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七話 嘘は重なるもの
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許可をもらい外に出たレオンハルトとイナミ。
「もう少し、助け方があったのではないですか」
文句を言いたくなるのは仕方ない。何故なら、屋敷を出るまでずっとアンお嬢様はイナミを睨み続けていたからだ。
「でも、君を屋敷に残してもアン嬢に水浸しにされるだけだと思うけど」
「それはそう……というか知ってるんですね」
「前に少しね、彼女は覚えてないだろうけど。だから、お互い良い関係を築けると思うんだよね」
意外にも秀才のレオンハルトも彼女の洗礼を受けたらしい。
それより、嘘をついてまで屋敷を出たほうが問題だ。騎士団が人手不足とかあからさま嘘に加え、剣を振れるとは一度も話したことはない。
外で暇を余していると知れたら、良い鴨である。
「で、どうするんですか。嘘ついて、出てきたことになりますが。バレて痛い目を見るのは俺です」
「剣、持てる?」
「俺を見て扱えるよう見えますか」
「いいや。それだけ、細かったらまず体作りからお薦めするよ」
レオンハルトは、徐にイナミの手首を調べるように握る。手の中に収まってしまうほどのリリィの手首、脂肪も無く骨と皮できている体に更に驚いた。
「ほそい。君ちゃんと、ご飯食べてる?」
「察しろ。それより、俺はどこにいたら良いんですか。魔物退治なんて出来ないし、街でブラブラなんてお断りですよ」
「それもそうだね。森に連れて行くことは出来ないしーーー来る?」
「行くわけないだろ、剣は扱いませんって」
「だよね……悪いんだけど」
紹介されたのは一人の騎士。彼の名前はスタムフィル。愛想は良く話しやすい好青年だが、常に動きが固く反応も初々しい。体つきもそうだが声の低さも、全体的に学生の青々しさがまだ残っている。騎士になって数ヶ月、見習いといったところだろうか。
「一応、大事な客人だからよろしく頼むよ」
「はい、分かりました。彼を全力でお守りします」
模範的な敬礼で返す青年にイナミを頼んだレオンハルトは、調査する森に向かう。
「リリィ、またね。夕方に帰ってくるよ」
「ええ。お気をつけていってらっしゃいませ、レオンハルト様」
主人と使用人のような形式のような別れの挨拶を交わしては、レオンハルトは隊員と一緒に去っていく。厄介払いされた感が否めないが、どうせ屋敷に戻ることも出来ないので青年と握手を交わす。
「よろしく」
「えっと、リリィさんでよろしいですか」
「そうです、フィルさんと呼んでも」
「もちろん、なんで良いですよ」
一通りの挨拶は終えた二人。
「あの、隊長とは長い付き合いなんですか」
「えっ、全然短いよ。言えば、数日前に初めて会ったくらいだけど」
「……そうなんですね。てっきり仲良く話されていたので、長い付き合いなのかと。珍しく隊長の気が抜けているように見えましたし」
「そうかな?きっと、俺が騎士じゃないから、気が抜けてるんじゃない」
「でも、なんだが友人と話すようなーーー」
「気のせいだよっ、騎士団隊長がこの一介の使用人と仲良くなる訳ないだろ」
フィルは納得いかない顔をしていたが俺はそのまま押し通した。
危ない、内心冷や汗が止まらない。
いつのまにか、俺も気が抜けて普段通りに話しかけていたようだ。
どうしても、感覚的にはまだ上司であり部下だと思ってしまう。
レオンハルトは騎士団の隊長。俺はアンお嬢様の使用人でありリリィと改めて心の中で何度も呟いた。
絶対に騎士団に正体を明かしたくないし、明かされたくはない。自分が騎士団にいたからこそ理解している、想像以上の問題と面倒なことになると。
