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第七章 大森林のそのまた奥の

精霊王

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 戦乙女ヴァルキリーの力を乗せた閃光の槍を振るいロミナは次々とグリモラの呼んだ上位精霊を狩っていく。
 グリモラもそれに対抗すべく新たに大海蛇ヨルムンガンド土巨人タイタンを呼び出すも、ロミナの光の槍は彼らが何かする前にその仮初の肉体を貫いた。

「グッ……はぁはぁ……」

 連続しての上位精霊の召喚は魔力に優れたグリモラにも負担は大きく、荒く息を吐き膝を突いてしまった。
 その隙を見逃さず風を纏ったロミナは手にした槍を彼女の喉元に突き付けた。



「はぁはぁはぁ……これで……勝負あった……な」

 槍を突き付け勝利宣言したロミナだったが、彼女もまた憔悴しきった顔をしており、気付けば槍の輝きも失われていた。
 グリゼルダが言った様に短期決戦、ロミナの魔力が尽きるその前に勝負を決めれるかは紙一重だったようだ。

「クッ……認めない……認めないわッ!! 『万物の根源たる精霊王アトラよ我が呼び掛けに応じよッ!!』」

 ロミナが突き出した槍の穂先を素手で握り、グリモラは精霊語で呼び掛ける。

「アトラだとッ!? 止めろ観客を巻き込むつもりかッ!?」
「このまま負ければきっとあの人はあなたを倒してしまう!! そうなればあの人は人間の女と……そんなの認められる訳無いわッ!!!!」

 絶叫と共にグリモラの背後に巨大な影が現れる。それは試合会場の観客席を超え観客達を見下ろしていた。
 この世界に重なり影響を及ぼしているとされる精霊界。
 そこに住まう四大精霊、火、水、風、土、その他の様々事象を司る精霊たちの王アトラ。
 長いリーフェルドの歴史上でも呼び出せた術士は数える程で、そのどれもが術者の命を削ることで巨大な破壊をもたらしたとされる、そんな伝説を残した存在だ。



「やったわッ!! 『アトラよ、我が敵をほふりなさいッ!!』」
『敵……』

 グリモラの言葉を受け、アトラは足元のロミナに視線を向けた。
 その瞬間、ロミナの足元が爆ぜ、試合場の地面にクレーターが刻まれる。

「ガッ!?」
「アハッ……アハハッ!!」

 アトラにただ見られただけでロミナは吹き飛ばされ、試合場の地面に転がった。
 妖精銀ミスリルの装備のおかげで一命は取り留めた様だが、ぐったりとした様子から意識が無い事が窺える。

「凄い、凄いわぁ!! ……クッ、何……これは……力が……命が吸われて……」
『ウォオオオオオオン!!!!』

 グリモラはふらつき倒れ、彼女の制御を離れたアトラは咆哮を上げた。
 咆哮はビリビリと観客達の鼓膜を震わせる。
 その後、アトラはおもむろに観客席へと目を向けた。



『敵……』

「これってヤバくないか?」
「アレってもしかして……おとぎ話の……」
「おとぎ話って、街一つ周囲の森ごと消したっていう精霊王!? ……にっ、逃げるわよッ『風霊ッ!!』」

「ベルゲン様、退避を!!」
「あれはアトラなのか……私の代でアレを呼び出せる術者が現れるとは……」
「ベルゲン様、今はそんな事を言っている場合ではありませんッ!! お早く!!」
「う、うむ」

 観客席ではグリモラが呼び出した精霊王を見てエルフたちは混乱、恐怖し、平民、貴族関係無く次々と会場から逃げ出していた。

「何だか不味い感じだねぇ……取り敢えずロミナは助けるとして……」
「助けるっつってもあのデカ物が邪魔だぜ?」
「ふむ……アレはどうやらグリモラから力を得ているようだ。グリモラを引き離し魔力を遮断すれば……」
「よっしゃ、ほなグリモラはわいが引き受けるわ」
「店長ッ!?」
「元はといえばわいが原因で起きた事や、やるしかないやろ」

 そう言うと真田はニーナの頭を撫で困り顔で笑った。

「コホーッ!!」

 ニーナさん、心配は無用だ!! あのデッカイのは俺が押さえてみせるからッ!!

 健太郎は指で自分とアトラを指差しながら真田に続いて腰を上げた。

「ミシマさん……」
「んじゃ、俺はロミナを回収するか」
「ミシマはん、ギャガンはん……おおきに」
「乗りかかった船だ、ミラルダ、お前はニーナを障壁で守ってくれ」
「了解だよ」
「グリゼルダ、魔力を遮断すんのはどれくらいで出来る?」
「そうだな、三十秒もあれば陣を刻めると思うが……」

 顎に手を当て答えたグリゼルダにギャガンはニヤッと牙を見せ笑う。

「三十秒だな。ミシマ、グリゼルダが陣を刻む間、あいつの相手を頼むぜ」
「コホーッ!!」

 任せろッ!! DXデラックスの力、今こそ見せてやるッ!!

「DXの力って……何だかそっちの方が危ない気がするんだけど……」
「DX……巨大化か……確かにあの時は殆ど動いていなかったな……ミシマ、妙な事はするなよ」
「コホーッ!!」

 分かってるさッ!! 精霊王対巨大ロボッ!! これは燃えるぜッ!!

「ピポピポッ!!」

 グッと拳を握った女エルフモードの健太郎にコロが声援を送る。

「……なんや、かなり緊急事態やと思うんやけど、ミシマはんとコロを見てるとそんな気分も吹き飛ぶなぁ」
「そうですねぇ……」

 真田とニーナの呟きが観客が逃げ出し無人となった会場に小さく響いた。
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