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三話 悩み
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アルバンと一通り話したイナミとレオンハルト。イナミが起きてすぐだった事もあり、体を休ませるため各自で借りた部屋で早々に休むことになった。
「三日か」
イナミはベッドに仰向けで寝転びながら考えた。
再度、評議会開かれるのは三日後。アルバンを含めて、最終的な決断が下される。
極端な話だが生かす、生かさないかの決断だ。
そこまでいくと、結果が最悪であろうと覆す事はほぼ不可能である。
決定的なもの。
少数精鋭だとしても城に攻めるなんて事はまず無理があるし、敵が城にいる限りは、身の潔白はこちらが示し出さなければいけない。
どこから手をつけていいのか。考えを練りたいのは山々だが、色んな事が頭に詰め込まれてぐるぐると回る。
「駄目だ……今日は」
何も機能しない脳に苛立ちを覚える。
現状を理解している筈なのに、血を見てからずっと動揺していて、心と反するように体が重く沈んでいく。考えれば考えるほどに、漆黒に向かって転がっていくような感覚になり、さらに気分を害した。
そんな纏まらない思考の中、静かに扉を叩く音が聞こえた。扉の向こうには誰がいるのか、分かっていたから相手が答える前に
「入っていいぞ」
「えっ、はい」
先に言われた事で相手はゆっくりとドアノブを回し隙間から跳ねる黄色が顔を出した。
「どうした、レオンハルト。何か心配事でもあるか」
「いえ、俺は無いんですけど……気になって来ました」
こちらは怒る気はないというのに、罰が悪そうに体を小さくして部屋に入って来たレオンハルト。
「隣に座っても」
俺は起き上がり隣に一人分のスペースを作ると、レオンハルトはベッドの縁に腰を下ろした。
壁を背にしているから、レオンハルトの背中だけが見え、表情は何も伺えない状態である。
「あの、ここに来てから表情が浮かばれないので。その何か、悩み事があるなら聞きますけど」
「……」
「嫌ならいいんですど。一応、友人……仲間としてわだかまりを取っておきたいだけです」
今日はもう誰かと話せる気力は無かったが、どんどんと小さくなっていく背中を見ていると落ち込んでいる場合ではないようだ。
こんな時に、一緒に落ち込んでいるようでは、先の事をどうこうも言えない。
「……色々考えていた。昔の事とか、今の事か。沢山の人達を巻き込んで何をしているんだとか。それを一気に処理しようとしたら、体が追いつかなかっただけだ」
気まずい会話。
一コマ開くように、少しだけ息を吸ったレオンハルトはポツリと言った。
「ーーーフィルと彼奴は大丈夫です。それに、根が腐った彼奴ならどれだけ切ったところで死にませんから」
「ふっ」
こんな時に、思わず笑ってしまった。
散々嫌味を言っておいて死ぬ事はないと言い切ってしまうところが、やっぱり信頼しているのだと。
「なんですか」
「いや、なにも。慰めてくれてありがとう」
「……っ別に……慰める為に言ったわけではなく」
「どっちだっていいよ。ーーー全てが終わったらロードリックと仲直りしろよ。お前の唯一の理解者なんだから」
レオンハルトとロードリックは、お互いに色眼鏡かけず平等に見てくれる存在なのだから、吐き捨てるには勿体無い存在だと思う。
よっぽど嫌だったのか、横を向いたレオンハルトの顔には苦渋という文字が眉間に刻まれていた。
「善処します」
「相変わらずだな」
「イナミさんは昔から彼奴に対して優しすぎると思います」
「そうか? 昔から変わらず、お前だろうとロードリックだろうと扱いは平等にしているつもりだが」
「じゃあ、今はどうなんですか」
ベッドの縁に膝をかけたと思えば、レオンハルトはこちらに手と膝を使ってにじり寄って来た。
「俺に対してどうなんですか」
「どうって、今の行動すら意味がわからないんだが」
どこか熱っぽい蒼い瞳が距離を詰めて寄るから、背中は壁だというのに後退りしてしまう。
「分からないのなら、逃げないでください。分からないままになるでしょ」
「じゃあ、来るな」
変な空気になって、攻めて来るレオンハルトに俺は逃げた。
逃げるな、来るなと、よく分からない攻防戦を続けているとイナミはついに壁の端へと追いやられる。
近づくなと何度も言っているのに、這い寄って来る者に苛立ちを覚えたイナミは片足を上げてはレオンハルトの肩を押し、動きを止めさした。
「やめろ、怒るぞ」
「いいですよ、怒ってください」
レオンハルトは、イナミの足首を手に取ってグッと押し返す。
さらに体の密着度が増して、イナミの顔に艶やかな金色の髪先が頬に当たる。
10年前とは違う大人になった顔が、視線がイナミを捕らえて離さなかった。
「ーーーなぁ、俺にはよく分からない」
「大丈夫、いずれ分かりますから」
コイツがずっと向けてくる感情が理解できない。言葉の全てがじんわりと温かさがあって、それでいて捕えようとする冷たい鋭さもある。
俺をどうしたいのだろう。
持っていたイナミの足を下ろしては、レオンハルト股の間に自身の体を割り込ませては、体重もかけてイナミの身動きができないようにする。
そして、拘束するように手首に巻かれるのは火傷しそうな熱く骨ばった手。流されように押し倒されてしまったイナミは、抵抗はしなかったーーー、する気力はもうなかった。
「なぁ、弱みにつけ込んでいる自覚あるか」
