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ザガルバ編
71.ザガルバに着いてちょっとだけ優雅に過ごすよ
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バイロディンを発って南西に行くこと数時間、ウルバスク共和国の首都、ザガルバに着いたのは夕方になってのことだった。首都の周りに検問があるのはこの世界どこでも同じようで、ここザガルバに入る時も少しばかり並ぶことになったのだった。
……まあ、ブドパスに入った時みたいなアクシデントというかそういうのはなかったから、その分早かったけど。っていうかあんなことがそう何度もあってたまるか。
ともあれ、無事にザガルバに入った俺たちだったものの、だいぶ日が沈みかけていたこともあってその日は大人しくキャンピングカーを駐車場に停めて休むことにした。休むと言っても本当に寝ちゃうわけではなく、しばらく予定を確認し合う作業があるわけなんだけど。
「……で、エリナさんはこの一帯の商店でどんなものが売られてるかとかを調べてほしいんだ。流石に街中でもジェルマ語が通じないってことはないだろうけど、万が一ってこともあるからなるべくコミュニケーションは控えめにね」
「分かったわ。トーゴさんは報道センターに?」
「うん、今日はちょっと無理だったからね。リベンジってところだ」
一応ザガルバに入ってすぐ報道センター本部に行ってはみたものの、外部開放時間を過ぎてしまっているとのことで、次の日朝早くもう一度訪問することにしていた。
ただ街中を見る限り、報道センターは結構ちゃんと機能しているようで、いたるところで新聞を売っているのが目に付いた。……この世界、紙に関しては結構普及してるんだよな。中世ヨーロッパっぽいって言うと羊皮紙とかがメインな気がするのに、ちゃんと木……でないにしろ植物から作ったであろう紙を使ってるんだ。
この紙が普及しているというのが何より報道には重要で、マジェリアではこれほどちゃんとした紙が普及しているわけではなかったから、何かあれば壁新聞みたいな張り出しで済ませていたくらいだ。あれでは情報が全体に行き渡るとはとても思えない……大臣閣下にその辺り提案してみようか、いやいや……
で、翌日。つまりは今日である。
結局あの後簡単にここでの行動を確認し合った後、何もせずに就寝。国境越えの疲れもそれなりにあったのか、少しばかり起きるのが遅くなってしまった。まあ何もしていないだけにナジャクナほど遅くはなかったけど。
何もしてないんだってば!
話を戻して、エリナさんは昨日確認した通りこの一帯の商店がどんなものを売っているのか、この国の専売対象が何なのか……言葉が通じない可能性もあるのであまり無理はしなくてもいいとは伝えてあるけど、ある程度情報を持ってきてくれると嬉しい。
そして俺は、昨日行けなかった報道センターである。
この国の報道センターは国内だけでなく海外の情報もそれなりに取材しているらしく、周辺国の情報を仕入れるにはもってこいな場所だ。……意図してなかったけど、結局最初に行く場所としては正解だったのかもしれない。
そんな信頼性の高い情報センターの本部1階には、一部ではあるものの一般人に開放されている区画がある。どんな場所かというと、売店とアーカイブ。要するに今まで発行した新聞なんかをその場で読む事が出来るのだ。
売店にはその日の新聞が売っており、ここに来ればここ最近の出来事は全部把握できるというわけだ。……何かマジェリアに比べてだいぶ進んでないかこの国。
とにかくそんな便利な場所を使わない手はない。というわけでアーカイブでここ1か月の新聞と閲覧した後、売店で今日の新聞を買って近くのカフェのテラス席でハーブティーを飲みつつ内容を確認……しているところである。今は。
「……それにしても、感じた通りジェルマに対するウルバスクの感情も状況もよろしくはないみたいだな……」
ベアトリクス閣下はエスタリスとジェルマの間で抱えている問題について話してくれたけど、ウルバスクでもあまり状況は変わっていないようだ。もっともウルバスクはジェルマと直接国境と接しているわけではなく、その分程度は軽いみたいだけど……
そして意外だったのは、報道センターで売っている新聞にウルバスク語版とジェルマ語版の2種類があったことだ。ここは坊主憎けりゃ何とやら、というわけでもなさそうだけど……ジェルマ語がこの近辺における言語のデファクトスタンダードだと考えると、無視する訳にもいかないのかもしれない。ちなみにもちろんちゃんと両方買ってある。
「ウルバスク語版もジェルマ語版も内容はほぼ同じ、若干ウルバスク語版の方が国内の情報を多く載せているくらいか……
しかしエスタリスからウルバスクへのゴムタイヤの供給が減っている? そう言えばゴムタイヤあるんだったか……周辺諸国に対する穀物輸出が減少、その影響で国境都市内での穀物価格は上昇したがウルバスク国内では下落傾向……」
やっぱり、ナジャクナとバイロディンで感じたあの閑散とした雰囲気はこれが影響してたんだろうか。しかし貿易における取引価格が上昇傾向か……あまり状況は良くないな、やっぱり。
と、そこに調査を終えたらしいエリナさんが歩いてきた。
「あ、トーゴさん! お疲れ様、それ今日の新聞?」
「うん、報道センターでもらってきた。こっちはジェルマ語だからエリナさんでも読めると思うよ……その手に持ってるのは一体何」
「ああこれ? アイスクリーム。買って来ちゃった」
「買って来ちゃったって……よく買えたね、言葉は大丈夫だったの?」
「ええ、ジェルマ語も普通に通じたし、それしか喋れなかったところでそんなに怪しくは見られなかったわよ。何でも国や場所によってはジェルマ語しか通じる言葉を喋れなくてもおかしくないからとか」
まあ、デファクトスタンダードだろうからね……
「それよりトーゴさん、このアイス食べてみて! すっごく美味しいの!」
「ん、どれどれ……おお!?」
本当だ! これだけうまいの、前世でも食べたことないかもしれない! っていうか今までスルーしてたけどアイスクリーム!? 冷凍技術めっちゃ発達してないここ!?
