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四話
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「酷いありさまだな」
騎士団の一人がある惨状を見て呟いた。
ここは帝都からは遠い東の町。自然豊かで静かな村だったが、たった一夜が明けてから悲惨な事件が起きていた。
それは、宿の店主が首の無い状態で見つかったのだ。カウンターには血だまりがつくり、ご丁寧に椅子に座らされた状態で、朝起きて来た客によって騎士団に通報が入った。
「ここの店主はかなりの浪費家だったらしく、前々から旅人や村人と金の貸し借りで揉めていたらしいです。今回はそれが原因だと思われます」
身辺調査をしていた騎士から説明を受けるレオンハルト。
「すいません、レオンハルト隊長」
「どうした」
「店主の懐からこれが……」
レオンハルトを呼びかけ、新人のフィルが持ってきたのは金の指輪。指輪の裏側には帝国騎士である刻印が刻まれている。それは、誕生日会場で身につけていたレオンハルトの指輪であった。
「あの、レオンハルト隊長、こんな事を言うのはなんですが、彼ではないような気がします」
「私もそう思いたいよ。それより、フィル。顔色が悪いから外で空気を吸ってきた方がいい」
「……はい、すいませんがそうさせていただきます」
青白い顔に泳ぐ目、相当我慢していたのかフィルは口を手で覆い、宿を飛び出しては嗚咽の音が聞こえてくる。
「まだまだ新人ですね。まぁ今回は慣れていても相当きついですけど」
「慣れるのも嫌だけどね。部屋はどうだった」
もう一人の騎士がレオンハルトに近づいて来ては、犯人が泊まっていただろう部屋の状況を報告する。
「部屋の前の廊下に一人が同じ状態で亡くなっていました。
魔術によって移動の痕跡が一つと、廊下にて死んでいた旅人と揉め、暴れた形跡がありました。部屋で血は見つかっておりません」
「暴れた形跡はありか」
「転移魔術で飛んだと思われますが、一つ気になるのは窓から出て行った形跡があります。魔術が使えるのになぜ彼は窓から出て行こうとしたのでしょうか」
「確かに、それは不思議だね……もしかしたら、魔術を使ったふりをしたのかもしれない。そうなると、周辺にいる可能性が高い、捜索を続けてくれないかい」
「分かりました、伝えてきます」
その騎士は宿を出る。
そして、レオンハルトは何も言わず手の中にある金の指輪を強く握った。
手を開くと指輪の形に赤い跡がついた。
*
夜に襲撃を受けて理解した、アンお嬢様の屋敷に居る事が一番の安全であったと。
仕事としての環境は最悪だったが、狙われている身としては、隠せる場所はあそこが最適である。
イナミは襲われてから結局、夜通しで別の町に行く事ととなり。そこで、金に変えられそうな物は売ってから、また別の場所に移すというのを繰り返しては数日、身を潜めるように目的の場所を目指した。
長距離を歩くたび魔術師が欲しいと、それは俺だったと何度も思いながら今は、お腹が空いたので町でパンを買って外で食べ歩いていた。
ふと、パンを食べて思う、精霊は何を食べているのだろう。話したい時だけ出てきては消えるから、食事をしているところを一度も見たことがない。
そこも、不思議の一つなのか。
「おいおい、隣の村で首のない死体が見つかったって」
「ひぃー嘘だろ、くわばらくわばら。最近の事件は酷いものばかりだわ。この前だってーーー」
住民の立ち話は続く、一部を聞いていたイナミは食べていたパンを喉に詰めそうになる。
話は隣の村であり、首がない死体が出てきたとなると、思い当たる節がありすぎるからだ。
まさか、数日前にあの村か。それに首のない死体って。
サエグサは手段を選ばない。だから、少しでも経緯を見た者は口止めに全て排除され、首だけが持っていかれる。
