王様は知らない

イケのタコ

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19 傷

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一緒に学校まで来たもののやはり、目立つ。登校する生徒の目が痛い。俺も要らない噂が広がりもう有名人になってしまったことも要因。
落胆と呆れることはなく、目立つのが順応して慣れてきた気がする。
下駄箱の前までくれば、この人と学年が違うので必然的に別れることとなる。
鞄を返してほしいので俺は手を差し出した。しかし、彼は中々返そうとしない。

「あの、先輩?返しほしいのですが。」
「教室まで帰ったら返してやるよ。」

そう言うと俺の鞄を持ったまま自分の下駄箱に向かう。文句を言いたいが、多くの目が集まる中で意見するのは億劫。
何だろう。行動が範囲がわざと狭められている気がする。動きにくい、何かに勘付いているのか。

考えても仕方ないので俺は下駄箱の扉を開ける。開けると、目の前に悍ましい光景が広がって……なく、久しぶりに綺麗な下駄箱が目に映る。
綺麗な下駄箱には、何時とは一つだけ違うところがあった。上履きの上に一枚の手紙がのせてあり、花の絵が描かれた可愛らしい手紙は読まなくても誰かわかっている。

手に取り手紙の裏を見れば『水』という文字が端に書かれている。そっと手紙を開ければ、放課後3号室の科学室と完結に綴ってあった。
人がいない科学室とは用意周到である。
今度は信者を使わず自分が出向くらしい、見た目とは裏腹に度胸のある人物だ。

やっぱり、可愛い人だ。手紙を読みながら少々ニヤついた。

放課後を楽しみにしながら、もう一度下駄箱を向くと彼女の手紙で隠れて見えていなかった、もう一枚手紙が隠れていた。
追伸か? と思いながらもう一枚手に取り、前後ろを確認する。先ほどと違い、真っ白でシンプルな手紙は何も書いていない。
物凄く怪しい、怪しいと分かっていても開けるしかない。彼女の追伸なら重要なものである。

気持ち入れ直し手紙の開け口に指をかけ引く。
その瞬間、
指からドロリと赤い液体が伝う。

手紙をビリビリと破いた一瞬、何が起こったのか分からなかったが時間が経てば指がジンジンと痛む。

あー俺、指から血が出たんだ。

どうしようか。この血の処理をどうしよう。
早くしないと騒ぎになるな、隣にいる生徒がおかしさに気付き始めたし状況が不味い。

とりあえず、隣の奴に睨みをきかせ何も起こっていないと騒ぐなと無言で圧をかける。それが伝わり、怯えた形相で靴を履き替え学校の中へと入って行く。

追い払うことに成功した俺は急いで血が流れ出る指を、仕方なく綺麗な方の手紙で覆う。真っ白で可愛らしかったお花の手紙はホラーに変わるほど赤く染めてしまった。

下駄箱からカラッと音を立て、指を切った原因の手紙が落ちる。
落ちた封筒から、鉄のような刃先がキラリと光り。巧妙に、指をかけると予測された封筒の縁にはカッター刃がテープで貼り付けてあった。
これは丁寧にやってくれる。どうやら相当、怨恨を売っていたらしい、証拠によく切れるカッターだった。そのせいで血が中々止まらない。

そして極め付けが、封筒からヒラリと出てきた一枚の紙に『死ね』とダイレクトなメッセージが活字で印刷されていた。 まったく可愛くない衝撃的なラブレター。

誰かは、分からない。印刷された文字のため前の人物だったのかさえ分からない。水澤だとしても二段構えにする理由がわらない。後で会う約束もしているのにわざわざ犯人だとを公言をするような 馬鹿ではないはず。

水澤を表に出すために周りを揺さぶったのが今になって裏目に出た。敵をつくりすぎてしまった。

最悪だ。

普通に痛いし、こんな紙で血が止まるわけない。動くと垂れてくるから下手に動けない。
俺の鞄さえあればティッシュぐらいはある。今その鞄を持っている彼奴に腹が立つ。
さっさと来いよ。

肝心な時にはいない。
見渡してもカメラオタクはいない、お人好しもいない。
周りにこの状況を頼める相手もいない、もう一層のこと自分から向かった方が早いのではないかと思う。
ずっとここで立ち居往生していても邪魔になるだけだ。


そう思っていたら、ヒーローがのそのそと登場した。なぜ、ヒーローって何時もの遅れるのか。そもそも、遅れないとヒーローとは呼ばないのか、というどうでもいいことが頭の中を巡る。
遅いと顔に書いてあるほど不機嫌であった。仕方ない、動けないのだから。
俺は彼を近くに来るように呼ぶ。

「ちょっと、先輩こっちまで来てください。」
小声で呼ぶと怠そうに近づいてくる。相手も目の前まで来て、やっと俺の状況が飲み込めて目が少しだけ開いた。

「朝からなにをやっているんだ。なにをやったらそこまでいく?」

被害者を見た最初の感想がそれであった。一瞬驚いた顔をしただけで心配する声かけもなく、淡々とした冷たい感想。
尋問の前に手当をするという優しさはこの男にはないのか。

「どうもこうも事情は後で説明するので、鞄から何でもいいので拭うものをを取り出してもらえませんか。血が止まらないので。」

ようやく言葉で動く王様は渋々といった感じで俺の鞄を探る。それにしても、人の鞄に手を突っ込み探る姿は、頂点にいるこの人だからこそ滑稽が際立って頬が緩む。

「ほらよ、出してやったぞ。笑うな。」
「先輩ありがとうございます。」
「……」

渡されたポケットティッシュで紙ごと一緒に指を包む、一安心。あとは止まるまで待つだけだ。
騒ぎにはならなかったが、注目の的になってしまった。流血騒ぎになるのは、回避できたので良しとしよう。
大事なあの人には迷惑はかけたくないという気持ちはあるから。

