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八話 混戦
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サラの手の中から、キラキラと落ちる暗い破片。
「イナミ、敵です。2時の方向に高台に影あり」
「分かってます、レオンハルト!」
宿の方に向かってイナミは声を張り上げて合図する。二階の窓は開かれて、迷う事なくレオンハルトは飛び降りた。
崩れる事なく綺麗に着地したレオンハルトの脇には、俵のようにベアリンを抱えていた。
放心状態であるベアリンはすぐに地面に降ろされ、レオンハルトは状況を確認するためイナミに近づく。
「辺りはどうですか」
「囲まれている気配はないが、すぐにここから退くぞ」
「っ! のようですね」
一直線に向かってくる、風を切るような音。レオンハルトが気付き剣を取り出しては、敵からの攻撃を振り払う。
「怪我は」
「ないです。俺が先頭を切りますから、イナミさん後ろをお願いします。ベアリンさん、歩けますか」
2階から飛び降りた事で、気が動転しているベアリンはその場で手をついた。そこにサラが近寄ってはベアリンの腕を持って手助けする。
「ベアリン、立てますか。それとも運びましょうか」
「いや、いい。もう大丈夫だ、立てる」
サラは成人男性を軽々と体を引き上げてはベアリンに肩を貸し、共に歩き始めた。
レオンハルトは三人の足並みが揃ったところで、町の出口に向かう。
敵の攻撃を避けつつ建物の間を縫い、身を隠しながらの移動。出来るだけ、息を潜めて街中での交戦は極力避けたい。もし、戦うとなれば短期戦。長期戦はこちらが不利である。
しかし、敵も思っている事は一緒のようで、姿を現さずに遠くから術を撃ってくる。
逃げて、避けて、彷徨って、このままでは体力が消費されるばかりで埒があかない。だいたいの位置は把握できているというのに。
あとはどうするかだ。
「ベアリンさん、少し話をして良いか」
「はい? なんでしょうか」
*
とにかく、逃げ惑う四人は道の真ん中を走り抜けた。それによって、敵からは視界が開け狙いやすくなり、その好気の瞬間を逃さないために攻撃が集中する。
空から雨のように降ってくる術の槍を、レオンハルトが走りながらも的確に落としていく。
「全部っ、落とせってあの人は無理な事を言う」
文句を漏らしつつも、剣を器用に使い、鋭い風を起こしては降ってくる槍を薙ぎ払う。それでも、通り抜けてくる槍にレオンハルトの頬や服をかすった。
「あれは、なんだ」
レオンハルト達から斜め奥、四角い建物の中で敵は言葉を吐き捨てたくなるほどに驚いていた。
くるくると手の中で剣を回しては風を操る騎士の男によって、槍をことごとく潰していく。
舞う風に操られて泡のように消えていく術。攻撃を一点に集中させようが耐え抜くに姿に焦り、敵は大きく手のひらを広げて、さらに追撃しようとした。
「いっ!」
しかし、いつの間にか、その手の間合いには銀色の影が写り。ガキリッと槍と剣が重なり、音が鳴れば、手は上に突き飛ばされ、作りかけの槍は天井に突き刺さる。
突如として短剣を持つイナミが敵の前へと現れ、持っていた剣を素早く振り払った。そして、敵が撃つ寸前を狙い槍の放射線を無理矢理変えたのだった。
暗闇からイナミが出てきたように見えた敵は予想外の出来事に理解が追いつかず、その隙をイナミが逃す事もなく、頭を剣の持ち手で殴る。敵は目を上に向かせては、ぐったりと力が抜けて地面に倒れた。
ーーー、奇襲は成功した。
「……とりあえず、二人目」
まだまだ、遠距離から攻撃をしてくる者はいる。壊れた窓から、イナミは軌道を確認する。
外では、イナミを含めて四人が走っているように見える。イナミが二人いる事になるが、レオンハルト以外の三人はベアリンが作り出した幻影。
レオンハルトを囮に、イナミは粗方の敵を潰しているところだった。
「一気にやる方法とかないのか」
呟いていると黒い精霊が横から出てきて、キュキュルーと何かを言っていて、町を背景に上から下に降り注ぐような動作した。
「もしかして、全体に攻撃しろって、言っているのか」
頷く黒い精霊。しかし、さらに隣から白い精霊が出てきては、黒い精霊の上に乗っては押さえつけてはキュルキュルと嘆く。
白い方は駄目だと言っているように聞こえる。
「黒い方は実力行使だな」
白い精霊を押しのけては、黒い精霊は目の前をぐるりと一周と飛んだ。
「分かった、でも今はお前の力はいらない。住民に攻撃が当たる可能性があるし、周りの被害が大きすぎる。またにしてくれ」
そう言うと黒い精霊は羽を落とすように落ち込んだ。
「まっ、ピンチの時は頼むが」
その言葉に黒い精霊は飛び跳ねた。
