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八話 現実
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この真っ暗な異空間を歩き続けて一体何時間過ぎたのだろうか。けれど、実際はそんなにも歩いていないのだろう。
おきてくーーー
聞こえないはずの声が反響し音となって聞こえてくる。どこにいるのか、頭を左右に振るが暗闇だけ。
『そろそろだね』
リリィが話す。
「何がだ」
『そろそろ、術の効果が切れるってこと』
そうだった。
リリィが発動した術によってここに来ていた事をすっかり忘れていた。
「そうか、また現実に帰らないといけないのか」
『うん、何がなんでも魔術師に勝ってよ。僕からのお願いだよ』
「そうだなーーー」
起きてくださいーーー
次は鮮明に聞こえてきては、震える腕輪。
『魔術師の記憶を見ていると……イナミはシロのお兄ちゃん? うーんいや、弟になるのかな』
「どっちでもないだろ」
『そう? ほぼ同じ術式から作られているから兄弟みたい物じゃない』
「そうなってくると人形、全員兄弟になるけどな」
『大家族だね』
「……大丈夫、シロさんを傷つけさせはしないし死なせはしない」
『うん、そう言ってくれると思ってた。お願いね、僕の大事な人だから』
魔法石から輝きが少しずつ、少しずつ消えていき、傷ついたヒビがバリバリと音を立てて広がっていく。
『イナミってお堅いかと思ったけど、からかい甲斐あっていいよね』
「お前なぁ……俺を揶揄って楽しいと言えるのはお前くらいだな」
『そうなの? じゃあもっと弄り回したかったなー。全く、あの魔術師も僕に魔法石一個を使わせるとかどれだけ面倒なの。ほんと最悪だよ』
「……」
バキリッと大きな音を鳴らしては七色に輝いていた魔法石は色をなくす。
『楽しかったよ、イナミといるの。ここでさよならするのは残念だけど』
「……ここまでありがとう」
『じゃあ 杖から最後に一つだけーーー』
最後の言葉を紡ぎ悪戯な笑い声と共に魔法石は砕け散った。欠片となり砂となった宝石は真っ暗な空間の中で空へとキラキラと昇っていく。
耳元で『頑張って』と最後に聞こえた気がして振り返ったがやはり誰もいない。
「イナミさんっ! 起きてください」
そして、微睡の中、目が覚めればレオンハルトが俺の体を支えていた。
「良かった、死んでいたのかと思いましたよ」
眉間に皺が溜まっていたが、俺が目を覚ましたことで一気に解けて安堵の表情に戻る。
周りには精霊二匹が浮遊し再び、現実である白い花の園に帰ってきた。
「……髪の色が黒に」
そう言いと視線は頭に。レオンハルトはイナミの髪の毛を数本さらりと流し埃を払う。
静止した時間を突き破るかのように、鳴り響くの刃がぶつかる金属音。
目線をそちらに流してみると、真ん中の方ではサエグサ同士が戦い、さらに奥の方では魔術師が頭を抱えて膝をついていた。
サエグサ同士の戦い、一人対し数人が囲むように襲いかかっていたが、圧倒的に一人の方が強く。軽く腕を掴んでは投げられ滝の方に身を落とし、小さな剣で体を引き引き裂いては次々と滝に身を投げる。
「ーーーシロさんか」
「はい、道中助けていいだきました。イナミさん、立てますか」
まだ、頭が働かない。一体ここで何をすればいいのかを分からないけど、近くで無惨に転がる壊れた杖を見て胸が締め付けられた。
「ここでおしまいだ。こんな事を続けていたら、一番嫌っていた者達と何一つ変わらない」
サエグサ同士の戦いに決着はつき、その場に立つのはシロ一人だけ。
シロは、魔術師に変わってしまったイーナの元にゆっくりと足を運ばせる。
「何かを成すために誰かを裏切って、踏み躙って、もう沢山だ。もう人を傷つけるのは嫌なんだ。イーナだって、もう疲れている」
