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第一章 はじまり
彼氏と彼女のセカンドキス
しおりを挟むえっ!?いま、明日菜なんて、言った?
混乱して、呆然と玄関に、つっ立っていたら、
「春馬くん、玄関、あいたままだよ?」
明日菜が首を可愛らしい傾げる。
「へっ?」
「ほら?鍵をかけよ?」
「えっ?」
「いつまでも、開けていたら、虫が入っちゃうよ?」
「あ、ああ。わかった?」
「返事は?春馬くん?」
「ーはいっ!」
「ーなんで、こういう時だけ、体育会系になるの⁈」
「明日菜、静かに。玄関あいたままだから、近所迷惑だぞ?」
「どうして、私が怒られるの⁈」
「だから、シィーッ!マンションの廊下で、騒いじゃダメなこと、となりの空ちゃんだって、知ってるぞ」
「春馬くんが正論だけど、納得できないんですけど⁉︎」
そう言いながらも、明日菜がお邪魔します、と俺だけしかいない家に、律儀に言って、羽田から福岡へと旅をしてきた、でっかいアルファベットが表記されたスニーカーを脱いで、きれいな仕草で靴をそろえた。
かがんだ胸元から、少し沈みかけた太陽の光に、しろい肌が見えて、ついでに淡い色の下着が見えて、俺はさりげなく目をそらす。
俺はキスしかしたことないけど、明日菜の下着姿は、見たことがある。
ヒロインの下着姿を主人公が運悪く(いや、運良く?)覗いてしまうなんて、ラブコメの定番すぎて、エギングで、エギ必ず一回は、根がかりしてロストしてしまうくらい、鉄板のネタだ。
ちなみに俺はイカ焼きより、豚焼きの方が好きだけど。
ーそう。
俺だけでなく、全国、いや、いまは簡単に、全世界に放送されるから、世界中の誰もがサーチすれば、
ー俺の大嫌いな人工知能に、ひと言、日本語じゃない、でもどんな発言でも絶対に俺には、理解できてしまう、アスナ・カミジョウって、名前を言うだけでいい。
必ず、絶対、いつかは、明日菜の下着姿がヒットする。
見たくもないのに、俺のヒット率は、伝説的大リーガーの記録を、楽々超えている。
いくら通報したって、世界の男女比は、確かなんだから、見たい奴は流しまくる。
アンチなのか、熱狂的ファンだかは、知らないけど。
よくわからない心理も絡んでるし、まあ、単純に再生回数に伴う金もあるんだろうなあ?
じゃないと、あんな違法なことをするメリットないよなあ?
バレまくりだし。
それでも世界は、明日菜の下着姿をみたいらしい。
俺が少数派なのは、確かだし?
とにかく、明日菜の下着姿なんて、いまさらだ。
ーとくに白や黒は。
俺は前歯で、下唇を軽くかむ、と明日菜から、目をはなして、玄関をしめた。
ーとたん、インターホンが鳴った。
どうやら宅配便らしい。
仕送りも、社会人になってからは、なくなった俺に、なんの荷物だ?
最近、熱帯雨林や大文字アールで買い物した記憶ないぞ?
とりあえず、明日菜を玄関からは、見えない位置に、隠れてもらい荷物をうけとる。
段ボール3つ。
送り主は、上条明日菜だ。
明日菜の場合、本名がそのまま芸名になったので、たまに届く荷物には、念のため上条と名乗っている。
のだが、なんで、みっつも?
「明日菜?なんか荷物が届いたんだけど?」
「あー、それは、まだ置いといて。ねえ、春馬くん、どこで、うがいしたらいい?」
マスクをまだしたままの明日菜が、玄関の靴箱の上に置いてる消毒用のハンドジェルを、借りるね?と言って使用する。
さすがに、この件に対して、世界的なパンデミックを、いまも起こし続けるラスボスみたいなやつを相手に、いくら俺でもボケる気はない。
season oneが終わったに、息つくまもなくseason twoとか、ほんとうに勘弁してほしい。
俺と明日菜が2年近く会えなかった元凶だし、なにより子供たちから、笑顔がきえた。
当たり前に、あえていた友達が、画面越しにしかあえなくて、けど、画面越しなら、一方的でも、教師の声はきこえるし、マスクもなく顔の表情もわかる。
俺と明日菜みたいに。
へんな時代だって、思う。
「あ、うん。台所にも、洗面所にも、うがい薬と紙コップがあるから、どっちでも、かまわないけど」
「へええー。春馬くんも気をつけているんだねーって、すごく可愛いネコのコップだね?」
「すごいよな?百均って」
「えっ?」
「えっ?」
あれ?俺は、ちゃんと、こたえたはずだけど?
