47 / 52
< 8 >
8 - 5
しおりを挟む
やけだった。飛びついてその唇を奪う。僕からしたのは初めてだ。胸当てに体がぶつかって痛い。だけどしがみついた腕を離さなかった。
「っ……ユアン様」
「ねぇヴィクト」
熱っぽく見上げてまくしたてた。
「僕は女の人みたいに胸があるわけでもないし、柔らかい体をしているわけでもない。でも、教えてくれれば、ヴィクトが満足できるよう色々覚えるから……頑張るから……だから」
聖騎士は目を見開いている。
「愛してよ」
必死な自分が笑えた。
「愛してほしいんだ。お願い」
聞いたことのあるセリフだな。そりゃそうか。僕が言ったんだ。同じ場所で、同じ相手に、僕は懇願をした。あの時は誤解をされてそういう意味に捉えられたけど、今は違う。僕自らがそれを望んでいる。伝わるだろうか、僕の気持ちが。触れ合いたいと願うはしたない欲望が。
「ユアン様……ぁあぁーーーっ」
するとどうだろう、聖騎士が呻った。呻ったと思ったら片腕で僕の腰を抱き上げ、すばやく寝台に移動した。ぽすんと落とされる。
「徐々に慣らそうと思って必死で耐えてたのに」
ガラリと雰囲気が変わる。獲物を目の前にした捕食者が現れる。
「我慢して損した。もっと早くこうすればよかったのか」
聖騎士は持っていた包みをベッドの端に放ると、驚くべき行動に出た。胸当てを外し、携えていた聖剣までも置いたのだ。そのまま内側にまとう服に手をかけ、手早く脱いでいく。僕はぎょっとした。
「な、なな、なんで。何してるの」
「何って。これから愛し合うんだからさ? 準備だよ」
「愛っ……違くて、だって、言ってたじゃん。何があっても服は脱がないって、剣は置かないって、最初に会った時に」
「あー」
聖騎士は器用に片方の眉尻だけを上げた。
「言ったね。言った。でも、この国より、大事だからさ」
一体何が。
「健気でいじらしい俺の恋人のほうが」
ドキッとした。息がつまる。
恋人という形容をされたのは初めてだった。聖騎士の発言としては褒められたものじゃないのだろうが、単純な僕の心は一気に坂を駆け上がる。
「まぁいざとなったら裸でも戦えるしな」
そうおどけて話す男が上裸を晒す。見事なまでの肉体美だ。僕は思わず唾を飲んだ。
「ユアン様も脱ごっか」
「ぅあ……えと……はい」
「脱がしてあげる」
どうしよう。内臓が飛び出てきそうだ。自分から誘ったくせに、僕は底なしに緊張していた。
そうやってひとりオロオロしていると、あっという間に衣服がはだけた。体の前で腕を交差する。貧弱な僕を見て、ヴィクトがガッカリしないか心配だった。
だが彼は瞳を煌めかせて言った。
「綺麗だ。もっと見せて」
大きな手が僕の手首を取る。隠すものがなくなった薄い胸に熱い視線が注がれた。
「ピンクで可愛い。……触っていい?」
小さく肯定する。来たる刺激に備えてきゅっと目をつぶった。翻弄の始まりだった。
「ぁん……ふぁ……ヴィ、ク……ト」
「尖ってきた」
「ぁ、だめぇ……」
言葉と裏腹に胸を突き出してしまう。これでは「もっとして」だ。案の定ヴィクトの指先が執拗に突起を追いかけた。
「んっ……つよ……い、感じ、すぎちゃう……からぁ」
「へぇ? 刺激が強いかな? わかった」
聖騎士は僕の体を押し倒した。赤い舌をチロリと出し頭を下げる。何をするのかと思えば、
「ひゃん」
むしゃぶりついた。
「ん、甘っ……」
片方の乳首は舌で、もう片方は指で転がされる。丁寧で、しつこかった。時折聞こえる唾液を吸う音がたまらなく淫らで興奮した。腰が揺れた。声が漏れる。それが嫌で僕は自分の右手の人差し指を噛んだ。
「こら。噛まないの。ユアンちゃんは噛むのが好きだね」
首をもたげた聖騎士が言う。彼は僕の右手を取って恋人繋ぎをした。
「ユアンちゃんって言うなってば……」
「ふふっ。どこまでも強がりだ。いつまで続くのか楽しみだなぁ。ドロドロに溶かして食べちゃいたい」
「うう……っ」
次いでヴィクトは僕の体中にキスの雨を降らせてきた。首筋から鎖骨、胸、へそ、脇腹。そして最後にべろーっと喉元まで舐め上げる。予測不能だ。背すじがぶるりと震えた。官能が下半身をこつこつと叩く。触られてもいないのにあそこが切ない。どうしよう。
「ねぇユアン様」
僕はもじもじと内股を擦り合わせた。
「どうしてほしい? 言ってみて」
「え、えぇっと」
「なんでもしてあげる」
目が合う。すさまじい色香だ。僕はパクパクと口を開閉して言葉にならない音をいくらか紡いだのち、諦めて、ねだった。
「……て」
「うん?」
「さわって」
「どこを?」
一拍置く。もどかしすぎて自分の左手がそこに向かった。
「だめだよ。ちゃんと言って。俺が叶えてあげる」
阻止された。泣きたくなった。追い詰められた草食動物の気持ちがわかる。
「あ、あそこ……」
「あそこって?」
「うぅ、意地悪しないでよ!」
「ごめん。俺、好きな子はいじめたいタイプみたい」
今まではこんなじゃなかったんだけどな、と男が笑った。
