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第34話 恋とは
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「フェイ様! フェイ様のお話、そこのところぜひ詳しく!」
嘆き女がずずい、とフェイに顔を近づける。
「あの、な、私はお前の話が聞きたいのだ」
「私のお話をすることはやぶさかではありませんが、こういったものは話を聞いて一人で納得するだけのものではございませんわ。
フェイさまは恋する心を理解したいのでございましょう?
フェイ様の内にも思わぬ恋の種が眠っている可能性もございます。
恋は単純かつ複雑ですわ。女同士、語り合う事で新たな発見もあるやもしれません」
嘆き女は矢継ぎ早に言い立てた。
そう。嘆き女は語り合いたいのだ。
人であった嘆き女の恋と、神に類するフェイの恋は恐らく違う。
神に類する存在は残酷だ。
相手を理解しようとせずに手を出し、要らなければ捨てる。
女神の加護を与えられた男がその伴侶の男神の嫉妬を受けて呪われる。そんな話はザラにある。
神とヒトとの結末は神話や歴史が証明している。
元人間の自分だからこそ、その橋渡しができるのではないかと思うのだ。
悲恋も悪くはないが、やはり恋の結末はハッピーエンドが良い。
決して自身のような嘆き女になるような悲しい結末ではいけない。
「フェイ様は何故、恋についてお知りになりたいの?」
フェイは少し考える素振りを見せ、ぽつり、ぽつり、と鬼の男との馴れ初めを語り出した。
そうしてフェイ自身の心の変化も。
嘆き女はうん、うん、と相槌を打って聞き入った。
おいしい。実においしい話である。
世界に対する不変の愛を持ちながら、異性に対する恋情も愛情も持ち合わせていなかった彼女の中に芽生えた、鬼の男に対する様々な感情に対する戸惑いが、幼さがなんともたまらない。
「それで思ったのだ。私の持ちえない最たるもの。恋とはどういうものなのか、と」
静かで、それでいて揺れる黒い瞳が嘆き女を見つめる。
さて、ヒトの心は理解の範疇の外にあったこの存在《ひと》に、今聞いたそれらをどうやって説明するべきか。
とは言っても、彼女は神に人の感情を上手く説明できる自信はない。それでも二人の仲を応援すると決めたのだ。
「フェイ様、恋と一言でまとめてしまっていますけど、恋の中にはたくさんの気持ちが詰まってますわ。私《わたくし》の経験した恋は悲しい結末でしたけれども、それでも恋は恋。
相手に強く惹きつけられ、強く求めるのですわ。目が離せなくなるのです。片時も離れがたくなるのです。
離れている間はずっとその方の事が頭から離れなかったりもしますわ。見つめられたい、見つめたい、愛してる、愛されたい、触れたいし、触れられたい、そんな気持ちでいっぱいになるのですわ」
最後あたりの言葉に僅かに示したフェイの反応を嘆き女は見逃さなかった。
「まあ、まあ、フェイ様は鬼の方に触れたいし、触れられたいと?」
「最近はあまりないが、触れたい時は触れている。ザイは私に何かと理由をつけて触れたがる」
フェイもなんとなくは気づいているのだ。
寒ければ気分的なものだとフェイを抱き寄せ、熱ければひんやりしていて気持ちいい、といいながら頬や手に顔を寄せてくる。
5年も経てば理由も尽きてくるのではないかと思うのだが、あの手この手で理由をつけては接触してくるのだ。
最近は結構理由が雑になりつつある。
フェイが何も言わなければ、勝手に抱き着いてくる事もある。
だが、不快ではないのである程度は許している。
「鬼の方は随分と積極的ですのね」
嘆き女のニマニマとした笑いに妙な居心地悪さを感じ、フェイはふい、と視線を逸らす。
「だが、私はザイを気に入ってはいるし、大切に思ってはいるが、強く惹きつけられた事は……」
