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九話 崩壊
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イナミと魔術師は重なるように倒れる。
「ッ!」
慌ててレオンハルトは二人の元に近寄ると、二人が倒れる地面には大量の血が流れ出ていた。
「……」
目を見開きまん丸とさせるレオンハルトの脳内には再びあの日の事がフラッシュバックしかけ、白い精霊がレオンハルトの頭に突撃する。
「いてっ」
普段は柔らかい筈のものが、脳を揺らし、頭を抱えた。
「心配するな、まだ……生きてる」
下敷きになっていた魔術師は、上に乗っていたイナミを手で押して退けた。横に寝転がるイナミは魔術師の言う通り、息は浅いが胸が上下していた。
白い精霊はレオンハルトの横を抜けて、イナミに治癒術をかける。
「よっ、よかった」
安堵に笑いながらもレオンハルトの手は震えていた。
ゴホリッ、と咳き込む魔術師。
「いや、いらない。このままにしてくれ」
すると、白い精霊が魔術師を治そうとしたのか、精霊を手で押し除けられ拒絶されていた。
「もう、疲れた……眠りたい」
杖を手放した魔術師の腹からは血が流れていき、白い花は赤く染まり。杖が魔術師から離れた途端に、地面が揺れ、砂嵐のように空間が歪んだ。
「黄色頭、さっさとそいつを連れてここから逃げろ」
「きいろあたまって」
「それ、大事なんだろ?」
「大事です。俺の大切な人です」
真っ直ぐとした瞳を向けられ、ふっと口角を上げて笑う魔術師。
「だとしたら、さっさとしろ。力が保てなくなった今、次期にここは崩壊する」
「……そうさせてもらいます」
すぐにレオンハルトは力無く気絶するイナミの体を抱き上げては出口に向かう。
警戒しながら一度振り返り魔術師の様子を見たが、魔術師は倒れたままで起き上がる気配が全くなかった。
そして、黄色い頭が見えなくなったところで白い花は散り、崩壊していく空間はどんどんと歪み天井や地面が崩れ始めていく。
「だから術は嫌いなんだ。昔から無理だって言っているのに。はぁ、最後に見るのが……アイツと同じ顔とか……最悪だな」
魔術師は手で自身の目を覆い隠した。
「ヴァイス……お前の方が生きていたならもっと上手くやれていたんだろうな……そうだろ」
崩壊していく中を魔術師の方に歩いてくる者が一人、シロだった。
シロは近寄っては腰を下ろす。
「止められなくて、ごめん。俺が貴方を殺すべきだった……貴方が壊れていくのをただ見る事しかできなかった」
「もう、いいんだ、終わった事だ。お前が死んだ時からレールは狂っていたんだ。いつかはこうなると分かっていた」
「兄さん」
「最後に死んだお前に見守られるなんてな……でも悪くないな」
魔術師は天に手を伸ばしたが、力無く落ちていく。空間は泡となって術は解けた。
「ッ!」
慌ててレオンハルトは二人の元に近寄ると、二人が倒れる地面には大量の血が流れ出ていた。
「……」
目を見開きまん丸とさせるレオンハルトの脳内には再びあの日の事がフラッシュバックしかけ、白い精霊がレオンハルトの頭に突撃する。
「いてっ」
普段は柔らかい筈のものが、脳を揺らし、頭を抱えた。
「心配するな、まだ……生きてる」
下敷きになっていた魔術師は、上に乗っていたイナミを手で押して退けた。横に寝転がるイナミは魔術師の言う通り、息は浅いが胸が上下していた。
白い精霊はレオンハルトの横を抜けて、イナミに治癒術をかける。
「よっ、よかった」
安堵に笑いながらもレオンハルトの手は震えていた。
ゴホリッ、と咳き込む魔術師。
「いや、いらない。このままにしてくれ」
すると、白い精霊が魔術師を治そうとしたのか、精霊を手で押し除けられ拒絶されていた。
「もう、疲れた……眠りたい」
杖を手放した魔術師の腹からは血が流れていき、白い花は赤く染まり。杖が魔術師から離れた途端に、地面が揺れ、砂嵐のように空間が歪んだ。
「黄色頭、さっさとそいつを連れてここから逃げろ」
「きいろあたまって」
「それ、大事なんだろ?」
「大事です。俺の大切な人です」
真っ直ぐとした瞳を向けられ、ふっと口角を上げて笑う魔術師。
「だとしたら、さっさとしろ。力が保てなくなった今、次期にここは崩壊する」
「……そうさせてもらいます」
すぐにレオンハルトは力無く気絶するイナミの体を抱き上げては出口に向かう。
警戒しながら一度振り返り魔術師の様子を見たが、魔術師は倒れたままで起き上がる気配が全くなかった。
そして、黄色い頭が見えなくなったところで白い花は散り、崩壊していく空間はどんどんと歪み天井や地面が崩れ始めていく。
「だから術は嫌いなんだ。昔から無理だって言っているのに。はぁ、最後に見るのが……アイツと同じ顔とか……最悪だな」
魔術師は手で自身の目を覆い隠した。
「ヴァイス……お前の方が生きていたならもっと上手くやれていたんだろうな……そうだろ」
崩壊していく中を魔術師の方に歩いてくる者が一人、シロだった。
シロは近寄っては腰を下ろす。
「止められなくて、ごめん。俺が貴方を殺すべきだった……貴方が壊れていくのをただ見る事しかできなかった」
「もう、いいんだ、終わった事だ。お前が死んだ時からレールは狂っていたんだ。いつかはこうなると分かっていた」
「兄さん」
「最後に死んだお前に見守られるなんてな……でも悪くないな」
魔術師は天に手を伸ばしたが、力無く落ちていく。空間は泡となって術は解けた。
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