異界から鬼が来た 

イケのタコ

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プロローグ

3話

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「これでも一応、鬼です」
「ツノが生えて金棒を振り回す鬼ですか」
「ツノは残念ながら私には無いですが、金棒くらいは振り回せます」

対面に座る鬼、机を手で跨いで頭を触らしてもらったが、確かにツノらしき尖ったものがなかった。
「ないでしょう」とコップを両手で持ち茶をゆったりと啜る。外見は決定的なツノもなければ、真っ赤に染めたような赤い顔でもない、背丈も体格も颯太とそれほど変わらないから、髪の毛を結った普通の青年しか見えない。が、門の向こうからやってきたのなら人間ではないと確定している。
なにより、現代風のポップなファミリーレストランと渋い和服を着た青年が合わなくて、和と洋を無理矢理くっつけた不思議な光景になっていた。それもあって、周りにいる客も奇妙そうな目でこちらを覗いてくる。

この鬼と下山してあれから、とりあえず落ち着いた場所で話そうとなった。そして、ファミリーレストランに来たいと提案したのはこの鬼である。

「話が変わりますが、それなりに現代のことをお知りになっていると伺いますが、地獄にいた貴方はどこでお耳にしたのですか」

そう話すのは颯太ではなく隣に座る大人の女性、千秋という僕と同じく門を守る術師であり、僕を弟のように慕ってくれる優しい女性だ。
そもそも本当に一人だった俺を、山の麓まで着いていくと名乗り出てくれたのは千秋さんである。

「障子に目あり耳ありと言うでしょ、そんなものです」
「はぁ」
「というのは冗談として、私たちが門から出ていないだけで、現世には鳩を飛ばしていましたから、情報はそれなりあります。細かいことはあまりよく分かりませんけど」
「……ということはあの屋敷を通り道として、門が閉まっている間もこちらを監視していたということですか」
「言い方を変えればそうなりますね」
「……そうですか」

なんだが術師端くれが聴く内容じゃないなと颯太は思う。
ずっと断絶していたと思っていたものがずっと隣にいたという事実に頭を抱えだす千秋、この後どう術師連盟に報告するのか悩んでいるのだろう。

「術師様たち、そう堅苦しく考えるのはやめにしましょう。私はただ視察に来ただけ、現世で争いを起こすかどうかとか、私はなにかを決断するために来たわけではないです」
「しかし、貴方は今後現世で交友を図りたいと書いていましたが、いずれ現世を侵略するとこちらが捉えるのは仕方ないかと」
「そうですね、現在信頼ないのはわかっています。今すぐに門を開放しろではなく、貴方がたに信頼というものが築けてからの話だと思ってください」
「……そうですか」

妖は平気で嘘をつく。そう言われても信じることは無理だ、と千秋さんは口にはしなかったが渋る間がそう言っていた。
目の前にいる異質を疑うのは当然であり、正当である。けれど、随分と人間に友好的な彼が嘘をついているようには何故か見えなかった。
彼が嘘をつくのが上手いと言われればそこまでの話だけれど。

「あの、僕の家に来るのはどうですか。僕の家はもちろん術師の家ですから、何かあればすぐに術師連盟に報告ができるし、えっと鬼さんも現世での普通暮らしを見たいんですよね。それなら、一石二鳥かなって思うのですけど、どうですか」

提案が意外だったのか、鬼の方が僕と顔を見合わせると目を数回瞬いた。
千秋さんは提案に賛成なようで、誰にも聞き取れないような小さな声で「なるほど」と呟いた。

「こちら側が言ってはなんですが、そう簡単に決めて良いものなんですか」
「全然大丈夫。僕の家は来客には慣れてるし、家族も良いって言うと思うから。鬼さんも安心して視察できると思う」
「そう言う問題じゃない気が……」

千秋さんもこの提案に乗り気なようだし、渋い反応を見せる鬼の方で、後は地獄側が承諾してくれるだけ。

「それに鬼さんは僕達に危害加えたって訳じゃなさそうだし。現世の視察だったら僕が案内するよ。条件は良い方だと思うけど、どうかな」

そう言って、鬼は頷いてくれた。

「じゃあ、よろしく。僕の名前は冬井颯太よろしく」
「ではよろしくお願いします。私の名前は冬至志紅といいます」

志紅のほうから手を差し出しできたので、僕が握り返せば志紅はにっこりと口角あげた。

「現世ではこれが友好の印なんですよね」
「うん、そんな感じ」

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