『主に首を捧げる』とサエグサの信念なのかは知らないが、これが騎士の時も厄介で、死体の身元確認も遅くなるのもそうだったが、こちらをわざと揺さぶり撹乱させるためである。
その人だと思っていた死体がすり替わっていた、というのはよくある事で
……不味いな、俺が騎士に捕まるのでは。
あの宿には、俺が居たという物的証拠が残り過ぎている。
一度失敗したサエグサがもう一度素直に殺しに来るとは思えないし、見つけられないのなら、騎士を使ってでも炙りだすはずだ。
「すみません、お尋ねしたいのですが薄茶色の髪をしたこれくらいの青年は見なかったですか」
その言葉に反応したイナミは、壁の角に身を潜める。イナミには話しかけた訳ではなく、もっと向こうのほうから話し声が聞こえてくる。
「写真はあるのかい?」
「このような白い制服のような物を着ているのですが、そのような人間はお見かけしませんでした」
「この白い制服……どこかで」
「本当ですかっ!」
その制服が載っている写真を見せると悩む住民に、写真を見せるのは当然、騎士団だった。数日でもう事件の話が出回っているのか、住民に話しかけ回っている。
指名手配のような扱い。騎士に追いかけられるとなると悩んでいる暇はない、ここから早く離れた方が良さそうだと、イナミは忍足で後ろ向きに下がってはさらに暗闇に潜もうとした。
しかし、逃げようと背中に当たったのは硬い壁ではなく、肉のような弾力があるものにぶつかる。
「すっーーー」
人にぶつかったと理解した瞬間に血の気が頭から引いていくイナミ、に対してのぶつかられた者は腕を組む。
「貴様がリリィだな」
「えっと……別人ですかね」
振り返って距離を取り、イナミが意味の無い嘘をついてしまうのは目の前にいる男が、元部下であるロードリックだったからだ。
「捕まえろ」
「はい」
鬼の形相に逃げたくなるが、逃げるには遅くイナミは後ろから騎士によって捕縛された。
騎士団の一人がある惨状を見て呟いた。
ここは帝都からは遠い東の町。自然豊かで静かな村だったが、たった一夜が明けてから悲惨な事件が起きていた。
それは、宿の店主が首の無い状態で見つかったのだ。カウンターには血だまりがつくり、ご丁寧に椅子に座らされた状態で、朝起きて来た客によって騎士団に通報が入った。
「ここの店主はかなりの浪費家だったらしく、前々から旅人や村人と金の貸し借りで揉めていたらしいです。今回はそれが原因だと思われます」
身辺調査をしていた騎士から説明を受けるレオンハルト。
「すいません、レオンハルト隊長」
「どうした」
「店主の懐からこれが……」
レオンハルトを呼びかけ、新人のフィルが持ってきたのは金の指輪。指輪の裏側には帝国騎士である刻印が刻まれている。それは、誕生日会場で身につけていたレオンハルトの指輪であった。
「あの、レオンハルト隊長、こんな事を言うのはなんですが、彼ではないような気がします」
「私もそう思いたいよ。それより、フィル。顔色が悪いから外で空気を吸ってきた方がいい」
「……はい、すいませんがそうさせていただきます」
青白い顔に泳ぐ目、相当我慢していたのかフィルは口を手で覆い、宿を飛び出しては嗚咽の音が聞こえてくる。
「まだまだ新人ですね。まぁ今回は慣れていても相当きついですけど」
「慣れるのも嫌だけどね。部屋はどうだった」
もう一人の騎士がレオンハルトに近づいて来ては、犯人が泊まっていただろう部屋の状況を報告する。
「部屋の前の廊下に一人が同じ状態で亡くなっていました。
魔術によって移動の痕跡が一つと、廊下にて死んでいた旅人と揉め、暴れた形跡がありました。部屋で血は見つかっておりません」
「暴れた形跡はありか」
「転移魔術で飛んだと思われますが、一つ気になるのは窓から出て行った形跡があります。魔術が使えるのになぜ彼は窓から出て行こうとしたのでしょうか」
