上 下
6 / 6
第一章 はじまり

彼氏と彼女のセカンドキス

しおりを挟む

えっ!?いま、明日菜なんて、言った?

混乱して、呆然と玄関に、つっ立っていたら、

「春馬くん、玄関、あいたままだよ?」

明日菜が首を可愛らしい傾げる。

「へっ?」

「ほら?鍵をかけよ?」

「えっ?」

「いつまでも、開けていたら、虫が入っちゃうよ?」

「あ、ああ。わかった?」

「返事は?春馬くん?」

「ーはいっ!」

「ーなんで、こういう時だけ、体育会系になるの⁈」

「明日菜、静かに。玄関あいたままだから、近所迷惑だぞ?」

「どうして、私が怒られるの⁈」

「だから、シィーッ!マンションの廊下で、騒いじゃダメなこと、となりの空ちゃんだって、知ってるぞ」

「春馬くんが正論だけど、納得できないんですけど⁉︎」

そう言いながらも、明日菜がお邪魔します、と俺だけしかいない家に、律儀に言って、羽田から福岡へと旅をしてきた、でっかいアルファベットが表記されたスニーカーを脱いで、きれいな仕草で靴をそろえた。

かがんだ胸元から、少し沈みかけた太陽の光に、しろい肌が見えて、ついでに淡い色の下着が見えて、俺はさりげなく目をそらす。

俺はキスしかしたことないけど、明日菜の下着姿は、見たことがある。

ヒロインの下着姿を主人公が運悪く(いや、運良く?)覗いてしまうなんて、ラブコメの定番すぎて、エギングで、エギ必ず一回は、根がかりしてロストしてしまうくらい、鉄板のネタだ。

ちなみに俺はイカ焼きより、豚焼きの方が好きだけど。

ーそう。

俺だけでなく、全国、いや、いまは簡単に、全世界に放送されるから、世界中の誰もがサーチすれば、

ー俺の大嫌いな人工知能に、ひと言、日本語じゃない、でもどんな発言でも絶対に俺には、理解できてしまう、アスナ・カミジョウって、名前を言うだけでいい。

必ず、絶対、いつかは、明日菜の下着姿がヒットする。

見たくもないのに、俺のヒット率は、伝説的大リーガーの記録を、楽々超えている。

いくら通報したって、世界の男女比は、確かなんだから、見たい奴は流しまくる。

アンチなのか、熱狂的ファンだかは、知らないけど。

よくわからない心理も絡んでるし、まあ、単純に再生回数に伴う金もあるんだろうなあ?

じゃないと、あんな違法なことをするメリットないよなあ?

バレまくりだし。

それでも世界は、明日菜の下着姿をみたいらしい。

俺が少数派なのは、確かだし?

とにかく、明日菜の下着姿なんて、いまさらだ。

ーとくに白や黒は。

俺は前歯で、下唇を軽くかむ、と明日菜から、目をはなして、玄関をしめた。

ーとたん、インターホンが鳴った。

どうやら宅配便らしい。

仕送りも、社会人になってからは、なくなった俺に、なんの荷物だ?

最近、熱帯雨林や大文字アールで買い物した記憶ないぞ?

とりあえず、明日菜を玄関からは、見えない位置に、隠れてもらい荷物をうけとる。

段ボール3つ。

送り主は、上条明日菜だ。

明日菜の場合、本名がそのまま芸名になったので、たまに届く荷物には、念のため上条と名乗っている。

のだが、なんで、みっつも?

「明日菜?なんか荷物が届いたんだけど?」

「あー、それは、まだ置いといて。ねえ、春馬くん、どこで、うがいしたらいい?」

マスクをまだしたままの明日菜が、玄関の靴箱の上に置いてる消毒用のハンドジェルを、借りるね?と言って使用する。

さすがに、この件に対して、世界的なパンデミックを、いまも起こし続けるラスボスみたいなやつを相手に、いくら俺でもボケる気はない。

season oneが終わったに、息つくまもなくseason twoとか、ほんとうに勘弁してほしい。

俺と明日菜が2年近く会えなかった元凶だし、なにより子供たちから、笑顔がきえた。

当たり前に、あえていた友達が、画面越しにしかあえなくて、けど、画面越しなら、一方的でも、教師の声はきこえるし、マスクもなく顔の表情もわかる。

俺と明日菜みたいに。

へんな時代だって、思う。

「あ、うん。台所にも、洗面所にも、うがい薬と紙コップがあるから、どっちでも、かまわないけど」

「へええー。春馬くんも気をつけているんだねーって、すごく可愛いネコのコップだね?」

「すごいよな?百均って」

「えっ?」

「えっ?」

あれ?俺は、ちゃんと、こたえたはずだけど?

