよかった。早速で申し訳ないが仕事をお願いしたい」
「構いませんが、大雪でも降るんですか?」
「な…!どうしてそれを!?」
ミックは驚きの声を上げた。
「レイ、どうしてそう思ったんだ?」
「ローウェル男爵領は気候的に雪の降る土地だからね。そこに火の魔法について問われたから、除雪が目的かと予想した次第かな?」
その説明にイアンも納得し、レイの知識と思考に感心してしまう。
「しかし、ローウェル男爵。この地域はわざわざ魔法で除雪を行う程の雪は降らなかったと思いますが?」
「…エイマばあさん、占い師の話だと、今夜から明日にかけて尋常じゃない量の雪が降るらしい。避難指示は出しているが、雪の量によっては避難所になっている建物が倒壊する恐れもある」
占い師なんて信頼できるのかとイアンは思ったが、男爵領では有名な占い師なのだとこっそりクレアが教えてくれた。
聞くところによれば、天気に関しては外したことがないらしい。
「要は雪を溶かし続けて、建物を守ればいいという話ですか?」
「そうだ。話が早くて助かる」
レイとミックの話を聞いていたが、イアンは引っかかる点があった。
「なあ、レイ。魔法を一晩中使うとなると、俺らの魔力が持たないんじゃないか?」
「確かにそこは問題だね。それに領内に避難所はいくつもあるだろうし、僕らだけじゃ対応できない」
「お願い。二人なら、どうにかできない?」
「…ちょっと考えさせてくれ」
クレアに懇願され、イアンは頭を悩ませる。
魔力を保たせつつ、領内のすべて避難所を守る方法が何かないかとこれまでの記憶を必死に辿る。
すると、ふと思い出したことがあった。
「魔方陣はどうだ?ほら、パティ先生が使ってたやつ」
「あー、あれか。確かにそれならいけるかも…」
「あ。だけど、魔方陣の描き方が分からないか…」
思い付いたはいいが、実現できそうになく、イアンは肩を落とす。
だが、レイはにこやかにイアンの背を叩いた。
「僕、その魔方陣のメモ持ってるよ」
「本当か!?」
「復習しようと思って、ノート持ってきたからね。その中に書いてあるはずだよ」
「…お前、真面目だな」
「そんなことないよ。じゃあ、早速準備しなくちゃね」
レイに促され、イアンたちは準備に取り掛かった。
そこにはクレアの母親と思われる女性がおり、二人が入ってきたことに気付いて挨拶を始めた。
「レイ様、イアン君、ようこそ我が家にいらっしゃいました。娘がいつもお世話になっております。クレアの母のコリンナと申します。狭いところですが、おくつろぎくださいね」
「これはご丁寧にありがとうございます。レイ・ウィルズと申します。僕が侯爵家であることを気にされるかもしれないですが、どうか気軽に接していただきたいです」
「あら、それでいいのでしょうか?」
「はい、気を遣われすぎるのも居心地が悪いですから」
「…分かったわ。じゃあ、娘と同じように接させてもらうわね。呼び方も敬称がない方がいいかしら?」
「ぜひ、そうしてください。レイで構いませんよ」
レイとコリンナはにこやかに言葉を交わす。
一方で、イアンは会話に入るタイミングを逃し、その場に佇んでいた。
「ちょっと二人共、イアン君もいること忘れないでよね!」
クレアが頬を膨らませ口を挟んだ。
「ごめんなさい。レイ君とのお話に夢中になってしまったわ」
「いえ、大丈夫です。イアンです。お世話になります」
貴族の作法など知らないので、イアンは最低限の挨拶をした。
「それじゃあ、お茶にしましょう。アン、準備をお願い」
「レイ君とイアン君はここに座ってね」
二人はクレアに指示された場所に座り、クレアとコリンナはその正面に腰を下ろす。
アンがテキパキとテーブルにお茶やお菓子を並べ、準備を整える。
「それじゃあ、学園でのクレアの様子を聞かせてもらおうかしら」
「お母さん!?」
「そうですね。入学した当初はいろいろあったようですが、今はとても楽しそうにしていますよ。主にイアンのおかげのようですが」
「レイ君!?」
「あら。その話、ぜひ詳しく聞かせてもらいたいわ。ねえ、イアン君?」
「はい。では…」
「イアン君まで!?」
クレアは恥ずかしそうにしていたが、コリンナは楽しそうにイアンの話を聞いていた。