「っ……ユアン様」
「ねぇヴィクト」
熱っぽく見上げてまくしたてた。
「僕は女の人みたいに胸があるわけでもないし、柔らかい体をしているわけでもない。でも、教えてくれれば、ヴィクトが満足できるよう色々覚えるから……頑張るから……だから」
聖騎士は目を見開いている。
「愛してよ」
必死な自分が笑えた。
「愛してほしいんだ。お願い」
聞いたことのあるセリフだな。そりゃそうか。僕が言ったんだ。同じ場所で、同じ相手に、僕は懇願をした。あの時は誤解をされてそういう意味に捉えられたけど、今は違う。僕自らがそれを望んでいる。伝わるだろうか、僕の気持ちが。触れ合いたいと願うはしたない欲望が。
「ユアン様……ぁあぁーーーっ」
するとどうだろう、聖騎士が呻った。呻ったと思ったら片腕で僕の腰を抱き上げ、すばやく寝台に移動した。ぽすんと落とされる。
「徐々に慣らそうと思って必死で耐えてたのに」
ガラリと雰囲気が変わる。獲物を目の前にした捕食者が現れる。
「我慢して損した。もっと早くこうすればよかったのか」
聖騎士は持っていた包みをベッドの端に放ると、驚くべき行動に出た。胸当てを外し、携えていた聖剣までも置いたのだ。そのまま内側にまとう服に手をかけ、手早く脱いでいく。僕はぎょっとした。
「な、なな、なんで。何してるの」
「何って。これから愛し合うんだからさ? 準備だよ」
「愛っ……違くて、だって、言ってたじゃん。何があっても服は脱がないって、剣は置かないって、最初に会った時に」
「あー」
聖騎士は器用に片方の眉尻だけを上げた。
「言ったね。言った。でも、この国より、大事だからさ」
一体何が。
「健気でいじらしい俺の恋人のほうが」
ドキッとした。息がつまる。
恋人という形容をされたのは初めてだった。聖騎士の発言としては褒められたものじゃないのだろうが、単純な僕の心は一気に坂を駆け上がる。
「まぁいざとなったら裸でも戦えるしな」
そうおどけて話す男が上裸を晒す。見事なまでの肉体美だ。僕は思わず唾を飲んだ。
「ユアン様も脱ごっか」
「ぅあ……えと……はい」
「脱がしてあげる」
どうしよう。内臓が飛び出てきそうだ。自分から誘ったくせに、僕は底なしに緊張していた。
そうやってひとりオロオロしていると、あっという間に衣服がはだけた。体の前で腕を交差する。貧弱な僕を見て、ヴィクトがガッカリしないか心配だった。
だが彼は瞳を煌めかせて言った。
「綺麗だ。もっと見せて」
大きな手が僕の手首を取る。隠すものがなくなった薄い胸に熱い視線が注がれた。
「ピンクで可愛い。……触っていい?」
小さく肯定する。来たる刺激に備えてきゅっと目をつぶった。翻弄の始まりだった。
「ぁん……ふぁ……ヴィ、ク……ト」
「尖ってきた」
「ぁ、だめぇ……」
言葉と裏腹に胸を突き出してしまう。これでは「もっとして」だ。案の定ヴィクトの指先が執拗に突起を追いかけた。
「んっ……つよ……い、感じ、すぎちゃう……からぁ」
「へぇ? 刺激が強いかな? わかった」
聖騎士は僕の体を押し倒した。赤い舌をチロリと出し頭を下げる。何をするのかと思えば、
「ひゃん」
むしゃぶりついた。
「ん、甘っ……」
片方の乳首は舌で、もう片方は指で転がされる。丁寧で、しつこかった。時折聞こえる唾液を吸う音がたまらなく淫らで興奮した。腰が揺れた。声が漏れる。それが嫌で僕は自分の右手の人差し指を噛んだ。
「こら。噛まないの。ユアンちゃんは噛むのが好きだね」
首をもたげた聖騎士が言う。彼は僕の右手を取って恋人繋ぎをした。
「ユアンちゃんって言うなってば……」
「ふふっ。どこまでも強がりだ。いつまで続くのか楽しみだなぁ。ドロドロに溶かして食べちゃいたい」
「うう……っ」
次いでヴィクトは僕の体中にキスの雨を降らせてきた。首筋から鎖骨、胸、へそ、脇腹。そして最後にべろーっと喉元まで舐め上げる。予測不能だ。背すじがぶるりと震えた。官能が下半身をこつこつと叩く。触られてもいないのにあそこが切ない。どうしよう。
「ねぇユアン様」
僕はもじもじと内股を擦り合わせた。
「どうしてほしい? 言ってみて」
「え、えぇっと」
「なんでもしてあげる」
目が合う。すさまじい色香だ。僕はパクパクと口を開閉して言葉にならない音をいくらか紡いだのち、諦めて、ねだった。
「……て」
「うん?」
「さわって」
「どこを?」
一拍置く。もどかしすぎて自分の左手がそこに向かった。
「だめだよ。ちゃんと言って。俺が叶えてあげる」
阻止された。泣きたくなった。追い詰められた草食動物の気持ちがわかる。
「あ、あそこ……」
「あそこって?」
「うぅ、意地悪しないでよ!」
「ごめん。俺、好きな子はいじめたいタイプみたい」
今まではこんなじゃなかったんだけどな、と男が笑った。
11
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
見つめ合える程近くて触れられない程遠い
我利我利亡者
BL