「何となく感じてはいたけど、凄いなここ……」
「でしょー? あ、それで調べた結果なんだけどね……」
言うとエリナさんは、色々調べて来てくれたことについて話し始めた。
まずこのザガルバという土地。中心部に大きめの広場があるが、どうやら少し奥に入ると坂だらけ階段だらけの街らしい。住居らしい場所は各建物の2階以上に存在していて、1階部分は全て何かしらの商店なのだという。
まあ大体レストランだったり食堂だったりが多いらしいけど。
さっきも言った通りジェルマ語は会話する分にはどこでも通じる感じだが、標識や店の看板、はたまたメニューなどに関してはジェルマ語併記がされていない場所も多かったとのこと。
で、食べ物を売る店がそれなりに多く、売っているのは大体パンかピザかアイスかケーキ。それ以外のものに関してはショットばかりちゃんとした店にしか売っていなさそうな雰囲気だったらしい。
この国にギルドが存在しないのは最初から確認していた。そうは言うものの、組合程度の緩い組織はあるらしく、それを示す看板もちゃんと各店舗の中に掲げられていたとか。ちなみに一般店舗で売られているものにそう大差はなかったようだ。
で、気になる専売対象は塩、小麦粉、トウモロコシ、牛乳、ハーブ各種。トウモロコシから作られる甘味料や熟成チーズ、生クリームなども専売対象になっているとのこと。逆にリコッタやマスカルポーネなど生チーズは、料理の一環ということで専売対象には指定されていなかったらしい。
しかし、それにしても牛乳が専売対象か……だからこれだけうまいアイスクリームが作れるのか。そして当然、冷凍冷蔵技術も高い。
そしてそれより何よりトウモロコシから作られる甘味料――
「……ねえ、トーゴさん。私ひとつ気になってることがあるんだけど……言っていい?」
「奇遇だね、俺もあるんだよ。多分同じだと思うけど……何?」
「この、トウモロコシから作られる甘味料って……もしかして、キシリトールも含んでたりしないかなって……」
うん、やっぱりそこに思い至るよねえ。穀物から作られる甘味料は結構色々とあるものの、砂糖そのものが相当高価なこの世界において各国で開発される甘味料はそれぞれ特徴があるものだ。
マジェリアでは養蜂が盛んだったのか、蜂蜜が主力で専売対象だったわけだし。
もしかしたらメイプルシロップを作ってるところもあるかもしれない。……まあせいぜい水飴くらいだと思うけど。
そんな中でトウモロコシから抽出される甘味料と言えば、種からコーンスターチ由来の果糖、もしくは……軸からキシリトールってところだ。とはいえ技術的にどうなのかとは思うけど。そしてもしこの地で使われる甘味料がそればかりだとするなら大問題がひとつあるけど。
「……まあ、実際にどんなのを売ってるか確認してみない事にはね。ただ、今のでトウモロコシを専売対象にした理由が分かったよ」
……どこも、甘味料の確保には頭を悩ませているというわけだ。
---
今回からザガルバ編です。
この国にはマジェリアには明確な形で存在していなかったメディアがあります。本来マジェリアでも製本ギルドがあるのだから新聞くらいあってもと思うのですが、情報は武器なりということであまり公開されてこなかったというのがかの国での現状です。
そして冷蔵・冷凍技術。これがあることで料理もお菓子作りも幅が広がる広がる。同時に飯テロリズムもどんどん広がるってことで皆さんお覚悟を(飯テロになるとは言っていない
次回更新は04/07の予定です!