ある。
フェイの言葉がふいに途切れた。
ついでに言えば、アレは、強く求めていたのではないだろうか。
小さなザイはそれはもう、愛らしかった。
目を離すのが惜しくなり、その成長を片時も離れず見守りたかった。
「だとすると、あれが……恋、なのだろうか……?」
「まあ、フェイ様、お心当たりが?」
「なくは……ない?」
「まあ、素敵!」
この場にきょうだいはいない。
「だが、そうなると、私は今のザイに恋をしていない事になる」
離れれば、確かに心配はするし、少し寂しくもあるが、離れがたいわけでも目が離せないわけでもない。いない間も思いだしはするが、それで頭がいっぱいになることはない。
嘆き女が指を顎に当てて、少し考え込む仕草をする。
「フェイ様、お相手に触れられた時に心がもぞもぞしたり、跳ねたりするのですよね?」
「そうだな」
「それはフェイ様もお相手を異性として意識してらっしゃるからですわ」
「異性?」
「有り体に言ってしまえば恋人、伴侶、ですかしら? どうでもいい相手に心は跳ねたりしませんのよ」
「そうなのか?」
フェイは僅かに首を傾げた。今までそういった経験がない為か、どこかピンと来ないのだろう。
「たとえば、どうでもいい殿方に同じことをされた時にどう感じるかを想像してみてくださいな」
一番どうでもいい相手、と言えばヴェストの現国王であるが、論外だ。
何故かザイと同じ事をアレには許す気にはならない。
どうでもいいワケではないが、フェイはゴウキで想像してみた。
「…………」
特に何もない。心はぴくりとも動かない。それがどうした、といった感じだ。
「そういう事ですわ」
嘆き女はフェイの表情で察したのだろう、大きく頷いた。
§
気さくな嘆き女との話で随分と色々見えてきた。
やはり彼女の言葉の通り、一人で解決してはいけないのだと感じた。
少し前までは一人だった。
きょうだい以外は特に相談する相手もなく、相談するほどの事もあまりなかった。
いつも自分で決めて自分で行動してきた。
嘆き女は私にも分かり易く色々と教えてくれた。
結局、夜が明けるまで語り明かした。
ザイとは出会って8年になるが、5年くらいは特に何事もなく共に行動している事を告げれば、「まあ、なんてお気の毒……」とザイに同情的だった。
確かに死にかけた事はあったがそれ以外は何事もなかったのだ。
なのに何故ザイがお気の毒になるのかと問うてみたが、「ヒトの殿方は色々と大変なのです」と返し、嘆き女はなんとも言い難い視線を宙に彷徨わせた。
頃合いを見て、別れを告げると嘆き女は、『また女子会をいたしましょう!』ととても明るく送り出してくれた。
嘆き女なのに。
野営場所に戻るとザイが不機嫌な目でこちらを睨んだ。
「遅い」
私はザイの隣にそっと腰を下ろす。
ザイがもの珍し気に見下ろしてくる。
「いつから起きていた?」
「夜明け前」
「そうか」
ザイの腕に頭を寄せれば心が小さく波打つ。
私の様子の変化に気づいたザイが眉を僅かにひそめる。
「何があった?」
「ちょっと、嘆き女と女子会なるものをしてきた」
「なんだそれは」
「何だろうなぁ」
小さく笑えば肩に腕を回され、そのままザイの近くに寄せられる。
温かいし、悪くはない。
ひとつひとつの心の動きを確認していく。
嘆き女が言うには私はザイを番う相手として意識している状態らしい。
彼女との話でひとつわかった事がある。
私はザイを番う相手として意識していても、求めてはいない。
それに気付いてしまったら、今度はもどかしい気持ちになった。
私はきっと、この一途な男をちゃんと夫として迎えてやりたいのだろう。
だから5年前のあの時もザイを夫として認めてやれなかったのだ。
適当にする事ができなかった。
いっその事、他の女と番ってくれればこちらも気が楽だった。
なのにこの男は頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