すると王様、下に落ちている封筒を手にし、表裏と動かし封筒をじっくりと観察する。中を開けて振ってみるが特にあのメモだけで特にない。
観察が終わると王様は封筒をフラフラと揺らす。

「カッターと直球な文字以外特にないな。で、これどうするんだ。」
「どうするって? 聞かないでくださいよ。」

ダイレクトで鋭い愛の告白に答えることは絶対的な義務である。ラブレターをもらったのだから此方も返事を返さないといけない。
誰か分かった暁には、大衆の前で二度と立ち直れないぐらい恥をかかせてやる。

「相変わらずいい顔するな。」
王様はそう言った。

恋文はしっかり保存したいので貰い、ズボンのポケットに突っ込む。

ケガは落ち着き、下駄箱から負傷した指を押さえて上手く空いている指で上履きをかけ地面に落とす。そして靴を履き替えた。
履き替えた靴を同じように指を曲げ掛けようとするが、中々指に引っかからず上手くいかない。

その姿を見ていた王様が、横から腕を伸ばして靴を軽く持ち上げ、下駄箱に戻してくれた。
その時は念が通じて靴が浮いたのかと思ったが、ということはなく手動。
悪い物でも食べたと思って顔を見ると、彼はこちらの心情を読み取り呆れていた。

「お前、俺をなんだと思っている。言っておくが非情でも無情でもないからな。」
「驚いただけですよ。そんな人だなんて一つ思っていないですよ。」
「嘘つけ。」

王様は血に濡れた封筒を刃が人に向かないように綺麗に折り畳むと、置いてあるゴミ箱に投げ入れた。
この人の優しさはどんな時でも嫌いで気色が悪い。ムチのままでいい、飴はいらない。そのせいで胸の奥が気持ちが悪くゾワゾワとした。

心がザラついたが、無事履き替えられたことなので教室にやっと向かう事ができる。
これで難が去ったと思ったが、鞄がなく。教室まで返してくれないんだった。
 早く教室で行って、別行動がしたい、動きにくくて仕方がない。

「さぁ、先輩教室に行きましょう。さっさっと行きましょう。」

廊下の奥を指して俺は足早に進む、後か着いくる王様できるだけ離れるよう。
後ろに数歩離れた先輩が静かに、さきほどの話を切り出した。

「お前その紙はなんだ。」
「それはさっき見た通り、激白な恋文ですよ。」
「さっきの紙の話ではない。指に巻いてある紙の話だ。」

 俺は振り向き止まる。

「なんの話ですかね。紙は一つだけですよ。」

そう言うと疑うように目を細める。
上手く隠したつもりであったが、目敏い王様には気づかれていた。
この手紙は読まれてはいけない、楽しみがなくなってしまう。

「疑いは良くないですよ。信じることも関係の発展だと思いますがっいだっ~~!」

近づいて来たと思えば嘘を咎めるかのように俺のしかも傷ついた指を王様は無表情で強く握る。
絶対ドMじゃない、S通り越して鬼畜だ。
治っていない指はジンジンと痛みが広がり、痛みで動けなくなる。

「嘘をつくのをやめろよ。次はまともに答えろ。その指に隠してある紙はなんだ。」
「だから、純愛で純粋な普通の恋文っいっ!」

声にならないほど痛みが響く。また、力を込め握られた。傷が塞がっていないから、血が染み出してくる。それでもお構い無しにやるものだから怖い、本当に恐い。

「わかりましたから、紙ごと渡しますから手を離してください!」

その言葉を待っていたと言わんばかりに手を直ぐに放され、酷使された指を優しく俺は包んだ。
言われた通りに、指の間に隠していた手紙を広げる。
所々血が滲んで文章は科学室放課後としか読めない、嬉しいことに封筒の水という文字は消滅していた。
渡すと嫌そうな顔で指で挟んで受け取る。欲しいといったのは、王様であるからしっかり受かったて貰わないと。
簡潔に綴られた文章に深読みをすることはないはずだ。だから、紙を読めば直ぐに俺に渡す。

「ほら、疑うことなんてないでしょ。単純なお誘いですよ。」

普通ならここで納得するはずだが、王様は納得がいかないと腕を組む。

「確かに手紙には、特になにもないが、納得いかねぇな。」
「気のせいですよ。さっきので動揺して疑い深くなってるだけですよ。」


お得意の勘は間違っていることはない。肝心な所が分かっていないのが唯一の救いである。


「それより先輩、教室まで行かないと遅刻になりますよ。」

話を終わらしても、彼の歯切れの悪い感じは拭うことができなかった。一言で彼のモヤモヤを解決することできる。しかし、今は手を出させてはいけない、面白いところまで事が進んでいるのだから逃すわけにはいかない。

すると王様は神妙な顔で、気味が悪いことを言い始めた。

「指は大丈夫か。」
「えっ……、大丈夫ですが。」
「まぁ、お前がいいなら良いが」

言葉は続き、俺は息を飲んだ。

「助けて欲しい時はしっかり言えよ。助けてやるかは気分次第だかな。」

俺の頭をポンッと小突いて、悠々と前を歩く。小突いた際に頭の上に何かを乗せたらしく、払うように頭を動かすとそれが落ちる。
ヒラッと落ちてきたのは絆創膏。粋なことをしてくる。
助けは要らない、だから礼なんかしない。俺は無言で落ちた絆創膏を拾った。

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