「確かに、それは不思議だね……もしかしたら、魔術を使ったふりをしたのかもしれない。そうなると、周辺にいる可能性が高い、捜索を続けてくれないかい」
「分かりました、伝えてきます」
その騎士は宿を出る。
そして、レオンハルトは何も言わず手の中にある金の指輪を強く握った。
手を開くと指輪の形に赤い跡がついた。
*
夜に襲撃を受けて理解した、アンお嬢様の屋敷に居る事が一番の安全であったと。
仕事としての環境は最悪だったが、狙われている身としては、隠せる場所はあそこが最適である。
イナミは襲われてから結局、夜通しで別の町に行く事ととなり。そこで、金に変えられそうな物は売ってから、また別の場所に移すというのを繰り返しては数日、身を潜めるように目的の場所を目指した。
長距離を歩くたび魔術師が欲しいと、それは俺だったと何度も思いながら今は、お腹が空いたので町でパンを買って外で食べ歩いていた。
ふと、パンを食べて思う、精霊は何を食べているのだろう。話したい時だけ出てきては消えるから、食事をしているところを一度も見たことがない。
そこも、不思議の一つなのか。
「おいおい、隣の村で首のない死体が見つかったって」
「ひぃー嘘だろ、くわばらくわばら。最近の事件は酷いものばかりだわ。この前だってーーー」
住民の立ち話は続く、一部を聞いていたイナミは食べていたパンを喉に詰めそうになる。
話は隣の村であり、首がない死体が出てきたとなると、思い当たる節がありすぎるからだ。
まさか、数日前にあの村か。それに首のない死体って。
サエグサは手段を選ばない。だから、少しでも経緯を見た者は口止めに全て排除され、首だけが持っていかれる。
『主に首を捧げる』とサエグサの信念なのかは知らないが、これが騎士の時も厄介で、死体の身元確認も遅くなるのもそうだったが、こちらをわざと揺さぶり撹乱させるためである。
その人だと思っていた死体がすり替わっていた、というのはよくある事で
……不味いな、俺が騎士に捕まるのでは。
あの宿には、俺が居たという物的証拠が残り過ぎている。
一度失敗したサエグサがもう一度素直に殺しに来るとは思えないし、見つけられないのなら、騎士を使ってでも炙りだすはずだ。
「すみません、お尋ねしたいのですが薄茶色の髪をしたこれくらいの青年は見なかったですか」
その言葉に反応したイナミは、壁の角に身を潜める。イナミには話しかけた訳ではなく、もっと向こうのほうから話し声が聞こえてくる。
「写真はあるのかい?」
「このような白い制服のような物を着ているのですが、そのような人間はお見かけしませんでした」
「この白い制服……どこかで」
「本当ですかっ!」
その制服が載っている写真を見せると悩む住民に、写真を見せるのは当然、騎士団だった。数日でもう事件の話が出回っているのか、住民に話しかけ回っている。
指名手配のような扱い。騎士に追いかけられるとなると悩んでいる暇はない、ここから早く離れた方が良さそうだと、イナミは忍足で後ろ向きに下がってはさらに暗闇に潜もうとした。
しかし、逃げようと背中に当たったのは硬い壁ではなく、肉のような弾力があるものにぶつかる。
「すっーーー」
人にぶつかったと理解した瞬間に血の気が頭から引いていくイナミ、に対してのぶつかられた者は腕を組む。
「貴様がリリィだな」
「えっと……別人ですかね」
振り返って距離を取り、イナミが意味の無い嘘をついてしまうのは目の前にいる男が、元部下であるロードリックだったからだ。
「捕まえろ」
「はい」
鬼の形相に逃げたくなるが、逃げるには遅くイナミは後ろから騎士によって捕縛された。
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ここまでの長編を最後までお読みいただきありがとうございます100お気に入りありがとうございます
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