「しらないのか?明日菜。世界の◯ティちゃんを」
「知ってるよ!なんなら、春馬くんよりも、私の家に、もっと多くいるよ⁈」
「えっ?」
「…今日だけで、私、かなりもうツッコミしたし、なんか頭痛くなってきたから、先にうがいするね?春馬くんも消毒して、手洗いうがいしてね?」
「消毒、うがい、手洗い、また消毒だぞ、明日菜」
「なんでこういう時は、正論なの⁈」
「俺だけの問題じゃないからな」
「ー春馬くん、そんなに私のこと」
「当たり前だろ?凛ちゃんまだ1歳だぞ?萌ちゃんは、来年受験だから、今年しか、部活楽しめないだろうし、空ちゃんも、小学生だし」
「ーえっ?そっち⁈」
「ーえっ?どっち⁈」
思わず明日菜の視線を追って、後ろを振り返るけど、目の前には、見慣れた玄関のドアがあるだけ。
ーなんだ?
明日菜は、呆れたように、ため息をひとつつくと、
「まあ、春馬くんだし?」
と言って、マスクを外して、優しく微笑んだ。
久しぶりの、ナマ明日菜。
ーいや、言い方よ?俺。
自分で自分にツッコンで(さすがに明日菜には、言わなかった)俺は頷いて、洗面所に向かう。
念のためコチラは、ホームセンターで安い大量に入った白いコップを使用して、ガラガラとうがい、手洗いをする。
ーあっ、そういえば、
「なあ、明日菜、さっき、うちに泊まるとか、言ってなかったか?」
「うん。映画の上映も始まったし、番宣も終わったから、今回の休みながいんだあ。だから、しばらく福岡にいても平気だよ?緊急事態宣言が明けたとは言っても、ホテルとか予約するのもアレかなって」
「まあ、緊急事態宣言あけに、俺の存在を、しらないやつらからみたら、ただの旅行だしなあ」
まったく、面倒なウィルスだな。
でも田舎に高齢者に言わせると、戦時中より、よっぽどマシらしい。
言われてみたら、俺は、特に大きな自然災害にも、見舞われずに、この年齢制限まで幸運にも、生きてきた。
マスクや手洗いうがい、他人との最小限の関わりも、できるだけ外出自粛も、独り身の俺には、まあ、大学や仕送り面では、大変だったけど、隣の轟木さんの子供達や芸能人の明日菜ほど、精神的には、きつくなかった。
俺以上に、大変な人は、たくさんいるってわかってた。
そもそも俺は、楽して稼ごうなんて気は、なかったから、食いつなげるなら、アルバイトの選り好みなんかしなかった。
親も学費だけは、出してくれたし、本当に感謝している。
けど、明日菜は、外出すると必ず週刊誌とかが狙っていたらしく、事務所が厳しく監視していたようだ。
確かに、明日菜がホテルをとるくらいなら、俺の家にいた方が、メディアの餌食に、ならないですむんだろうけど。
ふむ。
俺は腕組みをして、脳裏に、数少ない友人たちの姿を、思い浮かべてみる。
「白石?いや、アイツは、実家だし。黒井?いや、アイツは寮だし?じゃあ、青木?いや、アイツは、関西に引っ越したしー」
「春馬くん、なにを、ぶつぶつ言ってるの?」
ひととおりの消毒作業を終わって、明日菜が首を傾げた。
きれいな肩より少し長くした軽くウェーブのかかる黒髪に、大きな黒い瞳。
目、鼻、口、耳、顎、すべてのバランスが絶妙にとれていて、文句なしの美人が目の前にいる。
最後に明日菜にあったのは、自粛期間前の田舎であった成人式だったよな?
あの時は、まだ少し残っていた幼さも、完全に、なくなっている。
可愛いと言うよりも、きれいになった。
そういえば、女子が選ぶなりたい顔ベスト10にランクインしていたなあ。
何位かは、知らないけど。
会社の同僚たちが、なんか言ってた気がする。
「春馬くん?」
ぼんやりそんなことを思ってたら、いきなりぐんっと、両肩を、引っ張られて、そのきれいな顔が、息がふれそうなくらい間近にきた。
と、思ったら、
ーチュッ!
って、軽く唇にキスをされた。
「へっ?」
ほんの一瞬の出来事で、すぐに、明日菜は、俺から、さっきより距離をとると、
「うん、やっぱり違う」
ー誰と?
比べられたよな?いま。
「へっ?」
もう一度、まぬけな声をだした俺に、明日菜は、にっこり笑って言った。
「演技で、他の俳優さんたちと、キスするけど、やっぱり違うなって、思っただけ」
いや、はにかむその顔、めちゃくちゃ可愛いんですけど?
俺の彼女、マジ可愛い!
抱きしめたい!
「うーむ。じゃあ、緑川先輩?いや、タバコ臭いし。赤西?最近、彼女できたし?他にはー」
「…春馬くん、さっきから、なにをぶつぶつ言ってるの?」
もう一度、今度は、なにかを警戒したような表情で、明日菜がきいてきた。
「ん?明日菜は、俺の部屋に、泊まるんだろ?」
「うん。いいんだよね?」
「もちろん?だとも」
「じゃあ、なにを難しい顔で、唸ってるの?」
「俺を泊めてくれそうな友人を、色から順に、思い出してるところだ」
「はっ?」
今度は明日菜の口から、今日いちばんの大きな声が、でた。
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