白と黒で性格の違いを見つけつつ、イナミは敵を早く殲滅する為にも建物から身軽に下りていくのだった。
「イナミ、敵です。2時の方向に高台に影あり」
「分かってます、レオンハルト!」
宿の方に向かってイナミは声を張り上げて合図する。二階の窓は開かれて、迷う事なくレオンハルトは飛び降りた。
崩れる事なく綺麗に着地したレオンハルトの脇には、俵のようにベアリンを抱えていた。
放心状態であるベアリンはすぐに地面に降ろされ、レオンハルトは状況を確認するためイナミに近づく。
「辺りはどうですか」
「囲まれている気配はないが、すぐにここから退くぞ」
「っ! のようですね」
一直線に向かってくる、風を切るような音。レオンハルトが気付き剣を取り出しては、敵からの攻撃を振り払う。
「怪我は」
「ないです。俺が先頭を切りますから、イナミさん後ろをお願いします。ベアリンさん、歩けますか」
2階から飛び降りた事で、気が動転しているベアリンはその場で手をついた。そこにサラが近寄ってはベアリンの腕を持って手助けする。
「ベアリン、立てますか。それとも運びましょうか」
「いや、いい。もう大丈夫だ、立てる」
サラは成人男性を軽々と体を引き上げてはベアリンに肩を貸し、共に歩き始めた。
レオンハルトは三人の足並みが揃ったところで、町の出口に向かう。
敵の攻撃を避けつつ建物の間を縫い、身を隠しながらの移動。出来るだけ、息を潜めて街中での交戦は極力避けたい。もし、戦うとなれば短期戦。長期戦はこちらが不利である。
しかし、敵も思っている事は一緒のようで、姿を現さずに遠くから術を撃ってくる。
逃げて、避けて、彷徨って、このままでは体力が消費されるばかりで埒があかない。だいたいの位置は把握できているというのに。
あとはどうするかだ。
「ベアリンさん、少し話をして良いか」
「はい? なんでしょうか」
*
とにかく、逃げ惑う四人は道の真ん中を走り抜けた。それによって、敵からは視界が開け狙いやすくなり、その好気の瞬間を逃さないために攻撃が集中する。
空から雨のように降ってくる術の槍を、レオンハルトが走りながらも的確に落としていく。
「全部っ、落とせってあの人は無理な事を言う」
文句を漏らしつつも、剣を器用に使い、鋭い風を起こしては降ってくる槍を薙ぎ払う。それでも、通り抜けてくる槍にレオンハルトの頬や服をかすった。
「あれは、なんだ」
レオンハルト達から斜め奥、四角い建物の中で敵は言葉を吐き捨てたくなるほどに驚いていた。
くるくると手の中で剣を回しては風を操る騎士の男によって、槍をことごとく潰していく。
舞う風に操られて泡のように消えていく術。攻撃を一点に集中させようが耐え抜くに姿に焦り、敵は大きく手のひらを広げて、さらに追撃しようとした。
「いっ!」
しかし、いつの間にか、その手の間合いには銀色の影が写り。ガキリッと槍と剣が重なり、音が鳴れば、手は上に突き飛ばされ、作りかけの槍は天井に突き刺さる。
突如として短剣を持つイナミが敵の前へと現れ、持っていた剣を素早く振り払った。そして、敵が撃つ寸前を狙い槍の放射線を無理矢理変えたのだった。
暗闇からイナミが出てきたように見えた敵は予想外の出来事に理解が追いつかず、その隙をイナミが逃す事もなく、頭を剣の持ち手で殴る。敵は目を上に向かせては、ぐったりと力が抜けて地面に倒れた。
ーーー、奇襲は成功した。
「……とりあえず、二人目」
まだまだ、遠距離から攻撃をしてくる者はいる。壊れた窓から、イナミは軌道を確認する。
外では、イナミを含めて四人が走っているように見える。イナミが二人いる事になるが、レオンハルト以外の三人はベアリンが作り出した幻影。
レオンハルトを囮に、イナミは粗方の敵を潰しているところだった。
「一気にやる方法とかないのか」
呟いていると黒い精霊が横から出てきて、キュキュルーと何かを言っていて、町を背景に上から下に降り注ぐような動作した。
「もしかして、全体に攻撃しろって、言っているのか」
頷く黒い精霊。しかし、さらに隣から白い精霊が出てきては、黒い精霊の上に乗っては押さえつけてはキュルキュルと嘆く。
白い方は駄目だと言っているように聞こえる。
「黒い方は実力行使だな」
白い精霊を押しのけては、黒い精霊は目の前をぐるりと一周と飛んだ。
「分かった、でも今はお前の力はいらない。住民に攻撃が当たる可能性があるし、周りの被害が大きすぎる。またにしてくれ」
そう言うと黒い精霊は羽を落とすように落ち込んだ。
「まっ、ピンチの時は頼むが」
その言葉に黒い精霊は飛び跳ねた。
白と黒で性格の違いを見つけつつ、イナミは敵を早く殲滅する為にも建物から身軽に下りていくのだった。
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