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スティビア通過編

108.国境近くに移動するよ

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「さてと……名残惜しいけどそろそろ行こうか」
「ええ、そうね」

 ティラミスを片付けて残った麦茶をあおり、店員を呼んで会計を済ませる。海鮮パスタにグリーンサラダ、ティラミスに麦茶でふたり分合わせて30000リーア。
 俺が昨日両替商でちらっと見たレートからして、1クンが大体300リーア。ということは今回注文したのをウルバスククンに換算すると100クン……物価水準考えると結構高いな……以前聞いたドバルバツと変わらないくらいか?
 とにかく、いつものようにカードを出して支払いを終わらせ外に出る。時間は12時前……これくらいの時間なら、最短で行けば日付が変わる前には国境に着くだろうけど……いや、途中の街で1泊入れた方がいいな。その方がストレスにならない。
 いや、それならむしろ……

「エリナさん、一旦途中のオンディーで1泊して様子見た方がいいかもしれない。もうひとつ国境の街があったでしょ」
「もうひとつ……もしかしてトーヴィーのこと? エスタリスのヴィアンに繋がる?」
「うん」
「でもあっちはドラゴン騒ぎで閉鎖されてる可能性が高いって話じゃなかったっけ?」
「だからだよ、一旦オンディーに入るっていうのは」

 オンディーという街は、北スティビアではかなり大きい街だ。その分観光客が多いということでもあるけど、それより俺たちにとって重要なのは、ボーゼンに行くにしてもトーヴィーに行くにしてもこの街が中間地点になるということだ。
 つまり直接国境に行って無意味に負担を増やすより、一旦中継を入れてそこで情報をもう一度収集することでより効率よく負担なく国境越えが出来る、しかも越境ポイントも選択出来る……ということだ。
 観光地化してるっていうことは、それだけ情報の集まり方も違うってことだし。

「まあどっちにしても行くことには変わりない土地だし、無駄には絶対ならないから」
「そうねー……正直1日でこの距離を移動するのは私もきついと思ってたし。うん、いいわよそれで」
「そうと決まれば――」

 早速出発だ!



 ……と、気合入れたはいいものの道中は拍子抜けするほど平和で。いやまあ、その辺はこれまでも――ブドパスからナジャクナへ行ったときに盗賊に襲われたのを除けば――同じような感じだったから特にどうということはないんだけど……

「ねえ、トーゴさん」
「何となく言いたいことはわかるけど……何?」
「んー? 何言いたいと思うの?」
「道路がいつもよりガタガタしないせいで眠くてしょうがない?」
「トーゴさんエスパーかな?」
「それだけ助手席で舟を漕がれてたら分からない方がおかしいよ……まあでも気持ちは凄くわかるけど」
「居眠り運転だけはよしてね?」
「分かってるって」

 流石に不老不死とは言え物理的には死ぬって状況でそんな不注意をやらかすわけにはいかない。エリナさんはすっかり安心しきって本格的に助手席で寝始めたけどな!
 ……それにしても本当に快適な旅だ。今走っているのはマジェリアでエステルからブドパスへ行くときにも使ったような車両専用道路のはずなんだけど、あの道路ともほとんど別物だ。
 多分、というか間違いなく道路の整備がいいんだろうけど……公共事業にかけるリソースが潤沢にあるということになるわけで、つくづくこのスティビアという国が大国であることを思い知らされる。

「となると、ここだったら魔動車ももっとちゃんとしたものが手に入ったりするのかな……いや、待てよ? 確か……」

 ここまで来るのに聞いた話だと、スティビアよりもむしろエスタリスの方が魔導工学の分野では発展してるとか言ってたな。この魔動車を整備するにしても新しいものを購入するにしても、そっちを目指した方がいいのかな……

「んー、でも私はこの車を整備するようにした方がいいと思うけどね。だって、多分この車じゃないとサスペンションの効きもっと悪くなるわよ?」
「……そうかな?」
「だってエステルで言ってたんでしょ、総合職ギルドの人が。まれにタイヤが交易品に入ってくるけど質の悪いソリッドタイヤばっかりだって」
「ああ……確かにそうだったね」
「……それに、この魔動車は私とトーゴさんの宝物だもの」
「エリナさん……」

