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二話 会話の仕方
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もう一度、転移魔術を使うのも手。だが、先ほどのようにどこに飛ばされるのかが、分からないので地味に歩いていく方が無難である。
そもそも、この体が魔術を使えたとしても俺は専門ではないので緊急用と捉えた方がいい。手順を間違えたら自分の術に殺されることだってある。
術を使うじゃなくて、術に使われていることを忘れてはダメだよ、と今さら幼馴染の言葉を思い出す。
確かにそうである。
それから川沿いを歩いて長時間、やっと明かりが灯る村を見つけた。
建物は所々点在し、畑を耕し草原が広がった農村地帯ではあったが、旅者がよく通るのか宿を見つけた。
やっと休める場所に辿り着いたのはいいが、手持ちに金はない、あるのはレオンハルトから渡された装飾品だけ。
もう、飾りの剣は壊したけど。
さらに、元部下の持ち物を売るのは元上司としてどうかと思うが、ここで野宿することになるなら背に腹は変えられない。
「いいのかい、それなりの高価ものだけど。まぁ貰えるものは貰うけど」
「あははっ……」
なぜ見窄らしい青年がこんな物を、そう聞こえてくるような怪訝そうな目で俺を覗いてきたけれど、磨かれた金の指輪を手にした瞬間どうでも良くなったのか口角を上げては懐に仕舞う。
金品のやり取りで応じてくれる人で良かったと、イナミは胸を撫で下ろした。
「あともう一つ、お願いしていいですか」
「いいよ、できる範囲でなら力をかそう」
「この辺りの地図と部屋に食事……スープなんかをお願いしてもいいですか」
「もちろん、お安いご要望だ」
*
「やはり、西からはそう外れていないな」
宿で部屋をとったイナミは、ベッドの上に地図を広げては、店主よって運ばれたパンと豆のスープの食事に手をつけていた。
なんなく、言葉が通じるから西の帝国から離れてはいないとは分かっていた。
一度、帝都には帰りたい。魔術を調べるためでもあるが、色々と確認しておきたいことがある。
調べる前に、問題はこの場所だ。使用人としていた街よりか、だいぶ東に外れのところに位置する。国の端とも呼べる場所は、帝都からはさらに距離がある。
色んなルートを脳内で計算したが、1日2日で戻れる所でない。
不眠不休で食べ物もいらない人間なら難なく帰れるが、人である以上は寝るし食べ物を食う、それをさらに計算に加えると一体自分はいつ戻れるのだろうか。
長期的な旅になるなら、どこかの町にとどまって賃金を稼いだ方が現実的だな。
いや、こんなにのんびりしていいものなのか。腹に描かれた術が期限付きかもしない、それが過ぎればリリィと共に俺もただの屍に戻るなんて十分あり得る。
色々含めて考えると、もっと早くに移動できる他の手はないのか。
「帝都か……うおっ」
ベッドの上で悩んでいると、背後から精霊が飛んで来ては地図の上を跳ねる。
「びっくりした、お前か。精霊は突然出てくるんだな。少しの間は慣れないな、これは」
宿屋の店主と話している時はいなかった。一人の時、かつ伝えたい時だけパッと出てくる精霊は、姿を消すのも現すのも自由自在のようである。
「出てきたってことは何か伝えたいんだな」
精霊は頷くように跳ねては、ぐるぐるとその場で回りだす。
「……ここに何かあるのか」
懸命に光の玉が回るのは地図の上で、ある場所を指し示しているように見えた。
「東の方から?あっ確かここなら、帝都の方に早く帰れそうだ」
ここからもっと東、帝国を抜けて隣国がある。そして、帝国の国境沿いには隣国と物資の取引をするための列車が一本通っている。
これにどうにか乗れれば、だいぶ帝都からは距離が短くなるかもしれない。
「いい考えだ。ここからなら、東の共和国方が近いし、足もそんなに使わない。お前なかなかやるな」
すると、精霊はイナミの頭の辺りに浮かんでは上下に体を揺らしはキュルキュルと鳥のように鳴く。イナミには言葉は分からないが喜びを表現しているとなんとなく感じ取る。
「言葉が分かればもっと楽なんだろうな……仕方ないか」
精霊の言葉を聞こうとしても、耳が拒絶するように言葉は必ず音としか聞こえない。
体がどれだけ同じだったとしても、精霊と契約した魂は違うという事だろう。
「お前の主人に迷惑かけてすまない」
生きていた筈の若者の命を奪ってまで俺はここにいる。
本来の形としてリリィの体に、別の魂があるべきではない。自然の摂理や命の循環、様々な理由づけは出来るけど、自分自身の感情であり意見である。
「だから俺はリリィの魂を取り戻すことを絶対と言えないが、約束する。やり方と全く分からないけど、一度は出来たんだ、出来るはずだ……その間は手伝ってくれるか」
