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三話
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狭い道から、やっと大通りに出て来ては城の門が見えてきた。
レオンハルトの隊がサエグサを散らしてくれたおかげで、こちらの被害は最小限に住み、時間かけずに来る事が出来た。
「敵はまだまだいる訳ですね」
雨が滴る灰色の世界からスラリと蛇のように現れたのはヤイトであり、騎士の制服は着ておらず真っ黒の服で身を包む。
「ヤイト副団長、やはり戦わないといけないですか」
レオンハルトはそう言いながら、俺を持つ手を緩めてその場にゆっくりと下ろされた。
「副団長……最初からそうではないのですけどね。あれも、要らない役割を置いていったものだ」
「やはり、貴方は前の者とは違うのですね」
「人間みたいな言い方しないでいただきたいものですが、答えは、はいそうです。だけど、いいえそうではないとも言える。ただ刻まれた番号が違うだけですよ」
同じ型で、作られた順番が違うだけで全く同じ人形であると。
「そうだとしても、アルバン騎士団長はアナタの事をわかっていました」
「あの人は特別おかしいだけです。現に貴方だって分からなかった……まぁ、どうでもいい話はやめましょうか」
ヤイトは傷一つない腕をゆっくりとあげると、指をパチリと鳴らす。
それだけで、どこからともなく聞き覚えのある唸り声が聞こえてきては、四つ足の魔物が姿を現した。
猪のようで狼のような獣達はゾロゾロと集まってくる。
「一人で行けますか」
一歩前に出るレオンハルトを見て、イナミは無言で頷き下がり距離を取る。
後ろを見る事はなく再びレオンハルトは剣を持ち直し、腕を振り上げた。
剣先に風が集まり、剣が下ろされる頃には、ヤイトは門の前から飛び込むように退いた。
そして風で作った螺旋は雷のような地響きが鳴らせば、城の門を二つに壊す。
敵が狼狽えている内にイナミは壊れた門に走る。
『わぉ! すごーい。門がバラバラに』
「うっ、後の請求書が恐いな……」
『いいじゃん。派手でサイコーとか思うくらいで。あと、生きて帰って来れてから考えたら』
イナミと杖はそんな会話をしながら、襲いかかってくる魔物を黒い精霊が放つ術で払い、もっと近づいてくるものはナイフを突き立てた。魔物群れをかき分けてイナミは城の中へと潜り込む。
ヤイトは背中側を走っていく者は追わず、レオンハルトと向き合い再びパチリと指先を鳴らす。
「こうなる事は分かっていましたから、いいでしょう」
ヤイトが一つ指先を鳴らせば、魔物が出てきて。二つ鳴らせば、さらに魔物の数を増やしていく。
「さて、お互いどれだけ体力が持つのか。消耗戦といたしましょう」
「その前に、貴方の事を倒します」
「いい心構えです、レオンハルト君」
一斉に魔物は飛びかかり、レオンハルトは再び剣を構えた。
*
城の中に入るための鍵のかかった扉に向かって「すいません」とイナミは謝りながら精霊の術で破壊してもらう。
城の中に入れば火元が全て消えて、暗く冷たく誰もいなかった。光が当たり綺麗だったシャンデリアすらただの筒状のガラスに見える。
門番が立っていない時から気がついていたが、大雨の中を避難しているとはいえ、城の者も全員出払っているようだ。
避難させる人がいない事は、幸いとは言えば幸いだが。
「最初から魔術師はこうなる事を予想していた」
『城の者を人質に……とかしないんだね。そういうところは人の感情あったんだ』
「そうだな……」
リリィの言う通り、誕生日会の騒ぎに紛れて顔を替えるのではと勘繰ったが、予想に反して魔術師は堂々と自身を向かえた。
『それだけ、勝てる自信があるんでしょ』
「そういう事だな」
雨で重くなった上着を脱ぎ棄てる。耐久性のある上着は防水性も兼ねていたので、中の服はそれほど濡れていなかった。