弟は兄に手を差し伸べるが、ーーー兄は手を弾き拒絶する。
「いまさら……帰れない。俺の目の前で死んでいった者達、俺が殺した者達にいまさらなんて言えばいい? 疲れたからやめる? じゃあ、一体俺はここまで何をしていた、なにをなしてきた。全ては国を守るためにやってきた、お前は全てが無駄だったと言いたいのか!」
「イーナ、違う! 自身の心が悲鳴上げているのに気がついているだろ! このままだと心が壊れるって言っているんだ。マスターもこんな事を望んでいない」
シロは見た事のない顔で怒り声を張り上げ、ただ休んで欲しいと願う。
「……俺の心はリリィが死んだ時点で壊れている」
ポツリと呟くと杖を持ち直した魔術師は、シロを術で投げ飛ばした。
「シロさんっ!」
助けるには遅く、水しぶきを上げて滝の中に体が吸い込まれていく。 何もなかったかのように滝は流れ続け、沢山の闇を抱えた魔術師は立ち上がる。
「イナミさん、ここにいてください」
戦い備えてレオンハルトも立ち上がり、イナミを守るように剣を構えた。
「あなた方の事情はよく分かりませんが、こちらに手を出すなら容赦しません」
レオンハルトと魔術師が初めて向きあった。
すると、魔術師はレオンハルトの顔を見た瞬間、顔を酷く歪めては薄く笑う。
「っあは、またお前かよ。もういい加減にしろよ、何度こちらを邪魔したら気が済む。そんなに嫌いか、そんなに邪魔か」
「何を話しているかが分からないのですが」
「全部壊せば気が済むのか。嫌いだ、きらいだ、お前の青い目も金色の髪も全部嫌いだ……嫌いだ」
独りよがりの独り言。ただ怒りをぶつけられるだけで全く会話にならず、レオンハルトは困惑する。
「あの人に何をやらかしたんだ。お前は」
やっと意識が正常になったイナミは、落とした剣を拾い上げて立ち上がり、レオンハルトの隣に立った。
「何もしてないですから。勿論、何度かお会いした事はありますけど、挨拶程度しか会話してませんからね」
どうもこうも身に覚えがないとレオンハルトは嘆く。
「分かった、いいだろ。何度邪魔されようが、壊されようが、どの道俺が生き残るか、お前が生き残るかの二択だ。だから、ここで死ね」
不気味に笑っていた魔術師は髪の毛を上げる仕草をすると、目を見開いて杖をこちらに向けた。そして、明確な殺意を持ってあの術を、丸い球体を周りに浮かばせる。
「ちょっと待って何を、そんなっ」
当然、訊いても魔術師の耳には声が通らず、レオンハルトに一気に術の集中砲火を受け。
応援にきたというのに花の園で逃げ惑い、まともに剣が振れずにいた。
逃げ回る途中に、ある一つの球が目の前まで接近していた事に驚き、持っていた剣を振り上げ切る。
ゴムのように柔らかく金属のように固く、聞いた事がない音と共に球は両断され破壊する事ができたが、剣が二つになって壊れた。
「やべぇっ」
最後の剣を壊してしまったレオンハルトは、青ざめながらまだまだ漂い向かってくる球を見ている、と黒く尖った石が球を消滅させる。
キュルキュルと鳴いて黒い精霊が横から飛んできていた。精霊は黒く尖った石を再び作ると、形を変形させレオンハルトの方を向いてはキュルキュルと鳴く。
「剣? 使えってことか」
力強く上下する黒い精霊。
何もないより良いと、精霊によって作られた剣を手にしたレオンハルトは振り上げ球を切る。術はさきほど同じように剣が壊れて術は消滅するが、精霊が次々と新しい剣を作り。
それによって、次々と術を破壊していくことが出来た。
「これは良いや。ありがとう」
レオンハルトが精霊に微笑みかけると、甘えるような高い声で鳴いた。
それを見て、良い気分がしなかったのは魔術師であり、下唇を噛んでどんどん術を追加していく。
「なぜ、壊せるんだ。相変わらず、アイツの力どうなっているっ」