そんな調子で小一時間ほど談笑していると、不意に外から馬の鳴き声がした。
「あら、ミックが帰って来たようね。もう少しお話したかったけど、お茶会はこれでお開きにしましょう。アン、出迎えをお願い」
「承知しました」
アンは一礼して、居間から出て行く。
「ローウェル男爵がお帰りになったのですか?」
「そうよ。馬を嘶かせるから、彼が帰ってきたらすぐに分かるわ」
「精力的に仕事に取り組んでいるのですね」
「そうなの。こちらが少し心配になるくらい働き者ね。まあ、それが彼を好きになった理由なのだけれど」
コリンナの惚気話にレイは苦笑いをする。
すると、唐突に居間の扉が開き、屋敷の主が入ってくる。
「おかえりなさい、ミック」
「お父さん、おかえり!」
クレアはミックに飛びついて抱きしめた。
「ただいま。クレアもよく帰って来たな。学園はどうだ?」
「うん、とっても楽しいよ!」
「そうか、それはよかった」
愛娘とのふれあいにミックは頬を綻ばせる。
ただ、イアンたちに気付くと瞬時に男爵としての表情に切り替えた。
「レイ様、イアン君。我が領にお越しいただき、ありがとうございます。ミック・ローウェルと申します。いつも娘が世話になっているようで感謝いたします」
「レイ・ウィルズです。コリンナさんにもお伝えしましたが、僕に対してはもっと楽に接していただいて構いませんよ」
「イアンです。今回は仕事のために来たので、何でも言って下さい。よろしくお願いします」
レイとイアンが各々挨拶をすると、ミックは困惑したように頭をかいた。
「これは二人とも随分としっかりしているなあ。うちの娘にも見習わせたいくらいだ」
「お父さん、それどういう意味?」
「あ、いや…」
ジト目で睨むクレアにミックはたじたじになる。
クレアをしばらく宥めた後、ミックはイアンたちに視線を向けた。
「ところで、二人は火の魔法は使えるか?」
「はい、イアンも僕も中級魔法までできますよ」
「それはよかった。早速で申し訳ないが仕事をお願いしたい」
「構いませんが、大雪でも降るんですか?」
「な…!どうしてそれを!?」
ミックは驚きの声を上げた。
「レイ、どうしてそう思ったんだ?」
「ローウェル男爵領は気候的に雪の降る土地だからね。そこに火の魔法について問われたから、除雪が目的かと予想した次第かな?」
その説明にイアンも納得し、レイの知識と思考に感心してしまう。
「しかし、ローウェル男爵。この地域はわざわざ魔法で除雪を行う程の雪は降らなかったと思いますが?」
「…エイマばあさん、占い師の話だと、今夜から明日にかけて尋常じゃない量の雪が降るらしい。避難指示は出しているが、雪の量によっては避難所になっている建物が倒壊する恐れもある」
占い師なんて信頼できるのかとイアンは思ったが、男爵領では有名な占い師なのだとこっそりクレアが教えてくれた。
聞くところによれば、天気に関しては外したことがないらしい。
「要は雪を溶かし続けて、建物を守ればいいという話ですか?」
「そうだ。話が早くて助かる」
レイとミックの話を聞いていたが、イアンは引っかかる点があった。
「なあ、レイ。魔法を一晩中使うとなると、俺らの魔力が持たないんじゃないか?」
「確かにそこは問題だね。それに領内に避難所はいくつもあるだろうし、僕らだけじゃ対応できない」
「お願い。二人なら、どうにかできない?」
「…ちょっと考えさせてくれ」
クレアに懇願され、イアンは頭を悩ませる。
魔力を保たせつつ、領内のすべて避難所を守る方法が何かないかとこれまでの記憶を必死に辿る。
すると、ふと思い出したことがあった。
「魔方陣はどうだ?ほら、パティ先生が使ってたやつ」
「あー、あれか。確かにそれならいけるかも…」
「あ。だけど、魔方陣の描き方が分からないか…」
思い付いたはいいが、実現できそうになく、イアンは肩を落とす。
だが、レイはにこやかにイアンの背を叩いた。
「僕、その魔方陣のメモ持ってるよ」
「本当か!?」
「復習しようと思って、ノート持ってきたからね。その中に書いてあるはずだよ」
「…お前、真面目だな」
「そんなことないよ。じゃあ、早速準備しなくちゃね」
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