騎士隊長はもう一度生き返ってみた(その名前はリリィ)

イケのタコ

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十話 

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「同じ人間が二人って事は、どちらかが幻影って事だ」

ニードは箱を持って後ろに下がる。
二人を守るように立つレオンハルトと、こちらに剣を向けるレオンハルト。

「君達は後ろに下がって」
「二人ともソイツから離れろ」

先程まで付いてきていたレオンハルトは、剣を取り出してはもう一人に突き立てた。
どちらも同じ姿、どちらも同じ声、そして手に持っている剣も同じである。

「どっちだ」
「このさい、どっちでも良い。それ持って離れるぞ」
「ちょっ」

イナミは急かすようにニードの背中を押しては、まだ残っている幻影の草むらに身を寄せた。
二人が安全な場所に移したのを合図に、向こう側に立つレオンハルトから攻撃を仕掛けた。
先程のような大振り攻撃はせず、同じレオンハルトを的確に狙うように剣を振り下ろした。

「どっどっちに応戦したら良いんだ。というかどっちが本物だったんだ」
「分からないまま、手出しする方が危ないだろ。それにレオンハルトの事だ、すぐに決着がつく」

目の前で繰り広げられるのは同じ人間同士が剣で戦う奇妙な姿。激しく剣を交わす間に入る隙もなく、ニードとイナミは見守るしかなかった。

そして、イナミが言った通りに事はすぐに起きた。
お互いに引けを取らない速さだったが、一方がどんどんとついていけなくなっては、振り下ろされる剣を防ぐのに目や力を消耗していく。
一方的な攻撃に守りに入っていたレオンハルトが、圧倒されて一歩引いてしまう。その瞬間を狩り人が逃す筈もなく剣を強く弾かれ、握っていた手を思わず離した。
空に飛んだ剣は、回転しながら無情にも遠くの方に突き刺さる。
急いで剣を取りに行こうとしたレオンハルトの首には剣が添えられ、同じ姿の二人の勝負はついた。

「手を挙げて、殺しはしない」
「ちっ」

勝った方のレオンハルトは今にも切りそうな勢いで首に剣を突き立てる。負けた方のレオンハルトは手を挙げると舌打ちをした。
 
「君たちの事は分かっている、術を解け」
「ふっ、ふっ」

下を向いて不気味に笑い出したレオンハルト。

「ザンネーン不正解」

剣を突き立てていたレオンハルトは、何かに気がつき勢いよく剣を横に振ったが、遅く。笑っていたレオンハルトは煙のように二つに割れては、散りのように消えていった。

「……逃げられたか」

諦めたように剣を鞘にしまう。
どちらが偽者で本物か、一人いなくなった事により明確になったのでニードとイナミは草むらの影から出る。

「リリィっ……良かった怪我ないみたいだね」

さっそく残ったレオンハルトの方はイナミに近寄っては土埃がついた頭を撫でるように払う。その妙な優しさが『あの時』を思い出し、イナミは居心地が悪くなってはレオンハルトの視線から顔を背けた。

「あの、レオンハルト隊長。僕の心配もしてくれませんか、状況が一緒でしたけど」
「君はロードリックのところの部下だから、心配ないと分かってからね。でも、彼は魔術を封じられているから心配だったんだよ」
「まぁ、ーーーそうですね」

重要参考人で、魔術を封じられた魔術師は力のない一般人とほぼ変わらないから仕方ないか、と頭を傾けながら納得するニード。

「君たちをすぐ見つけられて良かったよ。まさか、偽者と一緒だとは思わなかったけど」
「やっぱり、僕らと一緒の方が偽者だったんですね」

再び魔術師としての格差を見せつけられた新米は、次はガックリと腰まで落とした。

「もう一度、魔術師としての基礎を学ぼうかな」
「そんなに落ち込まないでよ、私達も騙されたから。幻術って分かったのもさっきだったし、君達の方が気づくのが早かったんじゃないかな」
「良い感じに慰められてる気がする」

笑い飛ばすレオンハルトに、さらに項垂れるニード。

「あっ! 隊長達は大丈夫ですか」
「大丈夫、なんならロードリック達を置いてここに来たから」
「なぜ、そんな事を。隊長達が危ないんじゃ」
「ロードリックはこんな事で下手はしないし、そこら辺は信頼しているから安心してよ」
「はぁ、分かりました」