魔術師の目線が囚われている時点で、イナミは魔術師の前にいた。
イナミは素早い動きで魔術師の下に潜り込み、剣を横に振るい。ずっと黄色い頭を目で追い続けていた魔術師にとっては奇襲であり、持っていた杖を盾にする。
杖と剣が重なり合い、力同士をギリギリとぶつかり合わせた。
「まだ殺し足りないか、人形」
「ええ、お前を殺すまでは。お前のやってきた事は間違えだった。自身の罪を償え」
「はっ、罪? 笑えるな、人を殺してきて人形に言われてたくはない。自分がまっさらで綺麗だと思っているのか」
「ずっと、アンタが思ってきたことだ。自分を止めて欲しい、自分がやってきた事の罰を受けたい、何もかも自由になりたいーーー、もう誰も傷つけたくない。ずっとアンタは願っていたことだ」
「違う……」
魔術師が杖でイナミを払うおうとしたところを、イナミは飛び跳ねるように下がり避ける。
「いい加減な事を言うなよ! 作られた人形のお前に何がわかる。心が無いくせに、全てを知ったような口をたたくな」
「だって、俺はお前だから。貴方が捨てていったもので俺は作られた」
「違う、違う、俺はお前じゃない」
口が震える、手が震える。楽しさや喜び、悲しみや怒り、そして罪悪感、目の前にはずっと自身が押し込めていた感情や感覚があるのだから。魔術師のイーナはそれを否定するためにも、術を唱えるしかなかった。
散る事がない白い花畑の中で、術式の円は重なり光る。
「だからアンタがどれだけ殺し続けても、必ず俺は帰ってくる。お前が自身を捨てていく限りは」
「違う。俺っは、おれのやってきた事は」
その、動揺が仇だった。
「イナミさん!」と叫びレオンハルトが魔術師の方に黒い剣を投げ。剣は術に突き刺さり魔術師を守っていた膜は地割れを起こし、ひび割れ簡単に崩壊させる。
イナミは鼻から出てきた血を拭い、これでもう最後だといいかせて、術がバラバラとガラスの欠片となって降ってくる中を突き進む。
黒い色に染まった髪は揺れ。そして、イナミは剣先を魔術師に向けてーーー突き刺した。
おきてくーーー
聞こえないはずの声が反響し音となって聞こえてくる。どこにいるのか、頭を左右に振るが暗闇だけ。
『そろそろだね』
リリィが話す。
「何がだ」
『そろそろ、術の効果が切れるってこと』
そうだった。
リリィが発動した術によってここに来ていた事をすっかり忘れていた。
「そうか、また現実に帰らないといけないのか」
『うん、何がなんでも魔術師に勝ってよ。僕からのお願いだよ』
「そうだなーーー」
起きてくださいーーー
次は鮮明に聞こえてきては、震える腕輪。
『魔術師の記憶を見ていると……イナミはシロのお兄ちゃん? うーんいや、弟になるのかな』
「どっちでもないだろ」
『そう? ほぼ同じ術式から作られているから兄弟みたい物じゃない』
「そうなってくると人形、全員兄弟になるけどな」
『大家族だね』
「……大丈夫、シロさんを傷つけさせはしないし死なせはしない」
『うん、そう言ってくれると思ってた。お願いね、僕の大事な人だから』
魔法石から輝きが少しずつ、少しずつ消えていき、傷ついたヒビがバリバリと音を立てて広がっていく。
『イナミってお堅いかと思ったけど、からかい甲斐あっていいよね』
「お前なぁ……俺を揶揄って楽しいと言えるのはお前くらいだな」
『そうなの? じゃあもっと弄り回したかったなー。全く、あの魔術師も僕に魔法石一個を使わせるとかどれだけ面倒なの。ほんと最悪だよ』
「……」
バキリッと大きな音を鳴らしては七色に輝いていた魔法石は色をなくす。
『楽しかったよ、イナミといるの。ここでさよならするのは残念だけど』
「……ここまでありがとう」
『じゃあ 杖から最後に一つだけーーー』
最後の言葉を紡ぎ悪戯な笑い声と共に魔法石は砕け散った。欠片となり砂となった宝石は真っ暗な空間の中で空へとキラキラと昇っていく。