織部 理 は自分がΩだということを隠して生きている。Ωらしくない見た目や乏しい本能のお陰で、今まで誰にもΩだとバレたことはない。ところが、ある日出会った椎名 頼比古という男に、何故かΩだということを見抜かれてしまった。どうやら椎名はαらしく、Ωとしての織部に誘いをかけてきて……。
攻めが最初(?)そこそこクズです。
オメガバースについて割と知識あやふやで書いてます。地母神の様に広い心を持って許してください。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
もふもふ好きにはたまらない世界でオレだけのもふもふを見つけるよ。
サクラギ
BL
ユートは人族。来年成人を迎える17歳。獣人がいっぱいの世界で頑張ってるよ。成人を迎えたら大好きなもふもふ彼氏と一緒に暮らすのが夢なんだ。でも人族の男の子は嫌われてる。ほんとうに恋人なんてできるのかな?
R18 ※ エッチなページに付けます。
他に暴力表現ありです。
可愛いお話にしようと思って書きました。途中で苦しめてますが、ハッピーエンドです。
よろしくお願いします。
全62話
【完結】一途な想いにも、ほどがある!
空条かの
BL
御曹司の天王寺尚人が一般家庭の姫木陸に初恋をしてしまい、一途に恋心を募らせて暴走していく物語です。
愛してやまない恋の行方は、果たしてハッピーエンドを迎えられるのか?
そんな暴走初恋の長編ストーリーです。(1章ずつ完結タイプのお話)
※性的表現(R18)ありのページは、マークをつけて分かるようにしておきます。
(わりとしっかりめに書くため、ダメな人はお気をつけください)
※設定を変更しましたので、違和感がある場合があります。
◆4章で一旦完結OK。11章で完全完結。
【お詫び】
他サイトにも掲載しておりますが、掲載サイトにより内容を修正しているため、若干異なる部分などがあります。どこかでお見かけの際は、あれ? なんか違うってこともありますので、ご了承ください。
召喚されない神子と不機嫌な騎士
拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。
神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。
男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。
人狼坊ちゃんの世話係
Tsubaki aquo
BL
家族を養うため男娼をしていたオレは、
ある日、怪し気な男にとんでもない金額を提示され『甥の世話係』にならないかと誘われた。
これは絶対怪しい、とは思いつつ、オレはその誘いに乗ることに。
そうして連れて行かれたのは、深い森に隠された古い屋敷。
オレはそこで、背はバカでかいが底抜けに優しい青年、ユリアに出会う。
世話係としての生活は、今まで味わったこともないほど穏やかで、くすぐったい日々だった。
だが、ユリアにはヤバイ秘密があり……
人外あり、執着あり、イチャラブ盛々に、バトルもあり!? な、モンスターBL!
こうなりゃとことん、世話してやるよ!
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+
・アダルトシーンには、話のタイトルに「♡」が付いています。♥︎は凌辱表現です。
19時頃に更新。水曜日、木曜日はお休み予定です。
shiroko様(https://twitter.com/shiroko4646)、
この度も素敵なイラストを誠にありがとうございました><
GURIWORKS様(https://twitter.com/guriworks)、
素敵なタイトルを誠にありがとうございました><
☆こちらの作品は、エブリスタ、なろう、pixivにも、投稿しています。
双月の果てに咲く絆
藤原遊
BL
「君を守りたい――けれど、それがどれほど残酷なことか、俺は知らなかった。」
二つの月が浮かぶ幻想の世界「ルセア」。
その均衡を支えるため、選ばれた者が運命に抗いながら生きるこの地で、孤独な剣士リオは一人の謎めいた青年、セイランと出会う。
彼は冷たくも優しい瞳でこう呟いた――「俺には、生きる理由なんてない」。
旅を共にする中で、少しずつ明かされるセイランの正体、そして背負わされた悲しい宿命。
「自由」を知らずに生きてきたセイランと、「守るべきもの」を持たないリオ。
性格も立場も違う二人が紡ぐ絆は、いつしか互いの心を深く侵食していく。
けれど、世界の運命は彼らに冷酷な選択を迫る――
愛を貫くため、どれほどの犠牲が必要なのか。
守るべき命、守れない想い。
すれ違いながらも惹かれ合う二人の運命の果てに待つものとは?
切なくも美しい異世界で紡がれる、禁断の愛の物語。
※画像はAI作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる