その名前はリリィ

イケのタコ

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八話 地下道の続き

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シロと別れた後、杖は腕輪に戻る。

『あそこで何かの実験をしていたのは確実だね。ここまで来てやっと前進って感じ』

リリィが魂を入れ替える術式を描いたのは城の地下だった、という事実を手に入れて地上に戻る事にしたイナミは、また暗い地下道を精霊と共に歩く。

『酷い傷を負った僕はあそこに偶然に迷い込んだ。術式を描いてどうにか怪我を治そうとしてーーー魂が入れ替わってしまったと言う線が確実かな』
「そうなると。俺を生き返したのが、まぐれだった事になるが」
『そうじゃない? そもそも人を生き返すなんて、前代未聞なんだからさ』
「そうか……?」
『そうだよ。君だって、術の恐さというものは知ってるでしょ。一つ間違えれば自身を滅ぼす爆弾だよ』

ここまで来て術の恐さを充分と理解させられたが、リリィは傷を治すための術式が間違えたと言う事なのか。理屈としては通るが、今一リリィの目的が見えてこないと感じる。
杖の目的としては、リリィ本体をここまで追い詰めた者達に復讐したいというもの。動機はどうあれ、主犯を突き止めるという目的は同じ。それでも杖との会話に何かが引っかかり納得がいかない。
 
リリィを最後まで追い詰めたのは騎士であって復讐するのは騎士団になる筈だが、こちら側を手伝っている。いや、その前に、様々な事件に関わっているサエグサと何かがあったと考えるべきーーーしかし、上手く考えは纏まらず。ここでは杖の意見を否定するのは、やめておこう。

「リリィはあそこにシロさんが来る事は、分かっていたんだな」
『……まぁ、うん』
「一緒に行かなくて、よかったのか」

話題を変えるためリリィにそう言うと、あからさまな溜め息を吐かれた。

『もう一度言うけど、僕はただの物であって杖だよ。僕はイナミがいないと術は発動されないし、君を誘導するための道具。ただの物なんだからシロに渡したところでだよ』
「行きたそうだったから」
『もしかして、シロに同情してる? 言っとくけど、彼はサエグサであって君を殺そうとした敵だよ。次に会った時、首を落とされる覚悟ないと、本当に死ぬよ』
「……分かった。そこまで強がるなら何も言わない」
『強がってなんかな、ない。僕は道具で、ただの杖なんだ、感情なんかない』
「分かったから、さっさと屋敷に帰るぞ」

自分で振っておいて、この会話をここで強制的に終わらせた。
これ以上、話せばリリィが傷つくのは容易に想像できた。何故なら、シロの顔があらわになった時、待ち侘びていたように心が震えたからである。決して俺ではないと理解できるほどの、喜びのような震えを感じた。そして、この感激は心の中に微かに残るリリィだと理解した。
だから、もうこの会話は終わりである。
 
会話を一通りしたイナミ達は黙々と地下道を歩く。
思うのは、果てまで続きそうな道はどこまで繋がっているのだろうか。
落ちてきた穴から、さらに向こう側にも道があり。進めば、分かれ道も出てきて、どこまで続いているのか。端から端まで歩いてみたい好奇心はあるが、時間が無い事も忘れてはいけない。

「精霊はこの地下道の出口は分かるか」

灯りをしている精霊は振り返り、任せと言うように大きく上下すると行く先を爛々と進み始めた。

『精霊は風の通り道が分かるんだよ。豆知識』
「へー不思議な生き物だな」
『一説には自然が具現化したものとか。精霊が現れる前には何かしらの災害が起きるという報告あるから、一説としてそう言われているんだ。もちろん、証明はできないけどね』
「随分詳しいな。そういう学校に行っていたのか」
『学校か、行った事ないけど……サエグサの魔術師でもあると同時に精霊使いだからね。魔術の知識はほとんど精霊やサエグサに教えてもらったよ』 

『ほら、見てよ。出口が見えてきた』と言われて目を凝らし見てみると、確かに奥には鉄の扉一枚構えており、扉の隙間から違う光が微かに差し込んでいるのが見えた。
扉一枚隔てた向こう側からは水の流れる音がする。
近づいて開けてみると、そこは帝都の下水道であった。
下水道は、関係者以外の立ち入りは禁止のエリアであり。きっと人を生き返らせる研究していた者達はここから出入りしていた事が伺える。

『下水道なら、使えなくなった遺体を流せるね』
杖が物騒な事を言っているが気にせず、地上に続くマンホールを見つけて梯子で上がる。
マンホールの蓋を開け出てきた地上は、使用人達が良く扱う建物側、城の裏側と呼べる所に上がってきていた。
理想は下水道を通って、レオンハルトの屋敷までと言いたいが、一度迷い込めば帰る事が出来ない可能性があったので、やめておいた。

『彼に伝えないとね。無事に終わったよ、って』
「だな」

イナミはポケットを探り指輪を取り出した。その指輪の真ん中には魔法石が埋め込まれており、魔法石をトンットンと不規則に指で叩くと同じように振動し指輪がゆれる。

「これで伝わった筈」

この指輪は対になった物がもう一つあり、今はレオンハルトが身につけている。叩いた振動は数メートル先までつけている物に同じ振動を伝える事が出来る優れもの。
通信機であるから、数分経ってから同じように不規則な振動が返ってきた。これで、レオンハルトに無事を知らせる事ができたようである。
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