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ザガルバ編

90.祝杯からの再びの依頼斡旋だよ

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 結局それからたっぷり5時間かけて、俺たち4人は組合から斡旋された依頼を無事全てこなしてザガルバに帰ってきた。サラさんとクララさんは途中何かに遭遇するんじゃないかとひやひやしてたみたいだけど、フラグも立ってなければ今のところ目立った目撃証言もないわけで、それは完全に杞憂というものだった。
 ……まあドラゴンの影があるって時点でその気持ちも分からないではないけどね。普通の冒険者だったら、ドラゴンに遭遇しようものなら死亡確定ってレベルだし。戦いを挑むなんて以ての外って感じだし。
 いずれにしても、標本の詳細は後程結果が出るものの……依頼自体は完全達成、報酬は満額支給ということで――

「えー、では、無事に依頼を達成出来たということで。カンパーイ!」
「「「「かんぱーい!」」」」

 ――お祝いにみんなで酒場で飲むことになったのだった。まああの依頼、普段彼女らが受けている依頼に比べてめっちゃくちゃ達成報酬良かったしなあ……少しばかり大変かつ危険ではあったものの、素直に嬉しいんだろう。
 ちなみにクララさんだけは酒が飲めないのでジョッキで牛乳。どこのゲームだとも思うけど、取り敢えずおなか壊さないようにね……

「いやー、それにしても臨時収入助かるぜ。ここ最近はまともに装備品の手入れも出来てねえ状態だったし、20000クンもあればうまく行きゃ新しい装備だってぐふふ」
「サ、サラさん、ちゃんと、節約しないと……」
「そうだよ、あるだけ使うってんじゃいくらお金があっても足りなくなるからね。……まあ今回参加していない僕が言っても説得力はないかもしれないけど……」
「あああ悪かったって! 次はちゃんと参加出来るようにするから! な!」

 いかん、マルタさんの周りの空気がどよどよしてる。……まあでも、本来部外者の俺が下手に何か言ってもアレだし、ここはサラさんに任せるか……

「それにしてもトーゴさん、割と1か所に固まって存在してるって言ってたのに、結構時間かかっちゃったわね」
「まあいくら固まってるって言ってもね……意外と水はけのいい砂場ってのが見つけ辛かった感じがあるよね」
「ああ、そりゃしょうがねえな。草原と岩場、森林と水場はその性質上それなりに固まってることが多い地形だけど、砂場に関してはそのどれにも共通項がねえから」
「岩場の近くにあるんじゃないかと思ってたんですけどね……やっぱり暑くて乾燥している場所でないと見つけ辛いんでしょうかね」

 あの指示のせいで、本来3時間程度で行って帰って来られるはずが、行き帰り含めて6時間かかったからな……しかもなかなか見つからないものだから、砂主体の畑とやらを探さなきゃならなかった始末。
 ちなみにどんなのを育ててるのかと思ったら、ローズマリーやタイムといった主に料理に使うタイプのハーブ類。そう言えばあの辺は乾燥に強い種類とか聞いたことがある気がするな……

「そ、そう言えば、何で、地表に、鉱物なんか、出てくるんでしょうね?」
「え、何だよ知らねえのかよクララ」
「サラさんは、知ってるん、ですか?」
「いや、アタシも知らねえからクララに期待かけてたんだけど。マルタは?」
「僕も知らない。というか、サンプル採取とか僕たち今までほとんどやってこなかっただろう。せいぜいが薬草採取とかその辺くらいで」
「ああ、まあな」
「つまるところ、慣れないことは知らないって話だよ……ちなみにエリナさんと旦那さんは知ってるかい?」
「ええと、私はよくわからないです。何となく予想はつくけど……そういうのはトーゴさんの方が詳しいんじゃないかと思うんですけど。そこのところどうなの、トーゴさん?」
「……酒場での話題かどうかって話だけど……」

 一応、周囲を見渡す。俺たちが陣取っているのがフロアの中でも割と隅っこなこともあってか、聞いているどころか近くにも人はいない。これならまあ、大丈夫かな……一応声は抑揚をなくし気味にしてと。

