王様は知らない

イケのタコ

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17 帰宅

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「疲れた。」

その後、車で帰る王様を見送り電車で帰った。家に帰れば速攻部屋に向かい、制服も着替えずベッドにダイブした。
机と椅子しか置いていない無機質で邪魔なものがない、部屋の景色は俺にとって最大の癒しだ。

あの人、何時もお迎えなのに気まぐれで電車を使う。帰り道を三人で歩いていたから、電車だと勘違いしていた。理由は、水澤の護衛だと思いたいが、あれがあった後だと勘ぐってしまう。
第1、なんで俺なんだろか。高級車でお迎えが来るほどの富豪で、ルックスも上位クラスで選び放題なはずだ。
自分で言うのもなんだが、ゲテモノを選ぶ理由が不透明で、検討もつかない。
まずい、前と同じ穴に潜り込んで身動きできない自分がいる。
聞き入れたくないが、考え過ぎない方が良さようだ。

だからここは恋をする人間のように、愚かで醜い妄想も挟んで過去を振り返ろう。そちらの方が考え過ぎない。

最初にベンチであった時、誰俺の手を引くの?振り返るとイケメンが!
タオルのことで礼を言われるがさっぱり分からない。
そのあと、振り回され!なんなんだよ彼奴。でもたまに見せる優しさにドキドキする。
ドキドキは止まらない、お昼のサンドイッチを分けてくれたり、そして弱いところもある。身体的にあるよね、もしかしてあれでころ………だから俺は助けてあげた。
冷たいと言われた体で膝枕をしてあげた、熱中症には頭を高くするのがいいらしい。そして寝顔が可愛い。
そこでデジャブのような懐かし感覚になる………待てよ。なんで懐かしくなるんだ。

そうだ! 前に誰かに俺はやった記憶がある。いつかの夏の日に熱中症かもしれないとその誰かを介抱したことがある。
でも、誰だ。男だったのか、女だったのか、顔すら思い浮かない。誰だ。

思い出せない。

落ち着け、一旦落ち着け、不明な点がもう一つある。確か王様の前になぜか俺の背中のケガを知っていた。
となると、俺の怪我を知っている者は小学生の時しかいない。
重大な事を忘れていた。あの人、色々ヒント出してくれていたんだ。
よし、これでまどろっこしいゲームが終了できる。

………小学生、あんなのいたかな。

小学生。顔はぼやけるぐらいしか思い出せないし、卒業して誰にも会っていない。
こういう時に知り合い作っておけば良かったと後悔する。
想像で特定するのは不可能なので、俺はベッドから起き上がり部屋を出る。顔を見れば思い出すかもしれない。
確か一階の客間の押入れに小学生の時の写真が閉まってあったはずだ。

久しぶりに客間に入れば、日本らしい畳に低い机が一つと座布団が敷いてあった。相変わらず綺麗に片付けれている。今から汚してしまうが、気にしていたら進まないので覚悟を決めて押入れ開けた。
押入れは上と下、二つに仕切られ、上は客用の布団、下には扇風機、冬の服などが仕舞われていた。
俺のお目当はどうやら奥の方にあるようだ。無理矢理取ると崩れる可能性が高いので、大人しく前にある物を退ける。

一個ずつ確実に退ければ、やっとお目当が入った箱を引きずり出すことができた。
箱の中身はアルバムが綺麗に仕舞われて、そしてその中に『弟切くん小学生』と書かれたテープが貼られたアルバムを手に取る。本当にきっちりとしている人だ。

アルバムをめくれば、遠足に運動会と色んな写真が出てくるがどれもこれも集合写真ばかり。 
    
今思うと本当に友達いなかったのだと実感する。パラパラと見ていくが、こんな奴いたなと思える程度で名前までは思い出せない。
重点的に少年を探してみるが、『王様』に似た少年は一人として見つからない。
あの顔立ちなら少年でも直ぐにわかると思うのだが、こうもいないと会っていない線も捨てきれない。
しかし、それでは背中のゲガを知っている理由が説明できない。

アルバムをめくりながらとりあえず探していると、誰が玄関を開ける音がした。

「ただいま。ってあんた何してんの……。客間がひっくり返ってるんだけど。」

どうやら帰ってきたのは4つ年下の反抗期真っ盛りの中坊だった。
部活の帰りでスポーツバッグを抱え、砂埃で汚れたジャージのままである。

「おかえり。いやちょっと余韻に浸り。」
「あんたが? 嘘でしょ。明日は槍がふるな。」 
「ひでぇーな。そうだ。なぁなぁ俺って小学生のときは何してた。仲が良い友達とかいたか。」
「はぁ?自分の昔すら忘れたの、ボケでも始まってんじゃないの。病院にでも行ってきたら。」
「あのね。お前はまだ中学入りたてだから小学の記憶あるけど、高校ぐらいになってくると忘れて来るんだよ。フワフワになっていくだよ。という訳で何してた。」
「いやお前、年数関係なくフワフワだろ。………お前が学年関係なく非行に虐め回してたから、一時期大魔王て言われてた。」
「だよな。俺もそれしか思い出ないんだよな。」

そう確かに、年上だろうが、年下だろうが、生意気な奴は端から突っかかりに行った。気に食わないからといって喧嘩を売る俺は、今考えると頭がおかしい。それのせいで、ボコボコにされたこともあるが、何回も同じ事をやられた俺は学習し、打倒せず全て返り討ちにした。暴れまわっていたら、アダ名が魔王となっていた。

「魔王なんて酷い名前だよね。いたいけ子供にとって本当酷い名前。」

俺の言葉を聞いて中坊の顔が引きつっていた。

「それさ当時の被害者に土下座してから言ってよ。」
「謝りにも顔なんて覚えてないから無理だな。」
「うわ最悪。お前が覚えてなくても被害者はお前の顔しっかり覚えてるからな。」
「中坊いい事言うな。そうだ被害者は覚えてるよな。」

被害者は加害者より、やられた事実を事細やかに陰湿に強く残っている。
そう思えば、学年に一つ上の王様との接点ある。もしかしたら、昔虐めていた可能性もある。顔を覚えていないのも納得がいくが、

「なぁ中坊。もし昔虐めた奴が成長して告白してきたらどう思う。」
「その呼び方やめろよな。そんなの虐められて告白って、絶対復讐が目的だろ。」
「まぁ普通に考えてそうだな。でもそれが本気だったらどう?」
「ドMか変態としか。なに学校でまた何かやったのか。」

あの人ドMじゃなくてドSなんだよな。

「俺がやった前提なんだ。まだ何にもやってないよ。」
「まだって、やるつもりかよ。母さんに、迷惑かけんなよ。てか母さんはまだ帰ってないのか。 」
「そういえば、帰って来るぐらいなのに帰ってきてないね。」

疲れて直ぐに部屋に行ったのであの人がいないのに気づかったが、いつも通り遅くなるときはリビングに置き手紙があるだろう。
両手が塞がるほど忙しいので、目の前にいる子供に行って欲しくて、向かいにあるリビングに指をさした。
10年以上の付き合いなので言葉がなくても伝わる。
だから、目の前の子供はあからさまに嫌なを顔して渋々と荷物を置いてリビングに向かう。向かう際一言ポツリと

「こういう時だけ兄貴ぶりやがって」

と呟いた。まぁ俺は年上だからね当たり前。

するとリビングの置いてある紙を見つけたのか、こっちに耳に入る声で話す。

「冷蔵庫に夕食あるから食えって!」
「はーいありがとう。」

俺はアルバムを閉じる。        
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