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サトシくんの半生
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サトシくんは中学生。
毎日いっぱい遊んで、勉強もいっぱいしました。
3年生になった頃本格的に受験勉強に取り組みます。
寝ても覚めても勉強、勉強…。
サトシくんは大好きなゲームを我慢してテレビも見ないで、一生懸命勉強します。
そして1年が過ぎ、合格発表の日の事です。
サトシくんは見事に合格します。
サトシくんは安心して
「これからまたゲームしてテレビを見ていっぱい遊べるぞ」
と思っていました。
するとどこからか声が聞こえます。
「アイツ、受かった?」
「あの顔は受かったな。」
「受かった、受かった。へへへへ…。」
嫌な笑い声がするのです。
サトシくんはキョロキョロ周りを見まわします。
遠くに人影が見えます。
サトシくんは思います。
「変だなぁ?あんな所から聞こえた声でもないし、どこから声がするんだろう?」
不思議な思いでサトシくんは帰ります。
高校生になったサトシくんはまたいっぱい遊んで、いっぱい勉強します。
サトシくんはペットの犬を飼っていました。
ある日の夜、犬を散歩に連れて行くと途中で電車の音が聞こえます。
タタンタタン……
タタンタタン……
「おかしいな?この辺は線路から遠いのに、いくら夜の闇が音を響かせるにしたってこんな所まで……?」
サトシくんは不思議でした。
そしてサトシくんは声を、音を、色々聞きました。
声も一人や二人ではありません。
多くの人の声が聞こえます。
その度にサトシくんは周りを見まわして、誰もいない事を確認しては不思議に思うのでした。
サトシくんは社会人になり、
お酒を販売する酒屋さんになりました。5年間働いて、店長さんにまでなりました。
けれど声は下卑た笑い声をするようになっていきます。
「アホ~、アホ~。」
そう言いながら笑うのです。
サトシくんは思います。
「覗かれてる…。」
ちょうどその頃、「サトラレ」という映画が流行ります。
自分の心の中が、他人に透けて見える男の映画です。
サトシくんは自分の事をサトラレなんだ、と思ってしまいます。
サトシくんがお母さんに相談するとお母さんは呆れたように言います。
「サトラレなんてあるわけないでしょ。サトシが聞こえているのは幻の声、幻聴。声に負けないように頑張ってほしいわ。」
すると声がゲラゲラ笑って
「サトラレなわけないだろ。アホ~。
ゲラゲラゲラゲラ。」
と言います。
ようやくサトシくんは自分が病気なんだと気づきます。
そしてお母さんに言われた通り、幻聴に負けないように、と思いました。
そしてサトシくんと声の戦いが始まりました。
声はサトシくんを混乱させよう、混乱させようとしてきます。
「お前みたいな気持ち悪いヤツが笑うな。」
サトシくんは気にせず言います。
「笑っちゃいけないわけないだろ。アホはお前だ。」
サトシくんはお笑い番組を見て笑います。
声が聞こえてきました。
「笑ったな…。覚えておけよ。」
サトシくんはそんな脅しにも負けないように
します。
夜になりました。そろそろ眠る時間です。でも、その日はなかなか眠れずにいました。
サトシくんが布団の中でゴロゴロしているとまた声が聞こえます。
「大好きなお母さんが起きてこないようにしてやったぜ、ヒヒヒ……。
お母さんだけじゃないぞ。みんな起きてこないぞ。この世で起きてるのはお前だけだ!」
サトシくんは周りの雰囲気が変わっている事に気づきます。
辺りはすっかり明け方です。
でも人の姿が見えません。
サトシくんは戸惑い、混乱し、そして時間が経っても人が見えないのを知ると絶望してしまいます。
声がまたゲラゲラ笑います。
「そんなわけないだろアホ~。周りをよく見ろ。」
窓から外を見ると人はちゃんといます。
サトシくんは結局眠れませんでした。
けれど周りに人がいてくれる事に安心します。
「アホ~、アホ~。頭の良いフリしたただのアホ~。
ゲラゲラゲラゲラ。」
また、ある時に声は言います。
「太陽の昇らない朝を作ってやったぜ。ヒヒヒ…。」
すると本当に朝がやってきません。
待っても待っても太陽が昇ってこないのです。
サトシくんが戸惑っていると声は言います。
「そんなわけねぇだろ、アホ~。よく見ろ。」
気づくと朝日はちゃんと昇っています。
「アホ~、アホ~。」
サトシくんはだんだん元気を無くしていきます。
ある時は、パキッ!パキッ!と音をたてて、部屋の中から物が一つ一つ消えていってしまったり、
経年劣化の常識を無視して、周りの世界がボロボロに崩れてしまったり、
色々な時代の、戦の声や音が聞こえたり、
暗闇にポツンと一人残されては絶望したり、
サトシくんはもうヘトヘトです。
サトシくんはそれでも思いました。
「僕は不治の病みたいだけど、どうせ頭がボケるのが早いか遅いかの違いだけなんだ。
きっとこの世で、僕と同じ病気に苦しんでる人もいるんだろうなぁ。
世の中の、全ての人達に感謝、だなぁ。」