「ザイ」
「何だ」
「もうしばらく待て」
「……何をだ?」
ヒトの子の中ではそれなりに付き合いは長く、勘の鋭い男は察しているだろうに敢えて聞いてくる。
「何だろうなぁ」
ザイの言葉をはぐらかし、ザイに寄せた頭を擦り上げれば、肩を掴む大きな手が小さく動いた。
「まだ、色々なものが追いつかないのだ。ヒトの子の時間は短いというのに……」
小さかったザイはあっという間に大人になってしまった。
「俺は待つと言った」
見上げれば、深紅の瞳がこちらを見下ろしている。
その瞳にあるのは、熱だ。
とても静かで、その奥でとても強い熱を持っている。
今まで、何度となく見ていた筈なのに、知っていた筈なのに、それが何かを今やっと気づいたのだ。
少しばかり気迫の籠った顔が近づく。
「因みにあとどれくらい待てばいい」
「…………5ねん、以内にはなんとか、がんばろうと、思う」
気迫に押されてどうにか言葉を紡げば、途端にザイの顔が渋面をつくる。
「絶対に5年だ。誤差は無しだ。我慢にも限度がある」
「諦めるか?」
期待するような、落胆するような複雑な気持ちになった。
ザイはしばらく言うか言うまいか迷う素振りをみせると私の反応を探るようにじっと見つめて口を開いた。
「……押し倒す」
ザイの瞳に垣間見た、獰猛な光に思わず身を引こうとするが、肩を掴む手がそれを許さない。
「…………無理強いはしないし、待つのではなかったのか?」
「……本気で嫌なら拒めばいい。アンタにはそれができる。待つのは押し倒してから改めて待つ」
「な、何だ……? それは?」
思わず身体が震え、声が上擦った。『格』は私の方がずっと上の筈なのにおかしい。
私の様子を見ていたザイの口の端が吊り上がる。
「さて、何だろうなぁ」
くっきりと見える縦長の瞳孔とくつり、と喉の奥で笑う覇気を帯びた姿を見て、何か早まったかもしれないという危機感と後悔が湧き上がった。
5年以内に私は自分自身の心と感情を何とかしなければならない。もはや後戻りはできない状況に追い詰められていた。
嘆き女がずずい、とフェイに顔を近づける。
「あの、な、私はお前の話が聞きたいのだ」
「私のお話をすることはやぶさかではありませんが、こういったものは話を聞いて一人で納得するだけのものではございませんわ。
フェイさまは恋する心を理解したいのでございましょう?
フェイ様の内にも思わぬ恋の種が眠っている可能性もございます。
恋は単純かつ複雑ですわ。女同士、語り合う事で新たな発見もあるやもしれません」
嘆き女は矢継ぎ早に言い立てた。
そう。嘆き女は語り合いたいのだ。
人であった嘆き女の恋と、神に類するフェイの恋は恐らく違う。
神に類する存在は残酷だ。
相手を理解しようとせずに手を出し、要らなければ捨てる。
女神の加護を与えられた男がその伴侶の男神の嫉妬を受けて呪われる。そんな話はザラにある。
神とヒトとの結末は神話や歴史が証明している。
元人間の自分だからこそ、その橋渡しができるのではないかと思うのだ。
悲恋も悪くはないが、やはり恋の結末はハッピーエンドが良い。
決して自身のような嘆き女になるような悲しい結末ではいけない。
「フェイ様は何故、恋についてお知りになりたいの?」
フェイは少し考える素振りを見せ、ぽつり、ぽつり、と鬼の男との馴れ初めを語り出した。
そうしてフェイ自身の心の変化も。
嘆き女はうん、うん、と相槌を打って聞き入った。
おいしい。実においしい話である。
世界に対する不変の愛を持ちながら、異性に対する恋情も愛情も持ち合わせていなかった彼女の中に芽生えた、鬼の男に対する様々な感情に対する戸惑いが、幼さがなんともたまらない。
「それで思ったのだ。私の持ちえない最たるもの。恋とはどういうものなのか、と」
静かで、それでいて揺れる黒い瞳が嘆き女を見つめる。
