乞うべき愛は誰が為

かずほ

文字の大きさ
上 下
21 / 42

第21話 謎は解けた

しおりを挟む
 ゴウキとの話の間、ザイは一切の口を挟まなかった。
 それはつまり、この内容に納得したという事だ。
 きょうだいは気軽に連れて行けとは言うが、例え人間よりも強靭な鬼の子と言えど、そうほいほいと気軽に連れて歩ける旅ではない。

 かと言って、どの程度の力量で旅について来れるかというのは私には全く分からないのでゴウキに巡回経路を伝え、全て任せる事にした。
 ゴウキの笑顔が引きつった気がするが、了承した以上はきちんと鍛えてくれるだろう。
 連れて行く際はゴウキの許可も更に必要となった。ザイの悲壮感漂う表情も気にかかったが、特に問題がないので頷いておいた。

 ザイもそこまで私の旅がヒトにとって危険なものとは思わなかったのだろう。
 もしザイが私の手を拒んだとしても何も言うまいと心に決める。

 この国を訪れればザイには会える。会う度の成長の過程を楽しむのも悪くはない。

「それと巫女様、これも良い機会と思いますので申し上げたき事がございます」

 ゴウキが居住まいを正し私を真剣な目で見る。

「申してみよ」
「はい、巫女様もご存じかと思いますが、年々鬼《オーガ》は数を減らし、入れ替わるように儂らのような鬼《オーガ》と人の混じり者の数が増えてきております。
 鬼《オーガ》どもはそれが気に食わんのか、儂らのような者を蔑み、特に気に食わぬ者は鬼《オーガ》の序列の枠組みから外し集落から追い出す始末。
 最近ではそういった集落から追われた輩が集って来ておりましてな、数もある程度膨れ上がりましたので、儂ら鬼《オーガ》と人の血を引く者は『鬼人』という種として纏まろうと思っております。その御認可を」

 深々と頭を下げるゴウキの言葉にほんの一瞬だけ、息が止まった。

「ほう、鬼人。良いのではないか? しかし、何故私にそれを求める? 勝手に名乗ればよかろうに」
「儂ら半端な亜人の受け皿をこの地に作って下さったのは巫女様と聞き及んでおります。それがなくば、人に馴染めず、かといって元の種族にも受け入れられず、定まらぬ先に不安を抱え、生きておった事でございましょう。こうして纏まる事もなかった事にございます。
 これから新たな種を名乗る者らもございましょう、巫女様にお認め頂けるというんは儂らにとっては望外の喜びにございます」

 どうか、と頭を下げるゴウキに少々困る。
 受け皿に関しては国王との会話の際に何気ない思いつきを口にしてみただけだ。
 そもそも種というのはヒトの間での認識の上で成り立つ。好きに名乗れば良いものを、と思う。
 それでも慕い、頼ってもらうのは嬉しい。
 私の言葉には何の力もないが、それでも私が認める事で、彼らがこれから生きる糧となるのなら。

「認めよう。これより鬼人と名乗るがいい。其方等の生きる先が良き事を」
「ありがたき幸せにございます」

 ゴウキは顔をあげ、誇らしげに笑った。

『鬼人』。

 通りで今まで聞かなかった筈だ。
 何せ、たった今この時に生まれた種なのだから。

 皇国の中ボスもどこかでこの事を知り、鬼人を名乗るようになったのだろう。
 こんな裏設定があるとは思いもよらなかった。そして鬼人の歴史の浅さにも驚いた。
 ちょっとしたエピソードのネタになりそうなものだが、ゲーム内ではそんな事は明かされていなかったように思う。

 そこにふと、別の知識が浮上する。
 ドラマCDや小説といった媒体だ。
 ああ、そっちはそこまで興味を惹かれず手を出してなかったのだった。
 ひょっとしたらそちらに何らかの形で描かれていたのかも知れないが、見聞きしなかった知識が私の中にある筈もない。

 色々と腑に落ちはしたが、ゴウキと目が合い小さな疑問が浮かんだ。

「しかし、私がここに今立ち寄らねばどうするつもりだった?」

 天啓を受けねば再びこの地に訪れるのは何年か先の事だ。最低でも5年、6年は先の話。
 私にとってはちょっと先の事でも彼らにとってはそうではない。そこまでずっと種については定めないつもりであったのだろうか?