『さて、ここからどう探す? 帝都の城よりかは狭いとは言っても、ここを当てなく探すのは魔術師にとっては良いカモだよ』
「なんとなく……ソイツの居場所が分かる」
見えない筈なのに魔術師にどこに居るのかが分かってしまう。今、魔術師は水が流れる城の地下辺りにいると容易く想像も出来てしまう。
『みるな』
拒絶された。バチリと強制的に意識を戻されたような感覚に頭が一瞬痺れた。
『大丈夫?』
「問題ない。少し考え事をしていただけだ」
『なんだろうね。本来持っている人形の機能かもしれないね』
「かもな」
分からない事だらけだが、どんどんと知らない情報が体に入り込んでくる。スーフェン第一王子という名の魔術師とはそれほど会話を交わした事はないのに、親のような、兄弟のような、親近感もどんどんと湧いてくる。
頭がおかしくなりそうだ。
「……気合い入れていくか」
『ガンバ』
やる気のない応援を聞きつつ、彼がいる方に近づいていく。
知らない場所、知らない道、ここだと自身に導かれ、歩みが止まったのは書庫だった。
部屋に入れば、本棚が綺麗に整頓され敷き詰められているだけの、何も変哲のない書庫。この部屋には、下へと行く道などはない。
が、精霊の明かりで部屋を照らした途端に、くり抜かれたような大きな穴が現れた。
その穴は高さ5メールほどの洞窟となっていて、奥へと進む前には大きな扉が設けられていた。
両側から開く鉄の扉は、見た目から冷たく重々しく、年数がそれなりに経っているようで古く。触らない扉の端は青く錆びていた。
そして、扉の片側は人が入れくらいに開いて、魔術師はここを通って行ったのだろう。
『わーお、すごい秘密の入り口って感じ。でもやり方が雑だけど』
リリィが苦言するのは、扉に行くために秘密のカラクリが動き本棚が道を開けているのではなく、本棚ごと術で丸くえぐり取られていたからだ。
「面倒だったのだろうな。どうせ見つかるし」
『だよね。それにしても、えぐり取るだけって彼にはロマンがかけらもないよね。もっと、禍々しくするとかさ』
こんな時に浪漫も楽しさも無理だろと話しつつ、重たい扉をさらに開けた。
すると、洞窟の奥から風が舞い込んできて髪の毛や服を揺らす。その、風は冷たくも爽やかで、草木が湿った匂いがした。
洞窟の中は相変わらず灯りもなく暗闇で、精霊の灯りで照らすと下に続く階段が見えた。再び風は吹き、この先は外につながっているのかもしれない。
恐る恐る、壁を手で探りながら階段をおりていく。
奥深くまで続く階段、灯り照らしても暗闇しか映らない。この先に何があるのか。
考えるだけで体が寒くなり脈が速くなるのを感じる。それが腕輪を通して伝わっているだろう、面白そうにリリィが話しかけてきた。
『ドキドキしてる?』
「してる」
『人間らしくなってきてるじゃん。よかったね』
「この状況で、良い事なのかは分からないけど」
『じゃあ、前の自分ならどうしてる?』
「走るように降りる」
『なんと言えばいいのか悩むけど、そんな事にならなくて良かった』
勝手に震える体。恐怖を紛らわすためにもリリィと会話を続け、階段を降りていると奥から舞い込んでくる風がいっそう強くなり、出口が近い事を知らせる。
精霊の光が要らないほどに外の光が丸く見えてきては、外へと足を踏み出せば風が吹き荒れ。
目を瞑るほどの風はすぐにおさまり、洞窟を出れば思いもよらない絶景が広がっていた。
『綺麗だぁ』
杖が思わず漏らすほどに目の前には、季節外れの白百合の花園があった。
一面白百合園の地形は丸く、その周りは滝に囲まれて地下へと水が流れていく。
太陽も当たらない広い洞窟であると言うのに、この季節に咲くことがない白百合が、爛々と花開き、月明かり照らされたように白く輝いていた。
上では大雨が降り騒がしいが、ここは静かであたたかい時間が流れている。
思い描く楽園のように見えて、頭が混乱する異空間がそこにあった。