……まあ、ブドパスに入った時みたいなアクシデントというかそういうのはなかったから、その分早かったけど。っていうかあんなことがそう何度もあってたまるか。
ともあれ、無事にザガルバに入った俺たちだったものの、だいぶ日が沈みかけていたこともあってその日は大人しくキャンピングカーを駐車場に停めて休むことにした。休むと言っても本当に寝ちゃうわけではなく、しばらく予定を確認し合う作業があるわけなんだけど。
「……で、エリナさんはこの一帯の商店でどんなものが売られてるかとかを調べてほしいんだ。流石に街中でもジェルマ語が通じないってことはないだろうけど、万が一ってこともあるからなるべくコミュニケーションは控えめにね」
「分かったわ。トーゴさんは報道センターに?」
「うん、今日はちょっと無理だったからね。リベンジってところだ」
一応ザガルバに入ってすぐ報道センター本部に行ってはみたものの、外部開放時間を過ぎてしまっているとのことで、次の日朝早くもう一度訪問することにしていた。
ただ街中を見る限り、報道センターは結構ちゃんと機能しているようで、いたるところで新聞を売っているのが目に付いた。……この世界、紙に関しては結構普及してるんだよな。中世ヨーロッパっぽいって言うと羊皮紙とかがメインな気がするのに、ちゃんと木……でないにしろ植物から作ったであろう紙を使ってるんだ。
この紙が普及しているというのが何より報道には重要で、マジェリアではこれほどちゃんとした紙が普及しているわけではなかったから、何かあれば壁新聞みたいな張り出しで済ませていたくらいだ。あれでは情報が全体に行き渡るとはとても思えない……大臣閣下にその辺り提案してみようか、いやいや……
で、翌日。つまりは今日である。
結局あの後簡単にここでの行動を確認し合った後、何もせずに就寝。国境越えの疲れもそれなりにあったのか、少しばかり起きるのが遅くなってしまった。まあ何もしていないだけにナジャクナほど遅くはなかったけど。
何もしてないんだってば!
話を戻して、エリナさんは昨日確認した通りこの一帯の商店がどんなものを売っているのか、この国の専売対象が何なのか……言葉が通じない可能性もあるのであまり無理はしなくてもいいとは伝えてあるけど、ある程度情報を持ってきてくれると嬉しい。
そして俺は、昨日行けなかった報道センターである。
この国の報道センターは国内だけでなく海外の情報もそれなりに取材しているらしく、周辺国の情報を仕入れるにはもってこいな場所だ。……意図してなかったけど、結局最初に行く場所としては正解だったのかもしれない。
そんな信頼性の高い情報センターの本部1階には、一部ではあるものの一般人に開放されている区画がある。どんな場所かというと、売店とアーカイブ。要するに今まで発行した新聞なんかをその場で読む事が出来るのだ。
売店にはその日の新聞が売っており、ここに来ればここ最近の出来事は全部把握できるというわけだ。……何かマジェリアに比べてだいぶ進んでないかこの国。
とにかくそんな便利な場所を使わない手はない。というわけでアーカイブでここ1か月の新聞と閲覧した後、売店で今日の新聞を買って近くのカフェのテラス席でハーブティーを飲みつつ内容を確認……しているところである。今は。
「……それにしても、感じた通りジェルマに対するウルバスクの感情も状況もよろしくはないみたいだな……」
ベアトリクス閣下はエスタリスとジェルマの間で抱えている問題について話してくれたけど、ウルバスクでもあまり状況は変わっていないようだ。もっともウルバスクはジェルマと直接国境と接しているわけではなく、その分程度は軽いみたいだけど……
そして意外だったのは、報道センターで売っている新聞にウルバスク語版とジェルマ語版の2種類があったことだ。ここは坊主憎けりゃ何とやら、というわけでもなさそうだけど……ジェルマ語がこの近辺における言語のデファクトスタンダードだと考えると、無視する訳にもいかないのかもしれない。ちなみにもちろんちゃんと両方買ってある。
「ウルバスク語版もジェルマ語版も内容はほぼ同じ、若干ウルバスク語版の方が国内の情報を多く載せているくらいか……
しかしエスタリスからウルバスクへのゴムタイヤの供給が減っている? そう言えばゴムタイヤあるんだったか……周辺諸国に対する穀物輸出が減少、その影響で国境都市内での穀物価格は上昇したがウルバスク国内では下落傾向……」
やっぱり、ナジャクナとバイロディンで感じたあの閑散とした雰囲気はこれが影響してたんだろうか。しかし貿易における取引価格が上昇傾向か……あまり状況は良くないな、やっぱり。
と、そこに調査を終えたらしいエリナさんが歩いてきた。
「あ、トーゴさん! お疲れ様、それ今日の新聞?」
「うん、報道センターでもらってきた。こっちはジェルマ語だからエリナさんでも読めると思うよ……その手に持ってるのは一体何」
「ああこれ? アイスクリーム。買って来ちゃった」
「買って来ちゃったって……よく買えたね、言葉は大丈夫だったの?」
「ええ、ジェルマ語も普通に通じたし、それしか喋れなかったところでそんなに怪しくは見られなかったわよ。何でも国や場所によってはジェルマ語しか通じる言葉を喋れなくてもおかしくないからとか」
まあ、デファクトスタンダードだろうからね……
「それよりトーゴさん、このアイス食べてみて! すっごく美味しいの!」
「ん、どれどれ……おお!?」
本当だ! これだけうまいの、前世でも食べたことないかもしれない! っていうか今までスルーしてたけどアイスクリーム!? 冷凍技術めっちゃ発達してないここ!?