ニードは心配だという顔が出ていた。イナミは、ロードリック達なら急な出来事があっても対処は出来るだろうとレオンハルトと同じ意見である。

「それより、幻影を出している箱はどこに。それを対処しないと先に進めないや」
「あのこれです」

ニードは大事そうに持っていた箱を取り出しては、レオンハルトの足元に置く。

「実はまだ解読がまだで、僕が今からするにも時間が掛かるし、同じ魔術師がいるロードリック隊長の所に持っていた方が早いかと」
「なるほどね」

レオンハルトは黒い箱をじっくりと見ては、一つだけ質問をする。

「これって外から壊せるの。もちろん物理的に」
「強い威力を与えれば壊れますけど、今のところそんな武器もないので、壊すより術を解いた方が早いですね」
「分かった、ありがとう」

「少し離れて」と言うレオンハルト、二人は何か策があるのかと言う通りに箱から離れる。
離れたのを確認したレオンハルトは柄を再び握っては鋭い刃を下に向けた。

「えっ」
「はぁ?」

二人の呆気に取られた声と共にバキリッと金属が破壊される硬い音が森に響き渡り。
周りが更地だった筈の景色が泡のように弾けては、再び草木が生える地に戻る。
足を動かせば、草は折れて地面に足跡がつく。草が綺麗に戻る事がなければ、足跡が消える事もない、幻影は解けて現実に帰って来たのだ。
「良かった、戻ったみたいだね」

ニコニコと機嫌が良さそうに辺りを見渡すレオンハルトの足元には穴が空いた黒い箱と、半分無惨に砕けた剣が落ちていた。

「おい、こら……何してんだよお前、剣が砕けてるだろうが」

何が起きたのか理解したイナミは、折れた剣を拾ってはレオンハルトに詰め寄った。

「これ一つ作るのにどれだけ時間と金がかかると思ってるんだよ」
「えっと、スペアあるし……術も解けたからいいかなって思って」
「そう言う話をしてない。聞いていたのかお前、ニードが術で解除できるって言ったよな。なのに大事な剣を壊しやがって、しかも現時点でお前しか好戦できる奴いないんだよ」
「いや、時間かかるって言われて手間だなって。それに隊も近くいるし安全だと思って」
「じゃあ持っていけ、剣を壊す意味ないだろ。そういうところがロードリックに言われるんだよ」
「そんなに怒らなくても」

イナミは、10年という月日で忘れていた。レオンハルトは騎士になる前からそれなりに剣の扱いが上手く、力も強かった。それゆえに力で解決できる事柄は大雑把になるという事を。
大事な備品を壊されたのは数知れず、両手では数え足りないぐらいだ。
戦っている限りは備品が壊れるのは仕方ない。壊さなくていい物を極力壊さない用につとめるのも当然である。

「すごい! 剣でぶっ壊した」

ニードは壊れた箱を拾い上げ、剣を突き立てただけで核ごと壊した事に驚きつつ関心していた。

「流石、レオンハルト隊長って感じですね」
「いや~あはは」

照れ笑うレオンハルトに「褒めることじゃないからな」とイナミは憤慨する。

「あれ……? 今思うとリリィの手首に巻いていた紐はどうしたの」
「レオンハルト隊長。あの隊長に言わないで欲しいですけど」

ここまで到達した経緯をレオンハルトに包み隠さず話すニード。自己の判断で縄を切った事もしっかりと話す。
 
「みている感じでは魔術師としての実力は全くないです。見張っている限りは、このままでも良いと思います」
「私も同じ意見だ。彼からはこちらに一切敵意を感じないし、いずれそうしたいと思っていたところだから」

イナミも、縄が解かれ自由の身になっても追われている以上は逃げる気はない。
ここで問題なのは、どうロードリックを説得させるかだ。

「とりあえず、敵に縄を切られた事にして、ロードリックの説得はこちらで考えておくよ」
「あっありがとうございます」

ニードのおかげで手足が自由の身になったイナミだったが、何故か喉奥で唾が引っ掛かり気分が悪くなる。

この後の展開に嫌な事があると予期しているのか。背中がゾワゾワと悪寒がするのは気のせいだと思いたい。
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ここまでの長編を最後までお読みいただきありがとうございます100お気に入りありがとうございます
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