「来たか」
そして、島の真ん中でじっと正座をする魔術師がいた。
レオンハルトの隊がサエグサを散らしてくれたおかげで、こちらの被害は最小限に住み、時間かけずに来る事が出来た。
「敵はまだまだいる訳ですね」
雨が滴る灰色の世界からスラリと蛇のように現れたのはヤイトであり、騎士の制服は着ておらず真っ黒の服で身を包む。
「ヤイト副団長、やはり戦わないといけないですか」
レオンハルトはそう言いながら、俺を持つ手を緩めてその場にゆっくりと下ろされた。
「副団長……最初からそうではないのですけどね。あれも、要らない役割を置いていったものだ」
「やはり、貴方は前の者とは違うのですね」
「人間みたいな言い方しないでいただきたいものですが、答えは、はいそうです。だけど、いいえそうではないとも言える。ただ刻まれた番号が違うだけですよ」
同じ型で、作られた順番が違うだけで全く同じ人形であると。
「そうだとしても、アルバン騎士団長はアナタの事をわかっていました」
「あの人は特別おかしいだけです。現に貴方だって分からなかった……まぁ、どうでもいい話はやめましょうか」
ヤイトは傷一つない腕をゆっくりとあげると、指をパチリと鳴らす。
それだけで、どこからともなく聞き覚えのある唸り声が聞こえてきては、四つ足の魔物が姿を現した。
猪のようで狼のような獣達はゾロゾロと集まってくる。
「一人で行けますか」
一歩前に出るレオンハルトを見て、イナミは無言で頷き下がり距離を取る。
後ろを見る事はなく再びレオンハルトは剣を持ち直し、腕を振り上げた。
剣先に風が集まり、剣が下ろされる頃には、ヤイトは門の前から飛び込むように退いた。
そして風で作った螺旋は雷のような地響きが鳴らせば、城の門を二つに壊す。
敵が狼狽えている内にイナミは壊れた門に走る。
『わぉ! すごーい。門がバラバラに』
「うっ、後の請求書が恐いな……」
『いいじゃん。派手でサイコーとか思うくらいで。あと、生きて帰って来れてから考えたら』
イナミと杖はそんな会話をしながら、襲いかかってくる魔物を黒い精霊が放つ術で払い、もっと近づいてくるものはナイフを突き立てた。魔物群れをかき分けてイナミは城の中へと潜り込む。
ヤイトは背中側を走っていく者は追わず、レオンハルトと向き合い再びパチリと指先を鳴らす。
「こうなる事は分かっていましたから、いいでしょう」
ヤイトが一つ指先を鳴らせば、魔物が出てきて。二つ鳴らせば、さらに魔物の数を増やしていく。
「さて、お互いどれだけ体力が持つのか。消耗戦といたしましょう」
「その前に、貴方の事を倒します」
「いい心構えです、レオンハルト君」
一斉に魔物は飛びかかり、レオンハルトは再び剣を構えた。
*
城の中に入るための鍵のかかった扉に向かって「すいません」とイナミは謝りながら精霊の術で破壊してもらう。
城の中に入れば火元が全て消えて、暗く冷たく誰もいなかった。光が当たり綺麗だったシャンデリアすらただの筒状のガラスに見える。
門番が立っていない時から気がついていたが、大雨の中を避難しているとはいえ、城の者も全員出払っているようだ。
避難させる人がいない事は、幸いとは言えば幸いだが。
「最初から魔術師はこうなる事を予想していた」
『城の者を人質に……とかしないんだね。そういうところは人の感情あったんだ』
「そうだな……」
リリィの言う通り、誕生日会の騒ぎに紛れて顔を替えるのではと勘繰ったが、予想に反して魔術師は堂々と自身を向かえた。
『それだけ、勝てる自信があるんでしょ』
「そういう事だな」
雨で重くなった上着を脱ぎ棄てる。耐久性のある上着は防水性も兼ねていたので、中の服はそれほど濡れていなかった。
『さて、ここからどう探す? 帝都の城よりかは狭いとは言っても、ここを当てなく探すのは魔術師にとっては良いカモだよ』
「なんとなく……ソイツの居場所が分かる」