そう言うと精霊は俺の頭に乗って、一回だけ飛び跳ねた。
手伝ってくれるのかな。
そもそも、この体が魔術を使えたとしても俺は専門ではないので緊急用と捉えた方がいい。手順を間違えたら自分の術に殺されることだってある。
術を使うじゃなくて、術に使われていることを忘れてはダメだよ、と今さら幼馴染の言葉を思い出す。
確かにそうである。
それから川沿いを歩いて長時間、やっと明かりが灯る村を見つけた。
建物は所々点在し、畑を耕し草原が広がった農村地帯ではあったが、旅者がよく通るのか宿を見つけた。
やっと休める場所に辿り着いたのはいいが、手持ちに金はない、あるのはレオンハルトから渡された装飾品だけ。
もう、飾りの剣は壊したけど。
さらに、元部下の持ち物を売るのは元上司としてどうかと思うが、ここで野宿することになるなら背に腹は変えられない。
「いいのかい、それなりの高価ものだけど。まぁ貰えるものは貰うけど」
「あははっ……」
なぜ見窄らしい青年がこんな物を、そう聞こえてくるような怪訝そうな目で俺を覗いてきたけれど、磨かれた金の指輪を手にした瞬間どうでも良くなったのか口角を上げては懐に仕舞う。
金品のやり取りで応じてくれる人で良かったと、イナミは胸を撫で下ろした。
「あともう一つ、お願いしていいですか」
「いいよ、できる範囲でなら力をかそう」
「この辺りの地図と部屋に食事……スープなんかをお願いしてもいいですか」
「もちろん、お安いご要望だ」
*
「やはり、西からはそう外れていないな」
宿で部屋をとったイナミは、ベッドの上に地図を広げては、店主よって運ばれたパンと豆のスープの食事に手をつけていた。
なんなく、言葉が通じるから西の帝国から離れてはいないとは分かっていた。
一度、帝都には帰りたい。魔術を調べるためでもあるが、色々と確認しておきたいことがある。
調べる前に、問題はこの場所だ。使用人としていた街よりか、だいぶ東に外れのところに位置する。国の端とも呼べる場所は、帝都からはさらに距離がある。
色んなルートを脳内で計算したが、1日2日で戻れる所でない。
不眠不休で食べ物もいらない人間なら難なく帰れるが、人である以上は寝るし食べ物を食う、それをさらに計算に加えると一体自分はいつ戻れるのだろうか。
長期的な旅になるなら、どこかの町にとどまって賃金を稼いだ方が現実的だな。
いや、こんなにのんびりしていいものなのか。腹に描かれた術が期限付きかもしない、それが過ぎればリリィと共に俺もただの屍に戻るなんて十分あり得る。
色々含めて考えると、もっと早くに移動できる他の手はないのか。
「帝都か……うおっ」
ベッドの上で悩んでいると、背後から精霊が飛んで来ては地図の上を跳ねる。
「びっくりした、お前か。精霊は突然出てくるんだな。少しの間は慣れないな、これは」
宿屋の店主と話している時はいなかった。一人の時、かつ伝えたい時だけパッと出てくる精霊は、姿を消すのも現すのも自由自在のようである。
「出てきたってことは何か伝えたいんだな」
精霊は頷くように跳ねては、ぐるぐるとその場で回りだす。
「……ここに何かあるのか」
懸命に光の玉が回るのは地図の上で、ある場所を指し示しているように見えた。
「東の方から?あっ確かここなら、帝都の方に早く帰れそうだ」
ここからもっと東、帝国を抜けて隣国がある。そして、帝国の国境沿いには隣国と物資の取引をするための列車が一本通っている。
これにどうにか乗れれば、だいぶ帝都からは距離が短くなるかもしれない。
「いい考えだ。ここからなら、東の共和国方が近いし、足もそんなに使わない。お前なかなかやるな」
すると、精霊はイナミの頭の辺りに浮かんでは上下に体を揺らしはキュルキュルと鳥のように鳴く。イナミには言葉は分からないが喜びを表現しているとなんとなく感じ取る。
「言葉が分かればもっと楽なんだろうな……仕方ないか」
精霊の言葉を聞こうとしても、耳が拒絶するように言葉は必ず音としか聞こえない。
体がどれだけ同じだったとしても、精霊と契約した魂は違うという事だろう。
「お前の主人に迷惑かけてすまない」
生きていた筈の若者の命を奪ってまで俺はここにいる。
本来の形としてリリィの体に、別の魂があるべきではない。自然の摂理や命の循環、様々な理由づけは出来るけど、自分自身の感情であり意見である。
「だから俺はリリィの魂を取り戻すことを絶対と言えないが、約束する。やり方と全く分からないけど、一度は出来たんだ、出来るはずだ……その間は手伝ってくれるか」
そう言うと精霊は俺の頭に乗って、一回だけ飛び跳ねた。
手伝ってくれるのかな。
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