さて、ヒトの心は理解の範疇の外にあったこの存在《ひと》に、今聞いたそれらをどうやって説明するべきか。
とは言っても、彼女は神に人の感情を上手く説明できる自信はない。それでも二人の仲を応援すると決めたのだ。
「フェイ様、恋と一言でまとめてしまっていますけど、恋の中にはたくさんの気持ちが詰まってますわ。私《わたくし》の経験した恋は悲しい結末でしたけれども、それでも恋は恋。
相手に強く惹きつけられ、強く求めるのですわ。目が離せなくなるのです。片時も離れがたくなるのです。
離れている間はずっとその方の事が頭から離れなかったりもしますわ。見つめられたい、見つめたい、愛してる、愛されたい、触れたいし、触れられたい、そんな気持ちでいっぱいになるのですわ」
最後あたりの言葉に僅かに示したフェイの反応を嘆き女は見逃さなかった。
「まあ、まあ、フェイ様は鬼の方に触れたいし、触れられたいと?」
「最近はあまりないが、触れたい時は触れている。ザイは私に何かと理由をつけて触れたがる」
フェイもなんとなくは気づいているのだ。
寒ければ気分的なものだとフェイを抱き寄せ、熱ければひんやりしていて気持ちいい、といいながら頬や手に顔を寄せてくる。
5年も経てば理由も尽きてくるのではないかと思うのだが、あの手この手で理由をつけては接触してくるのだ。
最近は結構理由が雑になりつつある。
フェイが何も言わなければ、勝手に抱き着いてくる事もある。
だが、不快ではないのである程度は許している。
「鬼の方は随分と積極的ですのね」
嘆き女のニマニマとした笑いに妙な居心地悪さを感じ、フェイはふい、と視線を逸らす。
「だが、私はザイを気に入ってはいるし、大切に思ってはいるが、強く惹きつけられた事は……」
ある。
フェイの言葉がふいに途切れた。
ついでに言えば、アレは、強く求めていたのではないだろうか。
小さなザイはそれはもう、愛らしかった。
目を離すのが惜しくなり、その成長を片時も離れず見守りたかった。
「だとすると、あれが……恋、なのだろうか……?」
「まあ、フェイ様、お心当たりが?」
「なくは……ない?」
「まあ、素敵!」
この場にきょうだいはいない。
「だが、そうなると、私は今のザイに恋をしていない事になる」
離れれば、確かに心配はするし、少し寂しくもあるが、離れがたいわけでも目が離せないわけでもない。いない間も思いだしはするが、それで頭がいっぱいになることはない。
嘆き女が指を顎に当てて、少し考え込む仕草をする。
「フェイ様、お相手に触れられた時に心がもぞもぞしたり、跳ねたりするのですよね?」
「そうだな」
「それはフェイ様もお相手を異性として意識してらっしゃるからですわ」
「異性?」
「有り体に言ってしまえば恋人、伴侶、ですかしら? どうでもいい相手に心は跳ねたりしませんのよ」
「そうなのか?」
フェイは僅かに首を傾げた。今までそういった経験がない為か、どこかピンと来ないのだろう。
「たとえば、どうでもいい殿方に同じことをされた時にどう感じるかを想像してみてくださいな」
一番どうでもいい相手、と言えばヴェストの現国王であるが、論外だ。
何故かザイと同じ事をアレには許す気にはならない。
どうでもいいワケではないが、フェイはゴウキで想像してみた。
「…………」
特に何もない。心はぴくりとも動かない。それがどうした、といった感じだ。
「そういう事ですわ」
嘆き女はフェイの表情で察したのだろう、大きく頷いた。
§
気さくな嘆き女との話で随分と色々見えてきた。
やはり彼女の言葉の通り、一人で解決してはいけないのだと感じた。
少し前までは一人だった。
きょうだい以外は特に相談する相手もなく、相談するほどの事もあまりなかった。
いつも自分で決めて自分で行動してきた。
嘆き女は私にも分かり易く色々と教えてくれた。
結局、夜が明けるまで語り明かした。