「ありますよ。別に聖人になったつもりはないので……だから、全てを、全部を俺のせいにしてください」
ずっと息を殺した獣は、薄く開いた唇に食らいつく。
やはり、鉄の味がした。
「三日か」
イナミはベッドに仰向けで寝転びながら考えた。
再度、評議会開かれるのは三日後。アルバンを含めて、最終的な決断が下される。
極端な話だが生かす、生かさないかの決断だ。
そこまでいくと、結果が最悪であろうと覆す事はほぼ不可能である。
決定的なもの。
少数精鋭だとしても城に攻めるなんて事はまず無理があるし、敵が城にいる限りは、身の潔白はこちらが示し出さなければいけない。
どこから手をつけていいのか。考えを練りたいのは山々だが、色んな事が頭に詰め込まれてぐるぐると回る。
「駄目だ……今日は」
何も機能しない脳に苛立ちを覚える。
現状を理解している筈なのに、血を見てからずっと動揺していて、心と反するように体が重く沈んでいく。考えれば考えるほどに、漆黒に向かって転がっていくような感覚になり、さらに気分を害した。
そんな纏まらない思考の中、静かに扉を叩く音が聞こえた。扉の向こうには誰がいるのか、分かっていたから相手が答える前に
「入っていいぞ」
「えっ、はい」
先に言われた事で相手はゆっくりとドアノブを回し隙間から跳ねる黄色が顔を出した。
「どうした、レオンハルト。何か心配事でもあるか」
「いえ、俺は無いんですけど……気になって来ました」
こちらは怒る気はないというのに、罰が悪そうに体を小さくして部屋に入って来たレオンハルト。
「隣に座っても」
俺は起き上がり隣に一人分のスペースを作ると、レオンハルトはベッドの縁に腰を下ろした。
壁を背にしているから、レオンハルトの背中だけが見え、表情は何も伺えない状態である。
「あの、ここに来てから表情が浮かばれないので。その何か、悩み事があるなら聞きますけど」
「……」
「嫌ならいいんですど。一応、友人……仲間としてわだかまりを取っておきたいだけです」
今日はもう誰かと話せる気力は無かったが、どんどんと小さくなっていく背中を見ていると落ち込んでいる場合ではないようだ。
こんな時に、一緒に落ち込んでいるようでは、先の事をどうこうも言えない。
「……色々考えていた。昔の事とか、今の事か。沢山の人達を巻き込んで何をしているんだとか。それを一気に処理しようとしたら、体が追いつかなかっただけだ」
気まずい会話。
一コマ開くように、少しだけ息を吸ったレオンハルトはポツリと言った。
「ーーーフィルと彼奴は大丈夫です。それに、根が腐った彼奴ならどれだけ切ったところで死にませんから」
「ふっ」
こんな時に、思わず笑ってしまった。
散々嫌味を言っておいて死ぬ事はないと言い切ってしまうところが、やっぱり信頼しているのだと。
「なんですか」
「いや、なにも。慰めてくれてありがとう」
「……っ別に……慰める為に言ったわけではなく」
「どっちだっていいよ。ーーー全てが終わったらロードリックと仲直りしろよ。お前の唯一の理解者なんだから」
レオンハルトとロードリックは、お互いに色眼鏡かけず平等に見てくれる存在なのだから、吐き捨てるには勿体無い存在だと思う。
よっぽど嫌だったのか、横を向いたレオンハルトの顔には苦渋という文字が眉間に刻まれていた。
「善処します」
「相変わらずだな」
「イナミさんは昔から彼奴に対して優しすぎると思います」
「そうか? 昔から変わらず、お前だろうとロードリックだろうと扱いは平等にしているつもりだが」
「じゃあ、今はどうなんですか」
ベッドの縁に膝をかけたと思えば、レオンハルトはこちらに手と膝を使ってにじり寄って来た。
「俺に対してどうなんですか」
「どうって、今の行動すら意味がわからないんだが」
どこか熱っぽい蒼い瞳が距離を詰めて寄るから、背中は壁だというのに後退りしてしまう。
「分からないのなら、逃げないでください。分からないままになるでしょ」
「じゃあ、来るな」
変な空気になって、攻めて来るレオンハルトに俺は逃げた。
逃げるな、来るなと、よく分からない攻防戦を続けているとイナミはついに壁の端へと追いやられる。
近づくなと何度も言っているのに、這い寄って来る者に苛立ちを覚えたイナミは片足を上げてはレオンハルトの肩を押し、動きを止めさした。
「やめろ、怒るぞ」
「いいですよ、怒ってください」
レオンハルトは、イナミの足首を手に取ってグッと押し返す。
さらに体の密着度が増して、イナミの顔に艶やかな金色の髪先が頬に当たる。
10年前とは違う大人になった顔が、視線がイナミを捕らえて離さなかった。
「ーーーなぁ、俺にはよく分からない」
「大丈夫、いずれ分かりますから」
コイツがずっと向けてくる感情が理解できない。言葉の全てがじんわりと温かさがあって、それでいて捕えようとする冷たい鋭さもある。
俺をどうしたいのだろう。
持っていたイナミの足を下ろしては、レオンハルト股の間に自身の体を割り込ませては、体重もかけてイナミの身動きができないようにする。
そして、拘束するように手首に巻かれるのは火傷しそうな熱く骨ばった手。流されように押し倒されてしまったイナミは、抵抗はしなかったーーー、する気力はもうなかった。
「なぁ、弱みにつけ込んでいる自覚あるか」
「ありますよ。別に聖人になったつもりはないので……だから、全てを、全部を俺のせいにしてください」
ずっと息を殺した獣は、薄く開いた唇に食らいつく。
やはり、鉄の味がした。
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