魔憑きの神子に最強聖騎士の純愛を

瀬々らぎ凛

文字の大きさ
上 下
45 / 52
< 8 >

 8 - 3

しおりを挟む
「ヴィクトが――」
「ん?」
「ヴィクトが好きなのはどういうの? ヴィクトが好きなやつ、教えて。覚えたい」
 彼が付き合ってきたこれまでの人たちと比べれば経験値もないし技ももってないし、おおよそ僕は敵わないだろう。だけどせめて「悪くない」くらいには思われたかった。
「……あー……ユアン様ってさ、ほんっとに……」
 そこで言葉が切れる。僕はヴィクトの好きなキスを教えてもらえるものと思ったが、首筋に顔を埋められるだけで終わった。深い呼吸音がする。汗臭くないだろうかと途端に不安になった。
「なに、ど、どうしたの」
「いや……好きだなって」
「へ? なにが」
「ユアン様がだよ」
 僕は動きを止めた。
「こんなにいじらしくて可愛くてさ、俺をどうしたいの? ほんと」
 いじらしくしたつもりなんてないんだけど……。
「……前にも言ったけど。ユアン様。変わらないでいてね」
「変わらないで?」
「俺の前では素のまんまでいてね。我慢しないで、思ったことは言っていいから。したいこととか行きたい場所とか食べたいものとか、全部教えてほしい」
 吐息がこそばゆい。耳元で囁かれるのも慣れなかった。
「笑ってるユアン様も、泣いてるユアン様も、好きだよ。怒ってる時も困ってる時も全部愛しい。俺が守りたい」
「ヴィ、ヴィクト」
 脈拍が上がる。すると丁度よく聖騎士が頭をもたげたものだから、言われたことに赤面しているであろうところをバッチリ見られた。まぁ、ずっと顔は熱かったのだけれども。
「可愛い人。どんなあなたも好きだよ。……人間であってもそうでなくても、神子であってもそうでなくても」
「に、人間じゃなかったらまずいだろ!」
「いいや余裕で愛せるね」
「っ……」
 太陽がきらりと煌めいた。僕を溶かしていく。
「捧げるよ。俺の全部。だからさ、ユアン様」
 焦がされるかと思った。まっすぐで澄み切った、純然たる愛情に。
「聖騎士としてでもなんでもなく、ただの一人の男として、あなたのそばにいたい。それを許してくれる?」
 こういう時、なんて言えばかっこつくのだろう。とっさには言葉が出てこない。感情の土石流が衝突する。
 僕はしばらくはくはくと口を動かしていた。
 それを見つめるヴィクトが、穏やかな顔で待っている。彼は急かしたりしない。
「ぼ、僕のほうこそ……ヴィクトと一緒に……いたい、……です」 
「……よかった。本当に」
「うん。あの、ふ、ふ、ふつつつつか者ですがどうぞよろしくっ!」
 くすりと笑われて、やってしまったと思った。でも次の瞬間には優しいキスが降ってきた。深い充足感に満たされる。
 人生を、この人と共にする。
 幸せすぎて怖い。握った手が少し震えてしまう。
 だがそんな不安も瞬く間に吹っ飛んでいく。
「ぁっ!」
 キスを重ねるヴィクトの手が夜着の上をなぞり始めた。それは親愛の手つきと言うより、欲をはらんだ愛撫に近い。気づかないふりをしていた下半身の疼きが再び訪れる。
 熱っぽい手のひらは鎖骨から胸、脇腹、へそ、下腹にまで下りるとゆっくり上に戻る。その繰り返しだ。何往復かした時には、尖ってしまった僕の胸の突起にヴィクトの指がひっかかった。ぴりっとした刺激が走る。
「んぁっ……だめ……、ヴィク……ト」
 ちゅっと音を立てて唇が離れる。手も止まった。僕は涙目で男を見上げながら浅い呼吸をした。瞳がわずかに見開かれる。
「ユアン様……そっか……すまない。これは俺が悪い。病み上がりだったのに負担になるようなことしようとしてた」
 さっと体が離れる。思わず「えっ」と出てしまった。慌てて口を覆う。「やめちゃうの?」と続けそうになったからだ。
「なぁに?」
 でもそれを見逃す聖騎士ではない。
「いや……」
「続けてほしい?」
 体は昂っていた。はしたないことだとわかっている。それでもヴィクトの手を心地よく感じていたし、その先も知りたかった。
「言って? なんでもしてあげる」
 白い歯をのぞかせてくすりと笑う男を見て、ねだってしまおうかと考えた、その時。
 コン、コン、コン。
「ユアン様? ヴィクト様?」
 部屋の向こうから声がする。
「声が聞こえたように思うのですが、お目覚めですか?」
 メアリーだ。ここにきて急速に頭の芯が冷えた。焦った。眼前の男を見つめる。彼は意外にも面白そうにしていた。
「ざーんねん。続きはまた今度だね」
「あ、え……」
 今までの濃密な空気などなかったかのように聖騎士がひらりとベッドから降りる。そして何やら含みをもたせてこんなセリフを残していった。
「準備が整ったら出ておいで。適当に相手して待ってるから。好きなだけ、ごゆっくり」
 僕は首をひねる。
「え? 好きなだけ、って……」
 寝台からおもむろに立ち上がったところで、僕はヴィクトの意地の悪さをもう一度味わうことになった。
 僕自身もまた芯を持って、立ち上がっていたのだ。
「ーーーーっ」
 半泣きだ。
 声なんて聞かしてやるもんかと、せめてもの意地で捲った夜着を口に突っ込む。
 悔しさと羞恥とよくわからない興奮とがごちゃまぜになりながら、僕は目をつぶって自慰をした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月
BL
 オメガバース。  成瀬瑞稀《みずき》は、他の人とは違う容姿に、幼い頃からいじめられていた。  そんな瑞稀を助けてくれたのは、瑞稀の母親が住み込みで働いていたお屋敷の息子、晴人《はると》  瑞稀と晴人との出会いは、瑞稀が5歳、晴人が13歳の頃。  瑞稀は晴人に憧れと恋心をいただいていたが、女手一人、瑞稀を育てていた母親の再婚で晴人と離れ離れになってしまう。 そんな二人は運命のように再会を果たすも、再び別れが訪れ…。 お互いがお互いを想い、すれ違う二人。 二人の気持ちは一つになるのか…。一緒にいられる時間を大切にしていたが、晴人との別れの時が訪れ…。  運命の出会いと別れ、愛する人の幸せを願うがあまりにすれ違いを繰り返し、お互いを愛する気持ちが大きくなっていく。    瑞稀と晴人の出会いから、二人が愛を育み、すれ違いながらもお互いを想い合い…。 イケメン副社長秘書α×健気美人訳あり子連れ清掃派遣社員Ω  20年越しの愛を貫く、一途な純愛です。  二人の幸せを見守っていただけますと、嬉しいです。 そして皆様人気、あの人のスピンオフも書きました😊 よければあの人の幸せも見守ってやってくだい🥹❤️ また、こちらの作品は第11回BL小説大賞コンテストに応募しております。 もし少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。  

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...