耳元で『頑張って』と最後に聞こえた気がして振り返ったがやはり誰もいない。
「イナミさんっ! 起きてください」
そして、微睡の中、目が覚めればレオンハルトが俺の体を支えていた。
「良かった、死んでいたのかと思いましたよ」
眉間に皺が溜まっていたが、俺が目を覚ましたことで一気に解けて安堵の表情に戻る。
周りには精霊二匹が浮遊し再び、現実である白い花の園に帰ってきた。
「……髪の色が黒に」
そう言いと視線は頭に。レオンハルトはイナミの髪の毛を数本さらりと流し埃を払う。
静止した時間を突き破るかのように、鳴り響くの刃がぶつかる金属音。
目線をそちらに流してみると、真ん中の方ではサエグサ同士が戦い、さらに奥の方では魔術師が頭を抱えて膝をついていた。
サエグサ同士の戦い、一人対し数人が囲むように襲いかかっていたが、圧倒的に一人の方が強く。軽く腕を掴んでは投げられ滝の方に身を落とし、小さな剣で体を引き引き裂いては次々と滝に身を投げる。
「ーーーシロさんか」
「はい、道中助けていいだきました。イナミさん、立てますか」
まだ、頭が働かない。一体ここで何をすればいいのかを分からないけど、近くで無惨に転がる壊れた杖を見て胸が締め付けられた。
「ここでおしまいだ。こんな事を続けていたら、一番嫌っていた者達と何一つ変わらない」
サエグサ同士の戦いに決着はつき、その場に立つのはシロ一人だけ。
シロは、魔術師に変わってしまったイーナの元にゆっくりと足を運ばせる。
「何かを成すために誰かを裏切って、踏み躙って、もう沢山だ。もう人を傷つけるのは嫌なんだ。イーナだって、もう疲れている」
弟は兄に手を差し伸べるが、ーーー兄は手を弾き拒絶する。
「いまさら……帰れない。俺の目の前で死んでいった者達、俺が殺した者達にいまさらなんて言えばいい? 疲れたからやめる? じゃあ、一体俺はここまで何をしていた、なにをなしてきた。全ては国を守るためにやってきた、お前は全てが無駄だったと言いたいのか!」
「イーナ、違う! 自身の心が悲鳴上げているのに気がついているだろ! このままだと心が壊れるって言っているんだ。マスターもこんな事を望んでいない」
シロは見た事のない顔で怒り声を張り上げ、ただ休んで欲しいと願う。
「……俺の心はリリィが死んだ時点で壊れている」
ポツリと呟くと杖を持ち直した魔術師は、シロを術で投げ飛ばした。
「シロさんっ!」
助けるには遅く、水しぶきを上げて滝の中に体が吸い込まれていく。 何もなかったかのように滝は流れ続け、沢山の闇を抱えた魔術師は立ち上がる。
「イナミさん、ここにいてください」
戦い備えてレオンハルトも立ち上がり、イナミを守るように剣を構えた。
「あなた方の事情はよく分かりませんが、こちらに手を出すなら容赦しません」
レオンハルトと魔術師が初めて向きあった。
すると、魔術師はレオンハルトの顔を見た瞬間、顔を酷く歪めては薄く笑う。
「っあは、またお前かよ。もういい加減にしろよ、何度こちらを邪魔したら気が済む。そんなに嫌いか、そんなに邪魔か」
「何を話しているかが分からないのですが」
「全部壊せば気が済むのか。嫌いだ、きらいだ、お前の青い目も金色の髪も全部嫌いだ……嫌いだ」
独りよがりの独り言。ただ怒りをぶつけられるだけで全く会話にならず、レオンハルトは困惑する。
「あの人に何をやらかしたんだ。お前は」
やっと意識が正常になったイナミは、落とした剣を拾い上げて立ち上がり、レオンハルトの隣に立った。
「何もしてないですから。勿論、何度かお会いした事はありますけど、挨拶程度しか会話してませんからね」
どうもこうも身に覚えがないとレオンハルトは嘆く。
「分かった、いいだろ。何度邪魔されようが、壊されようが、どの道俺が生き残るか、お前が生き残るかの二択だ。だから、ここで死ね」