見えない筈なのに魔術師にどこに居るのかが分かってしまう。今、魔術師は水が流れる城の地下辺りにいると容易く想像も出来てしまう。
『みるな』
拒絶された。バチリと強制的に意識を戻されたような感覚に頭が一瞬痺れた。
『大丈夫?』
「問題ない。少し考え事をしていただけだ」
『なんだろうね。本来持っている人形の機能かもしれないね』
「かもな」
分からない事だらけだが、どんどんと知らない情報が体に入り込んでくる。スーフェン第一王子という名の魔術師とはそれほど会話を交わした事はないのに、親のような、兄弟のような、親近感もどんどんと湧いてくる。
頭がおかしくなりそうだ。
「……気合い入れていくか」
『ガンバ』
やる気のない応援を聞きつつ、彼がいる方に近づいていく。
知らない場所、知らない道、ここだと自身に導かれ、歩みが止まったのは書庫だった。
部屋に入れば、本棚が綺麗に整頓され敷き詰められているだけの、何も変哲のない書庫。この部屋には、下へと行く道などはない。
が、精霊の明かりで部屋を照らした途端に、くり抜かれたような大きな穴が現れた。
その穴は高さ5メールほどの洞窟となっていて、奥へと進む前には大きな扉が設けられていた。
両側から開く鉄の扉は、見た目から冷たく重々しく、年数がそれなりに経っているようで古く。触らない扉の端は青く錆びていた。
そして、扉の片側は人が入れくらいに開いて、魔術師はここを通って行ったのだろう。
『わーお、すごい秘密の入り口って感じ。でもやり方が雑だけど』
リリィが苦言するのは、扉に行くために秘密のカラクリが動き本棚が道を開けているのではなく、本棚ごと術で丸くえぐり取られていたからだ。
「面倒だったのだろうな。どうせ見つかるし」
『だよね。それにしても、えぐり取るだけって彼にはロマンがかけらもないよね。もっと、禍々しくするとかさ』
こんな時に浪漫も楽しさも無理だろと話しつつ、重たい扉をさらに開けた。
すると、洞窟の奥から風が舞い込んできて髪の毛や服を揺らす。その、風は冷たくも爽やかで、草木が湿った匂いがした。
洞窟の中は相変わらず灯りもなく暗闇で、精霊の灯りで照らすと下に続く階段が見えた。再び風は吹き、この先は外につながっているのかもしれない。
恐る恐る、壁を手で探りながら階段をおりていく。
奥深くまで続く階段、灯り照らしても暗闇しか映らない。この先に何があるのか。
考えるだけで体が寒くなり脈が速くなるのを感じる。それが腕輪を通して伝わっているだろう、面白そうにリリィが話しかけてきた。
『ドキドキしてる?』
「してる」
『人間らしくなってきてるじゃん。よかったね』
「この状況で、良い事なのかは分からないけど」
『じゃあ、前の自分ならどうしてる?』
「走るように降りる」
『なんと言えばいいのか悩むけど、そんな事にならなくて良かった』
勝手に震える体。恐怖を紛らわすためにもリリィと会話を続け、階段を降りていると奥から舞い込んでくる風がいっそう強くなり、出口が近い事を知らせる。
精霊の光が要らないほどに外の光が丸く見えてきては、外へと足を踏み出せば風が吹き荒れ。
目を瞑るほどの風はすぐにおさまり、洞窟を出れば思いもよらない絶景が広がっていた。
『綺麗だぁ』
杖が思わず漏らすほどに目の前には、季節外れの白百合の花園があった。
一面白百合園の地形は丸く、その周りは滝に囲まれて地下へと水が流れていく。
太陽も当たらない広い洞窟であると言うのに、この季節に咲くことがない白百合が、爛々と花開き、月明かり照らされたように白く輝いていた。
上では大雨が降り騒がしいが、ここは静かであたたかい時間が流れている。
思い描く楽園のように見えて、頭が混乱する異空間がそこにあった。
「来たか」
そして、島の真ん中でじっと正座をする魔術師がいた。
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