魂の抗戦

様出 久鮎

文字の大きさ
上 下
13 / 22

13.決闘③

しおりを挟む
(やばい、頭をやられた。体が上手く動かない。このまま負けるのか?)
⸻ドウシタ?オ前ハ、ソノ程度カ?
(何だ?声が…)
⸻魂ニ従エ。欲望ヲ剥キ出シニシロ
(意味が分からない。何のことだ?)
⸻殺セバイイ
(は?殺せってどういうことだよ!?というか、お前は誰なんだ!?)
⸻殺セ……殺セ……殺セ
(うるさい!黙れ!)
⸻殺セ…殺セ…殺セ…殺セ
(止めろ!止めてくれ…!)
⸻殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ……



「…はっ!」
イアンが目を覚ますと、眼前に白い天井があった。
体を起こし、周囲を見渡したところ、どうやら医務室のベッドで寝ていたようだ。
「誰かいませんか?」
「おや、目が覚めたようだね」
イアンの声に魔法医のリビー・ロスが顔を出した。
「調子はどうかな?どこか痛むところはない?」
「いえ、特にないです」
「本当に?派手に決闘したと聞いたよ」
リビーの言葉でイアンは決闘のことを思い出した。
「あの、決闘の結果はどうなったんですか?」
「その場で宣言はあったんだよね?覚えていないの?」
「えっと、途中から記憶がなくて…」
「そうなの?それなら教えてあげるけど、決闘は君が勝ったそうだよ。それにしても記憶が飛ぶなんて、彼女に頭を打たれたせいなのかな?」
リビーは隣のベッドに目を向ける。
そこには静かに寝息を立てて、セシリアが眠っていた。
「彼女、見た目にそぐわず激しいんだね。まあ、君もなかなか容赦なかったようだけど」
「何の話ですか?」
「大変だったんだよ。彼女が医務室に運び込まれたとき、腕がぐちゃぐちゃになっていたんだから。私じゃなければ、元通りに治すのは無理だっただろうね。あれは君がやったんでしょ?」
「俺がですか?」
「これも覚えていないの?精密検査が必要かな?でも…」
リビーは突然、イアンのシャツをまくり上げた。
驚きのあまり身動きが取れなかったイアンの身体をリビーはまじまじと見つめる。
「君の身体には痣の一つも残っていないよね。かなり打ち込まれたそうだけど、君の身体、どうなっているのかな?」
「あの…」
「ああ、ごめんね。年頃の子にこんなことしたら恥ずかしいよね。まあ、君が寝ている間にじっくり見たから、そう変わらないだろう?」
リビーはまったく悪びれる様子はない。
イアンの中でリビーは警戒すべき相手となった。
「…ん」
不意にセシリアから声が漏れる。
リビーとのやり取りの声が大きかったのか、起こしてしまったらしい。
セシリアの目がゆっくりと開く。
「気分はどう?」
「ここは…?」
「医務室だよ。君は決闘で大怪我して運び込まれたんだ。でも、安心していいよ。私が完璧に治したからね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
そう言って、セシリアは体を起こそうとしたが、少し動くだけでも辛そうだった。
「無理しないで。回復魔法を使ったから、かなり体がだるく感じるはずだよ。今はゆっくり休めばいい」
リビーはセシリアの肩を押し、ベッドに倒した。
回復魔法は即死や欠損でなければ、大抵の怪我は治すことができるものだ。
だが一方で、術者の魔力だけでなく、被術者の魔力と体力も奪う。
そのため、治療の後にはかなりの倦怠感に襲われるのだ。
「じゃあ、セシリアも目が覚めたことだし、私はちょっと席を外すよ。何かあったら探しに来てね」
リビーはイアンたちを置いて、医務室から出て行った。
リビーがいなくなった後、少し迷ったがイアンはセシリアに声をかける。
「体の具合はどうだ?」
「…その声はイアンですか?」
「ああ、そうだ。怪我をさせて悪かったな」
「いえ、本来決闘では命を取られても文句は言えません。この程度ならば謝罪の必要はありませんわ」
「そうか…」
二人の間に沈黙が流れる。
気まずい雰囲気の中、声を発したのはセシリアだった。
「…わたくしは負けたのですね?」
「結果だけ見ればな。ただ、俺は勝った気がしない」
「…何故、そう思うのですか?」
「お前に頭を打ち抜かれた後の記憶がないんだ。気が付いた時には、医務室にいた」
「まさか、わたくしの腕を砕いたのも無意識下での行動だったというのですか?」
「まあ、そうだな。だから、今回の決闘は無効にすべきだと俺は思う」
セシリアは言葉を失い、しばらく唖然としていた。
しかし、何もかも飲み込んだような表情を見せると、イアンに目を向ける。
「…貴方が何と言おうと、貴方が勝って、わたくしが負けた。ただそれだけですわ」
「そうは言ってもな…」
すると、セシリアは重い体を起こそうとし始める。
体が思うように動かないのか、歯を食いしばって、腕で支えていた。
「おい、無理するなよ」
「心配されなくとも、このくらいどうということはありませんわ」
そう言い放ち、数分かけてセシリアは身体を起こした。
セシリアは呼吸を整えると、唐突にイアンへ深々と頭を下げる。
「わたくしは貴方に謝罪しなくてはなりません。決闘を受けさせようと躍起になっていたとはいえ、貴方だけでなく、貴方の大切な方たちをも侮辱してしまいました。ここに深くお詫びいたしますわ」
セシリアの謝罪を受けて、しばらくイアンは悩んだ。
この場でどう返すのが正解かは分からなかったが、とりあえず思ったことを口にする。
「あの時は俺も少し言い過ぎたかもしれない。だから、この件はお互い様ということで手打ちにしよう」
「貴方はそれでよいのですか?」
「ああ、手応えのある相手と戦える機会ももらえたからな」
「貴方がそう言うならば、わたくしも納得せざるを得ませんが…」
セシリアは困惑した様子を見せた。
貴族と平民に間で価値観の違いがあるのだろう。
「しかし、わたくしは決闘の敗者としてあなたの要求を叶えなければなりません」
「それもなしでよくないか?」
「よくありません!そんなことをすれば、決闘の意義が失われてしまいますわ!さあ、わたくしに望むことを言いなさい!」
「どうするかな…」
イアンはセシリアに謝罪をさせようと思っていたが、それはすでに叶えられてしまった。
だから、正直やらなくてもいいのだが、セシリアは許さないだろう。
少し考え込んだ後、イアンは口を開いた。
「じゃあ、ギルバート先生との特訓にお前も参加すること。それが俺の要求だ」
「え?それでは、わたくしが得をしているような…」
「今、レイと二人だから特訓の間一人余るんだ。強い相手と手合わせができるし、丁度いいだろ」
「…分かりました。その望み、受け入れますわ。それから…あ、ありがとうございます」
セシリアは少し頬を染めながら、イアンに感謝を伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

最強種族のケモ耳族は実はポンコツでした!

ninjin
ファンタジー
家でビスケットを作っていた女性は、突然異世界に転移していた。しかも、いきなり魔獣に襲われる危機的状況に見舞われる。死を覚悟した女性を救ってくれたのは、けものの耳を持つ美しい少女であった。けもの耳を持つ少女が異世界に転移した女性を助けたのは、重大な理由があった。その理由を知った女性は・・・。これは異世界に転移した女性と伝説の最強種族のケモ耳族の少女をとの、心温まる異世界ファンタジー・・・でなく、ポンコツ種族のケモ耳族の少女に振り回させる女性との、ドタバタファンタジーである。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...