不気味に笑っていた魔術師は髪の毛を上げる仕草をすると、目を見開いて杖をこちらに向けた。そして、明確な殺意を持ってあの術を、丸い球体を周りに浮かばせる。
「ちょっと待って何を、そんなっ」
当然、訊いても魔術師の耳には声が通らず、レオンハルトに一気に術の集中砲火を受け。
応援にきたというのに花の園で逃げ惑い、まともに剣が振れずにいた。
逃げ回る途中に、ある一つの球が目の前まで接近していた事に驚き、持っていた剣を振り上げ切る。
ゴムのように柔らかく金属のように固く、聞いた事がない音と共に球は両断され破壊する事ができたが、剣が二つになって壊れた。
「やべぇっ」
最後の剣を壊してしまったレオンハルトは、青ざめながらまだまだ漂い向かってくる球を見ている、と黒く尖った石が球を消滅させる。
キュルキュルと鳴いて黒い精霊が横から飛んできていた。精霊は黒く尖った石を再び作ると、形を変形させレオンハルトの方を向いてはキュルキュルと鳴く。
「剣? 使えってことか」
力強く上下する黒い精霊。
何もないより良いと、精霊によって作られた剣を手にしたレオンハルトは振り上げ球を切る。術はさきほど同じように剣が壊れて術は消滅するが、精霊が次々と新しい剣を作り。
それによって、次々と術を破壊していくことが出来た。
「これは良いや。ありがとう」
レオンハルトが精霊に微笑みかけると、甘えるような高い声で鳴いた。
それを見て、良い気分がしなかったのは魔術師であり、下唇を噛んでどんどん術を追加していく。
「なぜ、壊せるんだ。相変わらず、アイツの力どうなっているっ」
魔術師の目線が囚われている時点で、イナミは魔術師の前にいた。
イナミは素早い動きで魔術師の下に潜り込み、剣を横に振るい。ずっと黄色い頭を目で追い続けていた魔術師にとっては奇襲であり、持っていた杖を盾にする。
杖と剣が重なり合い、力同士をギリギリとぶつかり合わせた。
「まだ殺し足りないか、人形」
「ええ、お前を殺すまでは。お前のやってきた事は間違えだった。自身の罪を償え」
「はっ、罪? 笑えるな、人を殺してきて人形に言われてたくはない。自分がまっさらで綺麗だと思っているのか」
「ずっと、アンタが思ってきたことだ。自分を止めて欲しい、自分がやってきた事の罰を受けたい、何もかも自由になりたいーーー、もう誰も傷つけたくない。ずっとアンタは願っていたことだ」
「違う……」
魔術師が杖でイナミを払うおうとしたところを、イナミは飛び跳ねるように下がり避ける。
「いい加減な事を言うなよ! 作られた人形のお前に何がわかる。心が無いくせに、全てを知ったような口をたたくな」
「だって、俺はお前だから。貴方が捨てていったもので俺は作られた」
「違う、違う、俺はお前じゃない」
口が震える、手が震える。楽しさや喜び、悲しみや怒り、そして罪悪感、目の前にはずっと自身が押し込めていた感情や感覚があるのだから。魔術師のイーナはそれを否定するためにも、術を唱えるしかなかった。
散る事がない白い花畑の中で、術式の円は重なり光る。
「だからアンタがどれだけ殺し続けても、必ず俺は帰ってくる。お前が自身を捨てていく限りは」
「違う。俺っは、おれのやってきた事は」
その、動揺が仇だった。
「イナミさん!」と叫びレオンハルトが魔術師の方に黒い剣を投げ。剣は術に突き刺さり魔術師を守っていた膜は地割れを起こし、ひび割れ簡単に崩壊させる。
イナミは鼻から出てきた血を拭い、これでもう最後だといいかせて、術がバラバラとガラスの欠片となって降ってくる中を突き進む。
黒い色に染まった髪は揺れ。そして、イナミは剣先を魔術師に向けてーーー突き刺した。
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