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十三話 理解出来ない
しおりを挟む「さて、俺は今日のところは休むが、イナミさんはこの人に話があるんだろ」
そう言って、アルバンが机に手をついては席を立つ。
「別に居てもいいですけど」
「いや、いいや。その時はイナミさんの口から聞く、今日は休むは」
呑気に「また明日」と背筋を伸ばしながらアルバンは食堂を出て行く。
「俺はいますから」
そして、イナミの隣で宣言するレオンハルトがいた。出て行けと言っても出て行かないだろ、とイナミは口に出すのはやめておいた。
改めて、イナミは魔術研修者と向き合う。
「単刀直入聞きますが、10年前に死んだミオンという帝都の治癒師はご存知ですか」
「もちろん、知っているよ。彼女はとてもいい同僚だった」
「貴方がミオンを事故と見せかけて殺したのですか」
「……」
長い沈黙を得て、ベアリンは下向き口を出来るだけ小さく紡いだ。
「……そう……だと言った方がいいね。私は彼女を見捨てたのだから」
「10年前、ミオンは貴方の研究の全てを暴いてしまったのですね」
「ああ……彼女は優秀だ。たった一つの術式だけで、繋げて見つけて、私のやっている全てを導き出したのだから」
そのたった一つの術式とは、10年以上前にあった術師が死体を操ったとされる事件。終ったと思われた事件をミオンはずっと一人で調べていたのだろう。
「全て暴かれ彼女に証拠を突きつけられた。そして彼女のなりの温情だったんだろうね。研究をしている理由は理解できるが、貴方のやっている事は非人道的だ。帝都に自身で告白するべきだと諭された」
「貴方はなんと」
「お前に何が分かる、だったかな……数十年積み上げてきたものが、たった一人の小娘によって壊されると思ったら、怒りしか湧いてこなかったよ。それでも彼女は引かなかった。ちゃんと向き合うべきだと。
その時に私は全てを帝都に明かすべきだった、けれど……私は彼女の事をあの人に報告した」
「それで事件は起きた。事故と見立ててミオンを消した」
「まさか、殺すなんてと……いや、違う、あの人なら殺すと分かっていたのに、私は報告した。本当に身勝手な事をしたと……思っている」
目の前で懺悔する罪人に、イナミは何も感情が湧いてこなかった。自身と関わったが為に起きた事実を淡々と飲み込んでいく。
そもそもミオンは何故、帝都や、騎士団に報告せずに、ベアリンから罪を告白する事に固執したのかはーーー、イナミはもう分かっている。
「……貴方から告白する事をミオンが固執したのは、俺がその人形だったから。俺が関わっていたから、ミオンは貴方に向き合って欲しかったんだと思います」
「……そうか……いつから、分かっていた。自身が人間では無いと」
「確信したのは、サラさんに会ってからです」
人の形をした、サラという人形。
そして、眠っている間に沢山の過去を見た。リリィの過去の中では、シロは決して歳をとる事はなく。そして、過去の復讐のために調べていたモノを見てしまった、知ってしまった。俺が人間では無いと辿り着いた事を。
生まれた時から命なんてなかった。全てが偽物な体に、埋め込まれた人格。
「ずっと、人形達……彼らに会ってからずっと違和感があったのもありますけど。心が引き摺れていく感覚があった」
「いわゆる同調……かな。人形達は不思議と会話せずとも、コンタクトが取れるらしいんだ。もしかしたら、彼らだけの空間があったのかもしれないね」
疲れたようなベアリンは笑う。
「あの子……サラは君が生まれてからずっと慕っててね。本来は君のような人形は、生まれてから数ヶ月もしないうちに大人になるんだけど。何故か、君だけは人と同じスピードで育った。だから、最初は不良品だと思って処分が決まっていたんだけど……サラが初めて私に意見してね」
『この個体は成長していますし、このまま経過観察しても良いのではないですか。もし、おかしいところが出れば、すぐ処分出来ますから』
とサラは何かと理由をつけて赤子をベアリンから取り上げた。
「今思えばサラの記憶に感化されて母親になりたかったのかもしれないね。孤児院に預ける数ヶ月は君を本物の赤子のように可愛がっていたよ」
「じゃあ、ずっと、サラさんは」
「ああ、君が死ぬまでずっと気にかけて、見守っていた。よく、友人が出来たとか意味のない報告を沢山聞かされたよ」
「……そうですか」
「君達は分からない。普段は命令に従う機械なのに、たまに人間のような振る舞いもするし間違いもする。人間らしくある為の保護機能なのか、単純な不具合なのか……直そうとしてけど、私は最後まで分からなかったよ」
作り出した研究者ですら、人形達を理解できなかったとこの会話は締めくくられた。
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