騎士隊長はもう一度生き返ってみた(その名前はリリィ)

イケのタコ

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十四話 昔馴染み

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吹き抜けの天井にぶら下がるのは光に輝くシャンデリア。生誕に向けての煌びやかな装飾に眼を焼かれ、いつもより気合の入った貴族の豪華な衣装に胸焼けがする。

イナミは昔から社交界などの交友を深める会が苦手である。お互いに探り合う会話もそうだが、煌びやかな世界で対話する事があっておらずと感じ、結局は隊長として命令して、外に出て魔物退治している方があっていた。

そういや、こういう場にきたら幼馴染のミオンに交代してもらうか、あの人の警備と称して後ろにずっと隠れていたなと思い出す。

「レオンハルト、君も来ていたのか」

まず最初にレオンハルトに挨拶をしに来たのは、男性。歳は30代半ば、皇族の服装ではあるが装飾は少なめで全体的にナチュラル服、眉は下がり口元は緊張がなく緩んでいる。
そうそう、あの人はこんな感じでおっとりしていて、優しいを前面に出した人物で……

「ジェイド殿下、ご無沙汰しております」

イナミは目をひん剥きたくなるほど、ジェイド殿下と呼ばれた人物に驚いた。何故なら、思い描いていた人物が今そこにいたからだ。

「そんなにかしこらなくてともいいですよ。今日は叔母の誕生日、お客さまには楽しんで帰ってくださると嬉しいですから」

レオンハルトと握手を交わす。
ジェイドは、西の帝国を治める現王様の息子であり、第二番目の王子である。イナミの父が帝国の元騎士団長だったために、ジェイドとは子供時代から縁があった。
王子と騎士、主従関係であり友人のような関係ではなかったがそれなりにお互いの性格は把握するほどの仲ではある。

気づかれたくない一心でイナミは思わずレオンハルトの背中に隠れた。それがジェイドの目に止まり、不思議そうに顔を傾けた。

「彼は?」
「彼は、ウェスティリア家の使用人でリリィといいます。今は私の世話をしてくれています」
「ウェスティリア家の方でしたか。リリィさん、申し遅れました、私は帝のジェイドと言います。今日は楽しんでいって下さいね」

使用人に挨拶する王族はこの人ぐらいだろう。ジェイドは同じように手を差し出してきたが、俺はせず深々とお辞儀した。

「はい、よろしくお願いします」

王族と手を握る使用人はいない。手を握れば同格と言っているようなもので失礼にあたるから。ジェイドがどんなに優しくともお断りをするのが、彼のためにもなる。

「うん、よろしく」

握手はしないと理解したジェイドは、手を引っ込めるとクスリと密かに笑う。

「あの、もしかして何か失礼なことをしましたか」
「いや、全く関係ないよ。知り合いに似ていた者だから、笑ってしまってね、すまない」
「いえ……」

どの知り合いだろうな。これ以上話せばボロが出そうで誰とは訊かず、俺はレオンハルトの後ろのさらに奥へと引っ込んだ。自分は漂う空気だと言い聞かせて。

「ジェイド殿下っ」
少々荒れた低い声。
足早に駆けつけてきた相手に、イナミは更に頭を抱えた。

「ジェイド殿下、勝手に行動されては困ります。せめて別の者でも良いのでつけて下さい」
「ロードリック、すまない。今度から気をつけるよ」
「ええ、絶対です」

この威風堂々とした佇まい見覚えがありすぎる。
ジェイドの次はロードリックとは。そもそもガーネット妃の生誕祭である時点で、知り合いの巣窟になるのは決まっていた。

帰りたい。

すると、ジェイドに話していたロードリックがこちらに気がつき目線を配ると鼻を鳴らした。

「レオンハルト、貴様もやはり来ていたか。相変わらず人の機嫌をとるのがお好きなようだな」
「まぁ、これでも一応騎士だからね。ロードリックの方は大変そうで何よりだね」

2人から流れるのは不穏の空気。

相変わらず、仲の悪さは変わっていないようだ。
ロードリックは俺が隊長であった時の部下である。真面目で誠実な優秀な部下の1人、レオンハルトの大きな違いをいえば俺に対しての順応が全く違った。
間違ったことがあれば、反抗してくるレオンハルトに対して、ロードリックの方は納得はしないが理解を示す方だった。
根は似ているが全く性格が違う二人、それが相性の悪さに拍車をかけているようで、隊長の時に、レオンハルトとロードリックという名前を聞くだけで何度頭を抱えた事か。思い出すだけで酸欠になり頭が痛い。

「そういや、貴様は昇進するらしいな。一番隊員だったか?良いご身分で、おめでとうございます」
「ええ、おかげさまで。俺は下で満足するほどの人間ではないので」
「それそうだな、貴様は昔の事なんてどうでも良い人間だったな。まぁ、同期として昇進は祝うよ」
「それはありがとうございます」

レオンハルトとロードリックは仲つつまじく笑い合う、目は一切笑っていないが。
殴り合いの喧嘩が多かったが、10年経って会話での高度な殴り合いとなっていた。
外から喧嘩をしているとあまり分からなくなってはいるが、この歪み合い仲裁するのが難しい。
 
同じ騎士団なのだからどちらかが一歩くらい引けよ、と言いたくなる。
隣にいるジェイドなんか、二人をどう止めようかと眉を八の字にしては困っている。
帝国の王子を無視して困惑させているようでは、まだまだ大人とは言えないな。

「レオンハルト様、あちらにお水があります。持ってきましょうか」
「えっ、うん。頼めるかな」

レオンハルトの袖を強く引っ張ってから耳元で囁けば、むず痒さに肩を揺らしてこちらに注視する。
気が抜けたレオンハルト、その隙をすかさずジェイドが『ゴホッ」と、緊張した空気を変えるように一つ咳き込んだ。

「私はまだ挨拶がありますのでこのあたりで。では、レオンハルトまたのご機会によろしく頼むよ」
「はい、ジェイド殿下こちらこそよろしくお願いします」
「ロードリック行こうか」

何もなかったようにさらりと去っていくジェイドとロードリック。
ロードリックの方はまだ言い足りなかったのか、不満げに顔をしかめていた。レオンハルトの方も途中で断ち切られて、居心地が悪そうに体を動かす。
これ以上、二人は何をしたいのか。口喧嘩でおさまる二人なのか、いや混ぜるな、危険だ。

「ねぇ、さっき」
「はい?」

言葉の通り水を取りに行っていると、渡すまでもなくレオンハルトが後ろについてきていた。

「どうかされましたか」
「さっき、ワザと?」
「何が、ですか。はい、お水を飲んでください。それともあちらのお酒が良かったですか」
「いや、これで良いよ」

レオンハルトはガラスのコップ受け取り、心を落ち着かせるようにゆっくりと嚥下させる。

「君、俺が思ってるより……狡猾だね」
「狡猾なんて、恐れ多いです。私は使用人としての仕事をただ真っ当しただけですから。で、次はどちらに行くのですかレオンハルト様」

薄くのぞかせた黄色い瞳が不気味に輝いた。
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ここまでの長編を最後までお読みいただきありがとうございます100お気に入りありがとうございます
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