「何となく感じてはいたけど、凄いなここ……」
「でしょー? あ、それで調べた結果なんだけどね……」
言うとエリナさんは、色々調べて来てくれたことについて話し始めた。
まずこのザガルバという土地。中心部に大きめの広場があるが、どうやら少し奥に入ると坂だらけ階段だらけの街らしい。住居らしい場所は各建物の2階以上に存在していて、1階部分は全て何かしらの商店なのだという。
まあ大体レストランだったり食堂だったりが多いらしいけど。
さっきも言った通りジェルマ語は会話する分にはどこでも通じる感じだが、標識や店の看板、はたまたメニューなどに関してはジェルマ語併記がされていない場所も多かったとのこと。
で、食べ物を売る店がそれなりに多く、売っているのは大体パンかピザかアイスかケーキ。それ以外のものに関してはショットばかりちゃんとした店にしか売っていなさそうな雰囲気だったらしい。
この国にギルドが存在しないのは最初から確認していた。そうは言うものの、組合程度の緩い組織はあるらしく、それを示す看板もちゃんと各店舗の中に掲げられていたとか。ちなみに一般店舗で売られているものにそう大差はなかったようだ。
で、気になる専売対象は塩、小麦粉、トウモロコシ、牛乳、ハーブ各種。トウモロコシから作られる甘味料や熟成チーズ、生クリームなども専売対象になっているとのこと。逆にリコッタやマスカルポーネなど生チーズは、料理の一環ということで専売対象には指定されていなかったらしい。
しかし、それにしても牛乳が専売対象か……だからこれだけうまいアイスクリームが作れるのか。そして当然、冷凍冷蔵技術も高い。
そしてそれより何よりトウモロコシから作られる甘味料――
「……ねえ、トーゴさん。私ひとつ気になってることがあるんだけど……言っていい?」
「奇遇だね、俺もあるんだよ。多分同じだと思うけど……何?」
「この、トウモロコシから作られる甘味料って……もしかして、キシリトールも含んでたりしないかなって……」
うん、やっぱりそこに思い至るよねえ。穀物から作られる甘味料は結構色々とあるものの、砂糖そのものが相当高価なこの世界において各国で開発される甘味料はそれぞれ特徴があるものだ。
マジェリアでは養蜂が盛んだったのか、蜂蜜が主力で専売対象だったわけだし。
もしかしたらメイプルシロップを作ってるところもあるかもしれない。……まあせいぜい水飴くらいだと思うけど。
そんな中でトウモロコシから抽出される甘味料と言えば、種からコーンスターチ由来の果糖、もしくは……軸からキシリトールってところだ。とはいえ技術的にどうなのかとは思うけど。そしてもしこの地で使われる甘味料がそればかりだとするなら大問題がひとつあるけど。
「……まあ、実際にどんなのを売ってるか確認してみない事にはね。ただ、今のでトウモロコシを専売対象にした理由が分かったよ」
……どこも、甘味料の確保には頭を悩ませているというわけだ。
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今回からザガルバ編です。
この国にはマジェリアには明確な形で存在していなかったメディアがあります。本来マジェリアでも製本ギルドがあるのだから新聞くらいあってもと思うのですが、情報は武器なりということであまり公開されてこなかったというのがかの国での現状です。
そして冷蔵・冷凍技術。これがあることで料理もお菓子作りも幅が広がる広がる。同時に飯テロリズムもどんどん広がるってことで皆さんお覚悟を(飯テロになるとは言っていない
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