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エスタリス・ジェルマ疾走編

126.出来ることはなさそうだったよ

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「――ということで、ジェルマに関しては当初聞いていたほどの脅威は認められません。伝聞に伝聞を重ねた結果なので、その信憑性に疑問が残るのは否定しませんが……ただそういった発言が出てくる時点である程度は正確なのではないかと」
『……ありがとうございます、ダブルスリー。内容の方確認いたしました』

 ジェルマエルフと会談を持った翌日の早朝、俺たちは駐車場に停めてあった魔動車からマジェリアの大臣閣下に向け、通信用魔道具を用いて昨晩の会談内容について報告していた。この内容を聞いた彼女がどんな反応を示すかな……と、少しばかり不謹慎な期待を抱いたのだが、予想に反して魔道具の向こうはどうにも反応が薄い感じだった。
 もしかしてこの辺りはある程度予想出来ていたことなのか、そう言えば俺たちにジェルマへ行くよう勧めたのは大臣閣下だったしな――そんなことを思っていると、魔道具から予想外の答えが返ってきた。

『――ダブルスリー、私があなた方に出していた依頼は全て破棄します。早急にホテルをチェックアウトし、我が国へ帰還してください』
「……え?」

 驚いた。流石に驚いた。
 今までの流れだと周辺諸国の緊張を取り除くために協力してくださいとか言われるかな……なんて思ってたから、ここで依頼を破棄されるというのは完全に予想してなかった。まあ、それはそれで言われたら俺たちも困るわけだけど。

「依頼の破棄と帰還は問題ないんですが、今回の件で何かアクションを起こさなくていいんですか? 例えば各方面への交渉とか」
『それに関しては既に外交の問題です。流石にその辺りの役割を情報収集依頼を受注されている一般の方々にお任せするわけにはいきませんから。
 エスタリスに対するジェルマの動きというのが、実は全て逆方向のアクションであったという時点で、本来であればあなた方への依頼は全てキャンセルすべきだったのですが……申し訳ございません』
「ああいえ、むしろこちらこそお役に立てたかどうか……」

 ……まあ、考えてみればその通りだよな。というか当初2、3日情報を収集してから帰還するって話だったのが、1泊2日に短縮されただけだ。そういう意味では閣下の指示に、何らおかしいところはない。
 それにしても政情不安が見られる前に、って話だったはず。ということは近いうちにこの一帯で戦争が起こりかねないということかな。それを回避するために色々とマジェリアの上層部も動いてるってことなんだろうけど……

『依頼料に関しては、あなた方の帰還が認められ次第今月分をまとめてお渡しいたしますのでご心配なく。帰還後の住環境のサポートもお任せ下さい、あなた方はそれだけのことをしてくれたのですから』
「……ありがとうございます、そう言っていただけるとこちらとしても今までやって来た甲斐があります」
『いえ、こちらこそ……先日もお伝えした通り、あなた方にはまだまだ色々な場所を見ていただきたかったのですが……』
「それに関しては、まだ機会もありますから大丈夫ですよ。今回の件はあくまで俺たちにとっては……こう言っては何ですけど、放浪のついでなところがありましたし」
『……本当に、感謝いたします』

 あれ、別に気にする必要ないって言ってるのに何で俺たちはこんなに感謝されてるんだ? まあこっちの情報の重要度が高かったってのはあったかもしれないけど、それに関しても完全に予想外だったしなあ……

「いずれにしても、分かりました。出来るだけ明日朝早くチェックアウトして帰還しますので、宜しくお願いします。
 帰還してからの話ですが、何かリクエストはございますか?」
『いつぞや報告していただいたクレームブリュレとクレームダンジュ、それとアイスクリームをお願いします! スリーワンからの報告ばかりで食べられもしないで、毎日やきもきしてたんですよ!?』

 リクエストと言われて聞き返さずこれが出てくるあたり、本当に分かってるし本当にやきもきしてたんだなと思わざるを得ないわけなんだけど……いやまあ、マジェリアにはろくなおやつないしね。
 各地を放浪して改めて思ったけど……こう言っては何だけどめっちゃド田舎だし。

「了解です。では帰還次第、お作りいたしますので」
『よろしくお願いします! ……っと、肝心なことをいうのを忘れていました』
「……何でしょう?」
『――ご苦労様でした、ダブルスリー』
「っ、ありがとう……ございます」
『それでは――これにて通信終了します。アウト』
「ラジャー、アウト」

 ……そして、大臣閣下との最後の通信が終了する。思えばマジェリアを出てからここまで、何だかんだでほぼ毎晩この通信用魔道具で閣下と会話してたんだよな……おかげで全然離れてる気がしなくて、俺たち3人で放浪してる気分にもなったものだけど。
 でも、それも今日でおしまいか……

「……トーゴさん、やっぱりちょっと寂しい?」
「んー、まあいつかは帰る日も来るのかなとは思ってたけど……いざそうなってみると、確かにちょっとね。
 やっぱりってことは、エリナさんも?」
「んー……まあね、私もそんな感じ。でも閣下の言う通り、これ以上は私たちが首を突っ込むには危険すぎるから。
 これでよかったのよ、これで」

 何となく、自分に言い聞かせるようにそう言ったエリナさん。とはいえ彼女にとってはそれも本心なんだろう。ドラゴンを相手にして命の危険を感じ、さらに無慈悲で外道な工作を聞いて……俺もそうだけど、エリナさんも放浪するならそういうのとは無縁で自由な感じでいたいと思っているに違いない。
 まあもちろん、そんなのはあの依頼を受けた時点で、少なくとも今回に関して言えば叶わないわけだけど……その辺りが俺もエリナさんも分かるから、余計に辛いところではある。
 だからこそ、一旦リセットしたい。
 その為に彼女は自分自身に、今回の放浪を終わらせることを言い聞かせていたんだろうから。

「そう言えば、ここ最近はお菓子作りもおろそかになってたよね……エリナさんも久しぶりに作ったら食べたい?」
「もちろんですとも! あ、でも私は大臣閣下やレニさんと違ってウルバスクでもつまんでたからまだマシなんでしょうけど」
「そうかー……」
「と言っても別にお菓子が要らないって言ってるわけじゃないからね!? むしろトーゴさんの作るものだったら私は何だっておいしく食べるからウェルカムというか」
「分かってるって。まあでも、帰ってからのことは帰ってから考えようか。俺たちにはそれこそ長い長い時間があるわけだし」
「……そうね」

 そう、今回放浪を終わらせて帰るからと言って、俺たちの旅が終わるわけじゃない。むしろマジェリアに帰ってちょっと休んだら、いつでも旅を再開したいくらいなんだ。その時は今回みたいに嫌なところばかり見ないで、楽しいところを多めに見られるようにしたいものだけど。

「……あー、でもやっぱり心残りだな。エスタリスでのアルブランエルフの件」
「もう、それに関しては出来ることがないって言われたじゃない」
「そうなんだよ、そうなんだけどさ……」

 別に自分たちで積極的に関わりたいと言ってるわけじゃない。むしろ今の話を聞く限りでは、正直関わりたくない部類の話ではあるし、関わらなくて済むなら俺は一切今回の件に関わらない。
 にしても、この地域一帯の平和と安定を考えると……関係各所は、一体どのように今回の件をまとめ上げるつもりなんだろうか。
 それだけが気になる。ああ、気になる。



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消化不良感漂いますが、内政チートか圧倒的なチートでもなければこんなもんだと思うんです。
本日よりヨーロッパ旅行に行ってきます。戻るのは月末かね……

次回更新は09/19の予定です!
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