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第六章 青い子竜と竜人の国

温泉

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 竜人の国、ベルドルグ。竜人族が多く住み国土の殆どが高地で占められた国だ。
 二千メートル級の山々が連なり、火山活動が活発なこの地域では温泉が至る所で湧き、その地熱を利用して最近では高地でありながら南国の植物が栽培されていたりする。
 また、高原では山羊の放牧が行われており、多くの竜人は牧童として生計を立てていた。

 そんなベルドルグではよく見かける町の一つに宿を求めた何でも屋のスケイルは、宿に併設された温泉に浸かり長距離移動の疲れを癒していた。

「ふぅ……あ―――」

 岩をくり抜いて造られた温泉にゆったりと浸かり、羽根を広げ疲労した筋肉がほぐれる感覚を味わう。
 昨晩はタニアに食事を与えトイレを見守った後、風呂に入りその後、直ぐに寝てしまった。
 そして疲れからか起きたのは昼過ぎだった。
 開き直ったスケイルは国境を超えて追ってくることは無いだろうと考え、のんびりと朝風呂ならぬ昼風呂を楽しんでいた。
 岩風呂の縁に背中を預け、冷たい水で洗い固く絞ったタオルで目を覆い、身体を弛緩させる。このまま湯に溶けてしまうのではと思える程、心地が良い。



 そんな風にスケイルが風呂を楽しんでいると、ザブザブと音を立てて別の客が彼の横に座った。

「広い風呂ッってのは良いもんだなぁ?」
「ああ、最高だぜ。家の風呂もこのぐらい広けりゃ言う事ないんだが」
「ちげぇねぇ」

 湯煙の中、話しかけられたスケイルは、機嫌よくそれに答える。

「コホーッ」

 そんな音が聞こえ、スケイルの両腕が何か硬質な手と少しプニッとした手に掴まれる。

「何だよ、急に何を!? ……えっ、あん時の獣人!? それにファングッ!?」

 腕を掴まれ慌てて顔を上げた拍子にタオルが落ちて湯の中に沈む。
 それにより開かれ巡らせた視界の先には、三つの人影があった。
 一つは黒豹の獣人、もう一つは青黒い金属のゴーレム、最後の一つは相棒のファングだった。

「スケイル、暢気に風呂とは……だからお前は楽観主義が過ぎるといつも言ってるんだ」
「ファング!? こりゃあ一体どういう事だよっ!?」
「こいつ等に提案を持ち掛けた。上手く行けば今後、今回の様なヤバい仕事はしなくてよくなるかもしれん」
「テメェ、俺達をいい様に使うつもりかよ?」
「結果的にそうなるかもしれないという事だ」

 ファングはそう言うと湯舟から湯を掬い顔を洗って髪をかき上げた。



 角とか鱗とか生えてるけど、イケメンだから妙に絵になるなぁ……。

 そう思った健太郎も右手で湯を掬い顔を洗ってみたが、そもそもかき上げる髪が無いし水滴がカメラに付くしで、それをタオルでふき取る様子はどちらかというと温泉好きのおじさんといった風情だった。

「なぁ、ファング、どういう事だよ? こいつ等と手を組んだのか?」
「助かる為に交換条件を出した」
「交換条件?」

 眉根を寄せたスケイルに頭にタオルを乗せたギャガンが条件を説明する。



「お前ぇが叩き落したうちのキューの翼を治せる医者をこいつが紹介する、その代わりにタニアを組合とやらに渡してお前ぇらの仕事にペナルティが付かねぇ様にする」
「どっ、どういう事だよッ!? お前ら、あの子竜を取り戻しに来たんじゃ……」

 状況が分からず困惑するスケイルにファングは冷静に告げる。

「俺達の仕事は子竜を組合に引き渡すまでだ、その後、こいつ等が何をしようと知った事じゃない」
「……依頼主の情報をこいつ等に流すのか?」
「ああ、俺たちは非合法な何でも屋だが、流石にこの国で竜関係に関わる程、報酬は貰っていない。違うか?」
「たしかに組合がごり押ししなきゃ、こんな仕事は請け負っちゃいねぇけどよぉ」
「教団でこいつ等が暴れればきっと国が動き出す、そうなれば組合もこの手の依頼は今後受けなくなる筈だ」
「コホーッ……」

 ふむ……婆ちゃんが言っていたけど、ベルドルグでは竜は保護対象らしいから、イメージでいえば天然記念物を捕まえて売る感じだろう。
 国が動く、多分大々的な捜査が入るって事だよな……取り締まりが厳しくなればそもそも依頼が無くなって、ファング達みたいな何でも屋がラーグに来る事も無くなるだろうから、子竜が攫われる事も無くなるか……。

 結論。派手に暴れて事を大きくすればいいって事だな。

「ミシマ、なに一人で納得してんだよ?」

 風呂の中で頭にタオルを乗せ腕を組んでうんうんと頷いていた健太郎に、ギャガンが訝し気な視線を向ける。

「コホーッ!!」

 とにかく教団をぶっ潰そう!!

 ギュッと親指を立てた左手を突き出した健太郎を見て、ギャガンはやれやれ、やっぱ何言ってるか分からねぇぜと湯気で濡れた顔を拭った。


■◇■◇■◇■


 健太郎達が風呂でそんな話をしている頃、ミラルダ達はスケイルの部屋で攫われたタニアと再会を果たしていた。

「タニア、酷い事されなかったかい?」
「クルルルル……クルッ!?(干し肉を無理矢理食べさせられたけど、それ以外は……あっ!?)」
「何だ? 何かされたのか?」

 拘束を解かれたタニアは言い辛そうにグリゼルダを上目遣いで見ながら、小さく鳴いた。

「クルル……クルルルル……(あの……おトイレの音、聞かれちゃった……)」
「何だと……」

「タニアは何だって?」
「トイレの音を聞かれたそうだ……ファングの相棒、スケイルだったか……破廉恥な真似を……」

「そりゃ恥ずかしかったねぇ。大丈夫、後であたしがとっちめてやるから」
「クルルルルル?(あの、それよりお兄ちゃんは?)」
「キューは医者の所だ。羽根を痛めてな」
「クルルッ!?(羽根をッ!?)」

 グリゼルダの言葉を聞いたタニアは眉根を寄せ切なげに鳴いた。

「心配はいらない。キューは今、治療を受けている、医者の話では問題無く元通りになるそうだ」
「クルル?(本当?)」
「ああ、本当だ」
「キューの骨接ぎが出来たら、グリゼルダがすぐに魔法で治してくれるって、だから安心おし」
「クルルルル(うん、分かった)」
「それでね、タニア、あんたに頼みがあるんだけど……」

 膝を折りタニアと目線を合わせると、今度はミラルダが少し言い難そうに話を切り出した。
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