もし、俺がレオンハルトの立場ならその者を即刻捕縛して術について根掘り葉掘り吐かせる、と思うほどに自分の体は異質だ。
「もう少し、助け方があったのではないですか」
文句を言いたくなるのは仕方ない。何故なら、屋敷を出るまでずっとアンお嬢様はイナミを睨み続けていたからだ。
「でも、君を屋敷に残してもアン嬢に水浸しにされるだけだと思うけど」
「それはそう……というか知ってるんですね」
「前に少しね、彼女は覚えてないだろうけど。だから、お互い良い関係を築けると思うんだよね」
意外にも秀才のレオンハルトも彼女の洗礼を受けたらしい。
それより、嘘をついてまで屋敷を出たほうが問題だ。騎士団が人手不足とかあからさま嘘に加え、剣を振れるとは一度も話したことはない。
外で暇を余していると知れたら、良い鴨である。
「で、どうするんですか。嘘ついて、出てきたことになりますが。バレて痛い目を見るのは俺です」
「剣、持てる?」
「俺を見て扱えるよう見えますか」
「いいや。それだけ、細かったらまず体作りからお薦めするよ」
レオンハルトは、徐にイナミの手首を調べるように握る。手の中に収まってしまうほどのリリィの手首、脂肪も無く骨と皮できている体に更に驚いた。
「ほそい。君ちゃんと、ご飯食べてる?」
「察しろ。それより、俺はどこにいたら良いんですか。魔物退治なんて出来ないし、街でブラブラなんてお断りですよ」
「それもそうだね。森に連れて行くことは出来ないしーーー来る?」
「行くわけないだろ、剣は扱いませんって」
「だよね……悪いんだけど」
紹介されたのは一人の騎士。彼の名前はスタムフィル。愛想は良く話しやすい好青年だが、常に動きが固く反応も初々しい。体つきもそうだが声の低さも、全体的に学生の青々しさがまだ残っている。騎士になって数ヶ月、見習いといったところだろうか。
「一応、大事な客人だからよろしく頼むよ」
「はい、分かりました。彼を全力でお守りします」
模範的な敬礼で返す青年にイナミを頼んだレオンハルトは、調査する森に向かう。
「リリィ、またね。夕方に帰ってくるよ」
「ええ。お気をつけていってらっしゃいませ、レオンハルト様」
主人と使用人のような形式のような別れの挨拶を交わしては、レオンハルトは隊員と一緒に去っていく。厄介払いされた感が否めないが、どうせ屋敷に戻ることも出来ないので青年と握手を交わす。
「よろしく」
「えっと、リリィさんでよろしいですか」
「そうです、フィルさんと呼んでも」
「もちろん、なんで良いですよ」
一通りの挨拶は終えた二人。
「あの、隊長とは長い付き合いなんですか」
「えっ、全然短いよ。言えば、数日前に初めて会ったくらいだけど」
「……そうなんですね。てっきり仲良く話されていたので、長い付き合いなのかと。珍しく隊長の気が抜けているように見えましたし」
「そうかな?きっと、俺が騎士じゃないから、気が抜けてるんじゃない」
「でも、なんだが友人と話すようなーーー」
「気のせいだよっ、騎士団隊長がこの一介の使用人と仲良くなる訳ないだろ」
フィルは納得いかない顔をしていたが俺はそのまま押し通した。
危ない、内心冷や汗が止まらない。
いつのまにか、俺も気が抜けて普段通りに話しかけていたようだ。
どうしても、感覚的にはまだ上司であり部下だと思ってしまう。
レオンハルトは騎士団の隊長。俺はアンお嬢様の使用人でありリリィと改めて心の中で何度も呟いた。
絶対に騎士団に正体を明かしたくないし、明かされたくはない。自分が騎士団にいたからこそ理解している、想像以上の問題と面倒なことになると。
もし、俺がレオンハルトの立場ならその者を即刻捕縛して術について根掘り葉掘り吐かせる、と思うほどに自分の体は異質だ。
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