そしてサトシくんはもう声と戦うのをやめ無視する事に決めました。
おしまい
毎日いっぱい遊んで、勉強もいっぱいしました。
3年生になった頃本格的に受験勉強に取り組みます。
寝ても覚めても勉強、勉強…。
サトシくんは大好きなゲームを我慢してテレビも見ないで、一生懸命勉強します。
そして1年が過ぎ、合格発表の日の事です。
サトシくんは見事に合格します。
サトシくんは安心して
「これからまたゲームしてテレビを見ていっぱい遊べるぞ」
と思っていました。
するとどこからか声が聞こえます。
「アイツ、受かった?」
「あの顔は受かったな。」
「受かった、受かった。へへへへ…。」
嫌な笑い声がするのです。
サトシくんはキョロキョロ周りを見まわします。
遠くに人影が見えます。
サトシくんは思います。
「変だなぁ?あんな所から聞こえた声でもないし、どこから声がするんだろう?」
不思議な思いでサトシくんは帰ります。
高校生になったサトシくんはまたいっぱい遊んで、いっぱい勉強します。
サトシくんはペットの犬を飼っていました。
ある日の夜、犬を散歩に連れて行くと途中で電車の音が聞こえます。
タタンタタン……
タタンタタン……
「おかしいな?この辺は線路から遠いのに、いくら夜の闇が音を響かせるにしたってこんな所まで……?」
サトシくんは不思議でした。
そしてサトシくんは声を、音を、色々聞きました。
声も一人や二人ではありません。
多くの人の声が聞こえます。
その度にサトシくんは周りを見まわして、誰もいない事を確認しては不思議に思うのでした。
サトシくんは社会人になり、
お酒を販売する酒屋さんになりました。5年間働いて、店長さんにまでなりました。
けれど声は下卑た笑い声をするようになっていきます。
「アホ~、アホ~。」
そう言いながら笑うのです。
サトシくんは思います。
「覗かれてる…。」
ちょうどその頃、「サトラレ」という映画が流行ります。
自分の心の中が、他人に透けて見える男の映画です。
サトシくんは自分の事をサトラレなんだ、と思ってしまいます。
サトシくんがお母さんに相談するとお母さんは呆れたように言います。
「サトラレなんてあるわけないでしょ。サトシが聞こえているのは幻の声、幻聴。声に負けないように頑張ってほしいわ。」
すると声がゲラゲラ笑って
「サトラレなわけないだろ。アホ~。
ゲラゲラゲラゲラ。」
と言います。
ようやくサトシくんは自分が病気なんだと気づきます。
そしてお母さんに言われた通り、幻聴に負けないように、と思いました。
そしてサトシくんと声の戦いが始まりました。
声はサトシくんを混乱させよう、混乱させようとしてきます。
「お前みたいな気持ち悪いヤツが笑うな。」
サトシくんは気にせず言います。
「笑っちゃいけないわけないだろ。アホはお前だ。」
サトシくんはお笑い番組を見て笑います。
声が聞こえてきました。
「笑ったな…。覚えておけよ。」
サトシくんはそんな脅しにも負けないように
します。
夜になりました。そろそろ眠る時間です。でも、その日はなかなか眠れずにいました。
サトシくんが布団の中でゴロゴロしているとまた声が聞こえます。
「大好きなお母さんが起きてこないようにしてやったぜ、ヒヒヒ……。
お母さんだけじゃないぞ。みんな起きてこないぞ。この世で起きてるのはお前だけだ!」
サトシくんは周りの雰囲気が変わっている事に気づきます。
辺りはすっかり明け方です。
でも人の姿が見えません。
サトシくんは戸惑い、混乱し、そして時間が経っても人が見えないのを知ると絶望してしまいます。
声がまたゲラゲラ笑います。
「そんなわけないだろアホ~。周りをよく見ろ。」
窓から外を見ると人はちゃんといます。
サトシくんは結局眠れませんでした。
けれど周りに人がいてくれる事に安心します。
「アホ~、アホ~。頭の良いフリしたただのアホ~。
ゲラゲラゲラゲラ。」
また、ある時に声は言います。
「太陽の昇らない朝を作ってやったぜ。ヒヒヒ…。」
すると本当に朝がやってきません。
待っても待っても太陽が昇ってこないのです。
サトシくんが戸惑っていると声は言います。
「そんなわけねぇだろ、アホ~。よく見ろ。」
気づくと朝日はちゃんと昇っています。
「アホ~、アホ~。」
サトシくんはだんだん元気を無くしていきます。
ある時は、パキッ!パキッ!と音をたてて、部屋の中から物が一つ一つ消えていってしまったり、
経年劣化の常識を無視して、周りの世界がボロボロに崩れてしまったり、
色々な時代の、戦の声や音が聞こえたり、
暗闇にポツンと一人残されては絶望したり、
サトシくんはもうヘトヘトです。
サトシくんはそれでも思いました。
「僕は不治の病みたいだけど、どうせ頭がボケるのが早いか遅いかの違いだけなんだ。
きっとこの世で、僕と同じ病気に苦しんでる人もいるんだろうなぁ。
世の中の、全ての人達に感謝、だなぁ。」
そしてサトシくんはもう声と戦うのをやめ無視する事に決めました。
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