「しらないのか?明日菜。世界の◯ティちゃんを」

「知ってるよ!なんなら、春馬くんよりも、私の家に、もっと多くいるよ⁈」

「えっ?」

「…今日だけで、私、かなりもうツッコミしたし、なんか頭痛くなってきたから、先にうがいするね?春馬くんも消毒して、手洗いうがいしてね?」

「消毒、うがい、手洗い、また消毒だぞ、明日菜」

「なんでこういう時は、正論なの⁈」

「俺だけの問題じゃないからな」

「ー春馬くん、そんなに私のこと」

「当たり前だろ?凛ちゃんまだ1歳だぞ?萌ちゃんは、来年受験だから、今年しか、部活楽しめないだろうし、空ちゃんも、小学生だし」

「ーえっ?そっち⁈」

「ーえっ?どっち⁈」

思わず明日菜の視線を追って、後ろを振り返るけど、目の前には、見慣れた玄関のドアがあるだけ。

ーなんだ?

明日菜は、呆れたように、ため息をひとつつくと、

「まあ、春馬くんだし?」

と言って、マスクを外して、優しく微笑んだ。

久しぶりの、ナマ明日菜。

ーいや、言い方よ?俺。

自分で自分にツッコンで(さすがに明日菜には、言わなかった)俺は頷いて、洗面所に向かう。

念のためコチラは、ホームセンターで安い大量に入った白いコップを使用して、ガラガラとうがい、手洗いをする。

ーあっ、そういえば、

「なあ、明日菜、さっき、うちに泊まるとか、言ってなかったか?」
 
「うん。映画の上映も始まったし、番宣も終わったから、今回の休みながいんだあ。だから、しばらく福岡にいても平気だよ?緊急事態宣言が明けたとは言っても、ホテルとか予約するのもアレかなって」

「まあ、緊急事態宣言あけに、俺の存在を、しらないやつらからみたら、ただの旅行だしなあ」

まったく、面倒なウィルスだな。

でも田舎に高齢者に言わせると、戦時中より、よっぽどマシらしい。

言われてみたら、俺は、特に大きな自然災害にも、見舞われずに、この年齢制限まで幸運にも、生きてきた。

マスクや手洗いうがい、他人との最小限の関わりも、できるだけ外出自粛も、独り身の俺には、まあ、大学や仕送り面では、大変だったけど、隣の轟木さんの子供達や芸能人の明日菜ほど、精神的には、きつくなかった。

俺以上に、大変な人は、たくさんいるってわかってた。

そもそも俺は、楽して稼ごうなんて気は、なかったから、食いつなげるなら、アルバイトの選り好みなんかしなかった。

親も学費だけは、出してくれたし、本当に感謝している。

けど、明日菜は、外出すると必ず週刊誌とかが狙っていたらしく、事務所が厳しく監視していたようだ。

確かに、明日菜がホテルをとるくらいなら、俺の家にいた方が、メディアの餌食に、ならないですむんだろうけど。

ふむ。

俺は腕組みをして、脳裏に、数少ない友人たちの姿を、思い浮かべてみる。

「白石?いや、アイツは、実家だし。黒井?いや、アイツは寮だし?じゃあ、青木?いや、アイツは、関西に引っ越したしー」

「春馬くん、なにを、ぶつぶつ言ってるの?」

ひととおりの消毒作業を終わって、明日菜が首を傾げた。

きれいな肩より少し長くした軽くウェーブのかかる黒髪に、大きな黒い瞳。

目、鼻、口、耳、顎、すべてのバランスが絶妙にとれていて、文句なしの美人が目の前にいる。

最後に明日菜にあったのは、自粛期間前の田舎であった成人式だったよな?

あの時は、まだ少し残っていた幼さも、完全に、なくなっている。

可愛いと言うよりも、きれいになった。

そういえば、女子が選ぶなりたい顔ベスト10にランクインしていたなあ。

何位かは、知らないけど。

会社の同僚たちが、なんか言ってた気がする。

「春馬くん?」

ぼんやりそんなことを思ってたら、いきなりぐんっと、両肩を、引っ張られて、そのきれいな顔が、息がふれそうなくらい間近にきた。

と、思ったら、

ーチュッ!

って、軽く唇にキスをされた。

「へっ?」

ほんの一瞬の出来事で、すぐに、明日菜は、俺から、さっきより距離をとると、

「うん、やっぱり違う」

ー誰と?

比べられたよな?いま。

「へっ?」

もう一度、まぬけな声をだした俺に、明日菜は、にっこり笑って言った。

「演技で、他の俳優さんたちと、キスするけど、やっぱり違うなって、思っただけ」

いや、はにかむその顔、めちゃくちゃ可愛いんですけど?

俺の彼女、マジ可愛い!

抱きしめたい!

「うーむ。じゃあ、緑川先輩?いや、タバコ臭いし。赤西?最近、彼女できたし?他にはー」

「…春馬くん、さっきから、なにをぶつぶつ言ってるの?」

もう一度、今度は、なにかを警戒したような表情で、明日菜がきいてきた。

「ん?明日菜は、俺の部屋に、泊まるんだろ?」

「うん。いいんだよね?」

「もちろん?だとも」

「じゃあ、なにを難しい顔で、唸ってるの?」

「俺を泊めてくれそうな友人を、色から順に、思い出してるところだ」

「はっ?」

今度は明日菜の口から、今日いちばんの大きな声が、でた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...