「地表を層ごと掘って調べるのは、そこに染み込んだドラゴンの分泌物がどれくらいの範囲に分布しているかを調べるためです。ドラゴンのいる場所が近いほど、より深い層に分泌物が分布していることになります」
「分泌物?」
「詳しくは俺も知らないんですがね、ドラゴンが存在する付近には空気中にそういうのが分布していて……それが何かしらの鉱物に該当するらしくて、ほどなくして地表に落ちるらしいですよ。
 これがまた厄介で、それ自体の質量は割と重めらしいです。なので隙間の空いている地表ほど深く落ち込んでいくことにもなりますし、それと水に溶けても行くみたいですね、その性質もあってか水辺の土壌ではあまり見られないと」
「……つまり、ドラゴンが今どの辺にいるのかを確認するために今回の依頼をアタシたちに斡旋したってことか?」
「平たく言えば。だからこそ受付の人も、この依頼をそこそこには急ぐ案件だと言ったんでしょう」

 まあ正確な位置が測れるとは思えないので、大体国境付近でどの距離のところにいるかを計る程度の意味合いしかないとは思うけど。しかし、もし本当にあのサンプルから分泌物が発見されたのなら――これは追加の依頼が来るかもしれない。
 とは言え……

「店長、おい店長?」
「んあ、どうかしましたか?」
「どうしたもこうしたもねえよ、何か心配事でも?」
「ああいえ、そういう事ではないのですが」

 追加の依頼をこなすにはある程度危険を承知してもらわなければならない。何せ俺の予想が正しいなら、次に来る依頼は――



「現場付近の鳥類を捕獲するように……ですか?」
「ええ、前回採取していただいた標本なんですが、どうも黒のようなので現在の濃度を確認しがてら空中の分泌物を把握及び解析をするということですね」
「分かりました。採ってはいけない鳥類などありますか?」
「ん? いや、特にそういうのはないと思いますけど……」
「なるほど」

 ……やっぱり来たか。黒、ということは受付の人の言う通り空中に分泌物が存在するということ……そうなるとそこ一帯を飛んでいる鳥類がそれら分泌物を吸引して――

「徐々に蓄積されていく、ですか」
「ええ、これでマクロ的な意味で長期か短期かの判断を下すことができます」
 つまり長期曝露なら、もうだいぶ前からドラゴンがドラゴンとしての活動を再開させたことになるわけだが――

「そう言えば今のところ標本の方はどうなんです? 鳥類調査というだけあってそちらの方は終わってるんですよね?」
「ええ」
「そちらの結果はどうなんですか? ……まあ鳥類まで行ってる時点で、何となく状況は見えてきますけど」

 おそらく国境に近い地層から、それなりに無視の出来ない濃度の分泌物が広範囲にわたって認められたのだろう。となると、それなりに情報を揃えていかなければならないわけで――

「検出されたのは、主にどの地層からですか?」

 そう、ここは絶対聞いておかなければならない。分泌物の性質もドラゴンの種類によって違ってくるからな……
 なんて考えていると、いかにも重い感じの口をゆっくりと開いて受付の人は言う。

「……岩場の地層です」
「岩場の地層……?」

 あれか、軟化で刃の当たる部分だけど柔らかくして掘った、最初の地層か。
 しかしそうなると――

「ええ、最低でもロックドラゴン――下手をするとアサルトドラゴンの上位種の可能性もあるかもしれないと」

 ……アサルトドラゴンって獰猛な肉食ドラゴンだったよな。襲われたらひとたまりもないっていう。またとんでもない依頼を引いてしまったものだ。



---
考えたくないけどまさかまき散らしてる鉱物って放射性物質だったりしませんよね? 的な話。
似たようなところありますが、放射性物質ではありません。一応生物等に害はない物質です。
それにしてもどんどんいいように使われていくトーゴさん。都合のいい新入りが着たとかほくそえんでんじゃねえだろうな受付。

次回更新は06/03の予定です!
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