 ……全く、そんなこと言われたら何も言い返せなくなるじゃないか。



 そんな感じで完全に整備された道中、盗賊などに襲われることなどあろうはずもなく、極めて平和に本日の目的地であるオンディーに到着したのだった。

「さてと、駐車場駐車場……っと、その前に検問か」
「そうね……でも何か変じゃない? 大きい街の割には大して魔動車が並んでないって言うか……」
「マジェリアの時くらいしかはっきり検問やってなかったから、そのイメージがエリナさんの中に強く残ってるだけじゃない?」
「そうなのかな……」

 ちなみにウルバスクもこの国も、マジェリア程に検問が厳しく行われているわけではない。中部諸国連合同士の国境都市への出入りであれば別だけど、マジェリアの場合は別の都市に入るのであってもかなり厳重に取り締まっていた印象だった。
 多分マジェリアは公国、つまり封建制の色がある程度残っているためだったんだろう。そう言えば城壁っぽいのも、ここ最近は観光地以外でとんと見なかったな……
 なんて言ってる間に自分たちの番が来た。ふたり分の旅券を用意して、と。

「はい、止まれ。身分証明書を見せてもらおう」
「連合旅券でいいですか?」
「ああ、旅券なら問題ない。オンディーには何の用で来た?」
「エスタリスへの越境をしたいので、その中継に。ウルバスクから来たんですが、国境が閉鎖してしまってましてね」
「ああ、なるほど。どっちから行くってのは決めてあるのか?」
「それも含めてオンディーで情報収集をしようかと。最初は直接ボーゼンから行こうと思ったんですが、トーヴィーの方がヴィアンには近いですし、選択肢は残しておこうかと」
「なるほどな、それならオンディーに寄るのは間違いない。最近はすっかり観光客を海沿いのヴィニアンに取られちまって、ここを訪れる車もなくて暇してたんだ。向こうは魔動車進入禁止だから、そもそも自家用車で行こうってやつの方が少ないが」

 ヴィニアンというとオンディーの南西に位置する都市か。確かにここに来るまでに通ったはずなのにそれらしい街がなくておかしいとは思っていたが、車両進入禁止ゆえに近くを通っただけだったとは……

「それは大変ですね……で、国境はどんな状況ですか」
「……正直、どうとも言えんなあ。噂ではトーヴィーの方も安全が確保されたとかで国境封鎖もないってことらしいが、事態は流動的だからな。確実に行くならボーゼンから入ってエスタリス内で移動するのがいいと思うがね。その分越境後がめんどくさい」
「なるほど……ありがとうございます」
「いやいや何の。旅券もチェックし終わったから、もう行っていいぞ」
「失礼します」

 言って、早々に検問を通過する。いくら大して並んでいないとはいえ、後ろをつかえさせるわけにもいかない。それにしても流石にここでは国境がどうなってるかなんてわからないか……

「トーゴさん、今夜は大臣閣下に連絡するのよね?」
「ああ、そういう風に約束してるからね。昨日連絡出来なかった分も含めて今日報告するって話で」
「その時にエスタリス国境の件についても確認してみたら? マジェリアは各方面に諜報要員をばらまいてるんでしょ? ならその辺りの情報も、ここにいるよりは生きたものが手に入るんじゃないかしら?」
「ああ、うん……確かにその通りかもね」

 ついでにその諜報要員を紹介してもらえたら、ぐっと仕事が楽になるんじゃないかな……なんてことを、エリナさんの提案を聞きながら俺は考えたのだった。



---
広い国境なら越境ポイントが複数あるのは当然だよなァ? ということです。
ちなみに首都までボーゼンから行くのとトーヴィーから行くのとだと1日違ってくる設定です。

次回更新は07/27の予定です! FancyFrontier34にサークル参加しますので羽田は台湾にいますが、更新予約は時間通り取ってありますのでご安心を。
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