「遅かれ早かれ導《しるべ》は必要でありますからな、先に名乗り、巫女様が来訪された際にお許しをいただこうと思っておりました。しかしこうして今、巫女様のご認可と寿ぎを賜りましたので肩の荷が一つおりましたな」

 やれやれ、とゴウキは息をついて嬉しそうに笑った。


 §


 翌早朝、ゴウキは少年と共に、巫女様の見送りの為に裏門の前に立っていた。

「では、後の事は頼んだぞ」
「お任せください、巫女様」

 巫女様はひとつゴウキに頷きを返し、少年へと目を向ける。

「ではな、ザイ。よく育てよ。お前は少々細すぎる」

 頭を撫でられた少年は無言で一つ頷いた。

「俺が……」
「うん?」
「俺が強くなったら本当に連れて行ってくれるのか?」

 巫女様の目が少し驚きに見開かれた。

「強くなったら、ついてきてくれるか?」
「絶対ついて行く。今度は絶対、何処までも。フェイが『ここまで』って言ってもその先もついていく」
「そうかそうか、ならここで強くなれ」
「約束だからな」
「約束だとも」

 真剣な少年の眼差しに巫女様は目元を和ませその黒い頭を撫でている。
 その光景を目にしたゴウキはただただいつもの笑顔を維持するのが精いっぱいだった。

 両者の温度差がものすごい事になっている。

 巫女様からすればこの少年は所詮ヒトの子である。
 ついて行くにしても限界はある。それでもこの子供の心意気を好ましいと感じたのだろう。ついて来れるなら、ついて来れるだけついて来ればいい。その程度の感覚だ。

 しかし、少年の方は違う。何が何でも喰らい付いて離さないくらいの意気込みを感じる。
 
「巫女様」

 たまりかねたゴウキは思わず声をあげた。

「どうした、ゴウキ?」
「鬼は押並《おしな》べて執念深い生き物にございます。言葉選びと受け応えは慎重になさいませ」

 もはや手遅れな助言ではあるが、この先またこんなのを拾って来られてはたまらない。
 それは掛け値なしのゴウキの本音である。

「ああ、気をつける」

 本当に分かっているのかと疑いたくなる気軽さで答えた巫女はあっさりと城を去っていった。

「さて小僧」

 巫女様の背中が完全に見えなくなった頃、ゴウキは少年に向かって声をかけた。

「お前の部屋を用意してある。本来なら入ったばかりの見習いは4人部屋と決まっておるが、お前は特別に個室じゃ。巫女様の供というなら並の調練だけでは済まぬ。向き不向きはあろうが、あらゆる場面での戦い方から礼儀作法まで一通りの事を学んでもらうぞ」
「礼儀作法……」

 少年の顔が嫌そうに歪む。

「巫女様は各国の王が下座にも置かぬお方だぞ、そのお立場に泥を塗りたくはあるまい」

 巫女様の名を出されれば嫌とは言えずに少年は黙り込み、しぶしぶと頷いた。
 部屋へと案内しようと向きかけたゴウキの足が止まる。

「そういや、小僧、黒の森の近くの街に住んどったと聞いたが、そこから持ち出すような荷物はあるか?」

 馬をとばせば大して時間はかからない。身なりからしてそう大した物はないまでも、ちょっとした荷物であればこのまま取りに行って部屋へと案内した方が効率が良い。

「ない。でもやり残した事はある」
「やり残した事……」

 それを聞いてゴウキはすぐにピンときた。少年が巫女様に拾われた経緯は聞いている。
 何せ鬼は執念深い。

「街まで送ってやる。あと、一応決まりはあるでな、それを教えてやる」

 ゴウキは少年の背を押し厩舎へと歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...