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五話 帝国の記念日
しおりを挟む城に行くと決めた日に、作戦という名の大まかな段取りをレオンハルトと決めた。
そして数日後、建国記念日を祝う祭が開かれ、帝都の街並みは様々な飾りで豪華に色付けされていた。演劇や、展示、沢山の催し物もあって毎年の如く、大いに盛り上がりをみせていた。
「どうぞ、お花。大昔、初代帝都の国王様が愛したと言われるお花ですよ」
「ありがとうございます」
白いワンピース着た女性は籠に入った、白い花を一つ取り出してはイナミに手渡した。
茎の部分を手に取るとゴワゴワとした厚み。布で作られた花であったが、本物のように細かく再現してある。
「この花にはとても良い花言葉があるのですか、ご存知ですか」
「いえ、知らないです」
「純粋や無垢って意味があるのですよ。帝都では清らかに毎日を送ってくださいという意味で送ったりするのですよ」
「へーそうだったんですね」
お祝いされる時はこの白い花がよく届いた事をイナミは思い出す。花が綺麗だから意外にも、そう意味合いがあったのかと今さらながら学んだ。
「では、建国記念祭。楽しんでくださいね~」
そう言って女性はイナミに手を振って、また別の誰かに作り物の花を渡しに行く。
壁に寄りかかり、手持ち無沙汰だったイナミはもらった花を指先でくるくると回した。
丁度、澄んだ青い空と白い花が重なりあって綺麗であった。
「すっ、すいません。やっと終わりました」
駆けつけ来たのはレオンハルト、今日は建国記念日もあって騎士団の制服をきっちりと着こなしている。
そう今日は記念日であり、色んな国や町から人々が来客する日。レオンハルトは老若男女問わずに挨拶され、最終的には連行されるほどの人気に驚いたが、この10年間それだけ人脈作りを頑張ったという事だろう。
「まだ用があるなら、行ってこい。式もあげてないんだ」
記念日には、建国を祝福するための式があげられる。その際、国王が自ら城から出てきては、広い庭で演説するのがお決まりである。その後、夜には城の中で有識者だけが集まる食事会が開かれて、一騒ぎした後に記念日が終わる。
イナミが城の中に唯一入れるタイミングはその夜に行われる食事会である。有識者以外にも使用人や騎士が城の門を行き交うので紛れる事が可能である。
「もう、離れる事はないですよ。それに、出来るだけ貴方の隣にいたいですから」
「俺って、そんなに信頼ないか」
「信頼はしていますよ。だから、心配なんです」
そう言ってイナミの片腕を取ったレオンハルトは、自分の方に引き寄せた。
「それを信頼っていうのか」
「言いますよ、過去の積み重ねを信じる事ですよね」
「違うような気がするが」
くすりと、笑うレオンハルト。
紅茶を作ったあの日以来から、レオンハルトの表情が少しだけ緩んだ気がする。
きっかけはなんとも言えないが、あからさまな会話のもつれが無くなったので好転だったといえる。あの時に紅茶を勧めてくれた精霊のおかげでもある。
「式がそろそろだな。二番隊の騎士隊長様はどちらに。演説する近くに行かないと、だな」
「ここにいますよ。一応、重犯罪者の保護観察者となっているからね」
「良い言い訳ついたな。ロードリックに睨まれただろ」
「よく、分かりましたね。まぁ、アイツは肩入れしている事を知っていますから、余計に警戒しているのでしょう」
睨みを効かせた不満げな顔が見なくとも想像がつく。もし、ロードリックの立場ならレオンハルトを吐くまで問い詰めていたからまだ優しい方だ。
苦笑しながらイナミは、手に持っていた作り物の花をレオンハルトの胸ポケットに差し込んだ。
「あのなんですか、これ」
「うん、そうだな。花で安寧を送っているんだ」
「ーーーあの、理解ができないんですけど」
「なぁ、レオンハルト。俺がもし城の者に捕まったら、お前は関係ないと突き通せよ。俺との関係はただの保護観察で、逃げ出した脱走犯だと言え」
「嫌です。俺は、」
「いいかーーー」
言いかけたレオンハルトの返事を遮ってまで話を続けた。
「一番最悪な事態は共倒れする事だ。どちらかが残る事が重要なんだ。今まで知りたい事や知った事が全部無駄になる。だから、そうなった時は俺を見捨てろ」
「……それでも」
随分と小さな声だった。怒りもあるのか腕を持つ手に力が入る。
「レオンハルト、俺はお前を信じているからこそ言っているんだ。信じてないとここまで言えない。だから、お前ならやってくれるよな」
「……」
「言っておくが、捕まるのは俺だって嫌だ。そうならないように立ち回るし、深入りしないから、安心しろ」
「そうしてください」
レオンハルトは顔背けた。
すると、ワイワイと祭りで楽しげ声だった周りが、一気に緊張感ある静寂が訪れた。理由は城の中からベランダに、帝国の王族が出てきたからである。静寂は騒ぎになり、一気に声援へと変わり、みな城の方に手を振り始めた。
話している内に、王による演説が始まっていたようで注目の全てを持っていく。
建国記念日もあって、奥方に第一王子に第二王子のジェイドに第三王子と、息子や娘も全員揃えて顔を出し、従兄弟も加わり王族が勢揃いといったところだ。
珍しく集まった王族を一目見ようと城に人の群れが集まっていく。
陽気な音楽も鳴り始め、紙吹雪が噴射された。ヒラヒラと落ちてくるさまざま紙吹雪。見た目も音も騒がしい、世界でレオンハルトはイナミの腕から手を離し、対面に立つように移動する。
「抱きついてもいいですか」
「えっ、ここでするのか」
「ここでしたいです。次はないかもしれないので」
「まぁ、そうなるかもしれないけど……不謹慎な事を言うな」
「また、いつになるか分かりませんから」
ハグくらい軽いものか。周りは城に夢中。家族や友人がよくやっているし、レオンハルトとはそれなりに長い付き合いでもあるから断る理由もないか。
「んっ」
少し恥ずかしいが両手を開いて抱きついても良い事を合図する。
そして、レオンハルトは犬みたいに近づいてきては包み込むように抱きついてきた。
心臓の音が聞こえる、息遣いを感じる。体温はやはり暖かい。そして、耳元に息が当たってこしょばい。
「ーーー俺は貴方の事が好きです」
「うん? 俺も好きだよ、レオンハルト」
信頼の確認だったのだろうか。
その事を伝えるとレオンハルトは満足したのか、ゆっくりと体から離れた。
「信頼していますから、イナミ隊長」
「もう、隊長じゃないけどな。任せろ」
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