ザイとは出会って8年になるが、5年くらいは特に何事もなく共に行動している事を告げれば、「まあ、なんてお気の毒……」とザイに同情的だった。
確かに死にかけた事はあったがそれ以外は何事もなかったのだ。
なのに何故ザイがお気の毒になるのかと問うてみたが、「ヒトの殿方は色々と大変なのです」と返し、嘆き女はなんとも言い難い視線を宙に彷徨わせた。
頃合いを見て、別れを告げると嘆き女は、『また女子会をいたしましょう!』ととても明るく送り出してくれた。
嘆き女なのに。
野営場所に戻るとザイが不機嫌な目でこちらを睨んだ。
「遅い」
私はザイの隣にそっと腰を下ろす。
ザイがもの珍し気に見下ろしてくる。
「いつから起きていた?」
「夜明け前」
「そうか」
ザイの腕に頭を寄せれば心が小さく波打つ。
私の様子の変化に気づいたザイが眉を僅かにひそめる。
「何があった?」
「ちょっと、嘆き女と女子会なるものをしてきた」
「なんだそれは」
「何だろうなぁ」
小さく笑えば肩に腕を回され、そのままザイの近くに寄せられる。
温かいし、悪くはない。
ひとつひとつの心の動きを確認していく。
嘆き女が言うには私はザイを番う相手として意識している状態らしい。
彼女との話でひとつわかった事がある。
私はザイを番う相手として意識していても、求めてはいない。
それに気付いてしまったら、今度はもどかしい気持ちになった。
私はきっと、この一途な男をちゃんと夫として迎えてやりたいのだろう。
だから5年前のあの時もザイを夫として認めてやれなかったのだ。
適当にする事ができなかった。
いっその事、他の女と番ってくれればこちらも気が楽だった。
なのにこの男は頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
「ザイ」
「何だ」
「もうしばらく待て」
「……何をだ?」
ヒトの子の中ではそれなりに付き合いは長く、勘の鋭い男は察しているだろうに敢えて聞いてくる。
「何だろうなぁ」
ザイの言葉をはぐらかし、ザイに寄せた頭を擦り上げれば、肩を掴む大きな手が小さく動いた。
「まだ、色々なものが追いつかないのだ。ヒトの子の時間は短いというのに……」
小さかったザイはあっという間に大人になってしまった。
「俺は待つと言った」
見上げれば、深紅の瞳がこちらを見下ろしている。
その瞳にあるのは、熱だ。
とても静かで、その奥でとても強い熱を持っている。
今まで、何度となく見ていた筈なのに、知っていた筈なのに、それが何かを今やっと気づいたのだ。
少しばかり気迫の籠った顔が近づく。
「因みにあとどれくらい待てばいい」
「…………5ねん、以内にはなんとか、がんばろうと、思う」
気迫に押されてどうにか言葉を紡げば、途端にザイの顔が渋面をつくる。
「絶対に5年だ。誤差は無しだ。我慢にも限度がある」
「諦めるか?」
期待するような、落胆するような複雑な気持ちになった。
ザイはしばらく言うか言うまいか迷う素振りをみせると私の反応を探るようにじっと見つめて口を開いた。
「……押し倒す」
ザイの瞳に垣間見た、獰猛な光に思わず身を引こうとするが、肩を掴む手がそれを許さない。
「…………無理強いはしないし、待つのではなかったのか?」
「……本気で嫌なら拒めばいい。アンタにはそれができる。待つのは押し倒してから改めて待つ」
「な、何だ……? それは?」
思わず身体が震え、声が上擦った。『格』は私の方がずっと上の筈なのにおかしい。
私の様子を見ていたザイの口の端が吊り上がる。
「さて、何だろうなぁ」
くっきりと見える縦長の瞳孔とくつり、と喉の奥で笑う覇気を帯びた姿を見て、何か早まったかもしれないという危機感と後悔が湧き上がった。
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